理不尽の足音と強欲貴族。震える背中が教えてくれた「守る」という勇気
理不尽の足音と強欲貴族。震える背中が教えてくれた「守る」という勇気
ポポロ村の冬支度が着々と進む中、私たちは村の最大の収入源である『ポポロ・タバコ』の栽培エリアを視察していた。
この村で取れる上質な葉は、加工されて『ポポロシガー(高級葉巻)』となり、王都の貴族やアバロン魔皇国の兵士たちの間で高値で取引されている。加えて、月兎族の旧村長が残した秘伝の『月光薬』など、この小さな辺境の村は、他国から見れば喉から手が出るほど欲しい「富の山」であった。
「それにしても、見事な生育ぶりね。クロエの商会ルートを使えば、この冬の間に莫大な利益が作れるわ」
「ええ。ドンガン地下帝国との裏ルートを使えば、関税ゼロで輸出できるしね。ネギオ先生とも交渉して、少しネギカリバーを卸してもらえることになったわ」
私とクロエが今後の経営戦略(という名の村の予算編成)について楽しく話し合っていると、ふと、ユリウスがピクリと顔を上げた。
「……何か、重いものが地面を削る音がします。それも、たくさん……」
「え?」
ユリウスが怯えたように長い耳(幻覚)をペタンと伏せた直後。
ズズズンッ……! という、地面を揺らす重低音が村の入り口方面から響いてきた。
「な、なんだ!?」
「敵襲か!?」
畑で作業していた農家のおじさんたちが鍬を放り出して立ち上がる。
私たちは顔を見合わせ、急いで村の入り口へと向かった。
そこで私たちが目にしたのは、のどかな村の風景にはおよそ似つかわしくない、暴力的な鋼鉄の塊だった。
ルナミス帝国で開発され、近年各国に輸出されている最新兵器――『魔導戦車』だ。
その後ろには、全身を重武装で固めた百人規模の私兵部隊が、威圧的に剣や槍を掲げて整列している。彼らが掲げている旗には、見覚えのある紋章が描かれていた。
(あれは……王国の紋章? どうして、緩衝地帯であるこのポポロ村に王国の軍隊が?)
ざわめく村人たちを掻き分けるように、自警団リーダーのマンミアが駆けつけてきた。
彼女は鋭い視線で魔導戦車を睨みつけ、盾を構えながら前に出る。
「止まりなさい! ここは三国不可侵の超法規的緩衝地帯、ポポロ村です! いかなる国家の軍隊も、無断での立ち入りは条約違反と見なします!」
マンミアの凛とした警告が響く。
すると、魔導戦車のハッチがギギギと開き、中から一人の小太りな男が顔を出した。
派手で悪趣味な貴族服に身を包み、脂ぎった顔に傲慢な笑みを張り付けたその男を、私は知っていた。
「……ガルドス男爵。エドワード殿下の取り巻きの一人で、領地で重税を課していると悪評の絶えない強欲貴族ね」
私の呟きに、クロエが「ああ、あの金魚のフンね」と嫌悪感も露わに鼻を鳴らす。
「カッカッカ! 野蛮な半人半馬風情が、このガルドス男爵に向かって吠えるな!」
ガルドス男爵は拡声の魔導具を口元に当て、村中に響き渡る声で怒鳴った。
「条約違反だと? 笑わせるな! 我が国の偉大なるエドワード王太子殿下より、直々の勅命が下ったのだ! 『所属不明の無法地帯であるポポロ村を、我が王国の直轄領として保護(接収)する』とな!」
「なっ……!?」
村人たちから怒りと戸惑いの声が上がる。
保護という名の、完全な侵略行為だ。
「貴様らのような薄汚い平民や亜人が、ポポロシガーや月光薬のような価値ある財産を独占しているなど、言語道断! これより、この村の全ての資源、農作物、そして特産品は、王家とこのガルドス男爵の管理下に置く! 逆らう者は反逆罪として、この魔導戦車で踏み潰してくれるわ!」
(……最低ね)
私はギリッと奥歯を噛み締めた。
エドワード殿下のやりそうなことだ。私が王城の仕事を全て回していた頃は、書類上の不備がないよう他国とのバランスを調整していた。だが、私が追放されたことでストッパーがなくなり、目先の利益(ポポロ村の財産)に目が眩んで、強引な実力行使に出たのだろう。
前世のブラック企業と全く同じだ。
現場の人間が血と汗を流して築き上げた利益を、上層部が「会社(国)のため」という大義名分を振りかざして根こそぎ搾取する。逆らえば「クビ(武力制圧)」だと脅しをかける。
そんな理不尽極まりない横暴を、私は絶対に許すことはできなかった。
「……お断りしますわ。ガルドス男爵」
私は一歩前に進み出た。
「おお? 誰かと思えば、王都を追放された悪女、レティシアではないか!」
私を見た瞬間、ガルドス男爵の脂ぎった顔が、下劣な喜悦に歪んだ。
「ちょうどいい! エドワード殿下から『あの女がいれば、奴隷として死ぬまで働かせろ』と申し付かっている! おい、その生意気な女を捕らえろ! 少し痛めつけて、誰がこの村の支配者か教えてやれ!」
ガルドス男爵の命令を受け、数人の私兵が下卑た笑いを浮かべながら剣を抜き、私に向かって歩み寄ってくる。
マンミアが助けに入ろうとするが、他の私兵たちが一斉に魔導銃を彼女に向け、動きを封じた。
「さぁて、元公爵令嬢様。痛いのが嫌なら、大人しく地面に這いつくばって靴でも舐めるんだな」
チャキッ、と。
冷たい鋼の刃が、私の目の前でギラリと光った。
前世でも今世でも、私はずっと言葉と書類の暴力と戦ってきた。だが、こうした直接的な『武力』による理不尽な暴力に晒されたのは初めてだった。
足がすくむ。心臓が嫌な音を立てて早鐘を打つ。
(……逃げなきゃ。でも、体が……っ)
私が思わず目をギュッと閉じた、その時だった。
「ひ、ひぃぃぃぃっ!!」
情けない悲鳴と共に。
私の前に、一人の長身の青年が、両手を広げて立ち塞がった。
「ユ、ユリウス……!?」
「く、来るなぁっ! レティシアさんに、乱暴しないでくださいぃっ!!」
それは、いつもビクビクと怯えている気弱な青年、ユリウスだった。
彼の足はガタガタと生まれたての小鹿のように震え、両目には涙が浮かんでいる。腰の剣を抜くことすら忘れ、ただ「自分が盾になる」という不格好なポーズで、私と兵士たちの間に割り込んだのだ。
「あぁ? なんだこの優男は。引っ込んでろ!」
「い、嫌です! レティシアさんは……レティシアさんは、誰よりも優しくて、一生懸命で……皆のために頑張ってる、すごい人なんです! そんな彼女を、理不尽に傷つけるなんて……僕が絶対に許しませんっ!」
声は上ずり、体は恐怖で震え切っている。
けれど、彼が一歩も引かずに広げたその背中は、私にとって、どんな堅牢な城壁よりも大きく、頼もしく見えた。
(……馬鹿。自分だって、あんなに震えてるのに)
泣きそうになるのを、必死に堪える。
彼は強いから私の前に立ったわけではない。怖いのに、怯えているのに、「私を守る」というその心根だけで、狂刃の前に立ち塞がってくれたのだ。
その事実が、私の胸をどうしようもなく締め付けた。
「カッカッカ! 馬鹿な奴め! ならその女ごと、切り刻んでしまえ!」
ガルドス男爵が高笑いと共に非情な命令を下す。
兵士たちが悪意に満ちた笑みを浮かべ、剣を振り上げた。ユリウスが「ひぃっ」と目を瞑る。
――パチンッ!
その時。
張り詰めた空気を切り裂くように、軽快な扇子の音が響いた。
「……野蛮ね。本当に、王国の貴族の知能低下には呆れ果てるわ」
ため息と共に前に進み出たのは、燃えるような赤い髪を揺らす私の親友――クロエだった。
彼女はユリウスの肩をポンと叩いて「よく頑張ったわね、ワンちゃん。あとはお姉さんに任せなさい」と労うと、ガルドス男爵を見据えて冷酷に微笑んだ。
「ポポロ村を直轄領にするですって? 頭の中に蛆でも湧いているのかしら、ガルドス男爵」
「な、なんだと貴様! 商人の小娘風情が!」
「小娘で結構よ。でもね、私はあなた方のような『法律も経済も知らない無能』に、この村の富を1ミリたりとも渡す気はないの」
クロエは扇子をピタリと閉じ、彼らを指差した。
「さあ、理不尽なブラック国家の犬共。私が法律と条約の盾で、あなた方の大義名分をへし折って差し上げますわ」
ここから先は、彼女の独壇場だ。
私はユリウスの震える背中をそっと支えながら、親友の「知のざまぁ」が幕を開けるのを、誇らしい気持ちで見つめていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第7話、ついに王国の理不尽(ブラック上司の取り巻き)がポポロ村を強襲しました。
そして、恐怖でガタガタ震えながらもレティシアの盾となったユリウス……!
スマートに助けるのではなく、「怖いけど、彼女のために立ち塞がる」という彼の本質的な優しさと芯の強さに、レティシアの心は大きく揺さぶられました。
しかし、武力衝突の前に、まずは親友クロエの出番です!
次回、第8話『親友クロエの「知のざまぁ」。悪徳貴族を合法的に叩き潰す!』
彼女の圧倒的なレスバ(論破)無双をお楽しみに!
「ユリウス頑張った!」「震える背中カッコいいよ!」「クロエの論破楽しみ!」と少しでも思っていただけましたら、
ぜひページ下部(または右上)の【★で称える(ポイント評価)】から、星3つ(★★★)での応援をよろしくお願いいたします!
皆様の【ブックマーク】と【星評価】が、最強の福利厚生バフとなっております!
どうか、引き続きポポロ村の面々への応援をよろしくお願いいたします!




