カメラと信仰の呪縛。愛する村を守るため、最強騎士は無抵抗のサンドバッグになる
カメラと信仰の呪縛。愛する村を守るため、最強騎士は無抵抗のサンドバッグになる
「ユリウス、あなたは手を出さないで。……この手の『コンプライアンス違反のクズ』を社会的に抹殺するのは、社長の仕事よ」
私がゼロスを真っ向から睨みつけ、そう言い放った直後。
ゼロスは一瞬キョトンとした後、腹を抱えてゲラゲラと下品な笑い声を上げた。
「ははははっ! 社会的に抹殺ぅ? この村の代表か何か知らねえが、辺境の泥村の女が、神に選ばれた勇者様に何を寝言言ってやがる!」
ゼロスはカメラ(魔導ドローン)を私の方へと向け、意地悪く口角を吊り上げた。
「おいおい、お前らもこいつが『魔王の残党』だって認めるのか? なら、この村の連中は全員『神敵』ってことになるぞ。……いいか? 俺のバックには『炎上神ワイズ様』がついている。世界中のワイズ教の信徒や国々が、俺の動画を見てるんだ。俺が『この村は魔王の拠点だ』って一言配信すれば、明日には討伐軍が押し寄せて、この村は火の海になるんだぜ?」
ゼロスのその言葉に、広場の空気が凍りついた。
私の後ろに隠れていたリリスが、ブルブルと震えながら私の服の裾を引っ張る。
「レ、レティシアさん……炎上神ワイズ様は、天界でも一番過激で厄介な神様なんですぅ。あの神様の信徒は、自分たちが正義だと思い込んだら、相手が滅びるまで徹底的に攻撃(炎上)してくるんです。表立ってゼロス様に刃向かえば、本当に村が……」
「……厄介なシステムね」
私は奥歯を強く噛み締めた。
前世のSNSでも同じだ。事実がどうであれ、インフルエンサーが「あいつは悪だ」と煽れば、盲目的な信者たちが正義の皮を被って集団リンチ(炎上)を始める。物理的な暴力ではないからこそ、防ぎようのない数の暴力だ。
「さあ、どうする? 俺の動画の邪魔をしたんだ、ただで済むと思うなよ。村ごと燃やされたくなかったら、ここで土下座して――」
ゼロスが下劣な要求を口にしようとした、その時。
「待ってください!!」
私の隣から、ユリウスが飛び出した。
彼は私を完全に背中に庇うように立ち、ゼロスに向かって真っ直ぐに頭を下げた。
「全部、僕がやりました! 僕が魔王です! だから、レティシアさんや、村の皆には一切手を出さないでください! 何でも……あなたの言う通りにしますから!」
「ユリウス!? ダメよ、あなたがそんな嘘を被る必要なんて――」
「レティシアさん」
私が止めようとすると、ユリウスが振り返り、悲しそうな、それでいて決意に満ちた瞳で私を見た。
「レティシアさんが傷つくくらいなら……僕が魔王になった方が、ずっといいんです」
その言葉に、私は息を呑んだ。
彼の「皆を守る」という自己犠牲の精神。それは、相手が魔獣であろうと、悪意ある人間であろうと変わらない。自分の名誉や誇りなど、彼にとっては村人たちの一本の髪の毛よりも軽いのだ。
「……ひゃはははっ! いいぜ、面白え!」
ゼロスが、ユリウスのその態度を見て、嗜虐的な笑みを深めた。
「なら、お前は俺の動画の『引き立て役』になれ。魔王の残党が、勇者様にコテンパンに成敗される胸熱の展開だ! カメラ回すぞ!」
それからの一日は、私にとって地獄のような時間だった。
ゼロスはカメラを回しながら、ユリウスを「魔王の残党」として罵倒し、理不尽な労働を強いた。
巨大な岩を一人で運ばせたり、泥水の中に落とした硬貨を拾わせたり。ユリウスが少しでも手間取れば、「これだから魔王はダメなんだよな!」と、カメラの前でわざとらしく蹴りを入れる。
さらに胸糞が悪いのは、カメラ(ドローン)の録画が止まった裏側でのゼロスの態度だった。
「おい、お茶がぬるいぞバケモノ」「俺の靴を磨け」と、カメラが回っていない所では、より陰湿で直接的な暴力をユリウスに振るっていた。
それでも、ユリウスは絶対に抵抗しなかった。
殴られて唇を切っても、泥まみれになっても、「えへへ、すみません」とヘラヘラ笑って謝り続けた。自分が手を出せば、私や村が『神敵』にされてしまうと分かっているからだ。
(……あいつ、絶対に殺す。いや、社会的に完全に抹殺してやる)
私は、ルナキンのテラスからその光景を睨みつけながら、爪が手のひらに食い込むほど拳を握りしめていた。
* * *
その夜。
ルナキン・ポポロ支店の奥にある私の執務室で、私は救急箱を開けていた。
「痛っ……」
「我慢して。しっかり消毒しないと化膿するわよ」
私の目の前には、シャツを脱ぎ、泥と打撲の痕だらけになったユリウスが座っていた。
私はピンセットで脱脂綿を掴み、彼の顔や腕にできた傷に薬を塗っていく。
「なんで……なんで、あんなに我慢するのよ」
気がつけば、私の声は震えていた。
帝国最強のガレオンすら凌駕する力を持っているのに。あんな三流の偽勇者なんか、瞬きする間に氷漬けにできるのに。
私の大切な自慢の騎士が、あんなクズの暴力に黙って耐えている。その事実が、たまらなく悔しくて、悲しかった。
「だって……僕が少し我慢すれば、村は平和なままですから」
ユリウスは、絆創膏を貼られた顔で、ふにゃりと笑った。
「それに、僕なんかどうなってもいいんです。レティシアさんが、あの男に酷いことを言われたり、傷つけられたりするのを見る方が、僕はずっと痛いし、辛いから……」
――ズキン、と。
胸の奥が、熱く締め付けられた。
彼は、本当に馬鹿だ。自分がどれだけボロボロになっても、他人が無事ならそれでいいと本気で思っている。
その純度100%の底なしの優しさに、私は救われ、そして、どうしようもなく惹かれているのだ。
「……馬鹿ね。自分のこと、少しは大切にしなさいよ」
私は、彼の広い背中にそっと湿布を貼りながら、小さく呟いた。
そして、救急箱をパチンと閉じる。
私の心の中で、冷たく、静かな『決断』が下された瞬間だった。
「……レティシアさん?」
「ユリウス。今日はもう、自分の部屋に帰ってゆっくり休みなさい。明日は、私が絶対に何とかするから」
「でも……」
「いいから! これは社長命令よ!」
無理やりユリウスを部屋へと帰した後。
執務室の扉が開き、クロエとリリスが静かに入ってきた。
「……あの子、かなり酷い怪我だったわね」
クロエが扇子を弄りながら、不機嫌そうに目を細める。
「うぅっ……ユリウスさん、あんなにボロボロになって……私、あの偽勇者、絶対に許せませんぅ!」
リリスも、エンジェルすまーとふぉんを握りしめて涙ぐんでいた。
「ええ。私も同じよ」
私は【経費精算】のパネルを空中に展開し、前世の社畜時代――数々のブラック企業を監査し、不正を暴いてきた『特命プロジェクト』のモードへと頭を切り替えた。
「表立って剣が抜けないなら、あいつの権力も、配信も、金も、裏から全部ひっぺがして、社会ごとぶっ壊すわよ」
私は、クロエとリリスを真っ直ぐに見据えた。
「これより、偽勇者ゼロスに対する『特別監査(コンプライアンス調査)』を開始するわ。……女子三人で、あのクズを徹底的に炎上させてやるわよ!」
「ふふっ。望むところよ。私の商会ルートで、あいつの金の出所を洗ってあげる」
「わ、私もやりますぅ! 天界のシステム、ハッキングしちゃいますぅ!」
最強の騎士が、私たちを守るために『物理的な盾』になってくれているのだ。
ならば私たちは、彼の尊厳を取り戻すため、最強の『社会的な矛』となる。
ホワイト村女子チームによる、反撃の情報戦(ヤラセ暴露プロジェクト)が、今ここに幕を開けた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第4章の第3話、いかがでしたでしょうか。
ゼロスの「村を神敵にする」という卑劣な脅しに対し、ユリウスは自ら「僕が魔王です」と嘘を被り、皆を守るために無抵抗のサンドバッグになることを選びました。
カメラの裏側で陰湿な暴力を振るわれるユリウス。それでも「レティシアさんが傷つくよりずっといい」と笑う彼の健気な自己犠牲に、胸が締め付けられます。
(※ゼロスのヘイトが順調に天元突破しております!)
しかし、そんな彼をボロボロにされて、我らが有能社長が黙っているわけがありません!
ユリウスを治療しながら静かにブチギレたレティシアは、ついに「特別監査(コンプライアンス調査)」の開始を宣言!
クロエ(商人)、リリス(見習い女神)とタッグを組み、ゼロスの社会的な権力を裏から全てぶっ壊す情報戦へと乗り出します!
次回、第4話!
反撃開始! レティシアの指示のもと、リリスが天界のシステムをハッキングし、ポポロ村の特産品『ネタキャベツ』が意外な活躍を見せます!
「ゼロス絶対に許さん!」「ユリウス優しすぎて泣ける」「女子チーム、やったれ!!」とヘイトを溜めつつ反撃に期待していただけましたら、
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