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『追放社畜OLの【無限の福利厚生】辺境村改革!〜気弱な最強氷魔法剣士様の理不尽を許さぬ無双姿に私だけがときめいている〜』  作者: 月神世一


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誰等しく優しい博愛騎士と、空回りするヤンデレ村長の特製お弁当

誰等しく優しい博愛騎士と、空回りするヤンデレ村長の特製お弁当

 爽やかな朝日がポポロ村を照らす、早朝のこと。

 村の行政トップである村長に就任したキャルル・ムーンハートは、キッチンに立って鼻歌を歌っていた。

「ふふふ〜ん♪ 胃袋を掴むのは、恋愛における基本中の基本。……『聖獣機神ガオガオンの社内恋愛事情は辛いよ』の第4巻でも、ヒロインが手作り弁当でライバルの女から主人公を略奪していましたしね!」

 キャルルは、愛読しているドロドロの恋愛小説で得た知識をフル活用し、手元に用意した食材を軽やかに調理していく。

 メニューは、月兎族の彼女が得意とする『人参尽くし』のお弁当だ。

 人参のハニーグラッセ、細切り人参の肉巻き、そして人参のすりおろしをたっぷり入れた特製オムレツ。可愛らしいウサギの形に飾り切りされた人参が、色鮮やかに弁当箱を彩っている。

「完璧です! これを持っていって、ユリウスさんに『あ〜ん』して……あわよくば、どさくさに紛れてボディタッチもして……むふふっ♡」

 キャルルは、自分の特注安全靴に似合わない可愛らしいフリルのエプロンを外し、お弁当を大事そうに包むと、スキップしながら村の広場へと向かった。

 彼女の目的はただ一つ。

 昨日、その『剣だこ』と『一切の嘘偽りがない純粋な心音』に触れて一秒で恋に落ちた相手――ポポロ村の最強騎士、ユリウスへの猛アピールである。

     * * *

「はっ! ふっ!」

 広場の片隅では、ユリウスが朝の日課である薪割りを行っていた。

 パリッとしたエプロンの袖をまくり上げ、大きな斧を軽々と振り下ろす。彼の見事な筋肉と、汗に濡れた銀髪が朝日にキラキラと輝いている。

 (ああっ……! 朝からなんて眼福なんでしょう……!)

 木陰からその姿を覗き見ていたキャルルの胸の奥で、トクトクと心音が早鐘を打つ。

 王宮で見てきた、着飾っただけのひ弱な貴族たちとは大違いだ。誰かのために働き、汗を流すその背中は、キャルルの『自助論』を重んじる精神にこれ以上ないほど深く突き刺さっていた。

「ユ、ユリウスさ〜ん! おはようございますっ!」

 キャルルは、意を決して木陰から飛び出し、小走りでユリウスの元へと駆け寄った。

「あっ、キャルル村長。おはようございます」

 ユリウスは手を止め、人懐っこい犬のようにパタパタと見えない尻尾を揺らして微笑んだ。

「朝からお仕事、お疲れ様です! とっても汗をかいていらっしゃいますね。……ふふっ、私が拭いてさしあげます♡」

 キャルルは、ポケットからお手製の『人参柄の刺繍入りハンカチ』を取り出し、背伸びをしてユリウスの額の汗を拭おうと手を伸ばした。

 恋愛小説で予習した通りの、完璧なボディタッチ(物理的接近)のモーションだ。ここから顔を近づけ、甘い香りで彼をドキッとさせる――はずだった。

「わっ! と、とんでもないです!」

 ――サッ。

 ユリウスは、見事な体捌きで後方にスライドし、キャルルの手を神回避した。

「えっ?」

「キャルルさんはこの村の村長さんで、お姫様なんですよ! そんな高貴な方に、僕みたいな下働きの男の汗を拭かせるなんて、絶対にできません! 汗なら自分で拭きますから、大丈夫です!」

 ユリウスは、自分の首に巻いていたタオルで、ゴシゴシと力強く顔を拭いた。

 その顔には、「村長に気を使わせてしまった」という申し訳なさと、相手を気遣う優しさだけが溢れている。

 (……フラグが、綺麗にへし折られました)

 空を切ったハンカチを握りしめ、キャルルはピクッとこめかみを引き攣らせた。

 彼の態度は、キャルルを嫌っているわけではない。むしろ、彼女の立場を誰よりも尊重しているからこその行動なのだが。

 恋愛的なアプローチとしては、完全に暖簾に腕押しだった。

「……そ、そうですか。ユリウスさんは真面目ですね。でも、そういうところも素敵です♡」

 キャルルは気を取り直し、背中に隠していたバスケットをスッと差し出した。

「あの! これ、私がお弁当を作ってきたんです。ユリウスさん、人参がお好きだと伺いましたので、特製の人参尽くし弁当ですよっ! 一緒に食べませんか?」

 上目遣いで、少しだけ首を傾げて可愛くアピールする。

 これにはさすがのユリウスも、目を丸くしてバスケットを見つめた。

「えっ! キャルルさんが作ってくれたんですか? わあ、すごい! 人参のオムレツに、お肉まで! すっごく美味しそうです!」

「ふふっ♡ さあ、あちらのベンチで、私が『あ〜ん』して差し上げ――」

「ありがとうございます! これだけたくさんあれば、レティシアさんや皆にも分けられますね!」

 キャルルの言葉を遮るように、ユリウスが満面の笑みで声を弾ませた。

「え?」

「美味しいものは、みんなで分け合った方がもっと美味しいですからね! 今からルナキンに行って、レティシアさんやリリスさんたちと一緒に食べましょう! あっ、そうだ、クロエさんにも声をかけないと!」

 ユリウスは、バスケットを大事そうに抱えながら、見えない犬耳をピンと立てて嬉しそうにルナキンの方角を指差した。

「いや、あの、これは私がユリウスさんのために作ったものでして……!」

「キャルルさんも一緒に行きましょう! 皆で食べれば、楽しさも美味しさも倍増ですよ! こんなに素敵なお弁当を作ってくれて、本当にありがとうございます!」

 ユリウスは、一点の曇りもない、太陽のような爽やかな笑顔でキャルルにお礼を言った。

 その笑顔から聞こえてくる心音は、どこまでも純粋な『皆への博愛』の鼓動。特定の一人だけを特別扱いするような、恋愛的な下心など一ミリも存在していないのだ。

「あ……はい。そう、ですね。みんなで、分けましょうか……」

「はいっ! じゃあ、レティシアさんを呼んできますね!」

 ユリウスは、エプロンを翻して、嬉しそうに小走りでルナキンへと向かってしまった。

 広場に一人残された、キャルル村長。

 彼女は、空になった両手を見つめ……やがて、ギリィィィッ!と、手にした人参柄のハンカチを力いっぱい噛み締めた。

「レティシア……しゃちょぉぉぉぉぉっ!!!」

 キャルルの瞳の奥で、ドス黒いヤンデレの炎がボワッと燃え上がった。

「せっかくの二人きりのチャンスだったのに! あそこでレティシア社長の名前が出るなんて! ユリウスさんは、優しすぎます! 誰にでも等しく優しいだなんて……そんなの、私に対する生殺しじゃないですかぁっ!!」

 ギリギリとハンカチを噛みちぎらんばかりの勢いで、キャルルはルナキンの方を睨みつける。

「負けません……! ユリウスさんのあの純粋すぎる優しさを独り占めして、絶対に私だけの騎士ナイトにしてみせますからっ!!」

     * * *

「……ふふっ」

 同じ頃。

 ルナキン・ポポロ支店のテラス席で、私は窓越しに広場の様子を眺めながら、思わず優越感に浸った笑みを漏らしていた。

「もきゅもきゅ……ん〜っ! この人参のオムレツ、甘くて美味しいですぅ! キャルルさん、お料理上手ですね!」

「ええ。レティシアがいつも作る、シープピッグのニンニクアブラ飯みたいな男飯とは大違いで、繊細な味付けね」

 テーブルの上には、ユリウスが持ってきたキャルル特製のお弁当が広げられ、リリスとクロエが美味しそうにつまみ食いをしていた。

「レティシアさん! キャルルさんが作ってくれたお弁当、すごく美味しいですよ! 皆で食べると、もっと美味しいですね!」

 ユリウスが、私の横に座って無邪気に笑いかけてくる。

 私は彼に微笑み返しつつ、窓の外でハンカチを噛み締めて悔しがっているキャルルの姿を確認した。

 (あーあ。ご愁傷様、キャルル村長)

 私は、心の中で密かにガッツポーズをした。

 ユリウスの『誰にでも等しく優しい』という博愛主義の壁は、そう簡単に崩せるものじゃないのだ。彼は特定の誰かを独占したいという感情よりも、「大切な皆が笑顔でいてくれること」を最優先にするヒーローなのだから。

 前世で誰からも駒としか扱われなかった私にとって、彼のその見返りを求めない優しさは、何よりも心地よく、絶対的な安心感を与えてくれる。

 だからこそ、私も彼を「俺の女」のように独占しようとはせず、ただ一番近くで彼を支えるパートナー(社長)としての地位を築き上げてきたのだ。

「残念だったわね、キャルル。ユリウスのこの分厚い『優しさの壁』を突破するのは、一筋縄じゃいかないわよ?」

 私は、窓の外の恋のライバルに向かって、小さく呟いた。

 しかし、彼女のあのヤンデレ気質を見るに、これで簡単に引き下がるようなタマではないだろう。

 ユリウスという名の、罪作りなまでに純粋な最強騎士。

 彼を巡る、有能社長と武闘派村長の恋の鞘当ては、まだまだ波乱の予感に満ちていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

第5章の第4話、いかがでしたでしょうか。

恋する乙女・キャルル村長による、ユリウスへの猛アピール作戦がスタート!

特製の人参尽くし弁当を持参し、汗を拭く名目でボディタッチを試みますが……ユリウスの見事な体捌き(神回避)によって不発に!

さらに、「美味しいお弁当なら、レティシアさんたち皆で分けましょう!」というユリウスの博愛主義により、二人きりのフラグが見事にへし折られてしまいました(笑)。

ユリウスの「誰にでも等しく優しい」という性格は、ヒロインにとっては安心できる反面、恋愛を意識させるのが難しいという最大の壁でもあります。

ハンカチをギリィッと噛んでヤンデレ化するキャルルと、テラスからそれを見て優越感に浸るレティシア。バチバチの三角関係が最高ですね!

次回、第5話!

ラブコメの裏で進行中の、成金ニートたちへの『究極の兵糧攻め(社内改革)』がさらに加速します!

金があっても飯が食えない恐怖に、ニートたちの心が悲鳴を上げ始める!?

「キャルル空回り可愛い(笑)」「ユリウスの罪作りな笑顔!」「レティシア社長の余裕!」とニヤニヤしていただけましたら、

ぜひページ下部(または右上)の【★で称える(ポイント評価)】から、星3つ(★★★)での全力応援をよろしくお願いいたします!

皆様の【ブックマーク】と【星評価】が、毎日更新を続けるための最大の福利厚生です!

どうか、引き続きポポロ村の物語への応援をよろしくお願いいたします!

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