防衛戦の幕開け! 社畜OLの【超・兵站管理】で構築する無敵のホワイト防衛線』
防衛戦の幕開け! 社畜OLの【超・兵站管理】で構築する無敵のホワイト防衛線
森の奥から怒涛のように押し寄せる上位魔獣の大群。
地響きと共に迫るジャイアント・ボアの群れや、毒液を滴らせるアシッド・スパイダーを前に、帝国最強の剣士ガレオン・ルルーシュは単騎で突入していった。
「シィッ……!」
鋭い呼気と共に放たれる『閃光』の剣技。
鋼鉄のように硬い外殻を持つジャイアント・ボアが、ガレオンの一振りで次々と両断されていく。空気を劈くような甲高い音と、魔獣たちの断末魔が平原に響き渡った。
「す、すげぇ……。あんなデカい猪を、まるで大根みたいに切り捨てていくべ……」
自警団の農家のおじさんたちが、呆然と感嘆の声を漏らす。
確かに、彼の剣技は芸術的であり、帝国最高指南役の名に恥じぬ圧倒的な強さだ。
しかし、相手は数百という規模の上位魔獣。いくら一撃が重く鋭くても、老いた身体で全ての攻撃を捌ききれるものではない。
ガレオンが前線で食い止められなかった魔獣の波が、ポポロ村の境界線へと溢れ出してきた。
「来たわよ! 第一陣、迎撃開始!」
最前線を指揮するクロエが、扇子を振り下ろす。
ズドォォォォンッ!!
クロエが手配したルナミス帝国軍の最新型『魔導地雷』が火を噴き、先陣を切ってきた魔獣たちを爆風で吹き飛ばす。
同時に、防衛用のストーンゴーレム部隊が立ち塞がり、ドンガン地下帝国から借り受けた対空魔砲が火を噴いた。
「よし、ここからは私の仕事ね! 絶対に前線を崩壊させないわよ!」
私は大きく息を吸い込み、己のユニークスキル【経費精算】のパネルを空中に複数展開した。
前世の社畜時代、私は数百人規模のプロジェクトの進捗管理や、ブラックな環境下での無理難題なシフト調整を一人で捌き切っていた。
その『超・兵站管理』のスキルを、ファンタジー世界での防衛戦にフル稼働させるのだ。
光るパネルには、自警団のメンバー一人一人の名前と、HP、MP、そして『疲労度』が、ガントチャートのように可視化されて表示されている。
「マンミア率いる第一班、左翼の魔獣を足止めして! 深追いは禁止、あくまでゴーレムのサポートに回ること!」
「了解いたしました、レティシア様!」
ケンタウロスの機動力を活かし、マンミアたちがヒットアンドアウェイで魔獣を翻弄する。
しかし、戦闘が長引けば当然疲労は蓄積する。パネル上の第一班の『疲労度ゲージ』が、安全圏の緑から、黄色の警戒域へと変わり始めた。
「第一班、疲労度が規定値に達したわ! ただちに後退して、第二班と交代!」
「レティシア様、私たちはまだ戦えます! 闘気は十分残って――」
「ダメよ! 規定時間を超えた労働は労働基準法違反よ! 万が一の事故を防ぐために、しっかり休んで次に備えなさい!」
私の有無を言わさぬ一喝に、マンミアたちは「は、はいっ!」と素直に後退した。
前世のブラック企業では、「まだやれます」という気合いだけで社員を使い潰し、結果的に取り返しのつかないミスや過労死を招いていた。
私は絶対に、私の大切な村人(社員)たちにそんな真似はさせない。
「交代した第一班は、直ちに後方の特設テントで食事と休憩をとること! 【社員食堂】展開!」
私は安全な後方エリアに、光の粒子と共に巨大な長机と熱々の料理を召喚した。
本日の防衛戦特別メニューは、『シープピッグのニンニクアブラ飯』と『陽薬草の濃縮回復ドリンク』だ。極厚の豚肉とニンニクの強烈な香りが、疲労した肉体に食欲を呼び覚ます。
「うおおおっ! このニンニクアブラ飯、最高に美味いべ! 食った瞬間から力が底から湧いてくるだ!」
「陽薬草ドリンクで、かすり傷も一瞬で治ったぞ! よっしゃ、これなら三日三晩戦えるべ!」
特大のバフ飯を掻き込んだ自警団のメンバーたちが、みるみるうちにHPと闘気を回復させ、満面の笑みで戦列へと復帰していく。
適切なシフト管理と、極上の福利厚生(バフ飯)による超回復。
これこそが、いかなる大群を相手にしても決して士気が下がらず、疲弊を知らない『無敵のホワイト防衛線』の完成形である。
「わわわっ! 魔獣がこっちに来ましたぁ! えーいっ、【創造魔法】!」
少し離れた場所では、ピンクジャージのリリスがテンパりながら魔法を放っていた。
ドポンッ!と煙が上がり、なぜか魔獣の足元に『高級なマカロン』が山のように召喚される。
「ひぃっ、また間違えました! でも、魔獣がマカロン食べて大人しくなりましたぁ!」
「結果オーライよリリス! そのまま、さっきの『クサイ石(忌避香)』の煙を風魔法で敵陣に流しなさい!」
「はいっ! エステティシャン・リリス、頑張ります!」
リリスが大きな団扇で忌避香の悪臭を仰ぐと、嗅覚の鋭い魔獣たちが「ギャンッ!」と悲鳴を上げて進行ルートを逸らし、クロエが配置した魔導地雷の起爆ポイントへと誘導されていく。
「ふふっ。本当に、うちの社長様は頼もしいわね。兵站と士気の管理が完璧すぎるわ」
起爆スイッチを押しながら、クロエが満足げに笑う。
一方、その光景を視界の端で捉えていた最前線のガレオンは、驚愕に目を見開いていた。
(……なんだ、あの異様な士気の高さは)
本来なら、農民上がりの素人集団など、上位魔獣の威圧感だけで腰を抜かし、一瞬で防衛網を食い破られるはずだった。
しかし、彼の背後にあるポポロ村の陣形は、全く崩れる気配がない。
絶望的な数の差を前にしても、誰一人として恐怖に顔を歪めていないのだ。それどころか、「次の休憩はカレーだべ!」などと、まるで祭りのように活気づいてすらいる。
(あの小娘……軍の将軍すら凌駕する兵站管理と指揮を行っているというのか。……いや、それだけではない。あの者たちは、本気で『この村を守りたい』と心から願って戦っている)
ガレオンの胸中に、信じられないものを見たという驚きと、僅かながらの感嘆がよぎる。
「……レティシアさん。すごいです。皆、全然怖がってない」
私のすぐ隣で、ユリウスが静かに呟いた。
彼は剣の柄に手をかけたまま、私の横顔を、どこか眩しいものを見るような目で見つめていた。
先ほど、彼を「無能だ」と切り捨てた父親に対し、私が「彼は究極の騎士道だ」と世界で一番力強く肯定した言葉。
その言葉が、ユリウスの心の中にあった暗い迷いを完全に吹き飛ばし、温かく、決して消えない炎を灯していたのだ。
「レティシアさん。僕は……」
「ユリウス」
私はパネルから視線を外し、彼の氷色の瞳を真っ直ぐに見つめ返した。
「あなたは、私たちの最高の切り札よ。今はまだ、その力を温存しておいて」
「……はいっ! 僕が必ず、貴女を……皆を、守り抜いてみせます!」
犬耳(幻覚)をピンと立て、力強く頷くユリウス。
もう、オドオドと怯える様子はない。彼の中の『守護者』としてのスイッチは、完全にオンになっていた。
――しかし。
戦況は、決して楽観視できるものではなかった。
ホワイト防衛線がどれほど強固でも、最前線で敵の主力を一身に引き受けているガレオンの負担は計り知れない。
「グォォォォォォッ!!」
突如、森の奥から一際巨大な咆哮が轟いた。
大地を揺らしながら姿を現したのは、他の魔獣とは一線を画す異形の超大型魔獣。
獅子の頭、山羊の胴体、蛇の尾を持つ――特A級指定魔獣『キマイラ』だった。
「チッ……! まだあのような化け物が控えていたか!」
ガレオンが舌打ちをし、剣を構え直す。
しかし、彼の肩は激しく上下に揺れ、息が上がっていた。老いた身体で休むことなく剣を振り続けた結果、彼の闘気は明らかに底を尽きかけていたのだ。
「お父さん……っ!」
ユリウスが息を呑む。
キマイラが巨大な口を開き、灼熱の火炎球をガレオンに向けて放とうとする。
不器用な正義感で、自分一人で全てを背負おうとする老いた獅子。
その限界の瞬間は、もう目の前まで迫っていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第3章の第4話、いかがでしたでしょうか。
レティシアの「超・兵站管理」が火を噴きました! 前世の社畜スキルをフル活用し、疲労度を可視化してシフトを回し、バフ飯で全回復させる「持続可能なホワイト防衛線」!
労働基準法を遵守しつつ、軍隊以上の継戦能力を発揮する村人たちの姿に、ガレオンも驚愕を隠せません。
リリスもマカロンを召喚したり、忌避香を流したりと、ポンコツながらに大活躍です(笑)。
そして、レティシアに肯定されたことで、ユリウスの中の迷いは完全に消え去りました。
いつでも皆を守るために飛び出す覚悟を決めています。
しかし、戦場の最前線では、一人で無茶を続けるガレオンの前に特A級魔獣キマイラが現れます。
限界が近づく老いた獅子。
次回、第5話!
村人たちを守るため、あえて危険な前線に立ち続けるガレオンの「不器用な矜持」。
そして、彼に最悪の凶傷が迫ります。
「レティシア社長の防衛線すごすぎ!」「バフ飯食べたい!」「ガレオン、無理するな!」とハラハラしていただけましたら、
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