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潜入警部と忘れない少女  作者: 青山春彦
第1章 潜入と記憶の導き
7/12

7話 文化祭前夜と迫る爆破計画

 夜の学校への侵入から1日が経った。

 朝の湊高校は、どこか浮き足立った空気に包まれていた。校舎の廊下には色紙やポスターが貼られ、教室では準備の声が響いている。

 それもそのはず、なんせ明日は文化祭だからだ。

 一年で、最も賑やかな日だ。

 だが、龍二の机の上には、まったく別の意味で重いものが置かれていた。

 USBメモリ。昨夜、職員室で例の刺された協力者教育の机の引き出しの中から回収したものだった。


 ───昼休み。


 教室の奥の席で、龍二はノートパソコンを開いていた。その横で、春菜が画面を覗き込んでいる。


「開いた?」


 春菜が小さく聞く。

 龍二は頷いた。


「暗号は、比較的簡単なものだったよ」


 画面には、複数のファイルが並んでいる。

 写真。図面。そして、校内の見取り図。

 春菜の顔から笑みが消えた。


「これって……」


 龍二が画面を拡大する。

 体育館。校庭。中庭。それぞれに赤い印が付いている。


「爆弾の設置ポイントだろうな」


 龍二は静かに言った。春菜の背筋に寒気が走る。


「文化祭の日に?」


 龍二は、次のファイルを開く。そこには、時間が書かれていた。

 午後1時。その時間は、文化祭で最も人が集まる時間だった。春菜が小さく呟く。


「そんな……」


 龍二の目は冷静だった。


「狙いは、爆弾による大量爆殺だ」


 春菜は画面を見つめる。赤い印は全部で4つ。


「もし、爆弾が全部爆発したら……」


 龍二は答えなかった。その沈黙が答えだった。春菜は、ゆっくり言う。


「なんとしてでも止めないと」


 龍二は頷く。


「もちろんだ」


 その時、教室の扉が開いた。


「おー大黒」


 高橋が入ってくる。


「文化祭の準備行くぞ」


 龍二は、すぐにノートパソコンの画面を閉じた。


「あとで行く」


 高橋は肩をすくめる。


「相変わらず真面目だなー」


 高橋は、そう言って教室から出ていった。再び、教室に静けさが戻る。

 春菜が小さく言う。


「犯人……いったい誰なんだろう」


 龍二は、画面の写真を思い出す。

 港。学校の監視。爆弾。組織的犯行。

 そしてその時、春菜がふと窓の外を見た。

 校庭に文化祭準備でテントが並んでいる。その中を歩く一人の男。


「大黒くん」


 春菜の声が少し緊張していた。


「どうした?」

「窓の外見て」


 龍二が窓を見る。校庭を歩く男子生徒。龍二は知らない顔だった。だが春菜は言った。


「あの人」

「?」

「USBの写真にいた人だよ」


 龍二の目が鋭くなる。


「確かか?」


 春菜は迷わず頷いた。


「間違いない。というか、大黒くんはもっと写真に写ってた人の顔を覚えた方がいいと思う……」


 春菜は、龍二に対して、少し呆れたような声でそう言った。

 そしてその男は、まっすぐ体育館の裏へ歩いていく。

 龍二はすぐ立ち上がった。


「俺たちも行くぞ」


 春菜も立ち上がる。


「追うの?」


 龍二は短く答える。


「あいつは、ほぼ間違いなく、爆弾の設置役だ」


 2人は教室を出た。

 階段を下りて、校庭へと向かう。

 体育館の裏。人通りは少ない。そして男の姿が見える。男はキョロキョロと周囲を確認していた。

 そして、バッグを地面に置く。

 龍二の目が細くなる。

 爆弾だ。

 龍二は静かに言った。


「鈴木」

「うん」

「ここで待ってて」


 春菜はすぐ首を横に振る。


「私は、大黒くんの相棒でしょ?」


 龍二は小さく息を吐いた。


「わかったよ。ただし、絶対に俺から離れるなよ」


 春菜が頷く。

 龍二は、ゆっくり歩き出した。距離にして、15メートル。

 男はまだ、2人に気づいていない。

 バッグを開けている。

 すると、爆弾の配線が見えた。

 龍二は一歩踏み出す。


「警察だ。その場を動くな」


 男が振り向く。その顔に驚きが浮かぶ。

 だが次の瞬間、男はポケットから拳銃を抜いた。銃口が龍二へ向き、引き金が引かれる。そして、乾いた銃声が鳴り響く。だが、龍二は反射的に体を横へ投げた。

 そして、その弾丸が壁に当たる。コンクリートの壁に弾丸がめり込んだことにより、コンクリートの破片が飛び散る。

 龍二は、地面を転がりながら拳銃を抜いた。姿勢を低くする。

 男がもう一度撃つ。銃声が体育館の壁に反響する。龍二はすぐに、柱の陰に滑り込んだ。

 そして呼吸を整える。

 相手は拳銃。距離は10メートル。

 遮蔽物は柱だけ。

 春菜は、少し離れた場所で息を止めていた。

 男が叫ぶ。


「警察が、俺の邪魔をするな!」


 龍二は答えない。ただ機会を待つ。

 男が柱へ近づく。

 一歩、また一歩。靴音が近づく。

 その瞬間、龍二は柱の陰から飛び出した瞬間、龍二の体は低く沈んでいた。

 膝を曲げ、重心を落とす。

 男の銃口がこちらへ向く。距離は、わずか数メートル。男の指が引き金を引くのと同時に銃声が鳴り響き、火花が散る。

 龍二は横へ滑るように体を動かした。弾丸が背後の壁に突き刺さる。だが、そのまま一歩踏み込む。

 龍二の腕が男の手首を掴む。銃を持つ腕を外側へ捻る。関節がきしむ音がすると、男が呻く。

 だが、龍二はその腕を完全には離さない。

 男は強引に腕を振り、銃口が再びこちらへ向いた。

 龍二は手首を引き寄せると同時に、肩で男の胸を押した。男は、体勢が崩れる。

 その隙に、龍二は手首をさらに強く捻った。

 乾いた音。男の指から拳銃が離れ、銃が地面に落ちる。

 だが、男はすぐに反撃した。膝を跳ね上げ、龍二の腹を狙う。

 龍二は腰を引き、その攻撃を避けた。

 次の瞬間、龍二の拳が男の顎へ入る。

 鈍い衝撃により、男の頭が揺れる。それでも倒れない。そして、男は腰からナイフを抜いた。その刃が光る。

 春菜が思わず声を出しそうになり、口を押さえた。

 男はナイフを突き出す。一直線の刺突。だが、龍二は腕で軌道を逸らす。

 刃が制服の袖をかすめ、布が裂ける。

 龍二はその腕を掴んだ。手首を内側へ押し込み、体を回す。すると、男の腕が背中へ引き寄せられる。

 関節が完全に固定された。

 ナイフが落ちるのと同時に、龍二は足を払った。そして、男の体が地面へ倒れ、背中が強く地面に打ちつけられる。

 息が詰まる音が聞こえるや否や、龍二はすぐに男の腕を押さえ込んだ。膝で肩を固定する。

 これで、男はもう動けない。荒い呼吸だけが聞こえる。

 数秒の沈黙。龍二は低く言った。


「もう終わりだ」


 男は歯を食いしばった。


「まだだ……」


 龍二はバッグを見る。そこには、地面に置かれた黒いバッグ。そこから微かな電子音が聞こえていた。


 ピッ……ピッ……ピッ……


 春菜が近づく。


「爆弾……」


 龍二は男の腕を拘束した。ポケットから結束バンドを出し、素早く固定する。それからバッグを開けた。

 中には装置が入っていた。

 配線にタイマー。そしてプラスチック爆薬。

 同じ爆弾だ。そして、タイマーは動いている。また、残り時間は5分となっていた。龍二の視線が鋭くなる。


「他の爆弾はどこだ!」


 男は黙った。龍二はもう一度聞く。


「もう一度だけ聞く。他の爆弾はどこだ」

「あと3つある」


 男の口が歪む。


「文化祭で、この学校は終わる」


 龍二は拳を握った。

 そして、春菜が小さく言う。


「大黒くん」

「なんだ?」

「この爆弾」


春菜は装置を見つめていた。


「あの時や昨日の写真と同じ物だよね?」


 龍二が聞く。


「もしかして、解除できるのか?」


 春菜は記憶を探るように目を閉じる。

 港の倉庫。スマホの画面。そして、配線の写真。  

 そして目を開けた。


「青」


 龍二はナイフを取り出す。そして、配線へ刃を当てる。

 タイマーは残り4分。

 静かな空気。春菜の声が小さく響く。


「大丈夫」


 龍二は頷いた。

 青い線を切る。すると、電子音が止まる。

 完全な沈黙。春菜がほっと息を吐いた。


「止まったぁ」


 龍二も小さく息を吐いた。だが、まだ終わりではない。龍二は男を見る。


「残りの爆弾の在処(ありか)はどこだ?」


 男は何も言わない。春菜が静かに言った。


「文化祭、明日だよ」


 龍二は頷く。そして言う。


「今夜中に全部見つけるしかなさそうだな」


 春菜が笑った。


「また侵入するの?」


 龍二は少し笑う。


「もちろんだ。そうしなければ、明日までには間に合わないからな」


 春菜は、龍二の隣に立った。校庭では文化祭の準備が続いている。

 生徒たちは何も知らない。

 だが、この学校にはまだ3つの爆弾がある。そして2人は、それを止めるために動き出す。

 文化祭まで……

 あと1日───。

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