第三章 『帝国最強の父親来襲!「軟弱者」と罵られた気弱な騎士は、理不尽から皆を守るため、最強の魔闘剣術を解き放つ!』
ホワイト村の有能社長と、忍び寄る魔獣の影。社畜スキルで防衛線を構築せよ!』
ポポロ村の朝は、活気と笑顔に満ち溢れている。
村の中心にある24時間営業のファミレス『ルナキン・ポポロ支店』。その一番奥のゆったりとしたボックス席が、現在の私の――ポポロ村領主としての専属執務スペースだ。
「よし。これで今週の自警団のシフト調整は完璧ね。夜間警備のメンバーには【特別深夜手当】としてサンライスの特盛り支給を追加。非番の日は完全に業務連絡をシャットアウトして、しっかり休んでもらうわ」
私は空中に展開した【経費精算】の光るパネルを指先で弾きながら、満足げに頷いた。
前世の社畜時代。そして、この世界のブラック国家でエドワード殿下に酷使されていた時代。
あの頃の私は、上司の無茶振りと理不尽なノルマに追われ、「休むことは悪だ」と洗脳されていた。
だが、今は違う。私はこの村の経営者だ。
適材適所で人員を配置し、十分な休息と報酬を与える。そうすることで村人たちのモチベーションは上がり、結果的に生産性も防衛力も飛躍的に向上する。これが私の導き出した、最強の『ホワイト領地経営』である。
「はむっ、もぐもぐもぐ……あぁん、また失敗しましたぁ!」
私が仕事の達成感に浸っていると、向かいの席から情けない声が上がった。
ピンク色の初心者マーク入りジャージを着た見習い女神、リリスだ。彼女はテーブルの上に山盛りにされた『ハニーかぼちゃのタルト』を頬張りながら、エンジェルすまーとふぉんをポチポチと叩いている。
「どうしたの、リリス。また『世界創造アプリ』で変なもの出したの?」
「聞いてくださいよレティシアさん! 残りの予算を使って『エターナル(創造世界)』に甘いお菓子の城を作ろうとしたのに、操作をミスって、こんな変な石ころが出ちゃったんですぅ!」
リリスが涙目でテーブルに置いたのは、手のひらサイズのゴツゴツとした黒い結晶だった。
そこからは、なんとも言えないツンとした、鼻を突くような独特の刺激臭が漂ってくる。
「うわっ、なにこれ。すごく強烈な匂いね」
「失敗作ですぅ……。これを食べろって言うんですか? 女神への虐待ですよぉ」
「誰も食べろなんて言ってないわよ」
私が呆れていると、隣の席で優雅にイモッカ(芋酒)を嗜んでいたクロエが、スッと身を乗り出してその黒い結晶を手に取った。
「……ふぅん。リリス、あなた本当に面白い才能を持ってるわね」
「へ? クロエさん、これ何かに使えるんですか?」
クロエは結晶を光にかざし、妖艶な笑みを浮かべた。
「これは『忌避香』の超高純度版よ。魔獣が本能的に嫌がる成分が凝縮されているわ。火に焚べて煙を出せば、低級から中級の魔獣なら嫌がって寄り付かなくなる。……ポポロ村の境界線に設置すれば、立派な防衛アイテムになるわね」
「えっ!? じゃあ私、村の役に立ったってことですか!?」
リリスがパァァッ!と顔を輝かせる。
「ええ、偶然だけどね」とクロエは笑い、私は光るパネルを操作してリリスの評価を少しだけ上げておいた。
どんな失敗でも、視点を変えれば新しい価値に繋がる。これも、有能な経営者の腕の見せ所だ。
「レティシアさん、クロエさん。お仕事中すみません、休憩にしませんか?」
ふわり、と。
周囲の空気を浄化するような、深く香ばしい珈琲の香りが漂ってきた。
顔を上げると、いつものように清潔なエプロンを身につけたユリウスが、お盆を持ってニコニコと立っていた。
「ポポロ・コーヒーを淹れました。リリスさんには、甘いミルクティーです」
「わぁぁっ! ユリウスさん、ありがとうございますぅ! やっぱりユリウスさんは天界のどの天使よりもイケメンで最高です!」
リリスが大喜びでカップを受け取ると、ユリウスは照れ臭そうに「えへへ」と笑い、見えない犬耳と尻尾をパタパタと揺らした。
「ユリウス、ありがとう。ちょうど一息つきたかったところよ」
「よかったです。レティシアさん、朝からずっと村の書類を見てましたから。根詰めすぎは体に毒ですよ?」
私の前にそっとコーヒーカップを置きながら、ユリウスが心配そうに眉尻を下げる。
彼のこの、見返りを求めない純度100%の優しさ。
彼が腰に帯びている長剣と、その内に秘めた『絶対零度のバケモノ級の強さ』を知っているからこそ、このエプロン姿で世話を焼いてくれる姿が、どうしようもなく愛おしい。
彼は、誰にでも優しい。私にだけ特別に優しいのではなく、リリスにも、村のおじさんにも、分け隔てなく親切だ。
前世の私なら、「誰にでもいい顔をする男なんて」と斜に構えていたかもしれない。
でも、今は分かる。彼のその『皆を守りたい、皆の笑顔が見たい』という博愛の精神こそが、理不尽に立ち向かう時の、彼の圧倒的な強さの源なのだと。
(……本当に、最高の自慢の社員なんだから)
私は彼から受け取ったコーヒーを一口飲み、その温かさにホッと息を吐いた。
――しかし。
私たちが作り上げたこの平和でホワイトな日常を、世界はそう簡単には許してくれないらしい。
ダダダダダッ!!
突如、ルナキンの入り口の扉が勢いよく開け放たれた。
「レティシア様! ユリウス殿! 緊急事態です!!」
飛び込んできたのは、自警団のメンバーであり、25歳独身をこじらせているケンタウロスの女性、マンミアだった。
彼女の四つの蹄が焦燥に満ちた音を立て、その顔はこれまでにないほど蒼白になっている。
「マンミア!? 落ち着いて、どうしたの?」
「隣国の森……アバロン魔皇国とレオンハート獣人王国の国境付近から、異常な数の魔獣がこちらに向かってきています! その数、およそ数百……いえ、千を超えているかもしれません!」
「なっ……!?」
店内にいた村人たちが、一斉に息を呑んだ。
千を超える魔獣の大群。それは、小国の軍隊ですら一晩で壊滅するほどの、文字通りの『災害』だ。
おそらく、他国同士の小競り合いか、何らかの地殻変動で住処を追われた魔獣たちが、緩衝地帯であるこのポポロ村に押し寄せてきているのだ。
「ひぃぃっ! せ、せんびき!? そんなの、この村がぺちゃんこになっちゃいますぅ!」
リリスがエンジェルすまーとふぉんを抱きしめてブルブルと震え出す。
「……厄介なことになったわね。レティシア、どうする? 私の商会のルートを使って、急いで王都やドワーフの国に避難の馬車を手配することも可能だけど」
クロエが扇子を口元に当て、鋭い視線で私に判断を委ねてくる。
私は、手に持っていたコーヒーカップを静かにソーサーに置いた。
そして、スッと立ち上がり、店内にいる全員を見渡した。
「避難はしないわ」
私のキッパリとした声に、マンミアがハッと顔を上げる。
「クロエ、あなたには悪いけれど、私たちがせっかく築き上げたこの『世界一のホワイト職場』を、魔獣の群れなんかに明け渡してやる義理はないわ。……それに、逃げる途中で村人が怪我でもしたら、それこそ労働災害よ」
「ふふっ。言うと思ったわ、うちの強欲な社長様は」
クロエが楽しげに笑い、扇子をパチンと鳴らす。
「マンミア! すぐに自警団の全メンバーを非戦闘員・避難誘導班と、防衛班に分けてシフトを組み直しなさい! 残業代と危険手当は基本給の3倍、後でキッチリ【経費精算】で支払うわ!」
「は、はいっ! 了解いたしました!!」
私が次々と指示を飛ばしていく中。
私の隣で、エプロンを外したユリウスが、スッと一歩前に出た。
「レティシアさん。僕も、行きます」
彼の声は、普段のオドオドした響きを完全に消し去り、静かで、しかし絶対的な安心感を孕んでいた。
自分のためには決して怒らない彼が。
村の皆が理不尽な暴力に脅かされている今、その背中に『守護者』としての気高い意志を纏っている。
「ええ、頼りにしてるわ、私たちの最高警備責任者」
私は、彼の広い背中を見つめながら、自信に満ちた笑みを浮かべた。
さあ、ブラック国家の理不尽を乗り越えた私たちを見くびらないでちょうだい。
このポポロ村は、誰にも奪わせない。私と、私の最強の社員たちで、必ずこのホワイトな日常を守り抜いてみせる!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
いよいよ第3章の開幕です!
平和なホワイト村に、突如として千を超える魔獣の大群が迫り来るという、ファンタジーらしいスケールの大きな危機が訪れました。
しかし、レティシアはただ怯えて守られるだけのヒロインではありません。前世の社畜管理スキルと【経費精算】を応用し、「危険手当は3倍! 労働災害は出させない!」と、有能な経営者として防衛線の構築に乗り出します!
そして、皆を守るためにエプロンを外し、静かに前に出るユリウス。
「自分のためには弱いが、皆を守るためなら化け物になる」という彼の絶対的なヒーロー性が、いよいよ発揮される時が来ました。
次回、第2話!
魔獣の大群を前に陣形を整えるポポロ村。しかし、そこへ魔獣の群れを単騎で切り裂きながら、圧倒的な「覇気」を纏う一人の男が現れます。
ユリウスの父親、帝国最強の剣士・ガレオンの登場です!
「レティシア社長かっこいい!」「リリスの失敗が伏線に!?」「ユリウスのスイッチ入った!」と少しでもワクワクしていただけましたら、
ぜひページ下部(または右上)の【★で称える(ポイント評価)】から、星3つ(★★★)での全力応援をよろしくお願いいたします!
皆様の【ブックマーク】と【星評価】が、第3章を走り抜けるための最大の福利厚生です!
どうか、引き続きポポロ村の物語への応援をよろしくお願いいたします!
先生、いかがでしょうか!
レティシアの「受動的でない、自立した芯の強さ」を前面的に出しつつ、ユリウスの「皆を守るための強さ」へのスイッチが入る瞬間を描き出しました。
このまま第2話の執筆へと進めてもよろしいでしょうか!?




