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潜入警部と忘れない少女  作者: 青山春彦
第1章 潜入と記憶の導き
6/12

6話 夜の校舎への侵入

 夕方の光が校舎の窓から差し込み、廊下を長く照らしていた。

 あの事件から数時間。刺された教師は、すぐに救急搬送され、命に別状はないと分かった。

 だが龍二は、まだ警戒を解いていなかった。


 ───放課後の教室。


 生徒たちはほとんど帰り、静かな空気が流れている。窓の外では、夕焼けが校庭を赤く染めていた。


「大黒くん」


 隣の席から春菜が小声で呼ぶ。


「先生、大丈夫らしいよ」

「らしいな」


 龍二は、机に肘をつきながら答えた。その目は、いつもより真剣だった。春菜が少し首を傾げる。


「どうしたの?」


 龍二は、しばらく黙っていた。それから言う。


「刺された先生な」

「うん」

「実は、ただの教師じゃないんだ」


 春菜の目が少し大きくなる。


「どういうこと?」


 龍二は声を少し落とした。


「実は、公安の協力者なんだ」


 春菜は驚いた表情になった。


「え!?」


 龍二は続ける。


「もちろん正式な警察じゃない。だが、情報提供者だった」


 春菜はしばらく言葉を失っていた。そして小さく言う。


「じゃあ」

「犯人はそれを知っていた可能性がある」


 龍二の表情は重かった。

 警察……しかも公安の協力者の命が狙われ、さらには、襲撃を成功されてしまった。これは、公安警察の面子にも関わるような失態だ。


「口封じか……」


 春菜は窓の外を見る。夕日が、ゆっくりと沈んでいく。


「まだ敵がいるってこと?」


 龍二は頷いた。


「ほぼ確実だ」


 教室には、静かな空気が流れる。やがて春菜が言った。


「ねえ」

「なんだ?」

「先生、何か残してないかな?」


 龍二は、春菜を見る。


「どういう意味だ?」


 春菜はゆっくり言った。


「公安の協力者だったなら」

「?」

「何か証拠とかさ」


 龍二は数秒考えた。それは、確かにあり得る。あの教師は、襲われる直前まで普通に校内を歩いていた。

 もし情報を持っていたなら、どこかに残している可能性がある。

 龍二は、静かに言った。


「職員室……」


 春菜が頷く。


「先生の机?」


 龍二は窓の外を見た。空は、すでに暗くなり始めている。


「夜になるまで待つぞ」


 春菜が少し驚く。


「潜入?」

「そうだ」


 龍二は小さく笑った。


「相棒として、初めての夜間任務だ」


 春菜は少し照れながら笑った。


「なんか……危ない言い方〜」


 龍二は苦笑した。


「別に変な意味じゃない」

「わかってる」


 その後、2人は時間を潰しながら待った。完全に日が落ちるまで。

 やがて、校舎の明かりがほとんど消えた。

 夜の学校……静かな廊下。外から虫の声だけが聞こえる。

 龍二と春菜は裏門から校内に入った。


「誰もいないね」


 春菜が小声で言う。龍二は頷いた。


「そりゃあ、こんな夜だからな。だが、代わりに警備員はいる」

「え?」


「だが巡回は1時間に1回」


 龍二は腕時計を見た。


「今が、その隙間だ」


 2人は、静かに校舎へ入った。夜の廊下は昼とは、まったく違う雰囲気だった。蛍光灯は、最低限しか点いていない。

 影が長く伸びている。春菜が少し近づく。


「怖いか?」

 

 龍二が聞く。春菜は少し考えた。


「うん。でも、大黒くんがいるから平気」


 龍二は、少しだけ目を細めた。そして言う。


「俺から離れるなよ」


 春菜は、小さく頷く。そして2人は、職員室の前まで来た。

 扉は、施錠されている。龍二は、ポケットから細い工具を取り出した。

 数秒後。カチッという音が鳴るのと同時に、扉の鍵が開いた。

 春菜が驚く。


「すごい」


 龍二は静かに言う。


「公安の基本技能の1つだ」


 そうして2人は、中に入った。職員室の中は暗い。机が整然と並んでいる。龍二は小さく言った。


「刺された先生の机は奥だよ」


 春菜は記憶を頼りに歩く。数歩進んで、ある机を指差した。


「これ」


 龍二は、引き出しを開けた。

 書類にプリント。普通の教師の机に見える。

 だが、一番下の引き出し。そこに、小さな封筒があった。龍二は、それを取り出す。

 中には、USBメモリが1個あった。そして、龍二の表情が変わる。


「当たりだ」


 春菜が小さく息を飲む。その瞬間だった。職員室の外から足音が聞こえた。


 コツ……コツ……


 誰かが歩いている。

 龍二は、瞬時に電気を消した。

 暗闇。春菜が小さく龍二の腕を掴む。

 足音は職員室の扉の前で止まっていた。


 コツ……コツ……


 ゆっくりと床を踏む音。

 春菜は、龍二の腕を掴んだまま、息を殺していた。

 暗闇の職員室。窓からわずかな月明かりだけが入っている。

 龍二は動かない。耳だけで外の気配を探っていた。

 そしてドアがゆっくりと横に開かれれる。


 ガラガラッ!


 扉が開いた。

 廊下の光が少しだけ差し込む。

 男の影が入ってきた。龍二は、その動きを見た瞬間、理解した。警備員ではない。足運びが全然違う。

 影の男は職員室の中を見渡す。そして、ゆっくり歩き始めた。

 机の間を進んでくる。春菜の心臓の音が、自分でも聞こえる気がした。

 男は、刺された教師の机へ近づく。

 引き出しを開けた。そして小さく舌打ちした。


「やっぱりない」


 低い声だった。龍二の目が鋭くなる。その男は、USBを探していた。男は、スマートフォンを取り出す。


「例のデータ、消えてる」


 小声で話している。電話だ。


「誰か先に取った」


 その言葉を聞いた瞬間。龍二は決断した。

 そして、一歩踏み出す。


「その通りだ」


 男が振り向く。その時にはもう遅い。龍二の拳が男の腕を弾いた。スマートフォンが床に落ちる。

 そして、その男はポケットに手を入れ、武器を取り出そうとする。だが、その前に、龍二は腕を掴み、体を回転させ、関節を極める。

 男の体が机に叩きつけられる。そして鈍い音が鳴り、男が(うめ)く。

 だが、完全には止まらない。男は、もう一度抵抗し、ナイフを抜いた。

 だが、龍二はすぐ距離を詰め、ナイフの手首を掴み、壁に押し付けると、ナイフが落ちた。

 そして次の瞬間、龍二は男を床に押さえつけた。


「終わりだ」


 低い声。男は、完全に動かなくなった。

 春菜がゆっくり近づく。


「大黒くん」

「大丈夫だ」


 龍二は男の腕を拘束した。そして、落ちたスマートフォンを拾う。画面にはメッセージが残っていた。


“USBを回収しろ”


 龍二は小さく息を吐く。


「やっぱりテロ組織だったな」


 春菜が言う。


「あのUSB、いったい何が入ってるんだろうね」


 龍二はポケットからそれを取り出した。小さなメモリ。だが、その中には重要な情報がある可能性が高い。

 龍二は春菜を見る。


「それは、帰ってから解析する。これに関しては、俺たちの仕事だ」


 春菜は頷いた。

 その時、ふと笑った。


「なんかさ」

「なんだ?」

「夜の学校で、デートみたい」


 龍二は少し驚いた顔をした。


「今の状況でそれを言うか?」


 春菜は肩をすくめる。


「相棒と夜の学校に侵入……」


 少し間を置いて言う。


「なんだか、悪い事をしてるみたい。でも、私はこういうの結構嫌いじゃないかも」


 龍二は、少しだけ笑った。


「変わった奴だ」


 春菜は龍二を見る。


「ねえ」

「なんだ?」

「さっき」

「?」

「腕掴んだとき、離れないでって言ったよね?」


 龍二は、少し考えた。


「ああ、確かに言ったな」

 

 春菜は小さく言った。


「実は、あの言葉を聞いて私、嬉しかったんだ」


 龍二は数秒黙る。そして言った。


「そりゃあ、俺の相棒だからな」


 春菜は笑う。


「恋人候補でもあるけどね」


 龍二は小さく息を吐いた。


「その試験は、まだ続いてるからな」


 春菜は、楽しそうに言う。


「じゃあもっと頑張らなくちゃね」

「だからと言って、あまり無茶な真似はしないでくれよ」


 外では、夜風が校庭を揺らしていた。

 静かな学校。だがその中で、龍二のポケットには、テロ組織の秘密が入ったUSBがある。

 そして2人の距離は、少しだけ近づいていた。

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