戦車ごと完全氷漬け! 見習い女神のお布施回収と、ブラック元婚約者のマグローザ漁船ドナドナざまぁ!
戦車ごと完全氷漬け! 見習い女神のお布施回収と、ブラック元婚約者のマグローザ漁船ドナドナざまぁ!
黄金の魔導戦車『ゴールデン・モナーク』から放たれた、極大の魔力砲弾。
全てを焼き尽くす灼熱の光が、網膜を焼くような閃光と共に、私とユリウスを飲み込もうと迫り来る。直撃すれば、ポポロ村の広場ごと、私たちは塵一つ残さず消し飛んでしまうだろう。
しかし。
私の前に立つエプロン姿の青年は、剣を抜くことすらなく、ただ静かに右手を前にかざした。
「――『氷結』」
たった一言。
魔法陣の展開も、仰々しい詠唱もない。ただ、彼がその言葉を口にした瞬間。
ピキィィィィンッ……!!
世界から、一瞬にして『熱』が奪い去られた。
私たちを飲み込もうとしていた灼熱の魔力砲弾が、空中でピタリと静止し、瞬く間に青白い氷の柱へと変貌する。
それだけではない。絶対零度の冷気は、巨大な黄金の魔導戦車そのものへと伝播し、悪趣味な黄金の装甲を、駆動する履帯を、内部の魔導機関を、全て分厚い氷の棺へと閉じ込めてしまったのだ。
「なっ……が、あ……ッ!?」
ハッチから身を乗り出して狂笑していたエドワードの顔面が、驚愕に凍りついた。
物理的な意味でも、だ。
彼の首から下は、戦車と一体化するように完全に氷漬けにされ、指一本動かすことができない状態になっていた。
「ば、馬鹿な……っ! 王室専用の、最強の魔導戦車だぞ!? それを、たった一人の平民が、剣も抜かずに魔法一つで……っ!?」
「……どんな強力な兵器でも、使う人間の心が貧しければ、ただの鉄屑です」
ユリウスが、静かに言い放つ。
舞い散る氷の粒子が、月明かりを反射してキラキラと幻想的に輝いている。
その光の中心で、静かに手を下ろすユリウスの背中。
(ああ……やっぱり、この人は規格外だわ)
私は、彼の広い背中を見つめながら、ほうっと熱い吐息を漏らした。
自分のためには怒らない。けれど、私のためにだけは、どんな巨大な力にも屈しない。
この圧倒的な安心感と、理不尽を許さない冷徹なまでの強さ。
(私、もう絶対にこの人を手放せない。……完全に、胃袋ならぬ心臓を掴まれちゃったわ)
顔が熱い。心臓の音がうるさくて、ユリウスに聞こえてしまわないか心配になるほどだ。
「ヒィッ……! た、助け……っ、寒、い……っ」
ガチガチと歯の根を鳴らしながら、エドワードが白目を剥きかけている。
彼の強烈なプライドは、絶対的な武力と冷気の前で完全にへし折られ、もはや哀れな小動物のように震えることしかできなかった。
と、その時である。
「はむっ、もぐもぐ……あちゃー。見事に凍っちゃってますねぇ」
トコトコと。
手にはユリウスが作った特製みたらし団子を持ち、ピンク色の初心者マーク入りジャージを着た見習い女神・リリスが、氷漬けの戦車へと歩み寄っていったのだ。
「り、リリスちゃん!? 危ないわよ!」
「大丈夫ですよ〜。完全に気絶しかかってますから」
リリスはみたらし団子を咥えたまま、エドワードの顔をペチペチと軽く叩いた。
「あ、うぅ……」と虚ろな声を漏らすエドワード。
「大丈夫ですか〜? あ、意識がないみたいですね。えーと、こういう時は……」
リリスはジャージのポケットから手のひらサイズの羊皮紙を取り出し、チラッと確認した。
そして、ニッコリと満面の笑みを浮かべ、エドワードの懐にスッと手を伸ばしたのだ。
「あ、ありました! うわぁ、分厚いし宝石がいっぱいついてるお財布! 天界の女神にこんなにたくさんのお布施をしてくださるなんて、なんて信心深い人なんでしょう!」
「えっ」
リリスは、意識が朦朧としているエドワードから、王家の紋章が入った最高級の財布を、なんの躊躇いもなく抜き取った。
そして、ちゃっかりと自分のジャージのポケットにねじ込んだのである。
「これで私のリボ払いも少しは足しになります! 神の御加護があらんことを!」
「ちょっと! 女神様がドサクサに紛れてスリを働かないでよ!」
私のツッコミに、リリスは「お布施ですぅ!」とケロリとした顔で言い張る。
本当にこのポンコツ女神、図太いというか、生活の知恵(?)だけは無駄に逞しい。
「……あら。じゃあ、彼、完全に『無一文』になったわけね」
パチン、と。
クロエが優雅に扇子を閉じ、冷酷な笑みを浮かべた。
「いいタイミングね。ちょうど、この村にポポロシガーの買い付けに来ていた『彼ら』に、最高の獲物をプレゼントしてあげられるわ」
クロエが指を鳴らすと、広場の群衆を掻き分けて、屈強な男たちが数人姿を現した。
彼らは一様に真っ黒なスーツを着込み、目には黒いサングラス。その体格は、プロレスラーのように筋骨隆々だ。
「おいおい、クロエの姉御。こいつぁ、王国のエドワード王太子殿下じゃねぇか。どうしてこんなところで氷漬けになってんだ?」
「ちょうどよかったわ、シーラン国の闇金ギルドの皆さん。彼、うちの村に多大な損害を与えた挙句、あなたたちの国にも借金(違約金)を踏み倒しているでしょう?」
クロエの言葉に、サングラスの男たちはニヤリと悪魔のように笑った。
「違いねぇ。王国の奴ら、賠償金の支払いを渋ってやがったからな。……おい、殿下サマよぉ。まさか『一銭も持ってねぇ』なんてふざけたことは言わねぇよな?」
「あ、う……わ、私の財布……金なら、いくらでも……」
エドワードが震えながら懐を探るが、当然そこには何もない。リリスのジャージのポケットに移動しているのだから。
「ああん? 財布がねぇ? ……つまり、払う金がねぇってことだな。なら、体で払ってもらうしかねぇな」
「ヒィッ!?」
「連れて行け。こいつは上玉の『マグローザ漁船』の餌(労働力)になるぞ。王族の肉体労働なんて、見世物としても高く売れそうだ」
黒服の男たちは、氷漬けから解放されつつあるエドワードの襟首を掴むと、手際よく彼を巨大なスーツケース(魔法の拡張空間付き)へと折り畳むように詰め込んでいく。
「や、やめろォッ! 私は王太子だぞ!? こんなタコ部屋のような場所に……! レ、レティシアァッ! 助けろ! 私を助け――」
ガチャンッ!
スーツケースの蓋が非情に閉じられ、エドワードの悲鳴は完全にシャットアウトされた。
黒服の男たちはスーツケースを肩に担ぎ、「ドナドナドーナードーナー♪」と楽しげな鼻歌を歌いながら、シーラン国へと向かって意気揚々と去っていく。
莫大な借金を抱え、国を崩壊させ、最後は無一文となって遠洋漁業のタコ部屋へドナドナされていく。
それが、私を不当に搾取し、追放したブラック元婚約者の、あまりにも惨めで自業自得な末路だった。
これにて、完全なる『ざまぁ』の達成である。
「……ふふっ、あははははっ! 傑作ね! まさかあのバカ王子がマグローザ漁船行きなんて!」
クロエが腹を抱えて大笑いしている。
村人たちも「うるさいのがいなくなったべ!」「宴会だ宴会!」と大盛り上がりだ。
私は、嵐が過ぎ去った広場で、小さく息を吐き出した。
これで完全に、私の過去の因縁は断ち切られた。もう王国に未練もなければ、エドワードに怒りすら湧かない。
私が今、見つめるべき相手は。
「あ、あの……エドワード殿下、連れて行かれちゃいましたけど……よかったんでしょうか?」
振り返ると、そこには。
先ほどまでの冷徹な処刑人のオーラを完全に消し去り、いつものオドオドとした気弱な青年に戻ったユリウスが、犬耳(幻覚)を垂れ下げて首を傾げていた。
(……この人、自分がどれだけヤバい力を使って、どれだけ私を惚れさせたか、絶対に1ミリも分かってないわね)
圧倒的な温度差。
私は、彼のそんな鈍感で無自覚なところすら愛おしく思いながら、一つ大きなため息をついたのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第2章の第8話、完全なるドナドナざまぁ回でした!
ユリウスが魔導戦車を魔法一つで完全凍結! その圧倒的な強さと「私のために怒ってくれた」という事実に、レティシアは完全に恋に落ちました。
そして、気絶したエドワードの懐から、ポンコツ女神リリスが「お布施回収」を敢行! これにより無一文となったエドワードは、シーラン国の借金取りに捕まり、マグローザ漁船へとドナドナされていきました(笑)。
シリアスとギャグのジェットコースター、いかがでしたでしょうか。
しかし、戦いが終わればユリウスはいつものチワワ状態に戻ります。
次回、第9話!
「僕、何かやっちゃいましたか?」とオドオドする彼に、レティシアが思わず怒ってしまうのですが……そこから、まさかの特大胸キュンイベント(お姫様抱っこ)が発生します!
「リリスのスリ笑った」「エドワード、自業自得すぎる」「ドナドナドーナー♪」「ユリウスの温度差最高!」と楽しんでいただけましたら、
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どうか、引き続きポポロ村の物語への応援をよろしくお願いいたします!




