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MITSURUGI  作者: 島田祥介
第捌幕【力】
29/57

弐ノ其

 東京都江東区上野公園──同刻。


「駄目です、一向に白旗を揚げる気はないみたいです」

「そっちもか…こっちはKyu‐Biが煩いくらい沸いてきやがる」

 石川からの報告を聞いて、千葉は思わずため息を零してしまう。

余り考えたくはないが、加賀が敵に回ってからエソラムの動きが大幅に変わった気がする。しかも、それが悪い意味で活発になっているのだから始末に負えないだけに、吐きたくもない溜息が出て気分が悪くなってしまう。

 いかんいかん、こんな事では周囲の士気低下に繋がっちまう。

「突撃隊A班は右翼七十度の位置で待機、B班は左翼五十五度で先行部隊と交代」

 千葉はモニターと睨めっこしながら素早く指示を出す。わずかな判断ミスが命取りになり兼ねない状況で、モニターを追う目に力が入る。

「A班新藤、了解」

「B班水野、了解しました」

 突撃部隊からの返答に、今度は安堵のため息を吐く。

「曲木、しんどいかもしれんがもう少し頑張ってくれな」

「大丈夫です」

 千葉の声に、茜は疲労の色を瞬時に掴み取った。

「突撃部隊のみんながサポートしてくれるお陰で、いつも以上に楽させてもらってますから」

 こういう時って、草薙君だったらあえて軽口を叩いて場を和ましていたっけ。

この場を私が仕切るのもおかしな話だけど、守護者が弱音を吐いて周囲を不安がらせる訳にはいかないから、ここは彼の真似をしておいて損はないよね。

「ほお、言ってくれるじゃねーか」

 千葉の声に、若干明るみが出た。

「だったら、楽してねぇでとっとと片付けてもらいましょうか」

「あれ、薮蛇だったかな…曲木茜、ミタマ突貫します!」

 両手を大きく広げた状態で勾玉連珠(ジェムウィップ)を地面に叩き付けると、茜は正面から敵陣に向かって走り出した。

 狐の形をしたエソラムが何体も襲い掛かってくるが、何度も交戦経験がある茜は敵の攻撃の隙を突いて反撃に躍り出る。

 ジェムウィップで一体を拘束し、それを鎖分銅の如く振り回して他の敵を次々と葬る。その攻撃から外れたエソラムには、空中で待機していたテレジェムが蜂の巣にしていく。

「よし、五体撃破!」

 数の暴力に屈しそうになるのを気合でカバーし、撃破数を声にする事で自分の士気を奮い立たせた。

「私だって、やる時はやるん──」

 背後から、拍手の音が聞こえてきた。

 突撃班は後方に控えてはいない筈。それなのに誰が拍手なんて…?

危機感を後方に集中させて振り返ると、そこにはベンチに座り気だるそうに拍手をする男の姿があった。

「いやぁ、お見事お見事」

「…加賀君…?」

 そこには、紛れもなく加賀未来の姿があった。

しかも、戦闘中だというのに守護鎧装を纏う事無く、生身のまま(いや)らしい笑みを茜に見せ付けている。

「曲木、お前しばらく見ない内にやる様になったなぁ」

 ベンチから立ち上がると、戦闘時の爆風で着いたであろうコートの埃を払う。

拍手といい埃を払う仕草といい、空々しい動きに一抹の不安と苛立ちを感じた茜は、

「加賀君、一体こんな所で何をしているの?」

「どうだ、俺の元に来る気はないか?」

だが、加賀は茜の質問に答える事なく突如話を進めた。

「そんだけ動ける奴を敵には回したくねぇな。どうせなら、味方として俺の側にいてもらいたいもんだ」

「…加賀君、何を言ってるの…?」

「大和の糞爺ぃの所にいたって、何ら労いもないだろ? だったら、俺の元で楽になれよ」

 変わらず厭らしい笑みのまま、加賀は茜に共闘の意を投げかけた。

 それは、茜には恐怖に感じた。

 突如コインデックを裏切り姿を隠したかと思えば、突如自分の前に現れ味方になれと言う。自分が知っている加賀は、嫌味近い男ではあったが理知的な面を持ち合わせる男であった。それが、感情を欲するままに動いている様に見える。

 加賀君はエソラムの核に取り込まれた? いや、草薙君を倒した時のそれは確実に本人の意思だった気がする。

だったら、彼の中でどういう変化があったの…?

「加賀ぁッ! 手前ェ、曲木を(たぶら)かしてんじゃねえよッ!」

 ヘッドスピーカーから千葉の怒声が聞こえる。恐らく、加賀の発言を集音マイクで拾ったのだろう。

「曲木が手前ェみたいな奴に聞く耳持つ訳ゃねぇだろがッ!」

「千葉さん、邪魔しないでもらえるかなぁ?」

 加賀は会話を邪魔された事に苛付いたのか、軽く舌打ちをすると千葉に向かって言葉を発する。

「今さぁ、俺は曲木を口説いてるんだよ。黙っててもらえません?」

「曲木! そんな下種野郎(げすやろう)の言う事なんか聞く必要ねーぞ!」

「だからさ…邪魔すんなっての!」

 邪魔される事への苛立ちが隠しきれなくなったのか、加賀はその場でミカガミへと姿を変えるとそのまま千葉の乗るバンへ光弾を容赦なく撃ち込んだ。

 着弾の度に特殊装甲のボディが凹み、貫通こそしないものの横っ面を撃たれた車体は大きく弾んで倒れる。

「千葉さん!」

 大きな音を立てて横倒しになったバンの周囲に周囲に砂煙が上がり、そこから見える影は完全に戦意を失った様に見えた。

「曲木、もう一度訊くぞ。俺の元に来る気はないか?」

 目の前で起こった惨劇に悪びれる事もなく、加賀は茜に再度言葉を投げる。その声は、以前の冷静の加賀ではなくどちらかといえば冷酷に感じた。

「…加賀君がコインデックに戻ってくるって選択肢はないの?」

「はぁ?」

 努めて冷静に──加賀が“冷酷”でくるなら自分は“冷静”であろうと考え──茜は加賀に問い返す。だが、加賀にしてみれば彼女がそんな事を言ってくるとは思ってもみなかったらしく、

「おかしな事言うな、お前は。そんなのある訳ないだろ」

 わざとらしく両手を広げて「やれやれ」と言わんばかりのジェスチャーを見せた。

「あんな馬鹿げた所にいるよりももっといい場所を見付けたんだ。それだってのに、何で今更戻らなきゃならねぇんだよ」

 駄目だ。

 目の前にいるミカガミは、私の知ってる加賀未来のそれじゃない。

「私は…」

『天人』のタマハガネが悪影響を生み一時的に洗脳状態になっているんじゃないか、と多少の期待はあったが目の前のミカガミは完全に彼の意思でほくそ笑んでいる。

「私は…」

一縷の望みすら叶わないのであれば、残された選択肢はひとつしかない。

「私は…『天人』を倒す守護者だから、その誘いには乗らない!」

 全てのテレジェムを勢いよく宙に解放させ、加賀の要求をきっぱりと蹴る姿を見せる。

 右手を頭上に掲げると宝玉の回転速度が増し、振り下ろすと同時に全ての宝玉がミカガミへ牙を向けた。

「ハッ、何をするかと思えば」

 もう何度も見てきた攻撃パターンに、加賀は反撃する気も起きずにわざと紙一重の所で宝玉を避ける。離れている間に攻撃速度は増した様だが、それでも軌道が丸判りで単調すぎる攻撃に欠伸が出そうになる。

「加賀君、いつ迄も貴方が知ってる私だって思わないで」

 茜の右手が左から右へ手刀を斬ると、それ迄弧を描く様に動いていたテレジェムが急激な角度で動きを変え加賀目掛けて襲い掛かった。

「ほぉ、緊急旋回による軌道変化は確かに初めてだな」

  今迄戦ってきた中で感じていた曲木茜という女は、兎に角守りに徹する部類だった。

 命令されて初めて戦う、それ以外はなるべくなら戦いたくない。そんな甘っちょろい女が、アメノウズメ戦以来久々に本気を出して戦いに挑んでいる──しかも、この俺に。

 加賀はE‐ガンで牽制しつつ間合いを詰めようとする。その間にも茜は手刀を斬っては宝玉の軌道を次々と変えていく。しかし、宝玉はどれもミカガミを直接攻撃する訳ではなく、周囲をすり抜けては再び襲い掛かるといった形で反撃をさせまいとしている様に見えた。

 E‐ガンと念動宝玉の睨みあいの様な状態の中、茜は突如テレジェムの内の一つをジェムウィップで絡め取った。

「ハッ、駆逐される前に武器回収なんて──」

 ウィップで宝玉を回収した茜は、そのままの勢いで体を一回転させ(しな)ったウィップから念動宝玉をミカガミに向け解き放つ。そこから発射された宝玉は勢いを増して一気に加賀の右頬に当たり、否が応にも彼の首を唸らせた。

「…てめぇ…」

「千葉さんが参考にって、色々と昔のアニメを観せてくれてね」

 そのほとんどはロボットアニメだったが、中にはミタマの武装を活かした攻撃方法に使えるシチュエーションが多々あった。それだから、自分なりに研究と練習を繰り返した結果、今まさにミカガミに攻撃を当てる事が出来たのだ。

 そう、自分はあの加賀未来と対等に渡り合えるかもしれない。

「…曲木ぃ、お前本当に面白い女になったなぁぁぁぁッ!」

 茜の猛威と思いは杞憂だったかの如く、加賀の攻撃はあっさりと宝玉達を次々と駆逐して行く。まるで踊る様に広げた両手からの光源は念動宝玉を全て叩き落すには然程時間はかからず、次の攻撃に備え身構える茜を暫く眺めるもそのまま踵を返し立ち去ろうとしていた。

「加賀君?」

「面白い趣向を凝らしてくれた礼に、今回はこのまま撤収してやるよ」

 加賀は茜の顔を一瞥する事もなく歩き出したが、思い出した様に「あ、そうだ」と立ち止まると、

「曲木、クイズをだしてやろうか?」

「クイズ…?」

 加賀の申し出に疑問と不安を感じた茜は、攻撃する隙があったにも関らずその場から動けずにいた。

「問題その一、何で帝が京都から東京に移動したか?」

「…何を言ってるの?」

「問題その二、何で東京湾は内側に丸くなってるか?」

「…クイズって…何でこんな状況で貴方は?」

 意図が読めずに混乱する茜だったが、外装の中でうろたえてるのが丸解りな状況を横目で見た加賀は、

「この二つが解れば、『天人』や俺の考えが読めるとだけ伝えておくわ」

と、武装を解除しつつニヤリと笑いながらその場に歪界域を形成させ姿を消した。

 取り残された茜は呆然とした状態で「…意味が判らない・・・」と呟くのが精一杯だった。

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