来襲する「閃光」。威圧の帝国剣士と、防衛線を死守するホワイト社長!
来襲する「閃光」。威圧の帝国剣士と、防衛線を死守するホワイト社長!
千を超える魔獣の大群が、ポポロ村へと迫っている。
村の境界線に広がる平原には、緊迫した空気が張り詰めていた。しかし、誰一人として絶望に打ちひしがれて逃げ惑う者はいない。
「ゴルド商会への貸しを、ここで一気に取り立てさせてもらったわ」
村の防衛線の中央。真紅の髪を揺らすクロエが、魔導通信石を片手に妖艶な笑みを浮かべていた。
彼女の背後には、ルナミス帝国軍が採用している最新型の『魔導地雷』や『魔導バズーカ』、さらには自律駆動式の防衛用ストーンゴーレムがズラリと並べられている。
「さすがクロエ! これだけの物資、よくこんな短時間で集められたわね!」
「商人(私)のネットワークを舐めないでちょうだい。ドンガン地下帝国のドワーフたちからも、対空魔砲を3門借り受けておいたわ。……さあ、有能な社長様。人員の配置は任せたわよ」
「ええ!」
私は空中に展開した【経費精算】のパネルを操作し、次々と的確な指示を飛ばす。
「マンミア率いる自警団は、ゴーレム部隊の背後で遊撃に回って! 疲労を感じたらすぐに交代すること。後方には【社員食堂】スキルで熱々の『肉椎茸の醤油草炊き込みご飯』と『陽薬草の回復茶』を用意してあるから、ローテーションでしっかりバフ(栄養)を補給しなさい!」
「は、はいっ! 了解いたしました、レティシア様!」
マンミアたちケンタウロスの自警団が、士気高く応える。
無茶な連戦はさせない。適度な休息と強力なバフ飯による回復。これが私の構築する『持続可能なホワイト防衛線』だ。
「わわっ! 私の作った『クサイ石(忌避香)』も、風上に設置完了しましたぁ!」
リリスが健康サンダルをペタペタ鳴らして戻ってくる。
彼女が偶然作り出した悪臭を放つ黒い結晶は、火に焚べることで強烈な魔獣除けの煙を発生させていた。これで低級の魔獣は本能的に嫌がり、村への侵入ルートを限定させることができる。ポンコツ女神も、立派に防衛の役に立っているのだ。
「レティシアさん。前線は、僕が押さえます」
そして、私のすぐ横には。
エプロンを外し、騎士としての凛とした顔つきになったユリウスが立っていた。
彼が腰のオリハルコン・ソードに手をかけるだけで、周囲の大気が微かに温度を下げ、ピリッとした静電気が走るような安心感に包まれる。
「頼むわね、ユリウス。でも、絶対に一人で無理はしないこと。私たちはチームなんだから」
「はいっ。皆を……必ず守ります」
真っ直ぐに私を見て頷くユリウス。
陣形は整った。あとは、押し寄せる魔獣の群れを迎え撃つだけだ。
――ズズズズンッ……!
地響きが、次第に大きくなっていく。
森の奥から、土煙を上げて無数の魔獣たちが姿を現した。狂暴な牙を剥き出しにしたフォレスト・ウルフの群れや、巨体を揺らすロック・ベアなど、その数は優に千を超えている。
「来るわよ……っ!」
私が身構え、クロエが魔導地雷の起爆スイッチに手をかけた。
ユリウスも深く息を吸い込み、冷気を練り上げようとした――その時である。
「……あれ? 様子がおかしいわね」
クロエが怪訝そうに眉をひそめた。
私も目を凝らして魔獣の群れを見る。
確かに、おかしい。村を襲おうという狂暴な殺意よりも、何か別の感情……そう、まるで背後にある『何か』から、パニックを起こして逃げ惑っているように見えるのだ。
その直後だった。
――キィィィィンッ!!
空気を劈くような、甲高く鋭い音が平原に響き渡った。
直後、魔獣の群れの最後尾から、一筋の『強烈な光』が瞬いた。
「なっ……!?」
瞬きする間もなかった。
それは、究極に圧縮された闘気の斬撃。
光の刃が、魔獣の大群を背後から一直線に『真っ二つ』に切り裂いたのだ。
分厚い毛皮も、岩のような皮膚も関係ない。巨大なロック・ベアすらも、まるで豆腐のように両断され、数十体の魔獣が一瞬にして血飛沫を上げて地に伏した。
あまりの凄まじい破壊力に、押し寄せていた魔獣の群れが恐怖で硬直し、悲鳴を上げて四方八方へと散り散りに逃げ出していく。
私たちが防衛線を構築するまでもなく、千を超えるスタンピードは、たった『一撃』で完全に崩壊してしまったのだ。
「……な、何よ、今の……」
「あり得ないわ。魔法じゃない。純粋な『剣術』と『闘気』だけで、あの大群を切り裂いたっていうの……?」
クロエですら、扇子を持ったまま唖然と呟く。
土煙が晴れていく。
魔獣の死骸の山を踏み越え、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる一つの影があった。
ロマンスグレーの髪をオールバックに撫でつけ、鋭い鷹のような氷色の瞳を持つ、壮年の剣士だった。
背筋は隙なく伸び、手にした長剣は、一滴の血すら帯びていない。彼は懐から『タローマン製の高級研ぎ石』を取り出し、チャッ、と一撫でしてから、静かに剣を鞘に納めた。
ただ歩いているだけなのに、彼から放たれる『覇気』と『威圧感』が、ビリビリと肌を刺す。
「ひっ……!」
「な、なんだあの爺さん……息が、できないべ……!」
歴戦のケンタウロスであるマンミアや、農家のおじさんたちですら、その男が放つ圧倒的な強者のオーラに当てられ、膝をガクガクと震わせて後ずさった。
魔獣の大群よりも遥かに恐ろしい、一個の『生物としての格の違い』がそこにあった。
「……探したぞ」
壮年の剣士が、低く、腹の底に響くような声で呟いた。
彼の氷のように冷たい視線が、群衆を通り抜け、一直線に『一人の青年』へと注がれる。
「あ……」
私の横で、小さく息を呑む音がした。
振り返ると、先ほどまで「皆を守る」と頼もしく宣言していたユリウスが。
まるで蛇に睨まれたカエルのように身体を硬直させ、顔面を蒼白にしていた。
「ひぃっ……お、お父様……」
ユリウスの口から漏れたその単語に、私は耳を疑った。
(お父様? あのバケモノみたいな強さの剣士が、ユリウスのお父さん!?)
ルナミス帝国・剣術最高指南役にして、かつて『閃光』の異名で大陸中に名を轟かせた伝説の騎士団長。
ガレオン・ルルーシュ。
ユリウスのトラウマの元凶であり、彼の自己評価をミジンコレベルまで叩き落とした、厳格すぎる親父。
それが、どうしてこんな辺境のポポロ村に現れたのか。
「お前が王都を追放されたと聞いて、どれだけ恥を晒しているかと思えば……こんな辺境の泥村で、また他人の下働きなどしているのか」
ガレオンが、忌々しそうにユリウスを睨みつける。
その言葉には、一切の容赦がなかった。
「……相変わらず、無様だな。我から逃げ出し、自分自身の価値すら証明できぬ軟弱者め。お前のような三流以下は、ルルーシュ家の面汚しだ」
「あ、う……ごめんなさい、父さん。僕なんて、やっぱり、ダメで……」
さっきまでの凛々しい姿はどこへやら。
ユリウスは完全にトラウマのスイッチを押され、見えない犬耳と尻尾をペタンと伏せて、ガタガタと震えながら縮こまってしまった。
彼が父親の言葉を否定しないのは、自分が傷つくことに無頓着だからだ。
「自分が無能だと言われても仕方ない」と、心の底から思い込んでいるからだ。
――プツン。
私の頭の中で、何かが切れる音がした。
前世で、部下を無能扱いして使い潰すブラック上司たちを見てきた時の、あの怒り。
そして何より、私がこの世界で一番高く評価し、愛おしいと思っている自慢の社員を、頭ごなしに否定されたことへの、強烈な苛立ち。
(いくら実の父親だろうと、帝国の偉い騎士だろうと関係ないわ)
私は、ガタガタと震えるユリウスの前に、スッと歩み出た。
そして、周囲の自警団すら動けなくなるほどのガレオンの凄まじい覇気を真っ向から受け止めながら、キッと彼を睨み返した。
「……私の大切な社員に、何の用ですか?」
「ほう?」
ガレオンが、興味深そうに片眉を上げた。
私の細い身体から放たれるのは、武力や闘気ではない。
数々の修羅場を潜り抜け、この村をトップとして束ねてきた経営者(社長)としての、絶対に引かないという『意志』の覇気だった。
「レ、レティシアさん……っ、ダメです、父さんは……っ」
背後でユリウスが止めようとするが、私は一歩も退かなかった。
「お父様だか何だか知りませんが。彼を無能だの軟弱者だのと言うのは、このポポロ村の領主である私が許しません。……言葉を取り消してください」
氷の剣士と、元社畜の有能社長。
緊迫した空気の中、私とガレオンの視線が激しく火花を散らした。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第3章の第2話、いかがでしたでしょうか。
クロエの有能な裏回しで防衛線を構築したものの……魔獣の大群をたった一撃の『閃光』で切り裂きながら、ユリウスの父親・ガレオンが登場しました!
帝国最強の剣士の凄まじい覇気。その姿を見た瞬間、ユリウスは完全にトラウマを刺激され、オドオドのチワワモードに戻ってしまいます。
しかし、そんな彼を庇うように前に出たのは、我らがレティシア社長でした!
「私の自慢の社員を馬鹿にするな!」
実の父親であり、圧倒的な強者であるガレオンに対し、一歩も引かずに立ち向かうレティシア。彼女の「自立した女性」としての格好良さが爆発しています。
次回、第3話!
「彼は究極の騎士道を体現しているのです!」
レティシアによる、痛快な「姑(結納)バトル」が幕を開けます。ガレオンの毒親(ブラック上司)的価値観に、ホワイト社長はどう論破するのか!?
「ガレオン強すぎ!」「レティシア社長かっこいい!」「ユリウス頑張れ!」と胸を熱くしていただけましたら、
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