情報収集と裏工作。証拠は【ネタキャベツ】が知っている!
情報収集と裏工作。証拠は【ネタキャベツ】が知っている!
深夜。
ポポロ村の広場に設営された、ゼロスの豪華なテント。
その中では、偽勇者ゼロスと数人の取り巻きたちが、高級な果実酒を飲み交わしながら下劣な笑い声を上げていた。
「ひゃはははっ! あの『魔王の残党』の奴、今日も一日中俺のサンドバッグになって、泣きそうな顔で床を這いつくばってたぜ! 傑作だったな!」
「さすがはゼロス様! あのデカブツも、神に選ばれた勇者様の前じゃあ、ただの図体ばかりデカい案山子ですぜ!」
取り巻きの言葉に、ゼロスは気分良さそうにグラスを煽る。
「だが、明日はもっと面白い絵(撮れ高)が撮れるぜ。……いいか、お前ら。明日の昼の生配信で、俺が合図を出したら、村の広場にある倉庫に『炎上魔法』をぶち込め」
ゼロスのその言葉に、取り巻きたちがニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。
「あの倉庫には、村の連中が収穫した『月見大根』や特産品が大量に保管されているらしいからな。よく燃えるはずだ。……燃え盛る炎と、逃げ惑う哀れな村人たち。そこに、炎上神ワイズ様の加護を受けた俺が颯爽と現れ、魔王の残党の仕業だと言いがかりをつけて……あいつに全ての罪をなすりつける!」
「おおっ! そして魔王を成敗し、炎を消し止めるんですね!」
「そうだ! その後、燃え盛る炎を背にして、あのデカブツに土下座させて命乞いさせる! 『頼むから村の皆だけは助けてくれ』ってな! ……その惨めな姿を世界中に配信してやれば、スパチャの額は過去最高を更新間違いなしだ!」
ゲラゲラと狂ったように笑うゼロスたち。
他人の財産を燃やし、命を危険に晒し、さらに一人の青年の尊厳を完膚なきまでに踏みにじる。それを全て『金と承認欲求』のためだけにやってのける。
彼らは、自分たちの完璧な『ヤラセ計画』に酔いしれていた。
――しかし。
彼らは気づいていなかった。
テントの隅に置かれた調理台。村からの『貢物』として持ち込まれたバスケットの中で……一際大きなキャベツが、葉っぱを耳のようにピンと立てて、その下劣な企みを一言一句漏らさずに『録音』していることに。
* * *
「カタカタカタ……ッ、ターーーン!!」
ルナキン・ポポロ支店の執務室。
ピンク色の初心者マーク入りジャージを着た見習い女神リリスが、エンジェルすまーとふぉんの画面を猛烈な勢いでタップし、最後に大げさな身振りでエンターキー(仮想ボタン)を叩きターンッ!と鳴らした。
「ふふふ……ちょろいもんですぅ。天界のセキュリティなんて、このエステティシャン・リリスの指先にかかれば、まるでハニーかぼちゃのタルトのように甘々ですぅ!」
「エステじゃなくてハッカーね。……で、どう? いけそう?」
私がコーヒーを飲みながら尋ねると、リリスは得意げに鼻息を荒くした。
「バッチリです! 私の『神格公務員(見習い)』のIDとパスワードを使って、ゴッドチューブのシステム管理領域に侵入成功しましたぁ! ゼロスの配信チャンネルのバックドア(裏回線)を確保。……これで、レティシアさんの合図一つで、いつでもゼロスの生配信を乗っ取って、こちらの用意した映像や音声を全世界に割り込み配信できます!」
「素晴らしいわ、リリス! ポンコツ女神だなんて言ってごめんなさい、やればできるじゃない!」
「えへへぇ〜、もっと褒めてくださいぃ!」
私が頭を撫でてやると、リリスは満面の笑みでだらしなく頬を緩ませた。
これで、一つ目の準備は完了だ。
どれだけゼロスが自分の都合のいいようにカメラを回そうと、私たちはその根幹のシステムを握っている。神々の権威を盾にしているなら、その神々のシステムごとハッキングしてしまえばいいのだ。
コンコン、と。
執務室の窓を、外から小さく叩く音がした。
「……帰ってきたみたいね」
私が窓を開けると、月明かりに照らされた窓枠をよじ登って、コロコロと丸い影が転がり込んできた。
ゼロスのテントに送り込んでいたスパイ――ポポロ村の特産魔植物『ネタキャベツ』だ。
ネタキャベツは自立歩行(転がり)が可能なため、夜中にゼロスたちが眠りについた隙を突いて、自力でテントを脱出し、私の元へと帰還するように命令してあったのだ。
「お疲れ様、キャベツちゃん。……さあ、有益なゴシップ(証拠)は拾えたかしら?」
私がネタキャベツの葉っぱを優しく撫でると、キャベツはプルプルと震え、まるで口のように葉っぱをパクパクと動かして、蓄積した音声を再生し始めた。
『ひゃはははっ! あの魔王の残党の奴、今日も一日中俺のサンドバッグになって、泣きそうな顔で床を這いつくばってたぜ!』
再生されたのは、ダミ声混じりのキャベツの音声だったが、その口調と内容は間違いなくゼロスのものだった。
『明日の昼の生配信で、俺が合図を出したら、村の広場にある倉庫に炎上魔法をぶち込め。……燃え盛る炎と、逃げ惑う哀れな村人たち。そこに、炎上神ワイズ様の加護を受けた俺が颯爽と現れ、魔王の残党の仕業だと言いがかりをつけて……あいつに全ての罪をなすりつける!』
次々と再生される、ゼロスと取り巻きたちによる『ヤラセ大火災計画』の打ち合わせ音声。
それを聞き終えた瞬間。執務室の空気は、絶対零度まで冷え込んでいた。
「……あのクズ」
私の口から、地を這うような低い声が漏れた。
「許せませんぅ……! ユリウスさんを痛めつけるだけじゃなくて、村の倉庫に火をつけるなんて! あそこには、農家のおじさんたちが一生懸命育てた月見大根がいっぱい入ってるんですよぉ!」
リリスもポロポロと涙を流し、スマホを握りしめて怒りに震えている。
自分の利益のために、他人の生活と尊厳を燃やす。
あいつは、絶対に許してはおけない。このままのうのうと勇者面をさせておくわけにはいかない。
「……証拠は揃ったわ。これで、あいつの配信は『炎上』を通り越して、大爆発確定よ」
私は、空中に浮かぶ【経費精算】のパネルを操作し、ネタキャベツのタスクを『完了』に変更した。
これで、ヤラセの証拠と、配信を乗っ取るハッキングの準備が整った。
残るは――ゼロスの強さの源泉であり、承認欲求の塊である【マネー(課金)】を断ち切る、最後の大仕事だ。
「お待たせ。うちの『お馬鹿な社長』とは違って、ちょっと手こずっちゃったわ」
執務室の扉が開き、分厚い羊皮紙の束を持ったクロエが入ってきた。
彼女の美しい顔には、商人としての冷酷で、底知れない強欲な笑みが浮かんでいた。
「クロエ。……リストは手に入った?」
「ええ。ゴルド商会の裏帳簿をフル稼働させて、ゼロスに高額のスパチャ(課金)を投げている天界のスポンサー企業や、有力貴族のリストを全部洗い出したわ」
クロエがテーブルにドサリと羊皮紙の束を置く。
そこには、天界で名の知れた大手武具メーカーや、神聖ポーションの製造会社など、ゼロスの動画を宣伝に使っているスポンサーたちの名前がズラリと並んでいた。
「こいつらは、ゼロスの動画が『正義の勇者』の活躍だと信じているからこそ、大金を投資(課金)して自分の企業のイメージアップに利用しているのよ」
「つまり……そのイメージが『最悪の泥』にまみれれば、投資する価値はゼロになるってことね」
私が言うと、クロエは優雅に扇子を広げて頷いた。
「そういうこと。……さあ、社長。ここからは私の『商談』のターンよ。このネタキャベツの音声データをダミーで少しだけ流出させて、スポンサーたちに『契約解除』の最後通牒を叩きつけてやるわ。……明日の昼までに、ゼロスの資金源(課金ライン)を完全に干上がらせてみせる」
「頼むわ、クロエ。……明日の生配信で、あの迷惑系勇者に、社会の『コンプライアンスの恐ろしさ』を骨の髄まで叩き込んでやるわよ」
私たちのホワイト村を。そして、誰よりも優しくて気高い私たちの騎士を、理不尽に傷つけた代償。
それは、彼が一番大切にしている『名声』と『金』を根こそぎ奪い去るという、有能社長と強欲商人による、最も残酷で完璧な社会的制裁だった。
夜明けは近い。
ユリウスが体を張って稼いでくれた時間の中で。
反撃の準備は、完全に整った。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第4章の第5話、いかがでしたでしょうか。
ゼロスのテントでは、明日の配信に向けた最悪の「ヤラセ大火災計画」が打ち合わせされていました。
しかし、そのゲスな企みは、テントの隅に置かれた【ネタキャベツ】によって一言一句残らず録音されていたのです! 夜中にコロコロと転がってルナキンに帰ってくるネタキャベツ、ちょっとシュールで有能すぎますね(笑)。
そして、リリスのハッキングも完了! ゴッドチューブのバックドアを確保し、いつでも配信を乗っ取れる状態になりました。ポンコツ女神、大金星です。
証拠と配信権限を手に入れたレティシア。
そこに、クロエがスポンサーのリストを引っ提げて合流します。
次回、第6話!
強欲商人クロエによる「マネーの断絶(スポンサー剥がし)」が火を噴きます! ゼロスの強さの源である課金システムを、社会的な圧力で根こそぎ破壊する痛快な裏工作。
「ネタキャベツいい仕事した!」「リリス偉い!」「クロエの商談(脅迫)が楽しみ!」とワクワクしていただけましたら、
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