第六章 タローソン裏の死闘! 鼻腔五円玉キャノンと極貧の寄生魚
タローソン裏の死闘! 鼻腔五円玉キャノンと極貧の寄生魚
ポポロ村のニート騒動が解決し、村に活気と平穏が戻ってから数日。
私、レティシアは、村長であるキャルル、そして専属騎士のユリウスと共に、村のインフラ施設の視察を行っていた。
「うん、タローソン(コンビニ)の品出しも完璧ね。クロエの商会からの流通網も安定しているわ」
私は空中に展開した【経費精算】のパネルにチェックを入れながら、タローソンの真新しい店舗を満足げに見上げた。
かつてはブラック企業で過労死した私だが、今のポポロ村の経営はすこぶる順調だ。莫大な資金、真面目な社員(村人)たち、そして頼れる仲間。もはやこの村に、死角となるような問題は何一つない。
「レティシアさん、裏口のゴミ捨て場の分別も確認しておきました! 今日も村は平和ですね!」
パリッとしたエプロン姿のユリウスが、見えない犬耳をパタパタと揺らしながら、太陽のような無邪気な笑顔で報告してくる。
「ユリウスさん、お疲れ様ですっ♡ さあ、私の持参した特製人参ジュースで喉を潤してください!」
「わぁ、ありがとうございます、キャルルさん!」
その横では、すっかりお馴染みとなったキャルルの猛アピールが繰り広げられていた。相変わらずバチバチの恋のライバルだが、この騒がしさも含めて、今のポポロ村の『平和な日常』だ。
――ヴゥゥゥ……ッ!! グルルルルルッ!!
私たちがタローソンの裏手に差し掛かった、まさにその時だった。
裏路地のゴミ捨て場の方から、地を這うような獣の唸り声と、ただならぬ殺気が漂ってきたのだ。
「……!? 魔獣ですか!?」
ユリウスが瞬時に腰の剣に手をやり、キャルルもスッと武闘派の目つきに変わる。
「気をつけて、ユリウス! タローソンの廃棄弁当の匂いに釣られて、森から腹を空かせた魔獣が降りてきたのかもしれないわ!」
私が鋭く指示を飛ばし、私たちは息を殺して裏路地の角を曲がった。
そこには、牙を剥き出しにしてヨダレを垂らす、一匹の凶暴な野良犬(低級の魔獣)がいた。
だが、私たちの目を引いたのは野良犬の方ではない。
その野良犬と真っ向から対峙し、タローソンの『廃棄シールが貼られたから揚げ弁当』を巡って、バチバチの死闘を繰り広げている【謎の少女】の姿だった。
「シャァァァァッ!! それはアタシのから揚げ弁当ですのよ!!」
透き通るような白い肌に、海の宝石のように美しいエメラルドグリーンの長い髪。
誰もが見惚れるような人魚姫の美貌を持ちながら……彼女が着ているのは、ルナミスデパートのワゴンセールで売れ残っていたであろう、絶望的にダサい『臙脂色の芋ジャージ』だった。
おまけに足元は、タローマンで特売されていた『イボイボ付きの健康サンダル』である。
「グルルルルッ!!」
「やる気ですのね……! アイドルの意地、見せてやりますわ!」
野良犬が、から揚げ弁当に向かって鋭く飛びかかった。
その瞬間。
芋ジャージの少女は、ポケットからピカピカに磨き上げられた『五円玉』を取り出し、信じられないほどスムーズな動作で、自らの【鼻の穴】にそれをカポッと装填した。
「……は?」
私とユリウスとキャルルは、あまりの奇行に思わず動きを止めた。
「大きく吸ってぇ〜……フンッ!!!」
少女が、腹筋と肺活量を限界まで使い、鼻から猛烈な勢いで息を噴射した。
――シュパァァァァンッ!!
それはまさに、一撃必殺の狙撃。
鼻の穴から射出された五円玉は、空気を切り裂くような弾速で一直線に飛び、空中にいた野良犬の鼻先にクリティカルヒットした。
「キャンッ!?」
痛撃を食らった野良犬は、哀れな悲鳴を上げて尻尾を巻き、森の奥へと逃げ出していった。
「よっしゃあああ!! 取ったどおおおお!!」
少女は、両手を天高く突き上げ、ワールドカップで優勝したかのような歓喜の雄叫びを上げた。
そして、地面に落ちていた『廃棄から揚げ弁当』を大事そうに胸に抱きしめ、頬ずりをする。
「……」
「……」
「……」
あまりにも次元の低い、そして絵面が酷すぎる死闘に、私たちは完全に言葉を失っていた。
「あ、あの……キャルルさん。アレは……一体、なんですか?」
ユリウスが、引き攣った笑顔のまま、隣のキャルルに尋ねた。
キャルルは、信じられないモノを見るように目を丸くし、ワナワナと唇を震わせていた。
「わ、私の親友の……リーザ……?」
「え?」
「いや……そんなはずはありません。私の親友であるシーラン国のお姫様が、鼻の穴に五円玉を詰めて野良犬と廃棄弁当を奪い合うはずがありません……! あ、アレはきっと、深海からやってきたただの……寄生魚かなにかです……っ!」
キャルルが、現実逃避するように全力で目を逸らした。
しかし、その声を、鋭い聴覚で聞きつけた芋ジャージの少女が、バッとこちらを振り向いた。
「キャルルぅぅぅぅっ♡」
少女は、弁当を抱えたまま、猛ダッシュで駆け寄り、キャルルの首に思い切り飛びついた。
「キャルルぅ! 会いたかったですわぁ! ……って、誰が寄生魚ですの! 友達じゃないの私達っ♡」
「ひぃぃっ! や、やめて! その手についたから揚げの油を私の服につけないで!」
キャルルが必死に引き剥がそうとするが、少女――リーザは、コアラのようにガッチリとしがみついて離れない。
「あのさ」
私は、こめかみを揉みながら、ジト目で二人のドタバタ劇を見下ろした。
「キャルル。お友達なら、紹介してもらえないかしら。うちのタローソンの裏で、鼻から小銭を飛ばして野良犬と喧嘩するようなお友達をね」
「うぅっ……レティシア社長、違うんです、彼女は元々こんな野生児ではなくてですね……!」
キャルルが泣きそうになりながら、リーザを引き剥がして地面に立たせた。
「リーザ! あなた、一体今まで何をしてたの!? 私が帝都のシェアハウスを出てから、どうやって生活していたのよ!」
キャルルの問いかけに、リーザはエヘン!と豊満な胸を張り、なぜかものすごく誇らしげなドヤ顔を浮かべた。
「勿論、シェアハウスは家賃滞納で追い出されましたわ!」
「なんでそんなに堂々と言えるのよ!」
「フフン、甘いですわねキャルル。私はただのアイドルではありません、絶対無敵のサバイバルアイドルですのよ! 追い出された私は、すぐさまルナミスデパートを拠点にしましたの!」
リーザは、まるで武勇伝を語るかのように、キラキラと目を輝かせて熱弁を振るい始めた。
「朝は、デパートの化粧室の石鹸で顔を洗い、化粧品売場のテスターで高級化粧水と乳液を塗りたくり、そのままテスターのファンデーションでバッチリメイクを完成させますの!」
「……えぇ……」
ユリウスが、少し引いたような顔でドン引きしている。
「お昼は優雅にデパ地下へ直行! 試食品のソーセージやチーズを、店員に嫌な顔をされるギリギリのラインで見極めてローテーションで食べ歩き、お腹を満たしますの!」
「完全な乞食行為じゃない……」
私のツッコミも意に介さず、リーザの演説はさらに熱を帯びる。
「そして夕方は、家電コーナーの高級マッサージチェアに座って『あぁ〜』と疲れを癒やし……夜は、屋上庭園の物陰にこっそり忍び込み、満天の星空を眺めながらのロマンチックなテント生活ですわ!! どうです? お金を一円も使わずに、帝都のセレブ生活をしゃぶり尽くす、完璧なプロの立ち回りでしょう!?」
フンス!と鼻息を荒くして、芋ジャージ姿でドヤ顔を決める人魚姫。
一国の王女でありながら、そのプライドを1ミリも残さずドブに捨て去った、究極の極貧タダ飯サバイバル。
そのあまりの図太さと、常軌を逸した生命力に……私は静かに、天を仰いだ。
「……また、とんでもなく変なのが来たわね」
平和なはずのポポロ村に、今度は『労働』という概念を完全に超越した、極貧の地下アイドルが流れ着いてしまった。
そしてこの後、この「歩く不良債権」のような人魚姫が、さらなるカオスな神様を引き寄せることになろうとは、この時の私はまだ知る由もなかったのである。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
いよいよ第6章が開幕です!
前章までの「労働の尊さ」を自らぶち壊しにいく、究極のダメ人間(人魚)リーザの登場です!
タローソンの裏で、廃棄のから揚げ弁当を巡って野良犬と本気の死闘を繰り広げるという、絵面が酷すぎる初登場(笑)。
しかも必殺技が「鼻の穴に詰めた五円玉を噴射する(鼻腔五円玉キャノン)」という、ヒロイン(一応、王女様)にあるまじき泥臭さ。
ユリウスの「アレはなんですか?」という純粋な引き気味のリアクションと、親友であることを全力で否定しようとするキャルルの「寄生魚かな……」のくだり、最高にカオスですね!
そして極めつけは、帝都のルナミスデパートを0円でしゃぶり尽くす「極貧サバイバル」のドヤ顔告白。テスターでメイクを済ませ、試食で腹を満たし、マッサージチェアで寛ぐ……もはやプロのホームレスです。
レティシア社長の「また変なのが来たわね」という深い深いため息と共に、第6章のドタバタギャグ劇が幕を開けました!
次回、第2話!
キャルルの家に強引に居候を始めたリーザ。朝食の圧倒的な「経済格差」にやせ我慢する彼女ですが、ユリウスの無邪気な優しさに秒で籠絡されます!
さらに、広場で悪夢のユニークスキル【貧乏神】が発動の危機!?
「鼻腔五円玉キャノン笑った」「リーザたくましすぎる(笑)」「レティシア社長の胃痛がマッハ」と楽しんでいただけましたら、
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