理不尽なる夜襲。悪徳貴族の魔導戦車と、逃げ惑う村人たちを守る盾
理不尽なる夜襲。悪徳貴族の魔導戦車と、逃げ惑う村人たちを守る盾
深夜。
私がユリウスの上着を借りて自室に戻り、少しだけ微睡みかけたその時だった。
――ズドォォォォォンッ!!
突如として、大地を揺るがすほどの凄まじい爆発音が、静かなポポロ村に響き渡った。
窓ガラスがビリビリと震え、棚から小物が滑り落ちる。
「……っ!? 何事!?」
私がベッドから跳ね起きた瞬間、バンッ!と勢いよく部屋の扉が開いた。
「レティシア、起きているわね! 外へ出るわよ!」
寝巻き姿の上にコートを羽織っただけのクロエが、険しい顔で飛び込んできた。彼女の目は、いつもの余裕ある商人のそれではなく、完全な戦場モードに切り替わっていた。
「クロエ! 今の爆発音は……まさか」
「ええ、あなたの最悪の予想が的中したわ。ガルドス男爵よ。連中、夜陰に乗じて『野盗』のフリをして村に強襲をかけてきたの!」
窓の外を見ると、村の入り口付近の空が赤々と燃え上がっていた。
怒号と悲鳴。そして、重低音を響かせる魔導機関の駆動音。
(……なんて理不尽なの。法律も条約も無視して、ただ自分のプライドと欲を満たすためだけに、無関係な村人たちを巻き込むなんて……!)
前世のブラック企業で、上司の理不尽な命令で心身を壊していった同僚たちの顔がフラッシュバックする。
私はギリッと奥歯を噛み締め、着の身着のままでクロエと共に外へと飛び出した。
「急げ! 非戦闘員は地下シェルターへ避難しろ! 第一防衛ライン、魔導地雷の起爆準備!」
広場に出ると、ケンタウロス族の自警団リーダー・マンミアが、炎に照らされながら獅子奮迅の指揮を執っていた。
彼女の右腕に装備された大型シールド『アグニ』には、すでに幾つもの焦げ跡がついている。
「ギャハハハハッ! 俺たちは通りすがりの野盗だァ! 命が惜しければ、この村の金目のものと、ポポロシガーを全部置いていきなァ!」
村に雪崩れ込んできたのは、顔を布で隠した数百人の男たち。
だが、彼らが手にしているのは王国軍の正式な魔導銃であり、その後方には、昼間に見た巨大な『魔導戦車』が砲身をギラつかせて鎮座していた。
野盗の仕業に見せかけるという、あまりにもお粗末で卑劣な偽装工作だ。
「ふざけるな! 自警団、撃てェッ!」
マンミアの号令と共に、私が【経費精算】で揃えた魔導ライフルやバズーカが一斉に火を吹く。
ドンガン地下帝国製の最新兵器は絶大な威力を発揮し、前衛の私兵たちを次々と薙ぎ払っていく。さらに、村の入り口に仕掛けておいた魔導地雷が連鎖的に爆発し、敵の進軍を大きく食い止めた。
「レティシア様! ここは危険です、早くシェルターへ!」
私とクロエの姿を認めたマンミアが叫ぶ。
「マンミアさん! 状況は!?」
「敵の数が多すぎます! さらに後方の魔導戦車が厄介で……っ、村の防衛結界も、長くは持ちません!」
彼女の言葉通り、敵は倒れても倒れても、数の暴力でジリジリとラインを押し上げてくる。
さらに、後方の魔導戦車から放たれる榴弾が、村の畑や建物を次々と吹き飛ばしていく。
月見大根の畑が燃え、太陽芋の貯蔵庫が崩れ落ちる。村人たちが血と汗を流して育てた結晶が、理不尽な暴力によって無惨に踏みにじられていく。
「ひぃぃぃっ!! こっちです! おじいちゃん、おばあちゃん、僕に掴まって!」
炎と土煙が舞う中、情けない悲鳴を上げながら走り回っている長身の姿があった。
ユリウスだ。
彼は顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながら、逃げ遅れた高齢の村人たちを両脇に抱え、背中には子供を背負って、猛烈なスピードで地下シェルターへとピストン輸送を行っていた。
「ああっ! 飛んできた瓦礫がっ! ひぃっ!」
ユリウスは飛来する燃える木材を、ビクッと怯えながらも、鞘に入ったままの剣で的確に弾き飛ばし、村人たちに傷一つ負わせずに安全圏へと運んでいく。
怖いのだ。彼は争いが嫌いで、誰よりも怯えている。それでも、「誰かを助ける」という一心だけで、絶対に逃げ出そうとはしなかった。
「レ、レティシアさん! クロエさんも、早く逃げて! 危ないです!」
村人を下ろしたユリウスが、私の元へと駆け寄ってくる。
「ありがとうユリウス、皆を助けてくれて。でも、私はまだ逃げないわ!」
私は彼に向かって力強く頷くと、虚空に光るパネル――【経費精算】の画面を展開した。
「クロエ、ユリウス! 私が回復と支援を全力で回すわ! 二人とも、シェルターの入り口を死守してちょうだい!」
「ええ、任せなさい。私の商売道具を灰にしてくれた落とし前、キッチリ払わせてやるわ」
「ひゃいっ!? ぼ、僕もですか!? で、でも僕、剣なんて……っ」
「発動!【社員食堂(特別ケータリング)】! さらに追加発注、【魔導防壁シート・最大出力】!」
私のスキルが連続で発動する。
前線で戦うマンミアたち自警団の足元に、瞬時に状態異常を回復し闘気を爆増させる『特製スタミナ回復ポトフ』の光が降り注ぐ。同時に、村の防衛ラインに透明な魔導シールドが何重にも展開され、敵の銃弾を弾き返した。
「おおおおッ! 力が、闘気が底なしに湧いてくるぞ!」
「レティシア様の恩恵だ! 一歩も引くなァッ!」
バフを受けた自警団が息を吹き返し、雄叫びを上げて前線を押し戻し始める。
私兵部隊の足が止まり、戦況が拮抗し始めた、その時だった。
「――チィッ! 手こずりおって、使えないゴミ共め!」
魔導戦車のハッチから、忌々しげに舌打ちをするガルドス男爵が顔を出した。
彼は拡声魔導具を掴み、怒りに満ちた声で怒鳴り散らす。
「ええい、もはやなりふり構っておられん! 魔導戦車の主砲の出力を最大にしろ! あの生意気な女たちがいるシェルターの入り口ごと、全てを更地に変えてしまえ!!」
「だ、男爵閣下!? 主砲を村のど真ん中に撃ち込めば、味方の兵士まで巻き添えに――」
「構わんと言っているだろうが!! 私の命令が聞けんのか!!」
操縦士の制止を蹴り飛ばし、ガルドス男爵は自ら主砲のレバーを引いた。
ギュイィィィン……ッ!!と、魔導戦車の巨大な砲身に、禍々しい赤黒い魔力が凄まじい密度で収束していく。
(……なんてこと。味方ごと撃つつもり!?)
完全なる狂気だ。
自分の保身とプライドのためなら、部下の命すらゴミのように使い捨てる。
これが、ブラック国家の権力者の正体。
これが、世界を覆う絶対的な『理不尽』。
「退避ィィィーッ!! 全軍、防壁の後ろへ!!」
マンミアの悲痛な絶叫が響く。
しかし、遅かった。
収束しきった極大の魔力砲弾が、眩い閃光と共に魔導戦車の砲口から解き放たれた。
「――ッ!!」
それは、私の展開した【魔導防壁シート】を紙切れのように容易く貫通し、轟音と共に村の広場の中央に着弾した。
ズガァァァァァァァンッッ!!!
視界が白く染まる。
爆風が全てを薙ぎ払い、強烈な熱波が吹き荒れる。
味方の兵士も、自警団の詰め所も、全てが容赦なく吹き飛ばされた。
「きゃあっ……!」
「レティシア!」
爆風に煽られ、私は地面に投げ出された。
クロエが咄嗟に私を庇って覆い被さるが、鼓膜が破れそうなほどの轟音に、一瞬意識が飛びかける。
「……あ、うぅ……っ」
土煙が晴れた後、そこにあったのは地獄のような光景だった。
広場は巨大なクレーターと化し、防衛ラインは完全に崩壊していた。マンミア率いる自警団も、味方撃ちされた私兵たちも、満身創痍で地面に倒れ伏している。
「カッカッカッカ!! 見たか! これが逆らう者への罰だ!」
黒煙の向こうから、キャタピラの音を響かせて魔導戦車がゆっくりと近づいてくる。
ガルドス男爵の下劣な笑い声が、絶望のどん底に落とされた村に響き渡った。
「さあ、レティシア! クロエ! 這いつくばって命乞いをしろ! そうすれば、手足の一本や二本は残して、飼ってやらんこともないぞ!」
魔導戦車の砲口が、倒れ伏す私たちにピタリと狙いを定めた。
足が震える。
どれだけ私が経費で物資を揃えても、どれだけバフをかけても、圧倒的な【暴力】の前の前では、無力だった。
(……あぁ、また。また私は、理不尽に潰されるの……?)
絶望が心を支配しかけた、その時。
「うえぇぇぇんっ! おかあさぁぁぁんっ!!」
瓦礫の陰から、逃げ遅れた小さな子供が、泣き叫びながら広場へと飛び出してきた。
「っ……駄目、危ない!!」
私は反射的に立ち上がり、子供を庇うようにその小さな体を抱きしめた。
「カッカッカ! ちょうどいい、そのガキごと吹き飛べ!!」
ガルドス男爵が、狂気に満ちた笑みと共に、再び主砲の引き金に手をかける。
砲口に、再び赤い魔力が収束していく。
避けられない。防げない。
死の恐怖に、私は思わず子供を抱きしめたまま、ギュッと目を閉じた。
――ガァァァンッ!!
だが、私を襲うはずだった灼熱の砲撃は、いつまで経っても届かなかった。
代わりに聞こえたのは、硬質な金属が『完全に凍てつく』ような、異様な破裂音。
「……え?」
恐る恐る目を開けた私の視界に飛び込んできたのは。
信じられない光景だった。
極大の魔力を放とうとしていた魔導戦車の砲身が。
そして、戦車の履帯から装甲に至るまでの全てが。
――美しく、そして残酷な『絶対零度の氷』によって、完全に凍結させられていたのだ。
「な、なんだこれは!? 魔導機関が……動かん!? 凍っているだと!?」
ハッチから身を乗り出したガルドス男爵が、パニックを起こして叫ぶ。
「……彼女たちが、君たちに何をした?」
炎が燃え盛る広場に、その声は、静かに、けれど世界を凍らせるほどの冷たさを持って響き渡った。
私の目の前。
私と子供を背中で庇うように立ち塞がっていたのは。
「懸命に生きているだけの人たちから、これ以上奪うな」
あの、いつもオドオドと怯えていた、気弱な青年。
だが、彼の足はもう、微塵も震えていなかった。
腰に帯びた長剣の柄に手をかけ、月明かりを反射する氷色の瞳には、一切の感情を排した冷徹な光が宿っていた。
圧倒的な理不尽が、ついに『最強』の封印を解き放った瞬間だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第10話、ついにガルドス男爵の逆ギレ強襲(夜襲)が始まりました。
味方ごと吹き飛ばすという、ブラック上司の究極系のような理不尽な暴挙。
レティシアも【経費精算】と【福利厚生】で懸命に村を守ろうとしますが、圧倒的な兵器の暴力の前に絶体絶命のピンチを迎えます。
しかし……!
子供を庇い、死を覚悟したレティシアの前に立ち塞がったのは、あの「チワワ」だったユリウスです!
次回の第11話、ついにA型ヒーロー・ユリウスの『タキシード仮面状態(ガチ覚醒)』が幕を開けます。震えを止めた彼が、どれほどヤバい実力を見せつけるのか!?
「ユリウス来たぁぁぁ!」「男爵、絶対に許さん」「覚醒キター!」と少しでも胸を熱くしていただけましたら、
ぜひページ下部(または右上)の【★で称える(ポイント評価)】から、星3つ(★★★)での全力応援をよろしくお願いいたします!
皆様の【ブックマーク】と【星評価】が、いよいよ始まる『ざまぁ(武力無双)展開』を描くための最大の福利厚生になります!
次回、大興奮のバトル展開をお楽しみに!




