第二章 『ブラック元婚約者の襲来とドナドナざまぁ!〜私のためだけに怒る最強騎士様のお姫様抱っこで、ついに私の心臓が限界です〜』
平和なホワイト村にピンクジャージの行き倒れ!? ペコペコ見習い女神様に福利厚生メシを振る舞う!
王国の悪徳貴族、ガルドス男爵の理不尽な強襲を退けてから数週間。
ポポロ村は、完全なる平和と活気を取り戻していた。
「よし、今月の村の収支報告書はこれで完成ね。月見大根の出荷量も右肩上がりだし、ポポロシガーの売上も絶好調。完全週休二日制を導入しても、生産性はむしろ上がっているわ」
村の中心にある24時間営業のファミレス『ルナキン・ポポロ支店』。
私はその一番奥のゆったりとしたボックス席を陣取り、村の行政書類に目を通していた。
ブラック国家(王国)の無能な上司たちに搾取されていた頃とは違い、自分の裁量で働きやすい環境(ホワイト領地)を整えていく仕事は、信じられないほど充実感があった。
「レティシアさん、お疲れ様です。書類仕事、ひと段落しましたか?」
ふわりと、温かい陽薬草茶の香りが漂ってくる。
顔を上げると、村の最高警備責任者に就任したユリウスが、お盆を持ってニコニコと立っていた。
長身で、氷の彫刻のように整った顔立ちの彼が、エプロン姿でお茶を運んできてくれるのだ。相変わらず見えない犬耳と尻尾がパタパタと揺れているようで、無自覚な愛嬌が振り撒かれている。
「ええ、ありがとうユリウス。村の見回りはどうだった?」
「異常なしです! マンミアさんたち自警団も、シフト制でしっかり休めているから絶好調だって言ってました。……あの、僕の淹れたお茶、熱すぎませんか? 大丈夫ですか?」
「ふふっ、ちょうどいい温度よ。とっても美味しいわ」
私が微笑むと、ユリウスは「よかったぁ」と嬉しそうに目尻を下げる。
あの夜、魔導戦車を瞬時に凍らせ、数百の軍隊を一瞬で制圧した「絶対零度の化け物」とは到底思えない。この圧倒的なギャップと純粋な優しさに、私は毎日少しずつ、確実に心臓を削り取られていた。
平和だ。
理不尽な残業も、悪意に満ちた命令もない、完璧なホワイトな日常。
このまま何事もなく、穏やかな午後が過ぎていくのだと、そう思っていた。
――カランコロン。
ルナキンの入り口のベルが、軽快な音を立てた。
しかし、それに続く足音は、およそ客のものとは思えなかった。
「……ずりっ、ずりりっ……」
何か、重いものが床を這いずるような音。
私とユリウスが顔を見合わせて入り口の方を見ると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「ひぃっ!? レ、レティシアさん、何か得体の知れない人が這ってますぅ!」
ユリウスがガクガクと震えながら、私の背中にサッと隠れる。(だから、護衛なんだから隠れないでちょうだい!)
「……お腹、すいたぁ……。みたらし、団子……」
床を這いつくばっていたのは、一人の少女だった。
ゆるふわなピンク色の髪を持つ、可愛らしい顔立ちの美少女。だが、問題はその服装だ。
彼女が着ているのは、上下スウェットの『ピンク色のジャージ』。しかも、胸元には前世の日本で車によく貼られていた『初心者マーク(若葉マーク)』がデカデカと刺繍されている。
さらに、彼女の足元に脱げかけているのは、足ツボを刺激するイボイボがついた『健康サンダル』。
(えっ……ジャージ? 健康サンダル? 初心者マーク!? この子、もしかして私と同じ転生者なの!?)
前世の記憶を強烈に刺激する装いに、私が目を白黒させていると、少女は力尽きたように床にペタンと突っ伏した。
「もう……だめ、です……。今月の給料18万なのに……天界税とリボ払いで……手取りが……息、できない……。誰か……ご飯……」
かすれ声でブラックすぎる家計事情を呟き、ピクリとも動かなくなるピンクジャージの少女。
その悲惨な言葉を聞いた瞬間、私の【元・社畜センサー】が激しく反応した。
(給料18万で、税金と借金引き落としで手取りが消滅!? なんて可哀想な……明日は我が身だった前世の私を見ているみたいだわ!)
「ユリウス! とりあえず彼女をこっちのソファー席に運んで!」
「は、はいっ!」
ユリウスがオドオドしながらも、少女を軽々と持ち上げてフカフカのソファーに寝かせる。
私はすぐさま、己のユニークスキルを発動させた。
「発動!【社員食堂(特製ランチセット)】!」
空間が歪み、テーブルの上に熱々の鉄板が召喚される。
乗っているのは、ポポロ村特産の『たまんネギ』をじっくりと炒めて甘みを引き出した、特大の『和風ハンバーグ』。それに、山盛りの『サンライス(黄金米)』と、栄養満点のコンソメスープだ。
状態異常を回復し、全ステータスに強力なバフを付与する、私の最強の福利厚生メシである。
「んんっ……!? こ、この芳醇なお肉の香りは……っ!」
ハンバーグから立ち上る湯気を嗅いだ瞬間、行き倒れていた少女がゾンビのようにガバッと跳ね起きた。
「食べていいわよ。遠慮しないで」
「いただきますっ!!」
私が言うが早いか、少女はナイフとフォークを光の速さで手に取り、特大ハンバーグにかぶりついた。
はふっ、もぐもぐもぐ!と、まるで数日間何も食べていなかったかのような猛烈な勢い。
「お、おいひぃぃぃーっ! お肉が口の中でとろけますぅ! ネギの甘みと醤油草のソースが絶妙に絡み合って……ああっ、天界の泥水みたいな青汁とは大違いですっ!」
少女は感動の涙をボロボロと流しながら、特大ハンバーグをわずか数分でペロリと平らげてしまった。
「ぷはーっ! 生き返りました! ……あの、おかわりはありますか?」
「ええっ!? あ、あるけど……」
「じゃあ、あと二杯お願いします!」
結局、彼女は特大和風ハンバーグ定食を『合計三杯』も平らげ、食後のハニーかぼちゃプリンまで完食して、ようやく満足そうにふうっと息を吐いた。
「レ、レティシアさん……あんなに細いのに、すごい食欲ですね。僕より食べるかも……」
ユリウスが目を丸くして感心している。
「ふぅ、ごちそうさまでした!」
少女は口元をナプキンで拭うと、コホンと一つ咳払いをして、居住まいを正した。
ピンク色の初心者マーク入りジャージを着たまま、どこから取り出したのか、手のひらサイズの羊皮紙をチラチラと見ながら口を開く。
「えー、コホン。下界の人間たちよ、我に極上の食事を捧げたその信心深さ、見事である。女神に食事を奢るなんて、なかなか見所がありますね!」
「……は? 女神?」
私が首を傾げると、少女はエッヘンと胸を張った。
「そうです! 私は、第4種・惑星創造神格公務員見習い! 天界でも希少な『本物の17歳』である、見習い女神のリリスです!」
ドンッ!と効果音がつきそうなドヤ顔をキメるリリス。
彼女はジャージのポケットから、分厚い耐衝撃用のハードケースに入った魔導端末――『エンジェルすまーとふぉん』を取り出し、私たちに見せつけた。
「……えっと。そのジャージと健康サンダルは?」
「これは、ルチアナ先輩(世界神)から賜った、由緒正しき天界の『基本正装』です! 動きやすくて最高なんですよ!」
(……あ、これ、絶対先輩の神様に適当な嘘教えられて遊ばれてるわね)
あまりにも不憫すぎる。
給料18万で天界税を搾り取られ、先輩には嘘の正装を着せられ、常に借金取りの恐怖に怯えながら下界のファミレスで行き倒れる見習い女神。
前世でブラック企業に勤めていた私の魂が、「この子をこのまま放っておいてはいけない」と激しく告げていた。
「ねえ、リリスちゃん。あなた、行く当てがないなら、この村の福利厚生に入らない?」
「えっ!? 本当ですか!?」
「ええ。とりあえず、ルナキンでのご飯と、みたらし団子の食べ放題くらいは保証してあげるわ」
「神ぃぃぃぃっ!! あ、私が神なんですけど、レティシアさんは女神以上の大女神様ですぅぅっ!!」
リリスは私の腰にガシッと抱きつき、ワンワンと泣き始めた。
後ろでユリウスが「わぁ、仲間が増えましたね!」と暢気に笑っている。
こうして、平和なはずのホワイト領地・ポポロ村に、おっちょこちょいで大食らいな『見習い女神(17歳・ピンクジャージ)』という、新たなカオスな住人が加わることになったのである。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第2章の開幕です!
王国のブラックな理不尽を退け、平和になったポポロ村。そこに現れたのは、上下ピンクジャージに健康サンダルというファンタジー崩壊の出立ちをした、見習い女神のリリス(17歳)でした!
ブラックすぎる天界の労働環境に同情した社畜OLレティシアは、あっさりと彼女を保護(福利厚生の対象)してしまいます。
そして、相変わらずエプロン姿でお茶を淹れてくれるオドオド系最強騎士・ユリウス。
平和で騒がしい日常が始まりましたが、王都の「あの男」は、まだレティシアを諦めていないようで……?
「リリスの服装ヤバい(笑)」「天界ブラック企業すぎるだろ!」「ユリウスのエプロン姿可愛い!」と少しでも楽しんでいただけましたら、
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どうか、引き続きポポロ村のドタバタと焦れ焦れな恋の行方を応援よろしくお願いいたします!




