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『追放社畜OLの【無限の福利厚生】辺境村改革!〜気弱な最強氷魔法剣士様の理不尽を許さぬ無双姿に私だけがときめいている〜』  作者: 月神世一


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不器用な父と優しい息子。僕が、このホワイト村に残る理由

不器用な父と優しい息子。僕が、このホワイト村に残る理由

 千を超える魔獣の大群を退けたポポロ村は、かつてないほどの熱気と歓声に包まれていた。

 広場の中央には巨大な焚き火が焚かれ、【社員食堂】スキルで大量に召喚された熱々の『シープピッグの肉串』や『肉椎茸の醤油草炊き込みご飯』が所狭しと並べられている。

「飲め飲めーっ! レティシア社長の奢りだべ!」

「この『サケスキー』、最高に五臓六腑に染み渡るだー!」

 自警団のメンバーや農家のおじさんたちが、イモッカやサケスキーが入ったジョッキを片手に宴会騒ぎを繰り広げている。

 その輪の中には、ピンクジャージの見習い女神・リリスの姿もあった。

「もきゅもきゅもきゅ……んん〜っ! 戦闘の後のタローマン特製ケーキ、最高ですぅ! これも全部お布施(経費)で落ちるなんて、ポポロ村は天界より天国です!」

「コラ、リリス。食べ過ぎてまた状態異常(腹痛)起こさないようにしなさいよ」

 私が呆れながら注意すると、クロエが隣で帳簿を弾きながらクスクスと笑った。

「いいじゃない。今日くらいはハメを外させてあげなさいな。……それにしても、魔獣の素材がこれだけ手に入ったとなると、ゴルド商会への貸しを差し引いても特大の黒字ね。明日からの商談が楽しみだわ」

 クロエの商人としての強欲さに、私は苦笑いするしかなかった。

 平和で、騒がしくて、心温まるホワイト村の打ち上げ風景。

 そんな喧騒から少し離れた大きな木の下で、一人の男が静かにグラスを傾けていた。

 ルナミス帝国最強の剣士であり、ユリウスの父親であるガレオンだ。

 特A級魔獣の一撃を背中に受けた彼だが、リリスの奇跡的な神聖魔法と、陽薬草の濃縮ドリンクのおかげで、今は包帯を巻いているものの普通に歩けるまでに回復していた。

「……父さん。お酒、大丈夫ですか? まだ傷が塞がったばかりなのに」

 お盆に『ポポロ・コーヒー』を乗せたユリウスが、オドオドとした様子でガレオンに近づいていく。

 戦闘時の圧倒的な冷気と殺意はどこへやら、エプロン姿に戻った彼は、見えない犬耳をペタンと垂れ下げて父親の顔色を窺っていた。

「……ふん。ワシの身体を誰だと思っている。この程度の傷、上等な酒のツマミにもならんわ」

 ガレオンは鼻を鳴らしながらも、ユリウスから差し出されたポポロ・コーヒーのカップを、どこか不器用な手つきで受け取った。

 フッと息を吹きかけ、一口飲む。

 厳格な老騎士の顔が、微かに、本当に微かにだが、柔らかく解けた。

「……美味いな。相変わらず、お前の淹れるコーヒーは」

「えへへ……。ありがとうございます」

 父親からの素直な称賛に、ユリウスがはにかんだように笑う。

 ガレオンは、カップの温もりを両手で確かめるようにしながら、ゆっくりと口を開いた。

「……ユリウスよ。お前の力は、ワシの想像を遥かに超えていた。あの特A級のキマイラを一刀両断した剣筋……今の帝国騎士団を探しても、お前の右に出る者はおらん」

「そ、そんなことないです! 僕はただ、夢中で剣を振っただけで……」

「謙遜はするな。お前の力は本物だ」

 ガレオンの真っ直ぐな言葉に、ユリウスは驚いたように目を丸くした。

 かつて「三流以下」「ルルーシュ家の面汚し」と切り捨てた父親が、自分の力を正面から認めてくれたのだ。

「……どうだ、ユリウス。ワシと共に、帝国へ戻る気はないか」

 ガレオンの言葉に、周囲の空気が少しだけピリッとした。

 私は少し離れた場所からその会話を聞き、思わず息を呑んだ。

「お前ほどの力があれば、ワシの跡を継ぎ、近衛騎士団長として皇帝陛下の傍に仕えることも容易い。己の力を証明し、帝国の誇りとして生きる道……お前には、その資格が十二分にある」

 それは、ガレオンなりの最大の歩み寄りであり、息子への「謝罪」と「愛情」の裏返しだった。

 王都に戻れば、ユリウスは誰からも見下されることなく、帝国の英雄として迎え入れられるだろう。名誉も、地位も、富も、全てが彼のものになる。

 ユリウスは、少しだけ下を向き、沈黙した。

 (……ユリウス)

 私は、心臓がキュッと締め付けられるのを感じた。

 彼がどれほどこの村を愛してくれていても、実の父親からそこまで求められれば、心が揺れるのは当然だ。もし彼が帝国に戻ると言えば、私は笑顔で送り出せるだろうか。

 沈黙の後。

 ユリウスは、静かに顔を上げ、ガレオンの目を真っ直ぐに見つめ返した。

「……ごめんなさい、父さん」

 迷いのない、澄み切った声だった。

「僕は、帝国には戻りません。……このポポロ村に残ります」

「……」

「僕は、名誉も、騎士団長の地位もいりません。自分の力を証明したいとも思いません。……ただ、僕の手の届く範囲の、大切な人たちを守れれば、それでいいんです」

 ユリウスは、振り返って私の方を見た。

 そして、ふにゃりと、心底幸せそうな笑顔を浮かべたのだ。

「ここには、僕を必要としてくれる人がいます。僕の淹れたお茶を美味しいと言ってくれて……僕が馬鹿にされた時、僕の代わりに怒ってくれる人がいます。だから僕は、レティシアさんの……皆の『ナイト』として、この村で生きていきたいんです」

 それは、己の価値を他人の評価ではなく、「誰かを守る」という純粋な願いの中に見出した、彼なりの決意表明だった。

 ガレオンは、ユリウスのその迷いのない眼差しをじっと見つめていた。

 やがて、彼はフッと短く息を吐き、静かに目を閉じた。

「……そうか。お前が守りたいと願う場所が、ここなのだな」

「……はい」

「ならば、これ以上は何も言うまい。……お前の信じる『騎士道』を、最後まで貫き通せ」

 ガレオンの顔には、もう失望も、怒りもなかった。

 ただ、自分とは違う道を歩き出した息子への、確かな信頼と誇りだけがそこにあった。

「父さん……! はいっ!」

 ユリウスが、犬耳をピンと立てて、嬉しそうに力強く頷く。

 二人の会話を見届けて、私はホッと胸を撫で下ろした。

 と同時に、彼が私を選んでくれたことが嬉しくて、目頭が熱くなるのを誤魔化すように、グラスのイモッカを煽った。

「……良い息子を持ったわね、お父様」

 ユリウスが村人たちの輪に呼ばれて駆け出していった後、私はガレオンの隣に歩み寄った。

「ふん。相変わらず生意気な小娘だ。ワシを『お父様』と呼ぶのはやめんか」

 ガレオンが口では憎まれ口を叩きながらも、その声はどこか穏やかだった。

「お前には……感謝している」

 不意に、ガレオンがポツリと呟いた。

 私が驚いて彼を見ると、ガレオンは夜空の月を見上げながら、不器用に言葉を絞り出した。

「ワシは剣しか知らぬ男だ。あやつの持つ『優しさ』を、ただの弱さだと断じてしまった。……お前が、あやつの在り方を肯定し、導いてくれたからこそ、あやつは真の強さに目覚めることができたのだろう」

「……そんなことありません。彼は初めから、誰よりも強くて、優しかっただけです」

「そうか。……ユリウスのことを、頼む。あやつは、少し危なっかしいところがあるからな」

 それは、帝国最強の騎士としての言葉ではなく、ただの一人の父親としての、心からの願いだった。

 私は、深く頷いた。

「はい。私の【無限の福利厚生】で、彼を世界一幸せな騎士にしてみせます」

 ガレオンは、微かに口角を上げると、残りのコーヒーを飲み干して静かに立ち上がった。

「レティシアさん!」

 ガレオンと入れ替わるようにして、ユリウスが小走りで私の元へやってきた。

 エプロン姿の長身を少し縮こまらせ、犬耳をパタパタと揺らしている。

「あの、レティシアさん。お父様と……何をお話ししてたんですか?」

「内緒よ」

 私が悪戯っぽく笑うと、ユリウスは「ええ〜」と少し残念そうに眉を下げた。

「かっこよかったわよ、ユリウス」

 私が真っ直ぐに彼の目を見て伝えると、ユリウスはボンッ!と顔を赤くした。

「そ、そんな……! 僕はただ、レティシアさんたちが危なかったから、夢中で……。えへへ、お役に立てて良かったです」

 照れ隠しに頭を掻く彼を見て、私はクスッと笑った。

 「俺の力、すごかっただろ」と威張ることも、「俺が守ってやったんだから」と見返りを求めることもない。

 ただ、皆の役に立てたことが一番嬉しいと、底抜けの善意で笑う彼。

 恋愛には相変わらず鈍感で、私がどれほど彼のことを愛おしく思っているか、きっとまだ半分も分かっていないだろう。

 でも、それでいい。

 誰にでも優しくて、理不尽から皆を守る彼だからこそ、私はこんなにも惹かれているのだから。

「さあ、私たちも宴会に戻るわよ! 明日はお休みにしてあげるから、今日は朝まで飲むわよ!」

「わわっ、レティシアさん、飲み過ぎは体に毒ですよぉ!」

 私の腕を引いて慌てるユリウスに笑いながら、私はホワイト村の明るい喧騒の中へと戻っていった。

 この最高で、少し騒がしい日常を、私たちはこれからも共に守り抜いていくのだ。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

第3章の第9話、いかがでしたでしょうか。

激闘を終えた慰労会(打ち上げ)の裏側で、不器用な父と優しい息子の水入らずの会話が交わされました。

ガレオンの「帝国に戻らないか」という最大の歩み寄りに対し、ユリウスは「ここで皆を守りたい」とキッパリ断ります。自分のためではなく、大切な人たちを守るために生きる決意。

ガレオンもそれを潔く受け入れ、レティシアに「息子のことを頼む」と頭を下げました。不器用な親父なりの、最高のデレですね。

そして、相変わらず恋愛鈍感なユリウスと、そんな彼だからこそ好きだと再確認するレティシア。

二人の関係は「俺の女だから」ではなく、深い人間としての愛情とリスペクトで結ばれています。

次回、第10話!

いよいよ第3章のエピローグとなります。

ガレオンが王都へ帰り、ポポロ村には再び騒がしくも平和なホワイトな日常が戻ってきます。

「親父、いい奴じゃん!」「ユリウスの決断に感動」「レティシア社長と末永くお幸せに!」と少しでも楽しんでいただけましたら、

ぜひページ下部(または右上)の【★で称える(ポイント評価)】から、星3つ(★★★)での全力応援をよろしくお願いいたします!

皆様の【ブックマーク】と【星評価】が、第3章最終話を執筆するための最高の福利厚生です!

どうか、引き続きポポロ村の物語への応援をよろしくお願いいたします!

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