第四章 偽勇者の炎上配信と絶対零度の魔王〜コンプラ違反の迷惑系勇者は、有能社長と最強騎士が社会的に抹殺します!〜
ホワイト村の新たな火種。神々の動画サイトと『承認欲求モンスター』の影
千を超える魔獣のスタンピードからポポロ村を守り抜いて、数週間。
私たちの『ホワイト領地』は、かつてないほどの空前の好景気に沸いていた。
「よしっ! 今月の村の総売上、前月比300%増を達成ね!」
ルナキン・ポポロ支店のテラス席。
私は空中に展開した【経費精算】のパネルを弾きながら、ガッツポーズを取った。
スタンピードでユリウスが『氷刃円舞』によって一刀両断した魔獣の素材は、傷が少なく最高品質だったため、クロエの商会を通じて王都や他国で飛ぶように売れた。
さらに、ポポロシガーやサケスキーといった村の特産品も知名度が上がり、注文が殺到している。
「これだけの利益が出たんだもの。自警団への『魔獣討伐特別ボーナス』に加えて、村人全員に『リフレッシュ休暇』と『慰安旅行』の予算を組めるわね。福利厚生は手厚く、が我がポポロ村のモットーよ!」
パネル上の数値を調整し、還元率を計算していく。
前世のブラック企業では、どれだけ売上を伸ばしても現場の社員には一円も還元されず、全て経営陣の懐に入っていた。
私は絶対にそんな経営はしない。村人(社員)の心身の充実こそが、最大の防衛力であり生産力なのだから。
「レティシアさーーーんっ! 大変ですぅぅっ!!」
私が上機嫌で予算編成をしていると、ピンク色の初心者マーク入りジャージを着た見習い女神・リリスが、ドタバタと健康サンダルを鳴らして駆け込んできた。
「どうしたの、リリス。また『エターナル(創造世界)』で変なもの作って借金増やしたの?」
「違いますぅ! 今、天界の神々が見ている動画配信サイト『ゴッドチューブ』で、超絶大人気の勇者様が、この近くに来てるんです!」
リリスは興奮冷めやらぬ様子で、手に持った魔導端末『エンジェルすまーとふぉん』の画面を私に突きつけてきた。
画面の中では、派手なテロップとキラキラしたエフェクトと共に、一人の男が映し出されている。
『ヘイヘイ! 天界の神様たち、見てるぅ!? 俺が神に選ばれし勇者、ゼロス・ディバインだぜ!』
画面の中でウインクを決める男は、金髪に、不自然なほど真っ白な歯(おそらく魔法でホワイトニングしている)を輝かせていた。
聖なる鎧に身を包み、ミスリル製のマントを翻すその姿は、確かに『勇者』という肩書きにふさわしい華やかさがある。本来は少し小柄なようだが、厚底のブーツを履いて必死に長身に見せかけているのが丸わかりだった。
『さあ、今日も皆に最高のエンタメを届けるぜ! そこのオーク、俺の聖剣の錆にしてやる!』
動画の中のゼロスが、大げさな身振りで剣を振るう。
オークが倒れると、画面上には神々からの『スパチャ(お布施)』や『いいね』のスタンプが、滝のように弾け飛んだ。
「きゃーっ! かっこいいですぅ! ゼロス様は今、ゴッドチューブでPV数ナンバーワンなんですよ! 炎上神ワイズ様のお気に入りだとか!」
リリスが両手を組んでうっとりとしている。
しかし。
私はその動画を冷ややかな目でじっと観察していた。
「……ん? なんか、この動画……不自然じゃない?」
「へ? どこがですか?」
「まず、カメラのアングルよ。オークと遭遇した瞬間の映像なのに、まるで最初からそこにカメラがセットされていたみたいに完璧な構図ね。それに……倒されたオークの動きも変。勇者の剣が当たる前に、自分から倒れにいってるように見えるわ」
前世の社畜時代。私は企業の広報やSNSマーケティングの炎上対策も兼任させられていた。
だからこそ、この手の『承認欲求モンスター』が作る動画の裏側が、手に取るように分かってしまう。
「それに、ほら。倒した後にカメラがパンした一瞬……ゼロスが吸い殻を、その辺の森にポイ捨てしているのが映り込んでるわ。……典型的な、カメラの前でだけいい子ぶる『コンプライアンス違反』のクズの匂いがプンプンするわね」
私が眉をひそめて指摘すると、隣の席でサケスキーをロックで嗜んでいたクロエが、クスクスと笑いながら身を乗り出してきた。
「さすがはうちの社長様。観察眼が鋭いわね。……私の商人としてのネットワークにも、あの『偽勇者』の噂は入ってきているわ」
「偽勇者?」
「ええ。あいつが持っているユニークスキルは【マネー】。……天界のスポンサーからのお布施(課金)を直接ステータスに変換して、一時的にバケモノ級の力を手に入れる能力よ。でも、自分の身銭を切るわけじゃないから、力だけを持て余した成金そのもの。……おまけに、自分の動画をバズらせるために、自分で村に火を放ってから助けに入るような『ヤラセ』をやっているっていう黒い噂まであるわ」
「うわぁ……最低ね」
私は心底軽蔑したようにため息をついた。
自分の名声や金のために、平気で他人の生活を脅かす。それは、エドワードのようなブラック権力者と根っこは同じだ。
「レティシアさん。お仕事中、失礼します。新しい豆が入ったので、試飲をお願いできますか?」
ふわりと、香ばしいコーヒーの香りが漂ってきた。
顔を上げると、いつものようにエプロンを身につけたユリウスが、お盆を持って微笑んでいた。
「ありがとう、ユリウス。……あ、ユリウスさんも見てください! 今話題の勇者様ですよ!」
リリスが、すかさずスマホの画面をユリウスに見せる。
「へえ……。すごいですね。たった一人で魔物を倒して、皆を笑顔にしている。立派な方ですね」
画面を見たユリウスは、何の疑いもなく、心からの感心と称賛の声を漏らした。
彼の氷色の瞳には、一片の濁りもない。他人の悪意を疑うことを知らない、純度100%の善意の塊だ。
(……ダメだわ。この子、純粋すぎて、こういう詐欺師みたいな奴にコロッと騙されちゃう)
私は、なんだか急にユリウスを保護したいような、強い庇護欲に駆られた。
物理的な魔獣や軍隊相手なら、彼は神すら凌駕する無敵の騎士だ。けれど、こういう『社会的な悪意』や『コンプライアンスを無視した盤外戦術』に対して、彼はおそろしく無防備で不器用なのだ。
「ユリウス。こういう手合いには絶対に関わっちゃダメよ。表向きは綺麗でも、裏では何をしているか分からないんだから」
「えっ? は、はい。レティシアさんがそう言うなら、気をつけます」
私がキツく釘を刺すと、ユリウスは少し驚きながらも、素直に犬耳(幻覚)を垂らして頷いた。
「まあ、いくら人気でも、私たちには関係ない世界の話――」
私がそう言ってコーヒーカップを手に取った、その時だった。
エンジェルすまーとふぉんの画面の中で、ポーズを決めたゼロスが、カメラ目線で高らかに宣言したのだ。
『さーて! 次回の配信は、最近調子に乗ってる辺境の土地……【ポポロ村】ってとこに行くぜ! なんでも、そこには危険な魔王の残党が潜んでるって噂だ! 俺が成敗して、村人たちを救ってやるからな! 皆、チャンネル登録とスパチャ、よろしくな!!』
――ブッ!!
私は、口に含んだコーヒーを盛大に吹き出しそうになった。
「はぁ!? 魔王の残党!? ちょっと、どこの三流ゴシップ誌のネタよそれ!」
私はバンッ!とテーブルを叩いて立ち上がった。
平和でホワイトな私たちの村に、魔王の残党などいるはずがない。完全に、自分の動画をバズらせるための『でっち上げ(炎上商法)』だ。
「……あらあら。どうやら、面倒な火の粉がこちらに飛んでくるみたいね」
クロエが扇子をパチンと閉じ、冷ややかに目を細める。
「レティシアさん……魔王の残党が来るんですか? なら、僕が皆を――」
「違うわユリウス。残党なんていないの。このゼロスって男が、無理やり騒ぎを起こしにやってくるのよ」
私は、ギリッと奥歯を噛み締めた。
ポポロ村の特産品ブランドは今、絶好調だ。ここで「魔王を匿っている怪しい村」なんていう風評被害を流されれば、一気に信用は失墜し、村の経済は大打撃を受ける。
それに何より。
他人の平穏な生活を、自分の承認欲求と金のために土足で踏みにじるような『迷惑系インフルエンサー』の存在を、この村のトップである私が許すわけがなかった。
「……いい度胸じゃない。私たちのホワイト村を、ヤラセのロケ地にしようだなんて」
私は【経費精算】のパネルを閉じ、代わりに前世で使い慣れた『炎上対策』の脳内スイッチを完全にオンにした。
「コンプライアンス違反のクズには、有能社長の徹底的な『監査』を受けさせてあげるわ。……迎え撃つわよ、皆!」
私たちの平和な日常を脅かす、かつてない『社会的な悪意』。
武力だけでは斬れない厄介な敵を前に、私とホワイト村の仲間たちの、新たな戦い(監査プロジェクト)の幕が切って落とされた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
いよいよ第4章の開幕です!
激闘を経てさらに潤ったポポロ村。有能社長レティシアは福利厚生の充実に精を出していましたが、そこへ新たな厄介者がやってきます。
神々の動画サイト『ゴッドチューブ』で大人気の勇者、ゼロス・ディバイン。
しかしその正体は、ヤラセとコンプライアンス違反上等の「迷惑系配信者(承認欲求モンスター)」!
純粋なユリウスは「立派な方ですね」と騙されかけますが、前世で炎上対策の経験があるレティシアの目は誤魔化せません(笑)。
そして、ゼロスが次のターゲットをポポロ村に定めたことで、レティシアの「社長としての知略」スイッチが完全にオンになりました!
次回、第2話!
ついに迷惑系勇者ゼロスがポポロ村に来襲! カメラと権力を盾にした横暴な振る舞いに、ユリウスはどう立ち向かうのか!?
そして、レティシアの反撃の狼煙が上がります。
「ゼロスうざい!」「レティシア社長、やっておしまい!」「ユリウス純粋すぎる(笑)」と少しでもワクワクしていただけましたら、
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皆様の【ブックマーク】と【星評価】が、第4章を走り抜けるための最大の福利厚生です!
どうか、引き続きポポロ村の物語への応援をよろしくお願いいたします!




