有能社長の究極の兵糧攻め。金では買えない『飯の旨さ』と労働の尊さ
有能社長の究極の兵糧攻め。金では買えない『飯の旨さ』と労働の尊さ
ポポロ村の広場にあるベンチで、十数人の農民たちが、力なくぐったりと項垂れていた。
彼らは数日前まで「俺たちはもう金持ちだべ! 一生遊んで暮らすべ!」とふんぞり返っていた、いわゆる『ニート農民』たちである。
しかし現在の彼らの姿に、かつての威勢の良さは微塵も残っていなかった。
「……腹減っただ」
「金貨五枚で買った『タローソン』の塩むすび……三口で終わっちまっただ……」
農民の一人、ドン吉が、空になったおにぎりの包み紙を見つめて涙ぐむ。
レティシア社長が発動した『特別社内ルール』――労働実績のない者への福利厚生の完全停止と、村の販売価格の百倍設定(特別レート)。
このえげつない兵糧攻めは、彼らの生活と精神を真綿で首を絞めるようにジワジワと追い詰めていた。
「おい、クロエ商会の行商人が来たべ! 弁当を売ってくれるそうだ!」
一人が叫ぶと、ニートたちはフラフラと立ち上がり、行商人の荷馬車へと群がった。
「さあさあ、王都の有名シェフが作った特製フレンチ弁当ですよぉ! 特別価格、金貨百枚でご提供!」
「ひゃ、百枚!? 足元見すぎだべ!」
「あら、嫌なら買わなくても結構ですよ? うちの商会長から、あなた方にはこの値段でしか売るなと厳命されておりますので」
行商人が冷ややかに言い放つと、ニートたちは泣く泣く財布から有り金を取り出し、冷え切った高級弁当を買い求めた。
いくら特別ボーナスで懐が潤っているとはいえ、一食に金貨百枚も支払っていれば、あっという間に破産してしまう。
彼らは震える手で冷たいフレンチ弁当を口に運んだが、その味は、彼らの心を満たすものではなかった。
「……なんか、美味くねえだ」
「ああ。王都の高級料理のはずなのに、冷たくて、なんだか砂を噛んでるみたいだべ」
その時。
彼らの背後にある『社員食堂』の大きな窓から、食欲を暴力的に刺激する強烈な香りが漂ってきた。
「いやぁ〜! 今日も畑仕事の後の飯は最高だべ!」
「やっぱりユリウスの兄ちゃんがよそってくれる『シープピッグの特製ニンニクカツカレー』は、五臓六腑に染み渡るだなぁ!」
食堂の中では、泥沼源蔵をはじめとする真面目な農民たちが、ジョッキで麦茶を煽りながら、熱々で湯気を立てる大盛りのカツカレーをガツガツと頬張っていた。
その顔は、労働の汗を流した後の充実感と、心からの幸福感に満ち溢れている。
もちろん、彼らは労働実績があるため、その絶品バフ飯を『福利厚生(無料)』で食べているのだ。
「うぅ……美味そうだべ……」
「なんでだ。なんで俺たちの方が金を持ってるはずなのに、あいつらの方が何倍も幸せそうなんだべ……」
ドン吉たちは、窓の外からヨダレを垂らしながら、恨めしそうに食堂の中を見つめることしかできなかった。
金で買えるのは、あくまで「冷たい商品」だけだ。
誰かのために汗水垂らして働き、お腹を空かせた後に仲間と共に食べる「温かいご飯」の美味しさ。それは、どんなに金を積んでも決して手に入らない、労働者だけの特権だったのだ。
* * *
「……ふふっ。見事に干上がってきたわね」
同じ頃、ルナキン・ポポロ支店の執務室。
私は窓越しに、ベンチでしょんぼりとしているニートたちの姿を見下ろしながら、極悪非道な笑みを浮かべていた。
「ええ。私の商会から売りつけたボッタクリ弁当のおかげで、連中の手持ちの資金もそろそろ底をつく頃よ」
隣で優雅に扇子を扇ぎながら、クロエがクスクスと笑う。
「もきゅもきゅ……社長、すっごいドSですぅ……。私、絶対に真面目に働きますぅ……」
ソファでハニーかぼちゃのタルトを頬張っているリリスが、ブルッと身震いしてエンジェルすまーとふぉんを胸に抱いた。
「誤解しないでよね、意地悪でやってるわけじゃないわ」
私は空中に展開した【経費精算】のパネルを操作し、村全体の食料備蓄の推移グラフを確認した。
「お金なんて、ただの金属片よ。農家が畑を耕し、大根や芋を作ってくれるからこそ、お金は『食べ物』と交換できる価値を持つの。……彼らが全員農業を放棄したら、この村には食べるものが何一つなくなって、お金という概念自体が無意味になるわ」
前世の社畜時代。金さえ払えば何でも解決すると思い上がっているクライアントを腐るほど見てきた。だが、現場で汗を流してモノを作る人間がいなければ、社会は一日たりとも回らない。
彼らには、その『労働の絶対的な価値』を、痛みを伴って再認識してもらう必要があった。
「見事な手腕ですね、レティシア社長」
執務室のドアが開き、書類の束を抱えたキャルル村長が入ってきた。
「武力や恐怖で支配するのではなく、経済の仕組みを利用して彼らの驕りをへし折る。……王族の私から見ても、完璧な政治的制裁です」
「ありがとう、キャルル。行政トップのあなたにそう言ってもらえると心強いわ」
私が微笑み返すと、キャルルは書類をテーブルに置き、スッと目を細めた。
「仕事においては、レティシア社長に全幅の信頼を置いています。……でも、プライベートでは別ですよ?」
キャルルが、挑戦的な視線を私に向けてくる。
「今朝のお弁当作戦は、ユリウスさんの『誰にでも分け隔てなく優しい』という性質の前に阻まれてしまいました。……ですが、私だって簡単に諦めるようなヤワな女ではありません」
「あら。まだ懲りていないのね」
バチッ!と、私とキャルルの視線が空中で激しく交錯する。
「ええ! 次の一手はすでに考えてあります。……ところで、レティシア社長。今日は事務仕事が立て込んで、少し肩が凝りましたね」
「えっ? ええ、まあ……そうね」
突然の話題転換に、私は少し戸惑いながら頷いた。
「なら、今夜は村の銭湯にある『サウナ』に行きませんか? クロエさんやリリスさんもご一緒に。女子だけで、裸のお付き合いと洒落込みましょう」
キャルルの提案に、リリスが「サウナ! 行きたいですぅ!」と飛びついた。
クロエも「悪くないわね。お肌の調子も整えたいし」と扇子を閉じる。
「いいわよ。私も少しリフレッシュしたかったところだし」
私が了承すると、キャルルはニヤリと意味深な笑みを浮かべた。
「ふふっ……。サウナは、心身を清め、女としての魅力を磨く最高の戦場です。レティシア社長、私のパーフェクトなスタイルを見て、自信をなくさないでくださいね?」
――ピキッ。
私の額に、青筋が浮かんだ。
なるほど、そういうことか。仕事での主導権は私にあるが、女としての魅力でマウントを取ろうという算段ね。
「……ふん。言っておくけど、私だって前世から美容と体型維持には気を遣ってきたんだから。お姫様のわがままボディなんかに負けないわよ?」
「あら、受けて立つというのですね? 面白いです!」
私とキャルルの間に、再び激しい火花が散った。
ニート問題の解決を目前に控え、事態は思わぬ方向――『最強騎士を巡る、女子たちの裸のサウナバトル』へと発展しようとしていた。
* * *
その夜。
冷たい風が吹くポポロ村の広場で、ドン吉たちニート農民は、力なく空を見上げていた。
「……腹減っただ」
「金も、もうほとんど残ってねぇべ……」
彼らの財布は、容赦のない兵糧攻めによってすっかり軽くなっていた。
空腹を抱え、フラフラと村の中を歩いていると、彼らの足は自然と自分たちが放置していた『畑』へと向かっていた。
「あっ……」
月明かりに照らされた畑。
そこには、雑草が生い茂り、葉先が枯れ始めた月見大根の姿があった。
毎日水を与え、土を耕してやらなければ、野菜は育たない。彼らが「金持ちになったから」と労働を放棄した結果、畑は急速に荒れ果てようとしていた。
「俺たちの……大根が……」
ドン吉は、枯れかけた大根の葉にそっと触れた。
「金があっても……大根は勝手に育ってくれねえだ」
「俺たちが汗水垂らして作らねえと、村から食い物が無くなっちまう……。王都からフレンチ弁当を買えたのも、誰かが王都で料理を作ってくれたからだべ……」
その事実に気づいた瞬間。
彼らの心に、長年土にまみれて生きてきた農家としての誇りと、労働という行為そのものの『尊さ』が、じんわりと蘇ってきた。
「……俺たち、とんでもねえ思い上がりをしてただな」
「ああ……。金なんて、飯が食えなきゃただの石ころだべ」
ニート農民たちの目から、ポロポロと後悔の涙がこぼれ落ちた。
もう一度、鍬を握りたい。
泥まみれになって働いて、その後に、仲間たちと一緒に温かくて美味い『飯』を腹いっぱい食いたい。
彼らの心は、完全にへし折れ、そして同時に、正しい形へと再生しようとしていた。
明日の朝。
彼らが畑に戻ってきた時――そこには、彼らの目を覚まさせるための『最後の一押し』となる、最強の騎士の姿が待っていることを、彼らはまだ知らない。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第5章の第5話、いかがでしたでしょうか。
レティシア社長による「究極の兵糧攻め」が効果を現し、ニート農民たちは空腹とボッタクリ弁当の嵐に喘いでいます。
食堂で楽しそうにカツカレーを食べる真面目な農民(源蔵たち)を見て、「金があっても温かい飯は食えない」という現実に直面するドン吉たち。
お金は価値を交換するツールであり、誰かが現場で汗を流さなければ意味がない。
レティシアの厳しいリストラ策は、単なる意地悪ではなく「労働の価値」を彼らに再認識させるための見事な経営手腕でした。
夜の畑で枯れかけた大根を見て、ついに農家としての誇りを取り戻すニートたち。彼らの更生も目前です!
そして、執務室ではキャルル村長が次の一手を打ち出しました!
「今夜は女子だけでサウナに行きませんか?」
お弁当作戦が不発に終わったキャルルは、今度は「女の魅力」でレティシアにマウントを取ろうと宣戦布告! レティシアも負けじと受けて立ちます。
次回、第6話!
【裸の女子会】サウナ回です!
湯気の中で繰り広げられる、女子4人による「ユリウスへの愛の品評会」。クロエとリリスも巻き込んで、サウナ室の温度よりも熱いマウント合戦が勃発します!
「レティシアの経営手腕さすが!」「ニートたち、目が覚めてよかったね」「次回サウナ回楽しみ!!」とワクワクしていただけましたら、
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