陥落した社畜OLの決意。最強のホワイト村で、私と不器用な騎士の甘い日常は続いていく
陥落した社畜OLの決意。最強のホワイト村で、私と不器用な騎士の甘い日常は続いていく
黄金の魔導戦車が氷漬けにされ、ブラック元婚約者がスーツケースに詰め込まれてドナドナされていった翌日。
ポポロ村には、雲一つない快晴の空が広がっていた。
「……はぁ。ダメだわ、全然仕事に集中できない」
ルナキン・ポポロ支店のテラス席。
私は、テーブルに広げた領地の予算編成書類を前に、両手で顔を覆って深いため息をついた。
目を閉じると、昨日の光景が鮮明にフラッシュバックしてくる。
転びそうになった私を、瞬時に抱き止めた逞しい腕。
フワリと身体が宙に浮いた、人生初の『お姫様抱っこ』。
そして、至近距離で見つめ合いながら放たれた、あの殺し文句。
『……自分のためには怒れないけれど。こうやって、貴女を守るナイトじゃ、駄目でしょうか?』
「っ〜〜〜〜!!」
ボフンッ!と、自分の頭から湯気が噴き出す音が聞こえた気がした。
ダメだ。思い出すだけで心臓がうるさいし、顔が林檎のように真っ赤になっているのが自分でも分かる。
前世から今まで、恋愛なんてする余裕もなく「仕事の出来る堅物女」として生きてきた私のキャパシティを、あの天然タラシの氷の騎士様は軽々と超えてくるのだ。
「レティシアさん? どうしたんですか、顔を真っ赤にして」
ふいに、上から降ってきた優しい声。
ビクッとして顔を上げると、いつものようにエプロンを身につけたユリウスが、心配そうに私を覗き込んでいた。手には、淹れたての陽薬草茶が乗ったお盆を持っている。
「ゆ、ユリウス! い、いつの間に!」
「たった今です。……もしかして、昨日転びそうになった時、やっぱりどこか痛めたんじゃ……?」
ユリウスは慌てた様子でお盆をテーブルに置き、スッと顔を近づけてきた。
大きな手が私の額に触れ、彼の整った顔立ちが目の前に迫る。ひんやりとした彼の手のひらの温度が、熱を持った私の肌に心地よく、同時に鼓動をさらに跳ね上がらせた。
「熱は……ないみたいですけど、すごく赤いですよ。無理して仕事しないで、今日は休んだ方が……」
「ち、違うの! 風邪とか怪我じゃないから! ただの、その……寝不足よ! そう、寝不足!」
私はパニックになりながら、彼の大きな胸板をドンと押して距離を取った。
ユリウスは「うわっ」と少し後ろに下がった後、犬耳(幻覚)をペタンと垂れ下げてシュンとしてしまった。
「ご、ごめんなさい……僕、また出しゃばった真似を。レティシアさんが頑張ってるのに、邪魔しちゃダメですよね」
「違うのよ! あなたが悪いんじゃなくて、私が勝手に……もう!」
自分の不器用さに自己嫌悪に陥りそうになる。
私がワタワタとしていると、テラスの奥から「あむあむあむ!」と凄まじい咀嚼音が聞こえてきた。
「んん〜っ! ルナキンの朝食バイキング、最高ですぅ! カリカリのベーコンに、とろとろのスクランブルエッグ! 天界の霞みたいな朝ご飯とは雲泥の差ですね!」
ピンク色の初心者マーク入りジャージを着た見習い女神・リリスが、山盛りの朝食プレートを幸せそうに平らげていた。
「おはよう、リリス。朝から相変わらずすごい食欲ね」
「はいっ! あ、そういえば朝一でエンジェルすまーとふぉんに『リボ払い督促状・第二弾』が届いてたんですけど、見なかったことにして削除しちゃいました! えへへ!」
「えへへ、じゃないわよ。現実逃避しても借金は減らないわよ」
私が呆れ返っていると、カツン、カツンとヒールの音を響かせてクロエが現れた。
「心配ないわ、レティシア。彼女の借金なんて、私の計画を使えばすぐに完済できるんだから」
「計画?」
クロエはリリスの隣に座り、妖艶な笑みを浮かべて扇子を広げた。
「ええ。リリスのスマホの『状態異常回復』アプリ。どんな傷や病気、肌荒れも一瞬で治せるんでしょう? これ、王都や他国の富裕層向けの『超高級アンチエイジング・エステサロン』として売り出すのよ。1回の使用料10万なら、50万で提供して40万の中抜き(利益)を出すわ。……あっという間に億万長者ね」
「ひぇっ!? あ、悪徳商人ですぅ! 神の権能をそんな金儲けに使うなんて、ヴァルキュリア先輩にバレたら雷落とされます!」
「あら、マグローザ漁船で一生タコ部屋暮らしするよりはマシじゃないかしら?」
「……やります! エステティシャン・リリス、頑張りますぅ!!」
あっさりと堕落(?)する見習い女神。
相変わらずクロエの商魂は逞しい。でも、これでリリスも借金取りの恐怖に怯えることなく、この村で一緒に平和に暮らしていけるなら、悪くない話だ。
「そういえば、エドワード殿下たちはどうなったのかしら」
私が紅茶を飲みながら尋ねると、クロエはクスクスと笑った。
「闇金ギルドの連中から通信があったわ。今頃、シーラン国の冷たい海の上で、マグローザ漁船の甲板をデッキブラシで磨かされてるそうよ。『私は王太子だぞ! こんな扱いが許されると思っているのか!』って毎日泣き叫んでるらしいけど、周りの荒くれ者たちには『新入りの冗談』だと思われて、笑い飛ばされてるんですって」
「……見事なまでの、因果応報ね」
自分が他人を『道具』や『奴隷』のように扱ってきた男が、今度は自分が奴隷のように扱われる側に回ったのだ。同情の余地など1ミリもない。
私はテラスから、広場を行き交う村人たちを見渡した。
活気のある声。笑顔で挨拶を交わす農家のおじさんたち。
理不尽な長時間労働も、無茶なノルマもない。誰もが充実した顔で働き、しっかりと休んで、美味しいご飯を食べる。
ここは、私たちが作り上げた、世界一の『ホワイト領地』だ。
「……レティシアさん。本当に、よかったです」
隣に立つユリウスが、村人たちの笑顔を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「エドワード殿下が来た時はどうなるかと思いましたけど……レティシアさんが、無理やり国に連れ戻されなくて。この村で、こうしてまた一緒に笑い合えて。……僕、本当に嬉しいです」
彼の横顔は、朝日に照らされてひどく優しく、そして少しだけ寂しそうだった。
「僕、本当に何も取り柄がないですけど……これからも、レティシアさんのそばで、お茶を淹れたり、薪を割ったり、そして……貴女を悪意から守る盾として、働かせてもらえませんか?」
オドオドと、私の顔色を窺うように尋ねてくるユリウス。
自分のためには剣を抜けない。自分がどれだけ馬鹿にされてもヘラヘラしている。
でも、私のためにだけは、一切の迷いなく王太子相手でも腕を握り潰しにかかり、極大の魔導戦車を氷漬けにしてしまう。
そんな、不器用で、優しすぎる私の騎士様。
「……バカね、ユリウス」
私はクスッと笑い、彼の大きな手を、自分の両手でギュッと握りしめた。
ユリウスがビクッと肩を跳ねさせ、目を見開く。
「取り柄がないなんて、二度と言わないで。あなたは私にとって、誰よりも価値のある、最高に優秀な社員……ううん。大切な、大切なパートナーなんだから」
「レ、レティシアさん……っ」
「私を連れ戻そうとするブラック国家はもうないわ。私はこれから先もずっと、この村の領主として生きていく。だから……あなたが私を守ってくれるなら、私は私の持てる【無限の福利厚生】の全てを使って、あなたを世界一幸せにしてあげる。……覚悟しておきなさいよね?」
私が真っ直ぐに見つめてそう宣言すると。
ユリウスの顔がボンッ!と音を立てて真っ赤に染まった。
「あ、あうぅ……っ。レティシアさんって、時々すごく男前というか……僕、心臓が痛いですぅ……っ」
「ふふっ。お互い様よ」
顔を覆ってしゃがみ込む彼を見て、私はようやく「昨日の意趣返しができた」と、悪戯っぽく笑った。
前世で過労死し、今世でもブラック国家に追放された私。
でも、その理不尽な過去があったからこそ、私はこの村に辿り着き、最高の親友と、騒がしい女神様と、そして……私のためだけに怒ってくれる、愛おしい騎士様に出会うことができた。
「さあ、今日も一日、ホワイトで快適なお仕事を始めましょうか!」
私の号令に、村の仲間たちが元気よく応える。
理不尽をぶっ飛ばす、痛快でホワイトな異世界スローライフ。私と不器用な騎士様の、焦れ焦れで甘い日常は、これからもずっと続いていく。
(第2章・完)
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!
第2章、これにて無事に完結です!
お姫様抱っこの余韻で顔を真っ赤にするレティシアと、相変わらず天然タラシなユリウス。
エドワードはマグローザ漁船でデッキブラシをかけながら泣き叫び(完全ざまぁ)、リリスはクロエのプロデュースでエステサロンのスタッフ(借金返済)になることが決定しました(笑)。
そして最後は、レティシアからユリウスへの「あなたを世界一幸せにしてあげる」という、実質的なプロポーズ(?)宣言!
二人の距離が確実に縮まった、最高にハッピーでホワイトな締めくくりとなりました。
【読者の皆様へのお願い】
ここまで読んで「最高だった!」「エドワードざまぁ!」「ユリウスとレティシアのイチャイチャもっと見たい!」と少しでも楽しんでいただけましたら、
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皆様からいただく【ブックマーク】と【星評価(MAX)】が、この物語の「第3章」を執筆するための最高の【福利厚生】となります!
どうか、清き星での応援をよろしくお願いいたします!
第2章、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!




