朝食の格差と【貧乏神】発動!? 絶対無敵のスパチャアイドル伝説!
朝食の格差と【貧乏神】発動!? 絶対無敵のスパチャアイドル伝説!
タローソンの裏で野良犬との死闘(から揚げ弁当争奪戦)を制した人魚姫リーザは、その日のうちに親友であるキャルル村長の家に、当然のように転がり込んだ。
翌朝。ルナキン・ポポロ支店のテラス席で、私たちは朝食をとっていた。
村長であるキャルルの前には、こんがりと焼けたトーストに、新鮮な野菜と厚切りベーコンを挟んだフレッシュサンドイッチ。そして、彩り鮮やかな特製人参野菜ジュースと、食後のフルーツヨーグルトが並んでいる。
まさに、優雅で健康的な王族のブレックファーストだ。
一方。
その向かいに座る芋ジャージ姿のリーザの前に置かれていたのは。
「……ねえ。それ、本気で言ってるの?」
私がジト目で問いかけると、リーザはエヘンと豊満な胸を張った。
「ええ! パン屋さんで『タダ』でもらってきたパンの耳と! スーパーの特売で買った固ゆで卵! そして、そこの道端で摘んできた『タンポポとオオバコのオーガニック・サラダ』ですわ!」
……オーガニックと言えば聞こえはいいが、ただの『雑草』である。
同じテーブルに並んだ、残酷なまでの経済格差。
いくらなんでも不憫に思ったのか、キャルルがため息をついて、自分のサンドイッチが入ったバスケットを差し出した。
「はぁ……。リーザ、意地を張らないで。私のサンドイッチ、一つ食べる? 栄養が偏っちゃうわよ」
親友からの優しい提案。しかし、リーザはフイッと顔を背け、腕を組んだ。
「お気遣い無用ですわ、キャルル! 私は絶対無敵のスパチャアイドル! ファンからの投げ銭以外で、同情による施しは受けない主義なんですの! それにこのタンポポ、朝露を吸ってシャキシャキで美味しいですわよ!」
そう言って、リーザはタンポポの葉をウサギのようにモシャモシャと齧り始めた。
(いや、あんた人魚でしょ……)と心の中でツッコむ私。
強気な発言とは裏腹に、パンの耳と雑草を齧る彼女の瞳は、キャルルの厚切りベーコンに釘付けになっていた。
「あの……お口に合うか分かりませんが」
その時。
厨房から、湯気を立てるお皿を持ったユリウスが歩いてきた。
エプロン姿の彼は、焼きたてのクロワッサンと、シープピッグの肉汁が溢れる極厚のソーセージが乗ったプレートを、リーザの前にそっと置いた。
「朝ごはん、少し作りすぎちゃいまして。もしよかったら、僕のおかず、食べてもらえませんか? 一人で食べるより、皆で一緒に食べた方が美味しいですから」
ユリウスは、見えない犬耳をパタパタと揺らしながら、裏表のない純度100%の優しい笑顔を向けた。
相手に「施しを受けている」という引け目を感じさせないための、彼なりの気遣い(嘘)だった。
「…………ッ!!」
その底抜けの『博愛騎士』の眩しすぎる笑顔と、ソーセージの暴力的な肉の香りに。
アイドルとしての強烈な意地を張っていたはずの人魚姫は。
「た、食べますぅぅぅぅっ!!!」
秒速で陥落した。
リーザは、タンポポを放り投げ、ユリウスのソーセージに猛然と噛み付いた。
「んんん〜っ! お肉の味がしますわ! ジューシーですわぁっ! ユリウスさん、あなた神様ですの!? 私の最初の太客に認定して差し上げますわ!!」
「えっ? すぽんさー? よく分かりませんが、喜んでもらえてよかったです!」
無邪気に笑うユリウスの手を両手で握りしめ、目を潤ませて感動するリーザ。
その光景を見て、キャルルがギリィッ!と人参柄のハンカチを噛み締めていた。
「私のサンドイッチは拒否したくせに……ユリウスさんのご飯には秒で食いつくなんて……っ! この泥棒寄生魚っ!」
「あらあら。相変わらず、うちの騎士様は天然のタラシね」
朝から騒がしい日常だ。
だが、この極貧アイドルがポポロ村にもたらす『本当の厄災』は、こんなものではなかった。
* * *
朝食後。
ポポロ村の広場に、突如として手作りのステージ(みかん箱)が設置された。
「さあさあ皆さま! ポポロ村に舞い降りた、深海のマーメイド! 絶対無敵のスパチャアイドル、リーザちゃんの朝のゲリラライブが始まりますわよーっ!」
芋ジャージ姿のリーザが、みかん箱の上に立ち、首から手作りの『段ボール製お賽銭箱』をぶら下げて高らかに宣言した。
手には、どこから拾ってきたのか、魔導拡声器が握られている。
「なんだなんだべ?」
「なんか可愛い姉ちゃんが歌うみたいだぞ!」
農作業に向かう前のドン吉や源蔵たち村人が、物珍しそうに広場に集まってくる。
リーザは、大きく息を吸い込み、とびきりのアイドルスマイルを浮かべた。
「ミュージック、スタートですわ!」
――ジャジャーン!
魔導拡声器から、安っぽい電子音のイントロが流れ出す。
「五円!五円!御縁!御縁!ハイ!
五円!五円!御縁!御縁!ハイ!
(キラキラリーン☆)」
リーザが、首から下げた段ボールのお賽銭箱をポンポンと叩きながら、リズミカルにステップを踏む。
「銅でもない 銀でもない
狙い打つのは 真鍮のゴールド!
穴の向こうに 未来が見える
覗いてみてよ 私とキミのディスタンス!」
「お、おう! なんかよく分かんねぇけど、ノリがいいべ!」
村のおじさんたちが、手拍子を合わせ始める。
私は、テラス席からコーヒーを飲みながら、その光景を呆れ半分で眺めていた。
「スーパーのレジじゃ 嫌な顔(ヤメテ!)
お賽銭箱なら ドヤれるの(神様ー!)
だったら私の チャット欄
『お賽銭』って呼んでも いいでしょ?(いいよー!)」
「絶対無敵のスパチャアイドル!
五円が積もれば 山となる!
御縁をちょーだい キラキラ☆キラリ
推しの生活 支えてちょーだい!」
芋ジャージに健康サンダルという絶望的なビジュアルでありながら、その歌声には、人魚族特有の『魂を揺さぶる力』が確かに宿っていた。
村人たちが、徐々に彼女のペースに引き込まれ、無意識のうちに自分の財布に手を伸ばし始めている。
「絶対無敵のスパチャアイドル!
穴の数だけ 幸せあげる!
五円で繋がる 無限のループ
ハイ!ハイ!スパチャよろしく!」
「うおおおおっ! リーザちゃーん! 俺の小遣い、受け取ってくれだべぇぇっ!!」
ドン吉が、目を血走らせて財布から銀貨を取り出し、お賽銭箱に向かって投げ入れようとした。
――その時だった。
「……マズいです!! レティシア社長!!」
隣で見ていたキャルルが、突如として顔面を蒼白にし、悲鳴のような声を上げた。
彼女の月兎族の鋭い耳と瞳が、リーザの首から下げられた段ボール箱に生じている『異変』を捉えたのだ。
「どうしたの、キャルル?」
「あの歌と、ファンの熱気……! リーザのユニークスキルである【貧乏神】のスイッチが入ってしまいました!!」
「はあ? 貧乏神?」
「はい! あのお賽銭箱は、対象から戦闘力、運気、全財産、電子マネー、さらにはタンス預金に至るまで……ありとあらゆる『富と力』を根こそぎ強制没収(吸引)する、悪魔のバキュームなんです!!」
キャルルが叫んだ瞬間。
リーザの首から下げられた段ボールのお賽銭箱が、ズズズズズッ!と不気味な黒いオーラを放ち始めた。
「さあ! 皆様の愛、全てアタシが受け取りますわよぉぉぉっ!!」
リーザが恍惚とした表情で両手を広げると、お賽銭箱の投入口から、ダイソンの掃除機も真っ青の猛烈な『吸引力』が発生した。
「うわあああっ!? 俺の財布が勝手にぃぃっ!?」
「へそくりが! 俺のブーツの中に隠してたへそくりが飛んでいくだぁぁっ!」
ドン吉の財布の中身が、そして村人たちのポケットから、無数の硬貨や紙幣が、まるで竜巻に巻き込まれたようにフワフワと宙に浮き上がり、お賽銭箱のブラックホールへと吸い込まれようとしていた。
「あわわわっ! レティシアさん、大変です!」
エプロン姿のユリウスも、自分のポケットから飛び出そうとする小銭入れを必死に押さえている。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! その吸い込んだお金は、彼女の懐に入るの!?」
私は血相を変えてキャルルに尋ねた。
「いいえ! 大宇宙管理局(神界のシステム)に没収されて、虚空に消え去ります! だからリーザ本人は永遠に貧乏なままなんです!!」
「ただの村の経済(GDP)クラッシャーじゃないのよ!!」
せっかく私が、ブラック企業顔負けの徹夜と知略を巡らせて潤わせたポポロ村の財政が。
こんな、みかん箱の上で歌う芋ジャージの地下アイドルのせいで、全て無に帰そうとしている。
冗談じゃない。
私の大切な社員(村人)たちの資産を、一円たりとも持っていかせてたまるか。
「……ユリウス! キャルル! アイツを止めるわよ!!」
私は、ヒールを脱ぎ捨ててテラスから飛び降りた。
そして、猛烈な勢いで広場を駆け抜け、みかん箱の上で陶酔しているリーザの背後へと回り込んだ。
「愛と! お金と! すべてのアタシのものに――」
「【特別監査(コンプライアンス違反)】よっ!!」
――バシィィィィンッッ!!!
私は、手に持っていたバインダーで、リーザの後頭部をスパーン!と容赦なく引っ叩いた。
「ふぎゃあっ!?」
リーザがカエルが潰れたような声を上げて、みかん箱から前のめりに転げ落ちる。
すかさずユリウスが、宙に浮いていた魔導拡声器の電源ケーブルを引っこ抜き、キャルルが、リーザの首から段ボールのお賽銭箱をむしり取って、地面に叩きつけて封印した。
「ああっ!? アタシのステージが! アタシのスパチャがぁぁぁっ!」
顔面から地面に突っ込んだリーザが、涙目で抗議する。
しかし、歌が止まり、お賽銭箱が封印されたことで、宙に浮いていた村人たちの財布と小銭は、ポロポロと安全な地面へと落ちていった。
「ふぅ……。間一髪だったわね」
私は乱れた前髪をかき上げ、地面で「うゆぅ……」と涙ぐんでいる人魚姫を冷ややかに見下ろした。
「あんたね。うちの村の経済を破綻させる気!? こんなブラックホールみたいなスキルを広場でぶっ放すなんて、営業妨害もいいところよ!」
「ひぐっ……だ、だってぇ、アイドルはライブで稼ぐしかないんですものぉ……」
「……あのですね。リーザさん」
私が説教を続けようとした時、ユリウスがしゃがみ込み、リーザの目線に合わせて優しく語りかけた。
「歌、とっても上手でしたよ。すごく元気をもらえました。……でも、皆のお金を無理やり奪っちゃうのは、よくないと思います」
「ユ、ユリウスさぁん……っ」
ユリウスの、一切の怒りを含まない、ただ純粋な優しさと気遣いに満ちた言葉。
リーザは、ズキュン!と胸を撃ち抜かれたように顔を赤くし、モジモジと身をよじらせた。
「ユリウスさんは、アタシの歌、好きですか……?」
「はい! すごく楽しかったです!」
「はぁ〜んっ♡ ユリウスさん、やっぱりアタシのトップオタ(ファン第一号)ですわっ!」
リーザが、ユリウスの腕に嬉しそうに抱きつく。
その瞬間。
――ゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
私の背後で、キャルルから凄まじいヤンデレのオーラが立ち上った。
そして私も、無意識のうちにバインダーをギリィッ!と握り潰しそうになっていた。
「ちょっと、泥棒寄生魚……。私の騎士に、軽々しく触らないでくれる?」
「ユリウスの優しさを、自分のATM(太客)扱いする気かしら……?」
有能社長と武闘派村長。
ポポロ村のトップ二人が、完全に一致団結(タッグ結成)した瞬間だった。
極貧地下アイドル・リーザの登場により、村の平穏は終わりを告げ、恋のドタバタラブコメ大戦争は新たなカオスへと突入しようとしていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第6章の第2話、いかがでしたでしょうか。
芋ジャージの極貧アイドル・リーザが、ポポロ村で大暴れです!
朝食のパンの耳と雑草サラダにやせ我慢するリーザでしたが、ユリウスの「一緒に食べませんか?」という純粋な優しさとソーセージの前に、1秒で陥落(笑)。
しかし、彼女の本当の恐ろしさは広場でのゲリラライブにありました!
名(迷)曲『絶対無敵スパチャアイドル伝説!!』を熱唱し、悪夢のユニークスキル【貧乏神】が発動!
お賽銭箱型バキュームが、ドン吉たち村人の全財産を虚空へと吸い込もうとします。村のGDP(経済)の危機に、レティシア社長の容赦ないバインダー・ツッコミ(物理)が炸裂しました!
間一髪で経済崩壊を防ぎましたが、今度はユリウスの無邪気な「歌、上手でしたよ」の一言で、リーザが彼にベタ惚れ(太客認定)!
ユリウスに抱きつくリーザを見て、レティシアとキャルルが一時休戦してタッグを結成。
「私の騎士に触るな!」「ATM扱いする気!?」と、女子たちのヤキモチバトルがさらにカオスな展開へと進みます!
次回、第3話!
リーザを牽制する女子チームのドタバタラブコメ!
しかし、そんな彼女たちの前に、リーザ以上の「とんでもない厄災(レンタカーに乗った駄女神)」が襲来します!
「リーザの歌、脳内再生される(笑)」「レティシアのツッコミ最高!」「ユリウス、また無自覚タラシを発揮してる!」と楽しんでいただけましたら、
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