親友クロエの「知のざまぁ」。悪徳貴族の大義名分を法律と条約で完全論破する!
親友クロエの「知のざまぁ」。悪徳貴族の大義名分を法律と条約で完全論破する!
「……ポポロ村を王国の直轄領にする。改めて聞くと、本当に頭痛がするほどお粗末な計画ね」
クロエは手にした豪奢な扇子を優雅に広げ、数百の私兵と魔導戦車を率いるガルドス男爵を冷ややかに見据えた。
丸腰の令嬢が放つ、軍隊すらも呑み込むほどの圧倒的な覇気。
それに気圧されたのか、私兵たちが僅かに後ずさる。
「な、なんだと……? 王城から逃げ出した没落貴族の小娘が、知った風な口を利くな!」
「事実を述べているだけよ。いいこと、ガルドス男爵。あなたが今踏み荒らしているこのポポロ村が、地理的にどういう場所にあるか、まさか忘れたわけではないでしょうね?」
クロエはヒールの音を響かせて一歩前に出た。
「ここはルナミス帝国、レオンハート獣人王国、アバロン魔皇国――三大国の国境線が交わる『超法規的緩衝地帯』よ。過去の協定により、いかなる国家もこの村を軍事支配してはならないと定められているわ」
「ふんっ! そんな百年も前の古臭い協定が何だ! ルナミスも獣人も魔族も、互いを牽制し合って手出しできまい! エドワード殿下の命のもと、我が王国が先手を取ってこの富の山を制圧すれば、奴らとておいそれと手出しはできぬわ!」
ガルドス男爵は豚のように鼻を鳴らし、勝ち誇ったように笑った。
なるほど、エドワード殿下らしい浅はかな考えだ。「他国も欲しがっているが手を出せない場所に、自分たちが先に旗を立ててしまえば既成事実になる」という、国際法を完全に無視したブラック企業特有の強引な横取り理論である。
「……はぁ。本当に、救いようのない馬鹿ね」
クロエは心底呆れたようにため息をつき、扇子で口元を隠した。
「既成事実? 寝言は寝て言いなさい。三大国がこの村に手を出さないのは、牽制し合っているからじゃないわ。手を出せば『他二国に対する明確な宣戦布告』と見なされるという【絶対的軍事協定】が存在するからよ」
「なっ……」
「あなたが今ここで、ポポロ村に向けて一発でも魔導戦車の砲弾を撃ち込めば、どうなるか。……明日には、ルナミスの魔導爆撃機と、獣人王国の狂戦士部隊、そしてアバロンの魔王軍が、大義名分を得て一斉にあなたの領地へと侵攻を開始するわ。王国ごと、文字通り地図から消し飛ぶわよ」
ガルドス男爵の顔から、スッと血の気が引いていく。
だが、彼は必死に虚勢を張って怒鳴り散らした。
「ハッタリだ! たかが田舎村ひとつのために、三大国がわざわざ同盟を結んで王国に攻め込んでくるわけがなかろう!」
「あら、信じないの? なら、もっと直接的にあなたの首が飛ぶ事実を教えてあげるわ」
クロエは目を細め、獲物を追い詰める肉食獣のように冷酷な笑みを浮かべた。
「この村はね、ドワーフの『ドンガン地下帝国』と秘密裏に【不可侵・相互防衛条約】を結んでいるの。あなたたちが今誇らしげに乗っているその魔導戦車、そして兵士たちが持っている魔導銃……それらの動力源である『高純度魔晶石』は、一体どこの国から輸入しているのかしら?」
「ひっ……!」
「そう、ドンガン地下帝国よ。あなたがこの村を攻撃した瞬間、ドワーフたちは激怒し、王国への魔晶石の輸出を完全凍結するわ。そうなれば、王国の軍事力はただの鉄屑になり下がる。……エドワード殿下は、その責任を誰に取らせるかしらね?」
「あ、あ、ああ……っ」
ガルドス男爵の額から、滝のような冷や汗が噴き出した。
『王国の拡大』という手柄を立てるつもりが、一歩間違えれば『世界大戦の引き金』を引き、さらには『自国の軍事力を崩壊させる』という最悪の逆賊になるのだと、ようやく理解したのだ。
理不尽な上司(王太子)の命令を盲信し、現場の状況も確認せずに突き進んだ結果がこれである。
「さ、さらに言うならね」
クロエはトドメとばかりに、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。
「ガルドス男爵。あなたの領地、数年前に起こった凶作の際に、随分と多額の借金を重ねたようね? その債権を買い取ったのが、私の商会なの。――もしあなたがここで少しでも野蛮な真似をするなら、私は今すぐその債権を、アバロン魔皇国の『闇金ギルド』に叩き売るわ」
「な、なんだとォッ!?」
「魔族の取り立てはえげつないわよ? 領地の税収ごと差し押さえられて、あなたはマグローザ(巨大魚)漁船にでも乗せられて、一生ケツを拭く紙にも困る生活を送ることになるわね」
完全なるチェックメイト。
国際法、軍事協定、経済封鎖、そして個人的な借金。
ありとあらゆる退路を『知恵と法律』によって完璧に塞がれたガルドス男爵は、ブルブルと脂肪を震わせ、もはや言葉を発することすらできなくなっていた。
「……さあ、どうするの? ポポロ村を接収して、世界中から命を狙われる? それとも、大人しく尻尾を巻いて王都に逃げ帰るかしら?」
クロエが見下すように言い放つと、兵士たちの間にも動揺が走り、彼らは構えていた武器を次々と下ろし始めた。
そりゃそうだ。ただの辺境制圧だと思ってついてきたら、世界大戦と経済崩壊の引き金を引かされそうになっているのだから。
「くっ……おのれ、おのれぇぇぇっ! 没落貴族の小娘風情がァァァ!!」
ガルドス男爵は血走った目でクロエを睨みつけたが、もはや彼に打つ手はなかった。
「ぜ、全軍撤退だ! 一旦退くぞ! だが覚えておけ、レティシア! クロエ! この恨み、必ず晴らしてくれるわ!!」
捨て台詞を吐きながら、ガルドス男爵は這うようにして魔導戦車の中に逃げ込み、私兵部隊と共にそそくさと村の入り口から退却していった。
そのみっともない後ろ姿を見送りながら、村人たちから「ワァァァァッ!」と割れんばかりの歓声が上がる。
「……ふぅ。とりあえず、第一陣は追い返したわね」
クロエは扇子をパタンと閉じ、いつもの余裕のある笑顔で私の方を振り返った。
「すごいわ、クロエ! 完璧な論破だったわね!」
「あなたの実務能力と、私の交渉術が合わさればこんなものよ。……それにしても」
クロエの視線が、私の前に立ち塞がったまま、未だにガタガタと震えている長身の青年に向けられた。
「あ、あぁ……帰ってくれた……よ、よかったぁ……っ。殺されるかと思った……っ」
ユリウスはその場にへたり込み、安堵の涙をポロポロとこぼしながら、胸を撫で下ろしていた。
その姿は、お世辞にも頼れる剣士とは言い難い。
けれど。
「……ユリウス」
「ひゃいっ!? す、すみませんレティシアさん! 僕、何もできなくて、またクロエさんに助けてもらって……役立たずの護衛でごめんなさ――」
私は彼と同じ目線になるようにしゃがみ込み、その震える大きな手を、両手でぎゅっと包み込んだ。
「レ、レティシアさん……?」
「ありがとう。私を庇ってくれて。すごく、すごく怖かったのに……逃げずに立ち塞がってくれて、本当にありがとう」
ユリウスの手は、氷のように冷たく、まだ微かに震えていた。
この手で、恐怖に耐えながら私を守ろうとしてくれた。その事実が、私の心の一番柔らかい部分を、どうしようもなく甘く締め付ける。
「あ……あの……えへへ……。レティシアさんに怪我がなくて、よかったです」
真っ赤な顔をして照れ笑いを浮かべるユリウス。
その無防備で純粋な笑顔に、私の胸の鼓動は先ほどの恐怖とは全く違う理由で、トクン、トクンと大きく跳ねていた。
――事態はひとまず収束したかに見えた。
しかし、悪徳貴族の理不尽なプライドをズタズタに引き裂いたことが、結果として『最悪の暴走』を引き起こす引き金になってしまったことに、私たちはまだ気づいていなかった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第8話、親友クロエの圧倒的な「知のざまぁ(論破無双)」でした!
国際法、密輸ルートの秘密、そして借金(闇金脅迫)。これぞ悪徳商会ならぬ、敏腕商人の交渉術です。ガルドス男爵、完全にサンドバッグ状態でしたね(笑)。
ブラック上司(王太子)の無茶振りに踊らされた中間管理職(男爵)の悲哀も少しありますが、自業自得です!
そして、腰を抜かすユリウスの手を握るレティシア。
「武力」は使わなかったけれど、「心」で彼女を守ったユリウスの勇気は、しっかりとレティシアに届いています。
次回、第9話!
論破されて終わるような素直な悪役ではありません。プライドをへし折られた男爵が、ついに法もルールも無視した「実力行使の闇討ち」を仕掛けてきます。
嵐の前の静けさと、ついに引き金が引かれる理不尽の足音――。
「クロエ無双スカッとした!」「ユリウス、チワワだけどカッコいいよ!」「闇金ギルドに売られる男爵ワロタ」と少しでも楽しんでいただけましたら、
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