ブラック国家の完全崩壊。そして、世界一の『ホワイト領地』高らかに宣言す!
ブラック国家の完全崩壊。そして、世界一の『ホワイト領地』高らかに宣言す!
「……ふふっ、あははははっ! 傑作、まさに痛快ね!」
すっかり元の美しい姿――いや、以前よりもはるかに強固で近代的に復興を遂げたポポロ村の広場。
新設されたオープンテラスのカフェスペースで、クロエは王都の商人ギルドから届いた速達の手紙を読みながら、腹を抱えて大爆笑していた。
「どうしたの、クロエ。そんなにはしたない笑い声を上げて」
「レティシア、これを聞いたらあなたも笑いが止まらなくなるわよ。……王都のエドワード殿下、ついに過労とストレスで倒れたそうよ」
「えっ?」
私が目を丸くすると、クロエは扇子で口元を隠し、意地悪な笑みをさらに深めた。
「私が叩きつけた『緩衝地帯への不法侵攻に対する違約金及び賠償金』の請求書。あの莫大な金額を払うために、エドワード殿下は王家の隠し財産から何から全てを切り崩す羽目になったの。当然、彼を支持していた貴族たちも『こんな無能な王太子にはついていけない』って、次々と手のひらを返して離反したわ」
「……自業自得ね」
「それだけじゃないわ。あなたが抜けた後の王城の執務、代わりの官僚たちじゃ全く処理しきれなくて、今、王都の行政は完全に麻痺しているの。エドワード殿下は借金の言い訳と、山積みの書類処理に追われて、三日三晩一睡もできずに泡を吹いて倒れたんですって」
クロエの報告を聞いて、私は冷めた紅茶を一口飲んだ。
かつてなら、「殿下が倒れた! 私が代わりに徹夜で仕事を終わらせなきゃ!」と青ざめていただろう。
だが今の私には、彼の不幸を聞いても、そよ風ほどの感情すら湧かなかった。
「……そう。せいぜい、今まで私に押し付けてきた『理不尽な労働』の重みを、自分の身をもって味わえばいいわ」
私を過労死寸前まで使い潰し、都合よく切り捨てたブラック国家。
その末路は、あまりにも惨めで、自業自得としか言いようのないものだった。もう、あの国がどうなろうと私の知ったことではない。
私には今、守るべき大切な『会社(村)』と『社員(仲間)』がいるのだから。
「カッカッカ! いい面構えになったじゃねぇか、レティシアのお嬢ちゃん!」
背後から響いた豪快な声に振り返ると、そこにはポポロシガーを吹かすネギオ先生と、ピカピカに磨き上げられた魔導装甲を纏うマンミアが立っていた。
彼らの後ろには、復興作業を終えた村人たちが、なぜか全員集合してこちらを見つめている。
「ネギオ先生、マンミアさん。それに、皆さんも……どうしたんですか、こんなに集まって」
「どうしたもこうしたもねぇよ。この村の村長は、女と金を作って高飛び(バックレラビリンス)したまんまだ。ガルドス男爵の襲撃からも救ってもらった上、復興まで金を出してもらった。……ワシらポポロ村の命運は、もうお前さんたちに預けるしかねぇってことだ」
「えっ?」
ネギオ先生がニヤリと笑って道を空けると、マンミアが静かに進み出て、私の前で片膝をつき、騎士としての最上級の礼をとった。
「レティシア様、クロエ様。そして、ユリウス殿」
マンミアは真摯な瞳で私たちを見上げる。
「あなた方の知恵と、圧倒的な力、そして何より……見返りを求めないその深い慈愛に、私たちは心から救われました。どうか、このカオスな辺境の村を……私たちを導く、新たな『領主』となってはいただけないでしょうか!」
「「「レティシア様! クロエ様! 俺たちのボスになってくれぇぇぇっ!!」」」
マンミアの言葉に呼応するように、数百人の村人たちが一斉に頭を下げ、懇願の声を上げた。
私は驚きで息を呑んだ。
前世では、誰からも評価されず、ただの使い捨ての駒として死んでいった。
今世でも、能力だけを搾取され、最後には無実の罪で追放された。
そんな私が、こんなにも多くの人たちから必要とされ、心からの信頼を寄せられている。
胸の奥から、熱いものが込み上げてくるのが分かった。
「……レティシア」
隣に立つクロエが、ポンと私の肩を叩いた。
「私は経済と法律の裏方に回るわ。表舞台に立って、この村を最高の場所に導くのは……『無限の福利厚生』を持つ、あなたしかいないわよ」
彼女の力強い言葉に、私は深く頷いた。
そして、立ち上がって村人たちを真っ直ぐに見渡す。
「――皆さんの気持ち、しっかりと受け取りました。私、レティシア・ヴァレンシュタインが、このポポロ村の新たな責任者(領主)として、皆さんを導くことを誓います!」
ワァァァァッ!と、割れんばかりの歓声が広場を包み込む。
私は【経費精算】で取り寄せた魔導拡声器を手に取り、声を張り上げた。
「ですが、私から一つだけ、絶対に守ってもらいたい『就業規則』があります!」
歓声が静まり、全員が固唾を飲んで私の言葉を待つ。
私は、前世からの夢であり、このスキルに込められた強い反逆の意思を、高らかに宣言した。
「これより、このポポロ村を世界一の『ホワイト領地』とします!
理不尽な長時間労働(残業)は一切禁止!
週に二日の完全な休暇を義務付け、体調が悪い時は無条件で有給休暇(プレミアム・スパ付き)を取得すること!
そして、美味しいご飯(社員食堂)を毎日お腹いっぱい食べること!
――私の【無限の福利厚生】で、皆さんの生活と健康は、私が全責任を持って保証します!!」
「「「うおおおおおおおおっっ!!!」」」
村人たちのボルテージが最高潮に達した。
農家のおじさんたちは抱き合って涙を流し、人参マンドラたちは嬉しそうに畑を走り回り、ネタキャベツは「号外よー! ブラック国家終了とホワイト村誕生よー!」と叫んでいる。
マンミアも「ああ……これで私も、心身の健康を保ったまま、素敵な出会い(お婿さん探し)に注力できます……っ!」と涙ぐみながら祈りを捧げていた。(相変わらず切実である)
「ふふっ。最高の就任演説だったわよ、レティシア社長」
「ありがとう、クロエ専務」
私たちが笑い合っていると、広場の隅でモジモジと立っていたユリウスが、オドオドしながら近づいてきた。
「あ、あのぅ……レティシアさん。領主様への就任、おめでとうございます……っ。その、僕は、どうすれば……?」
ユリウスは大きな体を縮こまらせ、上目遣いで私の顔色を窺う。
村が新しい体制になることで、「役立たずの自分はクビになるのでは」とでも思っているのだろう。本当に、どこまでも自己評価の低い最強剣士様だ。
「ユリウス。あなたには、この『ホワイト領地』を守るための、最も重要なポストについてもらうわ」
「ひゃいっ!? じゅ、重要なポスト……!?」
「ええ。ポポロ村・専属の『最高警備責任者』よ。……これからも、私のそばで、私とこの村を守ってくれるかしら?」
私が真っ直ぐに彼の氷色の瞳を見つめてそう言うと、ユリウスの顔がボンッ!と音を立てて真っ赤に染まった。
「そ、そんな大層な役職、僕みたいな臆病者には……っ」
「駄目? 私は、ユリウスじゃないと嫌なんだけど」
少しだけ首を傾げて、上目遣いでお願いしてみる。
すると、ユリウスは「うぅ……っ」と数秒間葛藤するように視線を泳がせた後、観念したように小さく息を吐いた。
「……レティシアさんにそう言われたら、断れるわけないじゃないですか」
彼は恥ずかしそうに頬を掻きながら、けれど、昨夜私を助けてくれた時と同じ、静かで強い光を瞳に宿して微笑んだ。
「僕でいいなら。……この村と、あなたの笑顔は、僕が必ず守ります」
――ドクン。
まただ。
この人は、こういう時だけ、無自覚に私の心臓を射抜くような顔をする。
「……よ、よろしく頼むわね、ユリウス」
「はいっ! とりあえず、村の周囲の防衛ラインに氷の罠を張ってきますね! えへへ、頑張るぞー!」
尻尾を振りながら駆け出していく彼の大きな背中を見つめながら、私は火照る頬を両手で挟み込んだ。
(……ああもう、本当に。早く私に振り向かせないと、こっちの心臓が持たないわ)
ブラック国家の理不尽な追放から始まった私の第二の人生。
だがそれは、最強の親友と、優しくて強すぎる鈍感な騎士、そしてカオスで温かい仲間たちと共に歩む、世界で一番幸せな『ホワイト領地』の始まりだったのだ。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第14話、ついにブラック国家の王太子(元婚約者)の完全なる没落と、ポポロ村の『ホワイト領地宣言』でした!
過労で倒れた王太子に対し、レティシアは一切の未練も怒りもなく「自業自得ね」と切り捨てる。有能社畜OLらしい、最高の精神的ざまぁ(決別)です。
そして、村人たちから新たな領主として迎えられたレティシア。福利厚生の力で、絶対にブラック労働を許さない最強の村が誕生しました!
そしてユリウスは、最高警備責任者に任命されました。
相変わらずオドオドしていますが、「レティシアさんに言われたら断れない」「あなたの笑顔は守る」と、無自覚な殺し文句(タラシ発言)を連発して、レティシアの心臓を酷使しています(笑)。
第一章は、次回の第15話でエピローグとなります!
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