究極の騎士道。ブラックな親父の価値観を、ホワイト社長が真っ向から論破する!
究極の騎士道。ブラックな親父の価値観を、ホワイト社長が真っ向から論破する!
ルナミス帝国最強の剣士であり、ユリウスの実の父親、ガレオン・ルルーシュ。
彼から放たれる凄まじい威圧感は、物理的な重さを持ってポポロ村の広場を支配していた。並の者なら立っていることすら困難なその重圧の中、私は彼の鋭い眼光を真っ向から睨み返していた。
「……私の大切な社員に、何の用ですか?」
「ほう」
ガレオンが、興味深そうに片眉を上げた。
私の足は正直、スカートの下でガクガクと震えそうになっていた。だが、ここで引くわけにはいかない。私はこの村の経営者であり、私の後ろには、トラウマを刺激されて怯える私の大切な騎士がいるのだから。
「小娘。貴様がこの村の代表か。……その威勢の良さは褒めてやるが、貴様はその後ろで震えている男の本質を知って言っているのか?」
ガレオンは、オドオドと視線を泳がせるユリウスを、心底忌々しそうに一瞥した。
「こいつは、天賦の才を持ちながら、己のために剣を振るう意志を持たぬ軟弱者だ。稽古で我の木刀がどれほど迫ろうと、自分が傷つこうと、決して反撃してこなかった。……戦場で己を守る意志のない者は、真っ先に死ぬ。そんな無能に『騎士』を名乗る資格などない!」
ガレオンの言葉は、氷のように冷たく、重かった。
彼にしてみれば、自分がどれだけ理不尽な暴力を振るわれても、ヘラヘラと笑って抵抗しない息子の姿が「弱さ」にしか見えなかったのだろう。
自分の力で敵を倒し、己の価値を証明することこそが絶対的な「強さ」だと信じる帝国騎士にとって、ユリウスの無抵抗主義は理解できないものだったに違いない。
「れ、レティシアさん……父さんの言う通りです。僕は、自分のために怒ることもできない、三流以下の……」
「ユリウス、黙っていなさい」
私は、自分を卑下しようとするユリウスをピシャリと制止した。
そして、深く息を吸い込み、ガレオンに向かって堂々と声を張り上げた。
「無能? 軟弱者? ……笑わせないでください」
「何だと?」
「お言葉ですが、お父様。あなたのその価値観は、古臭いブラック経営者のそれと全く同じです。……『自分のために敵を倒してこそ強い』? 『自分を守れない奴は無能』? そんなものは、ただの自己顕示欲と弱肉強食の押し付けに過ぎません!」
私の真っ直ぐな反論に、周囲の村人たちや自警団のメンバーが息を呑んだ。
帝国最強の騎士に向かって、一歩も引かずに説教を始めているのだから無理もない。
「確かに、彼は自分のためには剣を抜かないかもしれません。自分が馬鹿にされても、理不尽に扱われても、怒らないかもしれません。……でも! それは彼が弱いからじゃない。彼が誰よりも優しくて、他人の痛みが分かるからです!」
私は、あの日のことをはっきりと思い出していた。
王国の魔導戦車が私を吹き飛ばそうとした時。エドワードが私の手首を掴み、強引に連れ去ろうとした時。
いつもオドオドしている彼が、一瞬の迷いもなく前に立ち塞がり、絶対的な力で私を守り抜いてくれたあの姿を。
「彼は、自分が泥を被ることは我慢できても……弱者が、大切な仲間が、理不尽に踏みにじられることだけは絶対に許さない! 誰かを守るためになら、彼は一瞬の迷いもなく剣を抜き、どんな強大な敵にも立ち向かうことができる!」
私はガレオンをビシッと指差し、声を大にして宣言した。
「自分のためではなく、他者を守るためだけに、その絶対的な力を振るう。……彼は、弱い者や困っている人を決して見捨てない、究極の『騎士道』を体現しているのです! それを無能だの軟弱者だのと切り捨てるあなたの目は、節穴ですか!!」
――シーン、と。
広場に、完全なる静寂が落ちた。
「レティシア、さん……」
背後で、ユリウスが信じられないものを見るような目で、私の背中を見つめていた。
ずっと「自分は三流以下だ」と思い込まされてきた彼の生き方を、私が全肯定し、父親に真っ向から叩きつけたのだ。
「……ふふっ。あははははっ!」
静寂を破ったのは、クロエの堪えきれないような笑い声だった。
「傑作ね。帝国最強の騎士団長様が、うちの有能社長に完全論破されているじゃない。……レティシアの言う通りよ。あの子は、誰かに『守りたい』と思わせる純粋な心がある限り、誰よりも強いわ」
クロエが優雅に扇子を広げ、私に加勢する。
ガレオンは、私の暴言に近い反論を受けても、激高して斬りかかってくるようなことはしなかった。
彼の氷色の瞳が、微かに揺れる。
しかし、不器用な歴戦の武人が、そう簡単に自分の信念を曲げるはずもない。
「……究極の騎士道だと? 笑わせるな」
ガレオンが、低く唸るように吐き捨てた。
「己を守る覚悟すらない者に、他人を守ることなどできるはずがない。そんなものは、ただの理想論……戦場では何の役にも立たん、甘ったれた幻想だ」
「幻想かどうかは、これからの彼の働きを見れば分かります!」
「……ふん。口の減らん娘だ」
ガレオンが鼻を鳴らし、踵を返そうとした。
その時だった。
――グルルルルルルッ……!!
先ほど、ガレオンの一撃で四散したはずの森の奥から、再び不気味な地鳴りと獣の唸り声が響き渡った。
「なっ……魔獣のスタンピードは、今の『閃光』で壊滅したはずじゃ……!」
マンミアが驚愕の声を上げる。
「違うわ! 第一波が壊滅したことで、後方に控えていた別動隊……上位種の魔獣たちが、統制を失って一気に押し寄せてきているのよ!」
クロエが魔導通信石からの報告を聞き、鋭く叫んだ。
森の木々をなぎ倒し、現れたのは先ほどの狼や熊の比ではない。
鋼鉄のように硬い外殻を持ったジャイアント・ボアや、毒液を滴らせるアシッド・スパイダーの群れ。それが、数百という規模で再び村の境界線へと迫っていた。
「ひぃぃっ! ま、まだあんなにいるんですかぁ!?」
リリスが悲鳴を上げ、村人たちに動揺が走る。
私が即座に【経費精算】のパネルを展開し、防衛線の再構築を指示しようとした、その瞬間。
「……下がっていなさい」
ガレオンが、腰の長剣をゆっくりと抜き放ちながら、私とユリウスの前に進み出た。
「お、お父様……?」
「お前たちのその『甘い幻想』とやらで、この大群が凌げるものか。この村の防衛網など、一瞬で食い破られるわ」
ガレオンの全身から、再び凄まじい闘気が立ち上る。
その背中は、息子に己の「強さ」を見せつけるようでもあり、そして何より――この平和な村を理不尽な暴力から守ろうとする、不器用な老騎士の矜持そのものだった。
「ここは、ワシが引き受ける。……お前たちは、そこで震えて見ているがいい」
ガレオンはそう言い残し、単騎で、怒涛のように押し寄せる上位魔獣の大群へと向かって、一直線に駆け出していった。
「待って! 一人で突っ込むなんて無茶よ!」
私の制止の声も届かず、帝国最強の剣士は魔獣の群れへと突入していく。
ブラックな親父かもしれない。不器用で、言葉足らずで、息子の心を傷つけてきた男かもしれない。
でも、村人たちを逃がすために一人で前に出るその背中は、確かに『騎士』のものだった。
「クロエ! 自警団をサポートに回して! 私も【社員食堂】でバフの支援を行うわ!」
「了解よ、社長!」
私は直感していた。
いくら彼が帝国最強とはいえ、老いた身体で数百の上位魔獣を相手にすれば、無傷では済まない。
そして、自分の父親が傷つく姿を、あの心優しいユリウスが、黙って見過ごすはずがないということを。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第3章の第3話、レティシアの痛快な「姑(結納)バトル」がいかがでしたでしょうか!
「自分を守れない奴は無能」というガレオンの毒親的(ブラック上司的)な価値観に対し、レティシアは「理不尽から弱者を守る彼こそが、究極の騎士道!」と真っ向から論破します。
ユリウスが今まで否定され続けてきた生き方を、レティシアが全肯定するこのシーン。ユリウスの心境を思うと、たまりませんね。
しかし、ガレオンは「そんなものは幻想だ」と一蹴。
そこへ、上位魔獣の第二陣が押し寄せてきます。
ガレオンは息子の甘さを否定しつつも、村を守るために単騎で大群へと突っ込んでいきました。不器用な親父の矜持です。
次回、第4話!
ガレオンが最前線で戦う中、レティシアは有能社長として「超・兵站管理」を発動!
前世の社畜スキルとファンタジースキルが融合した、ホワイト村の圧倒的な防衛戦が描かれます。
「レティシアかっこよすぎる!」「ガレオン不器用だなあ」「ユリウス、早く親父に本当の強さを見せてやれ!」と胸を熱くしていただけましたら、
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