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『追放社畜OLの【無限の福利厚生】辺境村改革!〜気弱な最強氷魔法剣士様の理不尽を許さぬ無双姿に私だけがときめいている〜』  作者: 月神世一


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喋るキャベツと走る人参。高潔なるケンタウロスの騎士と『健康診断』

喋るキャベツと走る人参。高潔なるケンタウロスの騎士と『健康診断』

 経費精算による大量の物資投下から数日後。

 村の財政危機を救ったことで、私たち三人はポポロ村の住人たちからすっかり「救世主」として持てはやされるようになっていた。

 特に農業の効率化や福利厚生による労働環境の改善は、村人たちから大好評だった。

 しかし、異世界の辺境村での農業ライフは、前世の日本で育った私の常識を易々と超えてくるカオスなものだった。

「ひぃぃっ! ま、待ってぇぇ! そんなに速く走らないでぇっ!」

 快晴の空の下、広大なポポロ村の畑で、ユリウスの情けない声が響き渡っていた。

 彼が半泣きで追いかけているのは、二本足で猛ダッシュする『人参』だった。

「ギャー! ギャァァァアアーッ!!」

「ああっ、こっちに来ないでぇっ! 父さん助けてぇっ!」

 ポポロ村特産『人参マンドラ』。

 引っこ抜くと世にも恐ろしい絶叫を上げ、短い足(根っこ)を高速回転させて脱走を図るという、とんでもなく凶暴な野菜である。

 ユリウスは持ち前の身体能力でどうにか追いつくものの、「ギャー!」と鳴かれるたびにビクッと怯え、捕まえるのを躊躇してしまうため、永遠に追いかけっこが続いているのだ。

「……あの子、あの身のこなしの軽さを見る限り、本気を出せば一瞬で捕まえられるはずなのに。優しすぎるというか、ビビりすぎね」

「ふふっ。でも、ああやって畑を走り回っていると、本当に普通の気のいい青年に見えるわね」

 麦わら帽子を被ったクロエが、隣で苦笑しながらイモッカのグラスを傾けている。農作業中だというのに優雅なものだ。

「レティシア、こっちのキャベツの収穫を手伝ってちょうだい。……あら?」

 クロエが丸々と太ったキャベツに手を伸ばした瞬間。

『……ちょっと待って! 私を収穫するなら、とっておきのネタを教えるわ! 三軒隣の奥さん、最近メロロンの若いオス(プリンスメロロン)にハマってて、旦那の稼ぎを全部貢いでるのよ! ねえ、このネタで命だけは勘弁して!』

 キャベツが、突如として流暢な言葉で三面記事のようなゲスいゴシップを喋り出した。

「うわぁ……」

「へぇ。それで? 旦那の方は気づいてないわけ?」

『旦那は旦那で、ルナキン(ファミレス)の深夜バイトの子にうつつを抜かしてるのよ! もう泥沼よ! だから私を食べないでぇ!』

「面白いじゃない。お喋りなキャベツはサラダにすると美味しいって言うしね。ザクッといきましょう」

『ギャアアア! 鬼! 悪魔! 王都の女は血も涙もないわーッ!』

 クロエは嬉々とした表情で『ネタキャベツ』を躊躇なく収穫した。美味しいネタを喋る個体ほど、味も絶品らしい。

 前世の常識が通用しないアナスタシア世界の生態系に突っ込みを入れるのにも、私はすっかり慣れてしまっていた。

「おや、精が出ますね。王都からの新しい住人の方々」

 私たちが農作業(という名のコント)を繰り広げていると、凛とした声が響いた。

 振り返ると、そこには息を呑むほど美しい女性が立っていた。

 いや、正確には「上半身は美しい人間の女性、下半身は屈強な馬」という、神話に登場する『ケンタウロス族』の戦士だった。

 栗色の艶やかな髪を一つに束ね、全身に重厚な魔導装甲を纏っている。

 右腕には攻防一体のパイルバンカー式大型シールド『アグニ』を構え、腰には重そうな分銅付きの鎖『メビウス』を巻き付けている。その出立ちからは、歴戦の猛者のような圧倒的な覇気が放たれていた。

「ひぃっ!? じ、重武装の騎士……!?」

 人参マンドラをようやく捕まえたユリウスが、彼女の姿を見るなりガタガタと震え、私の背中にサッと身を隠した。(だから護衛が隠れないでちょうだい!)

「申し遅れました。私はマンミア。このポポロ村の自警団リーダーを務めさせてもらっています」

 彼女は豊かな胸を張り、真摯な瞳で私たちに頭を下げた。

「先日は、村の財政危機を救っていただき、本当にありがとうございました。おかげで大寒波を乗り切る目処が立ちました。村を護る者として、心より感謝申し上げます」

「い、いえ。私なんて大したことは……」

 彼女の高潔な態度に、私は慌てて謙遜した。

 クロエから事前に聞いた情報によれば、マンミアは元々、どこかの王国の近衛騎士団長を務めるほどの超エリートだったという。しかし、「民と直接触れ合い、この手で護りたい」というノブリス・オブリージュ(高貴なる者の義務)の精神から、自ら地位を捨ててこのカオスな辺境村の自警団に就任したのだそうだ。

(……なんて立派な人なの。私を不当解雇したブラック王子とは大違いだわ)

 私は彼女に深い敬意を抱いた。

 だが、同時に私の【社畜センサー】が、激しく警告音を鳴らしていた。

「……マンミアさん。あなた、ここ数日、まともに眠っていませんね?」

「えっ……?」

 マンミアは目を丸くした。

「目の下に薄く隈ができていますし、前足の筋肉がわずかに痙攣しています。魔導装甲で無理やり身体を支えているけれど、闘気も魔力も底をつきかけている。……村長が逃亡したから、不測の事態に備えて、自警団の皆さんと不眠不休で村の警備にあたっていたんじゃないですか?」

「な、なぜそれを……」

 図星だったようだ。

 マンミアの美しい顔に、隠しきれない疲労の色が浮かび上がる。

 責任感が強い者ほど、他人に仕事を振れずに全てを一人で背負い込んでしまう。前世で過労死した私には、彼女のギリギリの状態が痛いほどよく分かった。

「……弱音を吐くわけにはいきません。私たちは、この村の盾。私たちが倒れれば、魔族や帝国軍、野盗の脅威から村人たちを護れなくなりますから」

「駄目よ。そんなブラックな働き方、私が絶対に許さないわ!」

 私はきっぱりと言い放ち、マンミアの前に進み出た。

 彼女が戸惑う中、私は脳内でユニークスキルを発動させた。

「――発動!【健康診断フル・リカバリー】!」

 私の指先から、温かく柔らかな光の波が放たれ、マンミアの全身を包み込んだ。

 この【健康診断】は、私の福利厚生スキルの一つだ。対象者の疲労、負傷、状態異常を瞬時にスキャンし、一瞬にして完全回復させる。さらに、強制的に「十分な休息を取った後の最高のコンディション」へとバフをかける効果がある。

「っ……!? こ、これは……っ!」

 光が収まると同時、マンミアは驚愕に目を見開いた。

 限界まで摩耗していた闘気が、泉のように全身から湧き上がってくる。鉛のように重かった四肢は羽のように軽くなり、蓄積された疲労は完全に消し飛んでいた。

「信じられません……! 王宮の最高位の神聖魔法でも、これほどの即効性と回復力はあり得ない……! 私の細胞一つ一つが、歓喜の声を上げているような……!」

「ふふっ。労働者には適切な休息と健康管理が必要不可欠よ。これで、少しは楽になったかしら?」

 私が微笑むと、マンミアはその場に前足を折り曲げ、私に対して深々と、騎士としての最上級の礼をとった。

「レティシア様……あなたという方は、本当に女神の化身のような方ですね。私、マンミア。この御恩は決して忘れません。村の自警団は、今後あなた様の命に喜んで従うことをお約束いたします!」

「ええっ!? そ、そんな大袈裟な……!」

 私は慌てて彼女を立たせようとした。

 すると、マンミアは立ち上がりながら、少しだけ頬を赤く染めて、ボソリと呟いた。

「ああ、心身共に絶好調です。……これで今年も、クリスマスの日に『25歳の独身女が売れ残った半額ケーキを一人で食べる』という絶望にも、強い心で耐えられそうです……」

「えっ?」

「いえ、何でもありません! では、私はパトロールに戻ります! レティシア様、本当にありがとうございました!」

 パカラッ、パカラッ!と、マンミアはものすごい勢いで蹄の音を響かせながら走り去っていった。

 その後ろ姿を見送りながら、私は小さく首を傾げた。

「……ねえ、クロエ。マンミアさん、今、すごく悲しいことを言っていなかった?」

「聞こえなかったことにしてあげなさい。彼女、アナスタシア世界では『16歳で結婚』が常識なのに、25歳で一度も浮いた話がないことをものすごく気にしているらしいわよ」

「うわぁ……」

 高潔な騎士の、意外すぎる乙女な悩み。

 ポポロ村の住人たちは、一筋縄ではいかない強烈な個性の持ち主ばかりだ。

「……あ、あのぅ。レティシアさん。その、マンドラさん、捕まえました……」

 背後から声がして振り返ると、ユリウスが涙目で、泥だらけになった『人参マンドラ』を両手で差し出していた。

「ひぐっ、マンドラさん、すごく嫌がってて……僕、いじめっ子みたいで罪悪感が……」

「ありがとうユリウス。よしよし、偉かったわね」

 私は泥だらけの彼にハンカチを渡し、ぽんぽんと頭を撫でた。

 大型犬のように目を細めて喜ぶ彼の姿を見ていると、先ほどのマンミアのような『歴戦の猛者』と、この『気弱な青年』が同じ護衛の枠組みにいるのが不思議でたまらなかった。

(ユリウスの本当の力が必要になる日なんて、来ない方がいいわね)

 私は心からそう思った。

 しかし、平和な日常の裏側で、私たちを追放した王国のどす黒い理不尽が、このポポロ村に静かに迫りつつあることを、私たちはまだ知らなかった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

第5話、ポポロ村の愉快な(?)農業ライフと、自警団リーダー・マンミアさんの登場です!

人参マンドラに泣かされるユリウスと、ネタキャベツを嬉々として刻むクロエ。そして、ヒロインのチートスキル【健康診断】で完全回復したマンミアさん。

彼女の「25歳の切ない悩み」は、ポポロ村の密かな名物タブーとなっております(笑)。

次回からはいよいよ中盤戦へ突入!

ヒーローであるユリウスとの、少しだけ心が近づく日常シーンが描かれます。彼の「無自覚な優しさ」に、レティシアの心が揺れ動き始めます!

「ネタキャベツいいキャラしてる!」「マンミアさん(25歳)頑張れ!」「ユリウスのワンコっぷりが可愛い!」と少しでも思っていただけましたら、

ぜひページ下部(または右上)の【★で称える(ポイント評価)】から、星3つ(★★★)での応援をよろしくお願いいたします!

皆様からの【ブックマーク】と【星評価】が、毎日更新を続けるための最大の福利厚生です!

どうか、レティシアとユリウスの焦れ焦れな関係を応援してやってくださいませ!

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