有能社長と武闘派村長の休戦協定! 強欲アイドルから最強騎士(ナイト)を護れ!
有能社長と武闘派村長の休戦協定! 強欲アイドルから最強騎士を護れ!
「ユリウスさぁぁんっ♡ アタシ、さっきのライブで力を使っちゃって、お腹と背中がくっつきそうですのぉ! アタシのトップオタとして、推しに何か貢いでくださらない?」
「はい! ルナキンの厨房に、ちょうど特大サイズのハンバーグの仕込みがあったはずですから、焼いてきますね! ご飯は大盛りでいいですか?」
「はぁ〜んっ♡ ユリウスさん、最高ですわぁっ!!」
ルナキン・ポポロ支店の店内。
芋ジャージ姿の人魚姫・リーザが、エプロン姿のユリウスの腕にコアラのようにしがみつき、頬ずりをしている。
純度100%の善人であるユリウスは、それが「ファンから貢がせようとする悪徳地下アイドルの手口」だとは微塵も疑わず、ただ「お腹を空かせた可哀想な女の子」を満面の笑みで甘やかそうとしていた。
「…………」
「…………」
その光景を、少し離れたテーブル席から、私とキャルル村長は、絶対零度の冷たい目で見つめていた。
「……ねえ、キャルル」
「……なんでしょうか、レティシア社長」
私たちは、互いに視線をユリウスたちに向けたまま、静かに口を開いた。
「あの強欲寄生魚、どうにかしないと、うちの自慢の騎士の優しさが無限に搾取されるわよ」
「ええ。同感です。……ユリウスさんのあの純粋すぎる優しさは、飢えた野獣の前では、あまりにも無防備すぎます。あの泥棒猫……いえ、泥棒魚め」
キャルルが、ギリィッ!と人参柄のハンカチを噛み締める。
普段なら、ユリウスの隣を巡ってバチバチに争っている私たちだが。この時ばかりは、共通の『害悪』を前にして、完璧な意見の一致を見ていた。
「キャルル、ここは一旦休戦よ。あの極貧アイドルをユリウスから引き剥がすわよ」
「異議なしです。私の特注安全靴で、あの寄生魚の顎を砕きましょうか」
「……物理攻撃は最後にしてね」
私たちは立ち上がり、凄まじい威圧感を漂わせながら、イチャイチャ(※リーザの一方的な寄生)している二人の元へと歩み寄った。
「ユリウス」
「あっ、レティシアさん! キャルルさんも!」
ユリウスは無邪気に振り返るが、その後ろでリーザが「チッ……」と舌打ちをしたのを、私は見逃さなかった。
「ユリウス、ハンバーグを焼くのはストップよ。……そこの芋ジャージ、ちょっとこっちに来なさい」
「な、なんですのレティシア社長。アタシは今、トップオタのユリウスさんとファンミーティング(という名のタダ飯要求)の最中ですのよ!」
私はリーザの芋ジャージの襟首をガシッと掴み、キャルルと共に強引にテーブル席へと連行した。
「キャ、キャルルぅ! アタシたち、親友じゃありませんの!? 助けて!」
「ええ、親友よ。……だからこそ、あなたがこれ以上道を踏み外さないように、厳しく指導してあげるの」
キャルルの銀色の瞳には、一切の慈悲がなかった。
リーザをソファ席にドカッと座らせ、私とキャルルはその正面に立ち塞がるようにして腕を組んだ。
「いいこと、リーザ」
私は、手に持っていたバインダーでテーブルをトントンと叩いた。
「ユリウスはね、誰にでも分け隔てなく優しい、生粋のヒーロー気質な男なの。彼があなたに優しくするのは、あなたが『アイドル』だからじゃないわ。ただお腹を空かせているからよ。……それをいいことに、彼の優しさを自分の『ATM(太客)』扱いする気!?」
「そうです! ユリウスさんの純粋さにつけ込んで、タダ飯を食おうだなんて……! 私の騎士に色目を使わないでちょうだい!」
私とキャルルの挟み撃ちの説教。
しかし、極貧生活でメンタルが鋼に鍛え上げられているリーザは、全く悪びれることなくフンッと鼻を鳴らした。
「何を言っていますの? アイドルがファンから施し(スパチャ)を受けるのは、宇宙の真理ですわ!」
「どこが真理よ!」
「ユリウスさんは、アタシの歌を聴いて『元気をもらえた』と言ってくれましたの。つまり、アタシは彼に『無形の価値』を提供している! その対価としてハンバーグをご馳走になるのは、立派な等価交換、正当なビジネスですわ!」
リーザが、謎のアイドル理論を堂々と展開する。
「だいたい、お二人がヤキモチを焼くのはお門違いですわ! アタシは皆のアイドル! 特定の一人のものにはならないけれど、誰よりもユリウスさんの『心の支え』になってみせますのっ!」
「……っ、この図々しい魚が……!」
キャルルが限界を迎え、腰のダブルトンファーに手をかけようとした、その時。
「お待たせしました!」
私たちのテーブルに、ユリウスが大きなお盆を持ってやってきた。
そこには、ホカホカの山盛りライスと、肉汁がジュージューと音を立てる特大の『ロックバイソンのチーズインハンバーグ』、さらには大盛りのサラダとコーンスープが乗っていた。
「ユ、ユリウス……!? だから、作らなくていいって言ったのに!」
私が慌てて止めようとするが、ユリウスは犬耳をピンと立ててニコニコと笑った。
「レティシアさんたちが、リーザさんに『ポポロ村のルール』を教えてくれているんですよね? お話しながらだとお腹が空くと思って、僕、急いで作ってきたんです!」
ユリウスは、その豪華なハンバーグセットを、リーザの目の前にコトンと置いた。
「リーザさん、いっぱい食べて、元気になってくださいね! ……あ、レティシアさんとキャルルさんの分もありますから、後でお持ちしますね!」
一切の嫌味も、裏も、下心もない。
ただ純粋に「皆にお腹いっぱい美味しいものを食べて笑顔になってほしい」という、彼の根底にある博愛主義(絶対善)。
それを真正面から浴びせられ、私とキャルルは「うっ……」と言葉を詰まらせてしまった。彼に悪気がない以上、これ以上怒るわけにはいかないのだ。
「はぁぁぁんっ♡ ユリウスさん、やっぱりあなた神様ですわぁぁっ!!」
リーザは感極まって涙を流し、猛然とハンバーグに噛み付いた。
ナイフとフォークなど使わない。両手で掴み、獣のように食らいつく。
「あむっ! はふっ! うっま……!? 何これ、お肉の味がしますわ! タンポポの苦味が全くありませんの!! 美味しいぃぃぃっ!」
顔を肉汁まみれにして、ボロボロと大粒の涙を流しながらハンバーグを貪り食うリーザ。
そのあまりにも必死で、哀れで、そして見事な食べっぷりを見ていると……不思議なことに、私とキャルルの怒りも、急速に萎んでいってしまった。
「……はぁ。なんか、怒る気も失せたわ」
私はため息をつき、バインダーを置いた。
「ええ。アレはもう、アイドルというより、ただの飢えた野生動物です。……ユリウスさんの庇護欲を一番刺激する、最悪のタイプですね」
キャルルも、毒気を抜かれたように肩を落とした。
ユリウスは、犬や猫などの小動物や、困っている人を放っておけない性質がある。
常に極貧で空腹を抱え、しかも図太く生皮を剥がれたように生きているリーザは、ユリウスにとって「世話を焼きたくなる対象」として、最悪なまでに相性が良かったのだ。
「ごちそうさまでしたぁっ!」
ものの数分で特大ハンバーグセットを平らげたリーザは、満足げにふぅーっと息を吐き、テーブルにあった紙ナプキンを、なぜか大量に(ごっそりと)自分の芋ジャージのポケットに詰め込み始めた。
「ちょっと、何してるのよ」
「備品の補充ですの! この紙ナプキン、とっても柔らかくて、夜露を拭くのに便利なんですのよ!」
「……ルナキンの備品をタダで持って帰らないでちょうだい。窃盗よ」
私がジト目で睨むと、リーザは「チッ」と舌打ちをして紙ナプキンを一枚だけ残して元に戻した。
本当に、どこまでも逞しく、そして図々しい。
「……ねえ、リーザ。あんた、ずっとこんな極貧生活を続けるつもり?」
私は、呆れ果てて問いかけた。
「当然ですわ! アタシは絶対無敵の地下アイドル! いつか大パトロン(超絶金持ち)を捕まえて、帝都のドームで大々的にライブをぶち上げるのが夢ですの! それまでは、草を食んででも生き延びてみせますわ!」
謎のガッツポーズを決めるリーザ。
その無駄にポジティブなエネルギーだけは、ある意味で尊敬に値するかもしれない。
「キャルル、どうする? 放っておいたら、この村の備品とユリウスの優しさが、あの寄生魚に食い尽くされるわよ」
「レティシア社長。答えは一つです」
キャルルが、ニヤリと冷酷な笑みを浮かべた。
「『働かざる者食うべからず』。彼女の強みである図太さと、その無駄な体力を、村の労働力として還元させるべきです。タローマートの裏方でも、畑仕事でも、強制的に働かせましょう」
「賛成よ。労働の尊さとお金の価値を、骨の髄まで叩き込んであげるわ」
私とキャルルが、リーザをタダ働き(いや、正当な労働)させるためのシフト組みを始めようとした、その時だった。
――ブォォォォォォンッ……!!
ポポロ村の静かな空気を切り裂くような、腹の底に響く重低音のエンジン音が、村の入り口の方から聞こえてきた。
「ん? なんだべ?」
「また、誰か来たのかだ?」
広場にいた村人たちが、一斉に村の入り口へと視線を向ける。
私もテラス席から身を乗り出した。
そこには、以前ロップ前村長が乗ってきたのと同じような……いや、さらに装飾が派手で、下品なまでに金ピカに光り輝く、一台の『黒塗りの超高級魔導車』が、ゆっくりと村の広場に乗り付けてこようとしていた。
「……あら? また面倒なのが来たみたいね」
私とキャルルの、そして極貧アイドル・リーザの運命をさらにかき乱す『最大の厄災』が、その高級車のドアを開けて降り立とうとしていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第6章の第3話、いかがでしたでしょうか。
ユリウスに甘えるリーザに対し、レティシアとキャルルが一時休戦してタッグを結成!
「私の騎士に色目を使わないで!」「ユリウスをATM扱いする気!?」と、有能社長と武闘派村長による挟み撃ちの説教がスタートします。
しかし、リーザの「アイドルがスパチャをもらうのは宇宙の真理ですの!」という謎理論の前に説教は平行線。
そこに追い打ちをかけるように、ユリウスが特大のチーズインハンバーグを持ってきてしまいます(笑)。「お腹空いてると思って!」という彼の純度100%の善意には、さすがの二人も怒る気が失せてしまいました。
肉汁まみれでハンバーグを貪り食うリーザ、そしてこっそり紙ナプキンをパクろうとするサバイバル精神、たくましすぎますね。
ユリウスの「飢えた小動物を放っておけない」というヒーロー気質と、常に極貧で空腹なリーザ。実は最悪なまでに相性が良い(依存しやすい)という事実に気づいたレティシアたちは、彼女を強制労働させようと画策しますが……。
次回、第4話!
村に響き渡る高級車のエンジン音!
降りてきたのは、ハイブランドで身を固めたあの「永遠の17歳(駄女神)」ルチアナ!
「わ」ナンバーのレンタカーでイキり散らし、レティシアにタカろうとする借金まみれの女神が襲来します!
「女子チームの結託おもしろい!」「ユリウスの無自覚な餌付け(笑)」「紙ナプキン泥棒!」とニヤニヤしていただけましたら、
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