村長の横領と逃亡!? 社畜OL、チートスキル【経費精算】で村の財政危機を力技で解決する
村長の横領と逃亡!? 社畜OL、チートスキル【経費精算】で村の財政危機を力技で解決する
「……というわけで、ワシはゲートボール大会の親善大使として、少しばかり長旅に出ることになったんじゃ。後のことは自警団と若けぇもんに任せる! さらばじゃ!」
ポポロ村の役場。
私たちが移住の挨拶と手続きに訪れた矢先、村長であるロップ氏(70歳・月兎族)は、パンパンに膨れ上がった巨大なトランクケースを片手に、なぜか明後日の方向を向きながら下手くそな口笛を吹いていた。
「ちょっと待ちなさい、村長さん」
クロエがピシャリと扇子を鳴らし、逃げ出そうとするロップ村長の行く手を阻んだ。
「そのトランクの重さと、先ほどチラリと見えた村の帳簿の不自然な空白……。あなた、冬越しのための村の準備資金を全額引き出していますわね? ルナミス新聞のゴシップ欄で読みましたわよ。隣町の魔族の貴婦人と恋に落ちて、村の金を持ち逃げする『バックレラビリンス』を計画しているって」
「な、なんのことじゃ! ワ、ワシは知らん! 何も知らんよ〜フ〜フフ〜♪」
図星を突かれた村長の長い耳が、ピンッと垂直に跳ね上がる。
「誤魔化せると思――」
「愛しのキャサリン! 今行くぞぉぉぉぉッ!!」
クロエが詰め寄ろうとした瞬間。
ロップ村長は月兎族特有の異常な脚力を爆発させ、トランクを抱えたまま『マッハ1』の速度で役場の窓を突き破り、遥か彼方の空へと消えていった。
「……逃げられたわね」
「すごい跳躍力だったわね……じゃなくて! 村の資金が全額持ち逃げされたってこと!?」
私たちが呆然としていると、騒ぎを聞きつけた役場の職員や農家のおじさんたちが青ざめた顔で駆け込んできた。
「た、大変だ! 今週末には大寒波が来るってのに、太陽芋と月見大根の畑に撒く『陽光のポーション』を買う金がすっからかんだ!」
「このままじゃ作物が全滅して、村は冬を越せねぇぞ!」
村人たちが絶望して頭を抱える。
冬越しのための資金ゼロ。作物の全滅危機。
普通なら村が一つ滅んでもおかしくない大惨事だ。
「レティシアさん……っ、村の人たち、可哀想です。僕、王都に戻って出稼ぎしてきます! 魔物討伐でもドブさらいでも、なんでもやりますから……!」
ユリウスが涙目で私の袖を引っ張りながら、悲痛な声で訴えてくる。この気弱な青年は、自分には何もないと思い込んでいるくせに、他人の不幸には誰よりも敏感で優しいのだ。
(……理不尽ね。一部の権力者(村長)の身勝手な振る舞いで、現場の人間が死ぬ思いで苦労を背負わされるなんて)
王城での日々と、前世のブラック企業での記憶が蘇る。
上層部が予算を使い込み、現場には「気合いで乗り切れ」と無茶振りをする。そんなふざけた労働環境、この私が絶対に許さない。
「ユリウス、出稼ぎなんて行かなくていいわ。私がなんとかするから」
「えっ? で、でも、莫大な資金が……」
「予算が足りないなら、経費で落とせばいいだけの話よ」
私は大きく息を吸い込み、意識を集中させた。
――発動せよ、ユニークスキル【経費精算】!
ピロンッ、と軽快な電子音が脳内で鳴り響き、私の目の前の空間に、半透明の光るパネル(前世のパソコンのモニターのようなもの)が展開された。
クロエやユリウス、村人たちが「な、なんだあの光る板は!?」と驚愕の声を上げる中、私は手慣れた手つきで虚空のキーボードを叩き始めた。
(ええと、必要なのは『陽光のポーション』がドラム缶で50本。それから、冷害を防ぐための『ドワーフ製・魔導保温シート』を畑の面積分。ついでに自警団の皆さんが夜間の見回りで凍えないように『魔導ヒーター付き防寒着』も発注しておきましょう)
パネルには、この世界のあらゆる物品が、まるで巨大なECサイト(ネット通販)のように一覧で表示されている。
私は必要な物資を次々と『カートに入れる』のボタンで放り込んでいった。
合計金額:金貨30,000枚。
ちょっとした小国の国家予算レベルの金額だ。
「レ、レティシア……あんた、まさかそれ全部買う気!? 支払いどうするのよ!」
クロエが金額を見て目を剥くが、私は平然と笑ってみせた。
「クロエ、優秀なビジネスマンはね、必要な投資を躊躇わないのよ。それに……ウチの会社の『経費』は、無限だから!」
私は迷いなく【経費で落とす(購入確定)】のボタンをターンッ!と勢いよく叩いた。
直後。
役場の前の広場の上空に、巨大な魔法陣が出現した。
ズズズンッ!! という地響きと共に、大量の木箱やドラム缶、魔導具の詰まったコンテナが次々と空間から転送されてくる。
「な、なんだこりゃああ!?」
「『ドンガン地下帝国』の最高級ポーション!? こっちは最新型の魔導保温シートだぞ! こんなもん、どうやって手に入れたんだ!?」
広場を埋め尽くすほどの物資の山を前に、村人たちは腰を抜かさんばかりに驚いている。
物資の山の一番上には、『領収書:株式会社ユニバース(無限福利厚生財団)様 / 支払い済み』という謎の羊皮紙がペラリと貼り付いていた。
「よし、納品完了ね。皆さーん! これを使って、大寒波が来る前に畑の防寒対策を済ませてくださーい!」
私がパンパンと手を叩いて指示を出すと、呆然としていた村人たちがハッと我に返り、「うおおおお! 王都から来たお嬢様は女神様だぁーっ!」と歓喜の雄叫びを上げた。
「……あんたのスキル、本当にデタラメね。既存の経済システムを一人で破壊できるわよ」
「ふふっ。私はただ、社員(村人)たちが働きやすい環境を整えただけよ」
呆れ顔のクロエにウインクを返していると、横から「よいしょ、っと」という気の抜けた声が聞こえた。
「レ、レティシアさん。とりあえず、この木箱は倉庫に運べばいいですか?」
振り返ると、そこにはユリウスの姿があった。
彼はオドオドとした表情のまま――なんと、屈強なロックバイソンでも一頭で運ぶのがやっとの重さである『魔導具が詰まった巨大コンテナ』を、片手でひょいっと三つも持ち上げていたのだ。
「えっ……」
「ひぃっ!? す、すみません! 僕、もっとたくさん運べますから! だからクビにしないでくださいぃぃっ!」
私がその異常な腕力に絶句していると、ユリウスは「役に立たないと捨てられる」と勘違いしたのか、涙目になりながらさらに二つのコンテナを背中に乗せ、信じられない軽やかさで倉庫へと走り去ってしまった。
「…………クロエ。あの子、やっぱりただの気弱な青年じゃないわよね?」
「ええ。闘気や魔力で身体強化をしている素振りすらなかったわ。純粋な基礎能力だけであんな芸当ができる人間なんて、王国騎士団のトップ層にもいやしないわよ。……面白い拾い物をしたわね、レティシア」
クロエが扇子で口元を隠し、妖しく微笑む。
村の財政危機は、私のチートスキルであっさりと解決した。
だが、私たちがこのポポロ村を「完璧なホワイト領地」にするためには、まだまだ超えなければならない問題(カオスな住人たちや、迫り来る理不尽)が山積みだった。
そして、ひどく気弱で優しいユリウスが、その真の力を『私のために』解放する日が、すぐそこまで迫っていることを、私はまだ知らなかった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第4話、無事に村の財政危機を【経費精算】で力技解決いたしました!
レティシアの「ウチの経費は無限だから!(ドヤ顔)」、前世の社畜時代からは想像もつかない頼もしさです(笑)。
そして、ユリウスの無自覚な超人アピール。コンテナを片手で運ぶチワワ、ギャップがすごいです。彼はただ「役に立ちたい(捨てられたくない)」一心で頑張っています。
次回は第5話!
村の自警団リーダー(ケンタウロス族のマンミアさん)が登場し、レティシアのスキルがさらに村の信頼を勝ち取っていきます!
「経費精算チートすぎる!」「ユリウスの無自覚怪力かわいい(笑)」「村長のマッハ逃亡ワロタ」と少しでも楽しんでいただけましたら、
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