私のためだけに怒る最強騎士。……本当のナイトなんだわ、ああもう好き!
私のためだけに怒る最強騎士。……本当のナイトなんだわ、ああもう好き!
「今すぐ国へ帰るぞ!」
エドワードの怒声と共に、彼の無骨な手が私の細い手首に向かって伸びてきた。
狂気に満ちた瞳。私を意思のある人間としてではなく、ただの『便利な道具』としか見ていない、冷酷な眼差し。
前世で私を過労死に追いやったブラック上司たちの顔が、一瞬フラッシュバックする。
「っ……やめて、触らないで!」
私が拒絶の声を上げ、身体をよじって抵抗しようとした、その時だった。
――ガシッ!!!
鈍く、しかし強烈な音が広場に響いた。
「……ぐ、がっ!?」
エドワードの喉から、奇妙な悲鳴が漏れた。
私の手首に触れる寸前だった彼の腕を、上から別の『大きな手』が、万力のような凄まじい力でがっちりと掴み止めていたのだ。
エプロン姿の長身。
先ほどまで「自分は無能な雑用係だ」とヘラヘラ笑い、エドワードに突き飛ばされても無抵抗で道を空けた青年。
「ユ、ユリウス……?」
彼は、一切の感情を排した顔で、私の前に立っていた。
「な、なんだ貴様……っ! 離せ! 腕が、砕け――」
「…………」
ユリウスは無言のまま、エドワードの腕を掴む手に、さらに力を込めた。
――ギギギ、ミシリ。
人間の骨が悲鳴を上げる、嫌な音がはっきりと聞こえた。
同時に、ユリウスの手から発せられた『絶対零度の冷気』が、エドワードの腕を伝い、彼の豪華な衣装の袖を瞬く間に白く凍りつかせていく。
「ヒィッ!? あ、ああっ、冷たっ、痛いィィッ!?」
「……止めてください」
空気が、物理的に凍りついたかのように温度を下げた。
ユリウスが、前髪の影から冷徹な氷の瞳を覗かせ、エドワードを真っ直ぐに見据える。
その声は低く、静かで。しかし、数百人の軍隊を震え上がらせた時よりも、遥かに恐ろしい『絶対的な殺意』を孕んでいた。
「彼女……嫌がってるじゃないですか」
ゾクッ、と。
背中を悪寒が駆け抜けたのは、エドワードだけではなかった。
広場にいた全員が、その圧倒的な圧力に息を呑み、一歩後ずさる。
さっきまでの、オドオドと犬耳を垂れ下げていた「チワワ」の面影は微塵もない。
彼がまとっているのは、理不尽を絶対に許さない、冷酷無比な処刑人のオーラだ。
「が、あ、あああァァァッ!!」
手首から伝わる激痛と凍傷の恐怖に耐えきれず、エドワードが惨めな悲鳴を上げてその場に膝をついた。
ユリウスがパッと手を離すと、エドワードは這うようにして後ずさり、青白く変色した自分の腕を抱えてガタガタと震え出した。
「き、貴様……っ! 平民風情が、王太子であるこの私に、何という真似を……っ!!」
「……」
ユリウスはエドワードの言葉には一切答えず、サッと私の前に移動し、その広い背中で私を完全に庇った。
(…………あ)
私は、目の前にある彼の大きな背中を見つめながら。
胸の奥で、激しいドラムロールのように鼓動が跳ね上がるのを感じていた。
(分かったわ……私、やっと分かった気がする)
先ほど、エドワードがユリウスを「無能」「平民風情」「臆病者」と、どれだけ言葉で侮辱しても、彼は決して怒らなかった。突き飛ばされても、反撃しなかった。
彼は、自分自身に向けられた悪意には、どこまでも鈍感で、無抵抗なのだ。
けれど。
エドワードの悪意が、私(他者)に向けられ、私を傷つけようとした瞬間。
彼は一切の迷いなく、王太子という絶対的な権力者相手であろうと、その手を握り潰しにかかった。
自分が泥を被ることは我慢できても、大切な人が理不尽に傷つけられることだけは、絶対に許さない。
あの時、彼が真っ直ぐに私の目を見て「必ず助けます」と即答した言葉に、嘘偽りは一つもなかったのだ。
(ずるい……。自分のためには剣を抜かないくせに、困ってる人や、私のためにだけは、どんな強者にも立ち向かってくれるなんて)
私の中で、今まで溜まりに溜まっていた「なんで言い返さないのよ!」という歯痒さと苛立ちが、一瞬にして特大の『カタルシス』と『愛おしさ』に変換されて爆発した。
ただの「助けてくれた強い人」じゃない。
彼は、理不尽に立ち向かう、私だけの『本当の騎士』なのだ。
(――ああもう! なんなのよ、ずるいじゃない!! 好き!! 好きになっちゃうじゃない!!)
私は自分の顔が、沸騰したように真っ赤に染まっていくのを自覚した。
前世からずっと、誰かに守られることなんて諦めていた。私は自分の力で生きていくしかないのだと、そう思っていた。
でも、この人は違う。私がどれだけ強がっても、彼だけは絶対に私を理不尽から守り抜いてくれるのだ。
「フ、フハハ、フハハハッ!」
私が恋の限界突破に悶えていると、地面に倒れ込んでいたエドワードが、狂ったような笑い声を上げながら立ち上がった。
「いいだろう……っ! 言葉で言って分からぬなら、力ずくでわからせてやる! レティシア、お前をこの泥まみれの村ごと更地にして、鎖に繋いで王城に引きずり帰ってやるわ!!」
エドワードは凍りついた腕を庇いながら、背後の黄金の魔導戦車『ゴールデン・モナーク』へと這い上がり、ハッチの中に転がり込んだ。
「殿下!? なりませぬ! 主砲を街中で撃てば――」
「黙れ!! 最大出力で、あの生意気な平民ごとレティシアを吹き飛ばせ!!」
狂気に満ちた命令と共に、黄金の戦車が重低音を響かせて起動する。
ギュイィィィン……ッ!!と、宝石が埋め込まれた砲口に、致死量を超える凄まじい魔力が赤黒く収束していく。
王室専用にチューニングされたその破壊力は、以前ガルドス男爵が乗っていた量産型の比ではない。直撃すれば、ポポロ村の半分が消し飛ぶほどの熱量だ。
「ひぃぃっ! あの金ピカ、自暴自棄になって村ごと吹っ飛ばす気ですぅ!」
リリスがエンジェルすまーとふぉんを抱きしめて悲鳴を上げる。
「チッ、往生際が悪いわね。レティシア、バフの準備を!」
クロエが扇子を投げ捨て、戦闘態勢に入る。
「ええ! 皆、下がって!」
私は【経費精算】のパネルを展開し、防衛用の魔導シールドを全力で張ろうとした。
しかし。
私の前に立つユリウスは、片手をスッと横に出して、私を制止した。
「……大丈夫です、レティシアさん。何もしなくていいです」
その声は、驚くほど穏やかだった。
彼は振り返りもしないまま、腰の長剣を抜くことすらせず、ただ静かに黄金の魔導戦車を見据えた。
「死ねェェェッ!! レティシアァァァッ!!」
エドワードの絶叫と共に、限界まで収束された極大の魔力砲弾が、閃光と共に放たれた。
全てを焼き尽くす灼熱の破壊の光が、私たちを飲み込もうと迫り来る。
だが、ユリウスは。
エプロン姿のまま、ため息を一つ吐き、スッと右手を前にかざした。
「――『氷結』」
たった一言。
魔法陣の詠唱すらなく、彼が言葉を発した瞬間。
世界が、完全に白く染まった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第2章の第7話、いかがでしたでしょうか。
溜めに溜めたフラストレーションが、最高の形で爆発しました!
自分のためには怒らないユリウスが、レティシアの手を掴もうとした元婚約者の腕を「万力のような握力」と「絶対零度」でへし折りにかかります。
「止めて下さい。彼女……嫌がってるじゃないですか」
この静かなブチギレ(タキシード仮面状態)こそ、A型気弱ヒーローの最大の魅力です!
レティシアもついに「この人は私のためだけに怒ってくれるんだ!」と悟り、完全に恋の底なし沼へ突き落とされました(笑)。
そして、逆上したエドワードが黄金の魔導戦車の主砲を放ちます。
しかし、ユリウスは剣を抜くことすらなく、片手で魔法を発動。
次回、第8話!
戦車ごと氷漬けにされたエドワードに、ついにあの「ピンクジャージの女神様」がトドメ(お布施回収)を刺しに行きます。
完全なるドナドナざまぁ回、お楽しみに!
「ユリウスかっこよすぎ!!」「レティシアの限界突破ニヤニヤする」「エドワード、次で終わりだな!」と胸を熱くしていただけましたら、
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