「わ」ナンバーの高級車! タカりに来た永遠の17歳(駄女神)
「わ」ナンバーの高級車! タカりに来た永遠の17歳(駄女神)
ブォォォォォォンッ……!!
ポポロ村ののどかな広場に、腹の底に響くような重低音のエンジン音が鳴り響いた。
村人たちが何事かと道をあける中、堂々たるスピードで乗り付けてきたのは、漆黒のボディにギラギラと下品なまでに金色の装飾が施された『超高級魔導車』だった。
以前、公金を横領したクズ前村長が乗ってきた魔導ロールスロイスに引けを取らない、圧倒的な成金趣味のフォルムである。
「な、なんだべ!? またクズ村長が星の彼方から帰ってきただか!?」
「いや、違うだべ! あんなピカピカの車、帝都の貴族様しか乗れねぇだぞ!」
ドン吉たち農民が、泥だらけのクワを持ったままポカンと口を開けている。
ルナキン・ポポロ支店のテラス席からその様子を見下ろしていたキャルルが、険しい顔で立ち上がった。
「レティシア社長。あんなド派手な車に乗るような大貴族に、アポイントの心当たりはありますか? もしや、村の利権を狙うルナミス帝国のハイエナでは……」
「警戒しなくていいわよ、キャルル。……ほら、あの車のナンバープレートの左端を見てみなさいな」
私がコーヒーカップを置き、ジト目で指差した先。
ピカピカの高級魔導車のナンバープレートには、小さく、しかしハッキリと『わ』という文字が刻まれていた。
「あ、『わ』ナンバー……。レンタカーだわ、アレ」
前世の日本でもお馴染みの、レンタカーを示す識別番号。
大貴族の自家用車などではない。見栄を張るために、わざわざ高いレンタル料を払って借りてきた『借り物の高級車』だ。
それを認識した瞬間、車の放つ威圧感はチープなギャグへと成り下がった。
キキッ!と音を立てて広場の中央に停まった魔導車。
運転席から白手袋の運転手(派遣のドワーフ)が降りてきて、恭しく後部座席のドアを開ける。
カツン、と。
無駄にヒールの高いピンヒールが地面を叩き、中から一人の女性が降り立った。
美しい金髪をなびかせ、顔の半分を覆い隠すような巨大なブランド物のサングラス。そして、肩には一目でウン百万はしそうな高級ブランドのバッグを引っ掛けている。
「ふぅ……。やっぱり、下界の空気は土埃の匂いがするわねぇ」
大女優のような気取った仕草で、これ見よがしにため息をつくその女性。
「……もきゅ?」
ちょうどルナキンのテラス席で、ハニーかぼちゃのタルトを頬張っていた見習い女神のリリスが、その女性の姿を見てピタッと動きを止めた。
そして、信じられないものを見るように目を丸くし、ポロリとタルトを落とした。
「げぇっ……!! オバッ……」
リリスが思わず口走った、その瞬間。
――シュバァァァァッ!!
高級ブランドで身を固めたその女性は、100メートル走の金メダリストも裸足で逃げ出す超スピードでテラス席へと跳躍し、リリスのモチモチした両頬をガシィッ!と鷲掴みにした。
「ふぎゃっ!?」
「ちょっと、リリス。あんた今、私のこと『おばさん』って言いかけたわね?」
「い、言ってないでしゅ! 言ってないでしゅぅぅっ!」
ギリギリギリッ!と容赦なくリリスの頬を引っ張る女性。
サングラスをずらしたその瞳の奥には、神聖なるオーラと共に、年齢という概念に対する異常なまでの執着(殺意)が渦巻いていた。
「よく聞きなさい! 私はオバサンじゃない! 世界神にして美の象徴、永遠の17歳、ルチアナよっ!!」
「イデデデデッ! 神格公務員の肌が伸びましゅぅぅぅっ!」
涙目でバタバタと暴れるリリスを解放し、フンッと鼻を鳴らしてサングラスを直す女性。
そう、彼女こそが、このアナステシア世界を創造した第3種惑星創造神格公務員――女神ルチアナである。
私を過労死から救い(?)、この世界に転生させ、ユニークスキルを与えた張本人だ。
「……あのさぁ」
私は深いため息をつき、テラス席のテーブルに肘をついた。
「創造神様が、わざわざ『わ』ナンバーのレンタカーでイキり散らしながら、こんなド田舎の村に何の用かしら? 借金の取り立てなら、間に合ってるわよ」
「ちょっと、レティシア! 命の恩人であり、あなたの上司でもある私に向かって、その塩対応は何なのよ!」
ルチアナが、ズンズンと私に詰め寄ってくる。
「だいたいね! 私が天界で書類仕事(ヴァルキュリアの監視付き)に追われている間に、あんたのおかげでこのポポロ村がめちゃくちゃ潤ってるって風の噂で聞いたわよ!」
「ええ。私が社長として、血と汗と涙の社内改革を断行したからね」
「つまり!!」
ルチアナが、バンッ!とテーブルを叩き、ドヤ顔で私を指差した。
「あんたが村を豊かにできたのは、そもそもの元を正せば、私が『100円ショップの概念』なんていう超絶チートなユニークスキルを渡してあげたおかげじゃない! ……ということは、この村の利益の半分は、実質的に私のものだと言っても過言ではないわよね!?」
「……はぁ?」
あまりのジャイアニズム(お前のモノは俺のモノ理論)に、私は能面のような真顔になった。
神の威光を傘に着た、堂々たるタカり宣言。
天界の予算をアイドル(朝倉月人)のオタ活やソシャゲのガチャで溶かしているという噂は聞いていたが、まさか下界の領主(私)にまで集りに来るとは。
「あーあ、下界までの長旅で喉が渇いちゃったわぁ〜!」
ルチアナは、わざとらしく大きな声を出しながら、ルナキンのテラス席の特等席にドカッと腰を下ろした。
「私、高級なサケスキー(酒)とか、美味しいお肉とかで、思いっきり『潤って』おきたい気分だわぁ〜! さあ、レティシア! スポンサーへの感謝の気持ちとして、村の一番高いメニューを並べなさいな!」
ルチアナが、高飛車に足を組み、私を見上げてニヤリと笑う。
その態度は、前世のブラック企業で散々私をこき使ってきた、無能なクライアントや天下り役員と全く同じだった。
「…………分かりました」
私は、顔には営業用のパーフェクトなスマイル(通称:社畜スマイル)を貼り付けたまま、心の中で冷たく舌打ちをした。
(なるほど。つまり、タダで飲み食いさせろってことね。……そうは行かないわよ、駄女神)
私の村でタダ飯を食おうなど、百年早い。
後で必ず、労働という名の『ツケ』を倍返しで払わせてやる。私は頭の中で、タローマートの品出しシフトと、ルチアナの労働力を時給換算する計算を猛スピードで開始していた。
「おや、お客さんですか?」
そこへ、タイミング悪く……いや、ある意味では最高のタイミングで、エプロン姿のユリウスがお冷とおしぼりを持ってやってきた。
「初めまして! レティシアさんのお手伝いをしているユリウスと言います。長旅、お疲れ様です。冷たいお水、どうぞ!」
一切の裏表がない、純度100%の極上の笑顔。
それを見たルチアナは、「おっ……」とサングラスを少しずらし、ユリウスの顔と筋肉質な体を舐め回すように観察した。
「あら。あんた、なかなかイイ男じゃない。うちの推し(月人くん)には負けるけど、そのエプロン姿、母性本能をくすぐるわねぇ。よし、お姉さんが特別に一緒に飲んであげるわ!」
「いえ、僕は勤務中ですから。レティシアさん、注文はどうしますか?」
ユリウスが私を振り返る。
私が「一番高いサケスキーのボトルとお肉料理を――」と指示を出そうとした、その時だった。
「お、お待ちになって!!」
ダダダダダッ!!と、凄まじい勢いでテラス席に乱入してくる影が一つ。
ルチアナのド派手な魔導車を見て、目を「¥」のマークに輝かせた芋ジャージの少女――極貧地下アイドルのリーザである。
「な、なによあんた! ファンとの握手なら事務所を通しなさい!」
突然現れた芋ジャージの少女に、ルチアナがギョッとして身を引く。
しかし、リーザの瞳はルチアナの顔など見ていなかった。
彼女の視線は、ルチアナの肩に掛けられた『高級ブランドのバッグ(と、その中に入っているであろう分厚い財布)』に完全にロックオンされていたのだ。
「あぁぁっ……! この神々しいまでの成金オーラ! 全身から漂う、無駄遣いの匂い! ……間違いありませんわ、この方こそ、アタシのドーム公演をスポンサードしてくれる『究極の大パトロン(超太客)』ですのぉぉっ!!」
「は?」
リーザは、ルチアナの手をガシィッ!と両手で握り締め、目をキラキラと潤ませた。
「お美しいお姉様! アタシは絶対無敵のスパチャアイドル、リーザと申しますの! お姉様のお酒のお供、ぜひこのアタシにお任せくださいませっ♡ アタシの歌と給仕で、最高の気分にさせて差し上げますわ!」
「え? あ、うん……? な、なんかノリのいい子ね。まあいいわ、一緒に飲みなさいな!」
悪い気はしなかったのか、ルチアナが気を良くしてリーザを隣に座らせる。
「……ねえ、レティシア社長」
横で見ていたキャルルが、呆れたように小声で私に耳打ちした。
「あの駄女神の財布を狙って、ウチの強欲寄生魚が食いつきましたよ。……どうします?」
「ふふっ……放置でいいわ」
私は、ニヤリと悪魔のような笑みを浮かべた。
「タカり女(駄女神)VSタカり女(極貧アイドル)。究極の底辺同士の潰し合いよ。……リーザがあの女神の財布を開けた時、一体どんな絶望的な顔をするのか、見物じゃない?」
高級ブランドで着飾っているが、ルチアナの懐事情が火の車であることは、彼女が「レンタカー」で来た時点で私の目には完全に見抜かれていた。
お金を奪い取ろうとする強欲アイドルと、タダ飯を食おうとする借金女神。
ポポロ村のルナキンを舞台に、絶対に勝者の生まれない、哀しき『底辺の饗宴』が今、幕を開けようとしていた。
読んでいただきありがとうございます。
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