圧倒的温度差! 元に戻ったチワワ系魔法剣士と、社畜OLの恋の決意
圧倒的温度差! 元に戻ったチワワ系魔法剣士と、社畜OLの恋の決意
月明かりに照らされたポポロ村の広場。
数百人の王国私兵部隊と、巨大な魔導戦車。それらが全て、たった一人の青年の手によって一滴の血も流れることなく、青白い氷の彫像へと変えられていた。
ダイヤモンドダストのように舞い散る氷の粒子が、キラキラと幻想的な光を放っている。
その光の中心で、静かに剣を鞘に納めるユリウスの背中。
震える足で私の前に立ち塞がり、圧倒的な武力と知略で理不尽を叩き潰した、氷の騎士。
(あぁ、私……完全に、心を持っていかれたわ)
胸の奥で、カチャリと音がした。
前世の社畜時代から今世に至るまで、誰かに守ってもらったことなんて一度もなかった。都合よく利用され、搾取されるだけの人生だった。
でも彼は違った。自分の身の危険を顧みず、純粋な『優しさ』と『正義感』だけで、私を、この村を護り抜いてくれたのだ。
その事実が、凍りついていた私の心を、甘く、強く溶かしていく。
ゆっくりと、ユリウスがこちらを振り返った。
冷徹で、感情のない絶対零度の処刑人のような瞳。その眼差しと目が合った瞬間、私の心臓は早鐘を打ち、顔にブワッと熱が集まるのがわかった。
「ユ、ユリウス……私――」
お礼を言わなきゃ。
そして、どうにかしてこの早鐘を打つ鼓動をごまかさなきゃ。
私が慌てて言葉を紡ごうとした、その時だった。
「ひ、ひぃぃっ! や、やりすぎちゃったかな!?」
――へ?
「ご、ごめんなさいレティシアさんっ! 僕、あの、ついカッとなっちゃって……! こんな氷漬けにするなんて、すごく怖かったですよね!? ひぃっ、父さんに知られたら『お前はまた手加減ができないのか!』って大目玉食らっちゃう……!」
空気が、抜けた。
先ほどまでの冷徹な化け物はどこへやら。ユリウスは目に見えない犬の耳と尻尾をシュンと垂れ下げ、両手を顔の前でわたわたと振ってオドオドし始めたのだ。
完全にいつもの、ビビりで気弱な青年に逆戻りしている。
「あ、怪我はないですか!? 僕、遅れちゃって……本当にごめんなさい、嫌いにならないでくださいぃ……っ」
「え、あ、ううん……怪我はないわよ。あなたのおかげで、私もこの子も、無事だったわ。……ありがとう、ユリウス」
あまりの温度差にずっこけそうになりながらも、私はクスッと笑い、彼に抱きついて泣いていた子供の頭を撫でた。
「お兄ちゃん……すっごく、すっごく強かった! かっこよかった!」
子供が涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を上げ、ユリウスに満面の笑みを向ける。
「えっ? かっこ、いい……? あ、あはは、そんなことないよ。君が無事で、本当によかった」
ユリウスは照れ臭そうに頭を掻き、ふにゃりとした無防備な笑顔を見せた。
その優しくて情けない笑顔を見て、私は確信した。
(――ああ、この人。自分がどれだけヤバい実力を見せたのか、そして私がどれだけ彼にときめいているのか、1ミリも気づいてないわ)
彼は私を特別扱いして助けたわけではない。「理不尽から弱者を助けた」という、ただそれだけの純粋な善意で動いただけなのだ。
あまりの鈍感さと自己評価の低さに、私は溜め息をつきたくなるのを必死に堪えた。
「お見事ね、うちのワンちゃん。最高の見せ場だったわよ」
カツン、とヒールの音を響かせながら、瓦礫の陰からクロエが歩み寄ってきた。
彼女は氷漬けになった魔導戦車と数百の私兵を見渡し、満足そうに扇子を広げる。
「まさか、王国の精鋭部隊を相手に、血の一滴も流させずに完全制圧するなんてね。……ネギオ先生の言う通り、とんでもない化け物を拾ったわ、レティシア」
「クロエさん、化け物だなんて……僕、ただちょっと氷の扱いが得意なだけで……」
「謙遜もそこまでいくと嫌味よ? まあいいわ、事後処理は私が引き受けるわ」
クロエはそう言うと、首から下を完全に分厚い氷に覆われ、白目を剥きかけているガルドス男爵の元へと歩み寄った。
「さて、ガルドス男爵。あなたの横暴な行いの結果がこれよ。ポポロ村の住人への殺人未遂、不法侵入、器物破損、さらには三国間条約の重大な違反行為」
「あ……うぅ……っ」
ガルドス男爵は歯の根を合わさず、ガチガチと震えながらクロエを見上げた。
「あなた方全員、ポポロ村の『捕虜』として認定します。王国に莫大な賠償金を請求する旨の通達は、明日一番で出すわ。もし王太子殿下が支払いを拒否したり、あなたをトカゲの尻尾切りにするようなら……」
クロエは悪魔のような極上の笑みを浮かべた。
「ドンガン地下帝国の最下層鉱山に、あなたたちを労働力として売り飛ばすわ。一生、陽の光を拝めない場所で、ドワーフの鞭に打たれながらピッケルを振り続けるといいわね」
「ヒィィィィッ……!」
ガルドス男爵は、その場であっさりと気絶した。
圧倒的な『知恵(法律と経済)』による、容赦のないトドメの宣告だった。
「……さすがね、クロエ。これでエドワード殿下も、迂闊にこの村に手を出せなくなるわ」
「ええ。むしろ、ガルドス男爵の暴走の責任を問われて、王国内部で失脚の危機に陥るはずよ。自業自得ね」
クロエが肩をすくめていると、バフの力で回復したマンミアが、自警団の面々を引き連れてこちらへ駆け寄ってきた。
「レティシア様! クロエ様! ご無事ですか!」
「マンミアさん、あなたたちこそ……」
「私たちは、レティシア様のバフのおかげで無事です。しかし……」
マンミアは、ユリウスが創り出した広大な氷の惨状を見渡し、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
「これほどの魔法と剣術……王国の近衛騎士団長を長年務めた私でも、全く目で追えませんでした。ユリウス殿。あなたは一体、何者なのですか?」
「ひゃいっ!? な、何者でもないです! ただの田舎の剣士で、ちょっと父さんが厳しかっただけで……っ」
尊敬と畏怖の眼差しを向けるマンミアに対し、ユリウスはまたしても私の背中にサッと隠れてしまった。(だから、デカいんだからはみ出してるわよ)
「まあ、彼の素性はゆっくり聞き出すとして。……レティシア、被害の全容把握と、今後の対策が必要ね。村の復興もしなきゃならないし」
「ええ、任せて。私のスキル【経費精算】があれば、復興資材なんて明日には全部揃えられるわ。それに、今回はガルドス男爵から『賠償金』という名目で、たっぷりと予算を毟り取れるんだもの」
私は気合を入れ直し、両頬をパンッと叩いた。
理不尽なブラック国家からの刺客は、私とクロエの知恵、そしてユリウスの圧倒的な力によって完全に撃退された。
この事件を機に、ポポロ村の武装中立地帯としての名声(と悪名)は、世界中に轟くことになるだろう。
私は、背中で「ふぅ、怒られなくてよかったぁ」と安堵しているユリウスを振り返った。
(……この鈍感で気弱な最強剣士様。私をこんなにドキドキさせておいて、自分だけ平然としているなんて、なんだか悔しいわね)
私は心の中で、固く決意した。
前世では会社に搾取され、今世ではブラック王子に搾取された。
でも、今の私には【無限の福利厚生】がある。
美味しいご飯も、温かいお風呂も、最高の労働環境も、なんだって提供できるのだ。
(絶対に……私が、この人を私の福利厚生で幸せにしてやるんだから!)
彼が私の想いに気づくのが先か。
それとも、私が彼を福利厚生で完全に骨抜きにして「私なしでは生きられない体」にするのが先か。
理不尽から解放された有能社畜OLの、最強のホワイト村作りと、少しだけ焦れ焦れな恋の攻防戦は、まだ始まったばかりである。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
第12話、これにてユリウス覚醒からの『ギャップ萌え(温度差)』を描いた一連の戦闘パートが終了です!
冷徹な化け物から「怒られちゃう!?」と慌てるチワワへの急転直下。ヒロインのレティシアも、呆れつつ完全に恋に落ちてしまいました。
しかも「私の福利厚生で幸せにしてやる!」と決意を固める、有能社畜OLらしい逆プロポーズ(心の中)宣言。
クロエの容赦ない賠償金請求(強制労働送り)も炸裂し、ポポロ村の防衛戦は完璧な大勝利で幕を閉じました!
第一章も残りわずか。
次回の第13話からは、村の復興と、レティシアによる「福利厚生(胃袋と癒やし)によるヒーロー包囲網」がスタートします!
「ユリウスの温度差ワロタ」「レティシア、福利厚生で囲い込み作戦か(笑)」「クロエの追い打ち最高!」と楽しんでいただけましたら、
ぜひページ下部(または右上)の【★で称える(ポイント評価)】から、星3つ(★★★)での全力応援をよろしくお願いいたします!
皆様の【ブックマーク】と【評価ポイント】が、この物語の続きを執筆するための最高の【経費】となります!
どうか、社畜OLと気弱な最強魔法剣士の恋の行方を、引き続き応援よろしくお願いいたします!




