社畜OLの逆襲!【無限の福利厚生】で気弱な最強剣士を骨抜きにする作戦、開始
社畜OLの逆襲!【無限の福利厚生】で気弱な最強剣士を骨抜きにする作戦、開始
ガルドス男爵の夜襲から一夜明けた、ポポロ村。
魔導戦車の主砲によって吹き飛ばされた広場や、焼け焦げた畑の無惨な光景を前に、普通なら誰もが絶望して途方に暮れるところだろう。
だが、私――元・社畜OLにして、今は【無限の福利厚生】を司る令嬢レティシアにとっては、この程度のトラブル、前世での「納期前日の仕様変更(全ボツ)」に比べれば可愛いものだった。
「はい、発注完了! 次、ドワーフ製の組み立て式・高断熱住宅キットが30棟届くから、広場の西側から順に展開してちょうだい! 整地作業は魔導ゴーレムに任せて!」
私は広場の中央に仮設のデスクを構え、空中に展開された光るパネルのキーボードを猛烈な勢いで叩いていた。
【経費精算】スキルをフル稼働させ、ドンガン地下帝国から最高級の建築資材、農業用土壌回復ポーション、そして労働力となる自動魔導ゴーレムを次々と「経費」で取り寄せているのだ。
「す、すげぇ……たった半日で、村の家が前より立派に建っていくぞ!?」
「畑の土も、ポーションであっという間にふかふかに戻った! レティシア様は魔法使いどころか、もはや創造神様だぁ!」
村人たちが歓喜の声を上げる。
私はふうっと一息つき、冷たい陽薬草茶を飲んで喉を潤した。プロジェクトマネジメントは完璧だ。
「お疲れ様、有能な現場監督さん」
カツン、とヒールを鳴らして、クロエが分厚い書類の束を抱えてやってきた。
「クロエ、そっちの事後処理はどう? 王城のブラック王子は泣いてるかしら」
「ええ、もう大パニックよ」
クロエは意地悪な笑みを浮かべ、書類をパラパラと捲った。
「ガルドス男爵と私兵部隊の身柄は、予定通りドンガン地下帝国の最下層鉱山へ『賠償金のカタ』として引き渡したわ。ドワーフたちもタダで優秀(?)な労働力が手に入って大喜びよ。今頃、男爵はツルハシを持たされて泣きながら石を砕いているでしょうね」
「自業自得ね。で、エドワード殿下は?」
「王都の商人ギルドを通じて、王国に『超法規的緩衝地帯への武力侵攻に対する違約金及び賠償金』の請求書を叩きつけてやったわ。額面を見た瞬間、王太子殿下は泡を吹いて倒れたそうよ。他国(獣人王国や魔皇国)にこの事実がバレれば大義名分を与えてしまうから、国庫を空にしてでも払わざるを得ないわね」
クロエの言葉に、私はスッと胸のつかえが下りるのを感じた。
私を過労死寸前まで使い潰し、都合よくポイ捨てしたブラック国家。そのツケが、ようやく彼ら自身に回ったのだ。
もう、あの国に未練も怒りもない。私はこのポポロ村で、私の大切な社員(仲間)たちと最高のホワイト領地を作るだけだ。
「あ、あのぅ……レティシアさん。瓦礫の撤去、終わりました……」
そこへ、泥だらけになったユリウスが、巨大な戦車の装甲板(重さ数トン)を片手で軽々と引きずりながらやってきた。
「ひぃっ、ご、ごめんなさい! 僕が昨日の夜、戦車を凍らせすぎちゃったせいで、解体作業の手間を増やしてしまって……! 本当に役立たずでごめんなさ……」
「ユリウス、ストップ。謝る必要なんてどこにもないわ」
オドオドと犬耳(幻覚)を垂れ下げる彼に、私はピシャリと言い放った。
昨夜、数百人の軍隊をたった一人で無血制圧し、私を守り抜いてくれた圧倒的な氷の騎士。その化け物じみた実力を持ちながら、彼は相変わらず自己評価がミジンコレベルなのだ。
(……でも、そんなところも可愛いから困るのよね)
私は心の中でニヤリと笑うと、彼に向かってとびきりの笑顔を向けた。
「ユリウス。あなたは昨夜、この村の誰よりも大きな功績を上げたわ。だから、会社(私)からあなたに『特別ボーナス』を支給します」
「と、特別ボーナス、ですか……?」
「ええ。発動! 【有給休暇】!」
私が指を鳴らすと、ユリウスの足元に光の魔法陣が出現し、空間がパカッと割れた。
その奥には、ほのかに硫黄の香りが漂う、湯気を立てる極上の露天風呂(亜空間)が広がっている。
「ひゃいっ!? お、お風呂が空間の中に!?」
「泥だらけなんだから、しっかり疲れを癒やしてきなさい。さあ、行ってらっしゃい!」
「わぁぁっ!」
私がドンッと彼の広い背中を押すと、ユリウスは情けない声を上げながら温泉空間へと吸い込まれていった。
この【有給休暇】は、対象者の肉体的な疲労を強制的にリセットし、極上のリラクゼーションを提供するチートスキルだ。
「……随分と手厚い福利厚生ね。あの子を本気でオトすつもり?」
横で見ているクロエが、扇子で口元を隠しながらニヤニヤと笑う。
「当然よ。あの鈍感で気弱な大型犬には、言葉で言っても伝わらないわ。だから、私の福利厚生(胃袋と癒やし)で完全に包囲して、私なしでは生きられないように骨抜きにしてやるのよ」
元社畜OLの有能さを、なめてもらっては困る。
私は【社員食堂】のスキルパネルを開き、彼が風呂上がりにお腹を空かせて出てくるタイミングを計算して、最高級の料理の仕込みを始めた。
――数十分後。
「はぁぁ……すごいです、レティシアさん。体が羽みたいに軽くて、お肌までツルツルに……っ」
温泉空間から戻ってきたユリウスは、湯上がりで頬をほんのりと上気させ、氷色の髪を少し濡らしていた。
無造作にタオルで髪を拭くその仕草と、滴る水滴が鎖骨を伝う色気に、私は思わず「っ……」と息を呑み、危うく鼻血を出しそうになった。
(い、いけない。骨抜きにするつもりが、こっちが直視できないわ……! 顔が良すぎるのよ!)
私は激しく動揺する心臓を悟られないよう、咳払いを一つして、用意していたテーブルへと彼を案内した。
「さあ、ユリウス。湯上がりの後は、しっかり栄養補給よ」
「うわぁっ……!」
テーブルの上に並べられたのは、【社員食堂】で錬成した極上のフルコースだ。
メインは、ポポロ村の特産品『たまんネギ(賢者モード)』をふんだんに練り込み、ロックバイソンの挽肉で焼き上げた『特大ハンバーグ・ソーリーフソース仕立て』。
そして、甘みたっぷりの『ハニーかぼちゃの濃厚ポタージュ』と、ふっくら炊き上がった『サンライス(黄金米)』。
「こ、こんな豪華な食事……僕みたいな下っ端の護衛が、本当に食べていいんですか?」
「下っ端なんて言わないの。あなたは私の、大切な……大切な護衛なんだから。さあ、冷めないうちにどうぞ」
私が促すと、ユリウスは震える手でナイフとフォークを握り、ハンバーグを一口大に切って口に運んだ。
その瞬間。
「…………っ!」
彼の瞳から、大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちた。
「ゆ、ユリウス!? どうしたの、熱かった!?」
「ち、違います……っ! ひぐっ、あまりにも美味しくて……っ。お肉は噛まなくても解けるくらい柔らかくて、ソースはコクがあって……それに、体がポカポカして、優しい味がして……っ」
ユリウスは子供のように泣きじゃくりながら、ものすごい勢いでハンバーグとご飯をかき込み始めた。
「父さんの修行が厳しくて、まともなご飯なんて何年も食べたことなくて……。こんなに温かくて、美味しいご飯を僕のために作ってくれるなんて……うぅっ、レティシアさん、女神様みたいだぁ……!」
「も、もう。泣きながら食べたら喉に詰まるわよ」
私は苦笑しながら、ハンカチで彼の目元を優しく拭ってあげた。
最強の氷結魔法を使い、数百人を一瞬で制圧する男が、手作りのハンバーグ(福利厚生)で大泣きしている。
その圧倒的なギャップと、純粋すぎる反応に、私の胸はたまらなくキュンと締め付けられた。
「レティシアさん……っ、僕、剣の才能は全然ないダメな奴ですけど、あなたのことは一生、命にかけてお守りします! だから、ずっとそばに置いてくださいぃっ!」
犬耳と尻尾をぶんぶんと振る幻覚が見えるほどの、忠誠心(?)の告白。
それは私が望んでいる『恋愛感情』とはまだ違う、忠犬としての真っ直ぐな慕情だった。
(……この様子だと、恋を自覚させるには、まだまだ時間がかかりそうね)
だけど、焦る必要はない。
私たちを縛る理不尽なブラック国家はもういない。ここは、私が創り上げた最高のホワイト領地だ。時間はたっぷりとあるのだから。
「ええ、もちろんよユリウス。……覚悟しておきなさい。私、一度雇った優秀な社員は、一生手放すつもりはないんだから」
私は彼の頭を優しく撫でながら、最高の笑顔でそう宣言した。
追放された社畜OLと、気弱な最強魔法剣士。
そして最強の親友や、カオスな村の仲間たち。
私たちの理不尽をぶっ飛ばす、痛快でホワイトな異世界スローライフ(と、少し焦れ焦れな恋の攻防戦)は、ここからが本当の始まりだ。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
第13話、事後処理と復興、そしてレティシアの「福利厚生によるヒーロー骨抜き作戦」の開始でした!
クロエの手によって、ガルドス男爵はドンガン地下帝国での強制労働(ツルハシ生活)へ。エドワード王太子の元には莫大な賠償金請求が届き、ブラック国家は崩壊へのカウントダウンが始まりました。
そして、ユリウスの入浴シーン(レティシアの精神的ダメージ大)からの、手作りハンバーグで号泣するチワワ剣士(笑)。
戦闘時のタキシード仮面状態とのギャップが凄まじいですが、レティシアは「一生手放さない(ヒロイン宣言)」とすっかりお買い上げの様子です。
第一章の骨子に沿った物語は、次回で一つの大きな区切りを迎えます。
「ユリウス可愛すぎる!」「飯テロハンバーグ食べたい」「クロエの追い打ちがエグくて最高!」と楽しんでいただけましたら、
ぜひページ下部(または右上)の**【★で称える(ポイント評価)】**から、星3つ(★★★)での全力応援をよろしくお願いいたします!
皆様の【ブックマーク】と【評価ポイント】が、この物語の「第二章」を切り開くための最大の経費となります!
どうか、清き福利厚生の星をよろしくお願いいたします!




