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MITSURUGI  作者: 島田祥介
第捌幕【力】
30/57

参ノ其

 正義と茜が大和に呼び出しを受け会議室に入ったのは、ICUに搬入された千葉を見届けた三十分後の事だった。

「石川君から報告は受けている。だが、ここで改めて君の意見を聞きたい」

 いつもの飄々とした姿ではなくいつになく目が据わっている司令官の表情を見つめ、正義はつい身構えてしまう。

 案の定、大和は開口一番、

「君は、上官の命令に反抗しようとしたそうだが」

「反抗だなんて! あの時は勝つ為に──」

 石川は別に正義の行為そのものを反抗意識だとは思ってはいなかっただろう。しかし、大和にとって彼の行為は決して褒められたものではなかったから“反抗”という言葉をあえて口にし、それに対して正義は喰ってかかる形になってしまった。

「どうやって?」

 正義の反論は判っていた。だからこそ、あえて大和は問い質す。

「どうって…その、まずは小型の『天人』を倒してから──」

「だから、どうやって倒そうとしたのか訊いているんだが」

 正義の脳裏には次に出せる言葉がなかった。

“『天人』を倒す”──それだけしか頭になかったのは事実であり、いざ方法を訊かれれば正直「ない」のが正解だった。

「これは、石川君が残した映像だ」

 言葉を詰らせるだろう事は容易に想像できていた大和は、彼の答えを聞く前に横にいた姫城に無言で指図し、彼女も無言で代々木公園での戦闘の映像をスクリーンに投影した。

「撤収の宣言の後、錯乱した部隊員が全員意識を失って倒れている。これがどういう意味か、君には判るか?」

 大和の質問の意図が掴めず、正義は黙って映像を見詰めている。正義の横にいた茜も、代々木での戦闘には不参加だった為どういう状況なのか判らず黙って彼と大和のやり取りを見届けるしかなかった。

「『天人』に手加減されたのだよ」

 所が、大和の口から出た言葉は誰もが想定していないものであった。

「そんな!」

 正義の言葉に姫城がパネルを操作すると、代々木戦で負傷した部隊員の情報が一斉に映し出される。そこには全て“精神攻撃による昏睡状態、但し生命に問題ない”と記載されていた。

「もし、君が自分の力を過信して身勝手に行動してたらどうなっていたか判断は出来ていたのか?」

 精神攻撃による脳へのダメージ、それは時として死へと誘う。その可能性がない訳ではない以上、正義は大和の質疑に答えられずにいた。

「それ以前に、今の自分で『天人』を確実に葬り去れる手段はあるのか?」

「確実に葬り去れる手段」と言われぐうの音も出なくなってしまう。

 事実、今回の戦闘では大型も小型も撃退は愚か中途半端に手を出しただけで何ら解決策を見出す事は出来なかった。

「小型『天人』を倒してから大型『天人』を倒します」だけでは大和だけでなく、誰一人として納得してはくれないだろう。

 だが、そんな正義に追い討ちをかけるかの如く、

「以前、君は『人殺しの道具になりたくはない』といった感じの台詞を私に吐いたが、今の君はまさにそれじゃないのか?」

 大和の吐いた一言が、正義の心に思い切り突き刺さった。

──人殺しの道具。

 そもそも、自分は平凡な大学生から非現実的世界に追い込まれる形になった際そんな事を考えていた筈だった。それが、いつしかミツルギの装着者としての非現実が当たり前になり、まるで自分が“世界を守るヒーロー”か何かの感覚でいた。それだから、自分なら何とか出来る、自分なら何とでもなる、自分なら、自分なら…といった驕りが大和の怒りを買っているのは事実以外の何者でもなかった。

「曲木君、君もミカガミを取り逃がしたそうだが」

 そんな正義を見てか否か、大和は続いて茜にも質疑の言葉を投げ付けた。

「申し訳ありません」

「弁明はしないのかい?」

「事実には変わりないので、言い訳をするつもりはありません」

 加賀を取り逃がした事もそうだが、ミタマでありながら千葉にあんな大怪我を負わせてしまった責任感。

 それと同時に、加賀の残した意味不明な二つの問題。

 あれは一体何を意味するのかが全く判らない彼女には、何をどう取り繕っていいのか皆目検討もつかないのが現状だった。

「総司令、二人の処遇はどの様にされますか?」

「二人とも今暫くは自室待機、次の戦闘迄無駄な外出等は禁止処分とする。いいね?」

 大和の言動とは裏腹に思いの外軽い処罰である事に正義も茜も一瞬躊躇してしまうが、姫城の目配せを察した二人は無言のまま一礼をし部屋を後にした。二人が退出する事で、会議室は一気に静寂を取り戻す。

「ガーゴイル計画は早急に進めるべきでしょうね」

「その様だな。彼等の負担はどうやら身心共に大きすぎている」

 ガーゴイル・プロテクター。

 GMに比べれば能力は遥かに劣ってしまうが、それでも現状はないよりマシなのかもしれない。そうでもしない限り、草薙正義と曲木茜の両名はいずれ早々に潰れてしまう。

 自分の老体に鞭打ってでも戦場に出られるならそうしたい。しかし、それが出来ない以上一刻も早く彼等の負担を軽減させなければならない。それが、大和にとって今の大きな課題であり願いであった。

「頼む、もう少しだけ私に時間を与えてはくれんか」

 ぽそりと呟く大和を、姫城はただ黙って見ているしか出来なかった。

 

 自室に戻った正義は、そのままベッドに身を投げ出して倒れ込む様に横たわった。

 自分の不甲斐なさ、それ以前に自分の力量不足のせいで周囲を混乱におとしいれてしまっているんじゃないかという不安が重くのしかかってくる。

《汝、(チカラ)ヲ求ム者ナリヤ?》

 そんな中、突如彼の頭の中に語りかけるかの如く、何処からともなく声が聞こえてきた。その声は、千葉大学で聞いたあの声と全く同じものだった。

「…誰だ!」

《汝、(チカラ)ヲ求ム者ナリヤ?》

 正義の問い掛けに、その声は再び同じ言葉を彼に投げかけてきた。今一番に必要としているそれを問われて、どうしていいか判らない不安と苛立ちが彼を混乱させる。

「誰だ!? 何処にいる!?」

 余りの事に声を荒げてしまう正義に、

 《我、汝ト常ニ在ル者》

「…ミツルギなのか!?」

 ミツルギであろうその声の正体は、再び彼に《汝、(チカラ)ヲ求ム者ナリヤ?》と問いかけてくる。

「ああ…欲しいね、今すぐに」

《サレド、汝、魂ハ叫バズ》

「魂が叫んでないだって?」

 今しがた力なき自分を恨んでいた正義にとって、その一言は以外だった。

 力は今すぐにでも欲しいという気持ちに何ら嘘はない。しかし、ミツルギはそれを否定する。

(チカラ)求ム者、魂コソガ力ヲ欲スルト叫ビシ》

 まるで「お前はそんなものを望んでないだろ」と言わんばかりのミツルギに困惑してしまう。

「…俺は今すぐにでも力が欲しいのに、何故お前はそれを認めてくれないんだ?」

 『天人』を葬る力、加賀を打ち倒す力、それが欲しいのにミツルギがそれを認めないならどうすればいいのか判らない。いや、こうやって疑念が湧き上がっている時点で自分はそれ程力を求めている訳ではないのだろうか…?

 色々な想いが彼の中で交差して行く中、それ迄黙っていたミツルギは、《汝ノ魂ガ叫ビシ時、我、(チカラ)ヲ解放セン》という一言を残し静かになってしまう。しばしの沈黙が流れ、もうミツルギの声が聞こえなくなってしまったと判った正義は、

「…ったく、どいつもこいつも好き勝手言いやがって」

 ベッドの上で目を閉じ、大きな溜息を吐いた。

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