天界は超絶ブラック企業!? リボ払いに震える見習い女神と、社畜OLの保護宣言!
天界は超絶ブラック企業!? リボ払いに震える見習い女神と、社畜OLの保護宣言!
特大和風ハンバーグ定食を三杯、さらに食後のハニーかぼちゃプリンまで完食したピンクジャージの少女――見習い女神リリスは、ルナキンのふかふかのソファーで幸せそうに腹をさすっていた。
「はぁぁ〜……満腹です。もう思い残すことはありません。いつでもマグローザ漁船に乗る覚悟ができました……」
「ちょっと待って。さっきから聞き捨てならない単語がポロポロ出てるんだけど」
私は飲みかけていた食後の陽薬草茶をテーブルに置き、彼女に向き直った。
マグローザ漁船といえば、シーラン国(海中国家)が管轄する、超巨大な魔獣魚『マグローザ』を捕獲するための命懸けの遠洋漁業だ。
クロエから聞いた話によれば、多重債務者や犯罪者がドナドナされて行き着く地獄の労働施設であり、船内では『K(ケツフキのK)』という謎の隠語通貨が使われ、チンチロリンで脱出を図るしかないという、絵に描いたようなタコ部屋である。
「天界の女神様が、どうしてそんな地獄の漁船に乗る覚悟をしてるのよ」
「うぅっ……聞いてくれますか、レティシアさん。実は私、今月のスマホ代が払えなくて……」
リリスは涙目で、ジャージのポケットから分厚いハードケースに入った魔導端末『エンジェルすまーとふぉん』を取り出した。
「私は『第4種・惑星創造神格公務員見習い』として、天界から派遣されてきました。お給料は月額18万円です」
「18万。……まぁ、見習い公務員の初任給なら、ギリギリ生活できなくはない額ね」
「そこから、天界税、天界年金、健康保険などがガッツリ引かれます。そして、この『エンジェルすまーとふぉん』の基本利用料が月額2万円かかります」
(通信費で月2万!? ぼったくりじゃない!)
前世の格安スマホユーザーだった私の心がざわめく。
「このスマホはすごくて、対象のステータス変更(1回10万円)や、状態異常の回復(1回10万円)、そして私の本来の業務である『世界創造アプリ(1回100万円)』などが使えるんです」
「へぇ、さすが神様の道具ね。でも、利用料がいちいち高いわね」
「はい……。私、予算100万円以内で『エターナル』という自分の創造世界を作る研修課題を与えられているんですが……その、私、機械の操作が苦手で……」
リリスはもじもじと指を絡ませながら、衝撃の事実を口にした。
「ネット通販機能(ルチアナ先輩のクレジットカード連携)で、間違えて高級お菓子を大量発注したり、無料版のサポートAI『賢者君』の態度が冷たすぎて、つい月額1万円の有料版に課金しちゃったりして……」
「……嫌な予感がするわ。で、いくら使ったの?」
「限度額の、100万円ぴったりです」
リリスはチーンと効果音が鳴りそうな顔でうなだれた。
「支払いは……『リボ払い』の36回払い。年率15%で、月々の返済額は6万8000円です。手取りから、基本料2万とリボ払い6万8000円を引くと……今月の生活費は、もう5000円しか残っていません……っ」
「――リ、リボ払いィィィッ!?」
私は思わずガタッ!と席を立ち上がってしまった。
まさか異世界に来て、しかも天界の神様の口から、前世の金融業界が生み出した『悪魔の搾取システム』の名前を聞くことになるとは!
「天界のくせに、見習いにリボ払いを推奨してるの!? っていうか、業務用の端末代やアプリ使用料を、見習いの給料から天引き(自己負担)させてるわけ!? 完全な労働基準法違反じゃないの!!」
私の【社畜センサー】が限界突破し、怒りの炎がゴウゴウと燃え上がった。
なんというブラック組織だ。新入社員に自腹で業務用の高額機材を買わせ、しかも高金利のリボ払いで借金漬けにして逃げられないようにする。前世の悪徳営業会社でも、今どきそこまで露骨なことはしない。
「うぅぅっ……支払いが滞ると、空間が歪んで、サングラスをかけたレスラー体型の黒服天使が現れるんですぅ……! そして身包みを剥がされて、スーツケースに折りたたんで詰め込まれて、マグローザ漁船にドナドナされるんですぅぅっ!」
「どんな反社組織よ天界は!! ルチアナとかいう上司は何をしてるのよ!」
「ルチアナ先輩は、コタツで缶ビール飲みながら、地球のアイドルの推し活をしてます……。私のジャージも、先輩が『これが正装だから』って……」
ボロボロと泣き崩れるリリス。
間違いない。天界は、私がこれまで見てきたどの組織よりも真っ黒に染まりきった『超絶ブラック企業』だ。
純粋でおっちょこちょいな17歳の少女が、こんな理不尽なシステムに搾取され、マグローザ漁船というタコ部屋に送られようとしている。
そんなこと、この私が絶対に許すわけがない。
「……リリスちゃん。顔を上げなさい」
「ひぐっ、れ、レティシアさん……?」
私は彼女の両肩をガシッと掴み、聖母(あるいは辣腕社長)のような微笑みを浮かべた。
「あなた、今日からこのポポロ村で働きなさい。私の【福利厚生】の庇護下に入れば、天界の黒服だろうがマグローザ漁船の借金取りだろうが、指一本触れさせないわ。衣食住は全て、私が経費で保証してあげる!」
「えっ!? ほ、本当ですか!?」
「ええ! あなたの『エターナル』創造プロジェクトも、このルナキンをコワーキングスペースとして自由に使っていいわ。……さあ、ユリウス!」
私がビシッと指を差すと、キッチンの奥でスタンバイしていた長身のエプロン青年が、「はいっ!」と元気よく飛び出してきた。
「リリスさん、お口に合うか分かりませんが、食後のデザートです!」
ユリウスがテーブルに置いたのは、出来立ての『特製・みたらし団子』だった。
太陽芋のデンプンを練り込んでモチモチに仕上げた団子に、醤油草とハニーかぼちゃの蜜で作った、艶やかな黄金色のタレがたっぷりと絡んでいる。
「わぁぁぁぁっ!! み、みたらし団子ぉぉぉっ!!」
リリスの瞳が、星のようにキラキラと輝いた。
「これ、全部食べていいんですか!?」
「もちろんです。いっぱい作ったので、おかわりも自由ですよ。リリスさんは育ち盛りですからね」
ユリウスが犬耳(幻覚)をパタパタと揺らしながら、ふにゃりと優しく笑う。
彼の見返りを求めない純度100%の気遣いは、ブラック労働ですり減った心に猛烈に効くのだ。私には痛いほどよく分かる。
「あ、あぁ……っ。ユリウスさん……なんてお優しい……あなたは天使ですか? あ、私が女神なんですけど……でも、天使以上に天使ですぅぅっ!」
リリスはみたらし団子を頬張りながら、感動のあまりユリウスを拝み始めた。
「えへへ、大袈裟ですよ。あ、お茶のおかわり淹れますね」
「ありがとうございますぅぅっ!」
幸せそうに団子を頬張るピンクジャージの女神と、甲斐甲斐しく世話を焼く長身の氷の騎士様。
なんて平和で、心が洗われる光景だろうか。
「……随分とまた、厄介なペットを拾ったわね、レティシア」
そこへ、カツンとヒールを鳴らしながら、書類の束を抱えたクロエがルナキンの店内に入ってきた。
彼女はソファーで団子を頬張るリリスをジロリと一瞥し、呆れたようにため息をつく。
「クロエ、ペットだなんて失礼よ。彼女は天界の理不尽な労働環境から逃れてきた、立派な難民(見習い女神)なんだから。私が保護するのは当然でしょ?」
「借金(リボ払い)まみれのポンコツ女神でしょう? まぁいいわ、あなたの福利厚生スキルにタダ乗りする分、彼女の『神としての権能』は、いずれこの村の防衛や商売でキッチリと使り尽くさせてもらうから」
「ひぃっ!? な、なんか赤い髪の綺麗な女の人から、天界の黒服以上のプレッシャーを感じますぅ!」
敏腕商人のクロエに睨まれ、リリスがビクッと体を縮こまらせて私の背中に隠れた。
「ところで、レティシア。厄介事はそのポンコツ女神だけじゃないみたいなの」
クロエは表情を引き締め、持っていた書類――王都の商人ギルドから届いた速報をテーブルに広げた。
「……王都の動きがおかしいわ」
「おかしいって?」
「エドワード王太子よ。莫大な賠償金で国庫が底をつき、自分の支持基盤が完全に崩壊したことで、ついに正気を失ったらしいわ。王城の地下に封印されていた『王室専用・試作型魔導戦車』を無断で起動して、王都を出撃したそうよ」
クロエの言葉に、私はピタリと動きを止めた。
「彼が直接出撃した……? まさか、行き先って……」
「ええ。間違いなく、このポポロ村よ」
クロエは扇子を広げ、冷ややかな声で言った。
「『あの女のスキルがないと、私の国が滅んでしまう! 是が非でも連れ戻せ!』……ですって。自分のプライドすら投げ捨てて、武力であなたを拉致しに来るつもりよ」
(……あそこまで痛い目を見ておいて、まだ私を『便利な道具』として搾取しようとするの?)
私は深くため息をつき、こめかみを押さえた。
ブラック企業の末期症状だ。有能な社員が辞めて組織が回らなくなった時、経営者は反省するどころか、「あいつが裏切ったせいだ」「強引にでも連れ戻して働かせろ」と、さらなる理不尽を押し付けてくる。
「……レティシアさん」
心配そうな声に顔を上げると、お盆を持ったユリウスが、不安そうに私を見つめていた。
「あの、エドワード殿下って……レティシアさんの、元の婚約者の方ですよね」
「ええ、そうよ。私がこの村に来る原因を作った、最低の男」
私が吐き捨てるように言うと、ユリウスは少しだけ視線を伏せ、キュッとエプロンの端を握りしめた。
「……レティシアさんは、帰り、たいですか?」
「は?」
「だって、相手は王国の王子様で……僕は、ただの田舎の剣士で……」
「ユリウス」
私は立ち上がり、彼の大きな両手を、自分の両手でギュッと包み込んだ。
彼の氷色の瞳が、驚いたように見開かれる。
「私が、あんなブラック国家に帰るわけないでしょ。私はこの村で、あなたや皆と一緒に、ずっと楽しく生きていくって決めたのよ」
「れ、レティシアさん……」
「だからね。もしあいつが攻めてきても、私を守ってくれる?」
私が真っ直ぐに見つめてそう尋ねると、ユリウスは一瞬顔を赤く染めた後、まるで迷子の子供が親の手を握り返すように、私の手をギュッと握り返してくれた。
「……はいっ! もちろんです。僕が絶対に、レティシアさんをお守りします!」
ふにゃりと笑う、気弱で優しい最強の騎士様。
彼がそばにいてくれるなら、どんな理不尽がやってこようと怖くはない。
だが、この時の私はまだ知らなかったのだ。
この後やってくるエドワードの『傲慢な言葉』が、自分のためには決して怒らないこの心優しい青年の逆鱗に触れ、彼を再び『絶対零度の化け物』へと変貌させてしまうことになるということを――。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第2章の第2話、いかがでしたでしょうか。
天界の超絶ブラックな労働環境(給料18万、通信費2万、リボ払い、マグローザ漁船ドナドナの恐怖)が明かされました。社畜のトラウマを刺激されたレティシアは、当然のようにリリスを福利厚生で保護します! みたらし団子を頬張るリリスと、お世話を焼くユリウスの平和な空間、癒やされますね。
しかし、平和な日常の裏で、ついに「アイツ」が動き出しました。
国が崩壊寸前になり、レティシアを強制連行しようと迫り来る元婚約者・エドワード。
次回、第3話!
嵐の前の静けさの中、ユリウスの「優しすぎるが故の弱点」と、それを歯痒く思うレティシアの恋心が描かれます!
「天界ブラックすぎる(笑)」「ユリウスのヒロイン力が高い!」「元婚約者、絶対に許さん……!」と少しでも楽しんでいただけましたら、
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