マネーの断絶! 強欲商人のスポンサー剥がし
マネーの断絶! 強欲商人のスポンサー剥がし
深夜のルナキン・ポポロ支店、執務室。
テーブルの上には、天界の神々や企業と直接通話ができる『特級魔導通信石』が、ズラリと十個以上並べられていた。
「さあ、夜明けまでに全て終わらせるわよ。天界の成金どもに、本当の『商売』というものを教えてあげる」
真紅の髪を優雅に揺らし、クロエが妖艶にして冷酷な笑みを浮かべた。
彼女の手には、先ほどリリスがハッキングしたゴッドチューブのシステムから抽出された、ゼロスへの『高額課金リスト』が握られている。
ゼロスのユニークスキル【マネー】は、天界からの『お布施』を直接ステータスに変換する能力だ。
つまり、彼の強さの源泉は己の努力ではなく、スポンサー企業からの資金援助そのもの。この資金源を断ち切れば、彼はただの口の減らない無力なチビに成り下がる。
「まずは……天界最大の武具メーカー、『ホーリー・アームズ社』の社長ね。あいつの聖剣や鎧のメインスポンサーよ」
クロエが通信石の一つを指先で弾くと、空中に光のパネルが浮かび上がり、恰幅の良い天界のビジネスマン――ホーリー・アームズ社の社長の顔が映し出された。
『こんな夜更けに通信とは何事だ! 私は忙しい! 下界のしがない商人などに割く時間など――』
「あら。御社の株価が明日には紙屑になるかもしれないっていうのに、随分と余裕なのね」
『……何だと?』
クロエが扇子で口元を隠し、クスクスと笑う。
不快そうに眉をひそめる社長に対し、クロエは言葉を続けることなく、手元にあった『ネタキャベツ』の葉っぱをツンと突いた。
『明日の昼の生配信で、俺が合図を出したら、村の広場にある倉庫に炎上魔法をぶち込め。……魔王の残党の仕業だと言いがかりをつけて、あいつに全ての罪をなすりつける!』
再生されたゼロスのゲスな音声に、画面越しの社長の顔色が一瞬にして蒼白になった。
『なっ……!? なんだその音声は! まさか、ゼロス殿の……!?』
「ええ。御社が絶賛大口スポンサーを務めている、ゴッドチューブ人気ナンバーワン勇者、ゼロス・ディバインの肉声よ」
クロエは扇子をパチンと閉じ、冷徹な商人の目を社長に向けた。
「この音声データは、明日の昼、ゴッドチューブの全世界向け生配信で一斉に暴露されるわ。……自作自演で村に火を放ち、無実の青年に罪をなすりつける極悪非道な勇者。その勇者が着ている鎧の胸元に、デカデカと『ホーリー・アームズ社』のロゴが入っている。……さて、天界のコンプライアンス(法令遵守)に厳しい消費者たちは、御社をどう評価するかしら?」
『そ、そんな……っ! 我が社は関係ない! あれはゼロスが勝手にやったことで――』
「世間はそうは見てくれないわよ? 『あんな極悪人を支援している企業も同罪だ』『不買運動だ』……あっという間に大炎上。スポンサーの連帯責任ってやつね」
クロエの言葉は、急所を的確にえぐる毒の刃だった。
前世の社畜時代、私は何度も企業の炎上騒動を見てきた。インフルエンサーの不祥事が発覚した際、スポンサー企業が最も恐れるのは『対応の遅れによる飛び火』だ。
『ま、待ってくれ! どうすればいい! その音声データを買い取ろう! いくらだ!?』
社長が画面越しに必死にすがりついてくる。
その言葉を待っていたとばかりに、クロエは悪魔のように甘く、美しい笑みを浮かべた。
「買い取る必要はないわ。……私が欲しいのは、御社との『独占業務提携』よ」
『……なんだと?』
「今すぐゼロスとのスポンサー契約を解除し、『我が社は一切のコンプライアンス違反を許容しない』という声明を出しなさい。……その上で、私の商会が扱う『ポポロ村の特産品』――最高品質の魔獣素材と、月見大根の天界での独占販売権を、市場価格の三倍で買い取る契約を結ぶのよ」
クロエが突きつけた条件に、私は横で聞いていて思わず吹き出しそうになった。
ただスポンサーを剥がすだけではない。ゼロスを切り捨てさせた上で、ポポロ村の特産品を不当なほどの高値で売りつけ、莫大な利益をかすめ取る。
これぞ、強欲商人クロエの真骨頂。敵のピンチにつけ込んで、自陣の利益を最大化する完璧な交渉術だ。
『さ、三倍!? 足元を見すぎだ! そんな無茶苦茶な条件――』
「あら、嫌ならいいのよ? 明日の昼、御社がゼロスと一緒に大炎上して、株価が大暴落するのを特等席で眺めさせてもらうわ。……さあ、十秒で決断しなさい。十、九、八……」
『わ、分かった! 分かった! 契約する! 今すぐゼロスとの契約を破棄するから、その音声を我が社の名を出して暴露するのだけはやめてくれぇっ!』
「……毎度あり」
クロエは扇子で顔を扇ぎながら、通信石の通話を切った。
そして、すぐに隣の通信石を起動する。
「さあ、次は天界最大のポーションメーカー、『エンジェル・ファーマシー』ね。……社長、契約書の作成は任せたわよ?」
「ええ、任せて! 徹夜で【経費精算】のパネルを回して、全企業の契約書をノーミスで作成してあげるわ!」
私はアドレナリンを全開にして、次々とパネルを操作し、クロエが勝ち取った天界企業との契約書を電子署名(魔導サイン)で処理していく。
そこからのクロエの交渉は、まさに芸術的だった。
ネタキャベツの音声という「絶対的な弱み(炎上リスク)」を突きつけ、ゼロスのスポンサーを次々と恫喝。
企業たちは自社の保身のために、手のひらを返すようにゼロスとの契約解除を即決した。そして、クロエが提示する「ポポロ村の特産品の超高額買い取り」という条件を、涙目になりながら呑んでいく。
ゼロスを社会的に孤立させながら、ポポロ村に天界からの莫大な利益をもたらす。
私たちが目指す『ホワイト領地経営』の資金が、この一夜にして国家予算レベルにまで膨れ上がっていた。
「……ふぅ。これで最後の大口スポンサーも陥落よ。チョロいものね」
夜明け前。
クロエが最後の通信石を切り、優雅に伸びをした。
テーブルの上には、天界のトップ企業十数社との契約書が積み上げられている。
「お疲れ様、クロエ! 完璧な仕事だったわ。これでゼロスの資金源は完全に断絶された。……あいつのステータスは、もう最低ランクの底辺勇者まで落ち込んでいるはずよ」
「ええ。でも、あのお馬鹿さんは自分のスポンサーが全滅したことにも気づかず、明日の配信で『最強の勇者』のつもりでヤラセをするでしょうね」
クロエの言う通りだ。
ゼロスは今もテントで高いびきをかいている。自分の『強さの源』が、一夜にして私たち女子チームの手で根こそぎ奪われたことなど、夢にも思っていないだろう。
「レティシアさん。ゼロスさんの配信への割り込みプログラム、完成しましたぁ! いつでもいけますぅ!」
エンジェルすまーとふぉんを掲げ、リリスが目の下にクマを作りながらもドヤ顔を決めた。
「ありがとうリリス! ……さあ、舞台は整ったわ」
私は、窓の外を見た。
白々と夜が明け始めている。いよいよ、決戦の朝だ。
* * *
「おいバケモノ! 早く起きろ! 今日は待ちに待った『村の倉庫大火災配信』の日だぞ!」
朝日が昇りきった広場で、ゼロスがけたたましく笑いながらユリウスを蹴り飛ばしていた。
ユリウスは無抵抗で地面に転がり、泥まみれの服のままゆっくりと立ち上がる。
「……はい。ご命令の通りに」
ユリウスは静かに頷き、ゼロスの背後に付き従う。
ゼロスは、自分のステータスがすでに底辺まで落ちていることにも。
自分を映すカメラ(魔導ドローン)の回線が、リリスに乗っ取られていることにも。
そして何より――自分が蹴り飛ばしているこの心優しき青年が、いざとなれば一瞬で自分を殺容せる『本物の最強騎士』であることにも、全く気づいていなかった。
「ひゃはははっ! 今日も俺の完璧な台本通りに動けよ魔王! 世界中の神々が、俺の活躍を待ってるんだからな!」
ゼロスがカメラに向かって、ひときわ大きくウインクをする。
その傲慢な姿を、私はルナキンのテラスから、冷ややかな目で見下ろしていた。
(ええ、そうね。世界中があなたの動画を見ているわ。……あなたの全てが、大炎上して終わる瞬間をね)
私は【経費精算】のパネルを開き、実行ボタンに指を添えた。
私たちの騎士を理不尽に傷つけた、コンプライアンス違反の迷惑系勇者。
彼を社会的に公開処刑する『大逆転の生配信』が、ついに幕を開けようとしていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第4章の第6話、いかがでしたでしょうか。
クロエの真骨頂、強欲商人としての「スポンサー剥がし」が火を噴きました!
ネタキャベツの音声データを盾にして、天界の企業を次々と恫喝。「連帯責任で炎上したくなければゼロスを切れ。そしてポポロ村の特産品を高値で買え!」という、えげつないまでの完璧な交渉術です。
レティシアの「徹夜で契約書を作る」という社畜的デスクワークとの連携もバッチリですね(笑)。
これにより、ゼロスの強さの源泉であった【マネー(課金)】スキルは完全に機能停止。
しかし本人はそれに気づかず、意気揚々とヤラセの大火災配信へと向かいます。
ユリウスもまた、何も言わずにゼロスに従い、決戦の時を待っています。
次回、第7話!
ついにゼロスがヤラセ配信を開始! 村の倉庫に火が放たれ、逃げ遅れた村人を人質に、ユリウスに土下座を強要します。
「皆を守るため」、究極の自己犠牲を見せるユリウス。その健気な姿に、読者の皆様の涙とヘイトが最高潮に達します!
「クロエえげつない最高!」「ゼロス、オワコン確定(笑)」「ユリウス、もう我慢しなくていいんだぞ!」と胸を熱くしていただけましたら、
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