表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
潜入警部と忘れない少女  作者: 青山春彦
第1章 潜入と記憶の導き
4/16

4話 校内に潜む影と迫る爆破時間

 港の倉庫での事件から、3日が経っていた。

 湊高校の朝は、いつもと変わらない穏やかな空気に包まれている。

 校門の前では生徒たちが笑いながら登校し、グラウンドでは、運動部が朝練をしている。そして、遠くからは吹奏楽部の演奏練習の音も聞こえていた。

 その中を、龍二は静かに歩いていた。

 制服姿の高校生。だがその内側には、いつも通り、拳銃と警察手帳が隠されている。

 潜入捜査は続いている。むしろ状況は、以前よりも深刻だった。

 港で押収した武器の量。そして、学校周辺を撮影していたテロリスト。

 それは偶然ではない。湊高校が標的である可能性が極めて高い。

 龍二は、昇降口で靴を履き替えながら、小さく息を吐いた。

 その時。


「おはよう、大黒くん」


 後ろから声がした。振り向くと、春菜が立っていた。


「おはよう」


 龍二は短く答える。それに対して、春菜は少し笑った。


「相棒なのに冷たーい」

「学校では普通に接する」


 龍二は言った。


「潜入任務中なんだからな」


 春菜は肩をすくめる。


「はいはい」


 2人は、廊下を並んで歩いた。その途中、春菜が小さく言う。


「公安って大変なんだね」

「今さらか?」

「うん。でも」


 春菜は窓の外を見た。


「この学校が狙われてるかもしれないんでしょ?」


 龍二は少しだけ黙った。それから答える。


「我々公安としては、その可能性は高いと思ってる」


 春菜は静かに頷いた。その時、廊下の向こうから1人の男子生徒が歩いてきた。

 三年生。同じ学年の生徒だ。


「おー大黒」


 気軽な声。


「最近見ないと思ったら忙しいのか?」


 彼の名前は中村亮太。クラスでも明るいタイプの生徒だった。


「まあな」


 龍二は、軽く答える。中村は、笑いながら通り過ぎていった。

 その背中を、春菜がじっと見ていた。龍二は、それに気づく。


「どうした?」


春菜は小さく言った。


「今のって確か……」

「中村だ」

「うん」


 春菜の表情が少し真剣になる。


「見覚えある」


 龍二の足が止まった。


「そりゃあ、同じ学校の生徒だからって言いたいところだが……鈴木のことだし、たぶん違うんだろ?どこだ?」


 春菜は少し考える素振りを見せ、そして言った。


「港の倉庫」


 龍二の目が、一気に鋭くなる。


「それは確かか?」


 春菜は迷わず頷いた。


「見たのは横顔だけ。でも間違いない」


 “完全記憶”その能力は、曖昧さをほとんど残さない。

 龍二は、静かに息を吐いた。学校の中に内通者がいる。それが事実なら、状況はさらに危険になる。


「鈴木」


 龍二は、低く言った。


「このことは誰にも言うな」

「うん」


 春菜は頷いた。


「でも」


 続ける。


「もし、本当に内通者だったらどうするの?」


 龍二は答えた。


「証拠を掴むまで待つ」


 その時だった。校内放送が流れた。


『生徒の皆さんは、速やかに教室へ――』


 途中で、音が切れた。そして、わずかな沈黙の後、電子音が鳴り始めた。


 ピッ……ピッ……ピッ……


 その音を聞いた瞬間、龍二の表情が一気に変わる。その音を、彼はよく知っていた。

 爆弾のタイマー。春菜も気づいた。


「これって……」


 龍二は廊下の奥を見る。音は近い。しかも複数。


「鈴木」


 低い声。


「間違いなく爆弾だ」


 春菜の呼吸が一瞬止まる。龍二は、すぐに周囲を確認した。

 まだ生徒たちは状況を理解していない。

 普通に歩いている。この状況下で、もし爆発すれば……大惨事になる。

 龍二は、速やかに決断した。


「俺が爆弾を停止させる」


 春菜を見る。


「だからお前は、生徒を避難させろ」


 だが、春菜は首を横に振った。


「私なら、爆弾の場所がわかる」


  龍二が眉をひそめる。


「どういう意味だ?」


 春菜は耳を澄ませていた。完全記憶だけではない。彼女は、音の位置を正確に捉えていた。


「2階、理科準備室」


 そして続ける。


「もう1つは、体育館倉庫」


 龍二の心拍が一気に上がる。

 同時爆破。明らかに計画的なテロだった。

 そしてその瞬間、廊下の向こうに、走り去る人影が見えた。それは、中村だった。

 龍二の目が鋭くなる。


「やっぱりあいつか」


 そして龍二は言った。


「鈴木、来い」


 春菜を見る。


「相棒としての本番だ」


 その言葉を聞いた瞬間、春菜は強く頷いた。

 2人は、一気に走り出した。廊下を全力で駆ける。

 電子音は徐々に大きくなっている。


 ピッ……ピッ……ピッ……


 周囲の生徒たちはまだ異変に気づいていない。中には、笑いながら歩いている者もいる。その日常の光景が、逆に恐ろしかった。


「鈴木」


 龍二が走りながら言う。


「先に避難誘導を頼む」


 春菜は首を横に振った。


「時間ないんだ」


 短い言葉だった。龍二も理解していた。爆弾のタイマーはかなり短い。おそらく数分程度。

 2人は階段を駆け上がる。

 2階の廊下。理科準備室の前で足を止めた。そこで、電子音がはっきり聞こえる。


「ここだよ」


 春菜が言う。龍二は扉を開けた。

 部屋の中は暗い。棚や器具が並んでいる。そして机の上に、黒いバッグがあった。


 ピッ……ピッ……ピッ……


 龍二はすぐに近づいた。そしてそのバッグの中を見る。

 即席の時限爆弾。

 配線にタイマー。そして、プラスチック爆薬。それは間違いなく本物だった。


「残り2分」


 龍二が呟く。すると、春菜が隣に来る。


「解除できるの?」

「とにかく今は、やるしかない」


 龍二は、ポケットから持っていたナイフを取り出した。

 そして配線を見る。

 赤。青。黄色。

 よくアニメやドラマなんかで観るような、典型的な爆弾だが、もちろん罠の可能性もある。

 春菜が小さく言った。


「黄色」


 龍二が見る。


「理由は?」


 春菜はバッグの内側を指した。


「中村くんのスマホ」


 そこで、龍二の頭に情報が繋がる。港の倉庫。テロリスト。そしてこの間のテロリストと中村のスマホの画面。

 春菜は続けた。


「黄色の線に触ってる写真あった」


 龍二は、数秒考えた。

 彼女の完全記憶がもたらす情報。信頼できる。そして龍二は、ナイフを配線へ近づけた。

 タイマーの残り時間は1分。


 ピッ……ピッ……


 一瞬の静寂。

 そして、黄色の線を切った。

 電子音が止まる。

 完全な沈黙。春菜が息を吐いた。


「止まった……」


 龍二も小さく頷く。だが、まだ終わりではない。


「残るはもう1つ」


 体育館倉庫。2人は、すぐに走り出した。

 階段を駆け下りる。その途中、廊下の曲がり角から人影が飛び出した。それは中村だった。その手には、スマートフォン握られている。

 龍二と目が合うと、中村の顔が歪む。

 そして次の瞬間、走り出した。


「止まれ!」


 龍二が叫ぶ。だが、中村は逃げる。龍二は春菜を見る。


「お前は、体育館倉庫へ行け!」


 春菜は頷いた。2人は、別方向へ走る。

 龍二は中村を追った。廊下を全速力で走る。段々と距離が縮まる。昇降口の前で、龍二は中村の肩を掴んだ。


「もう終わりだ」


 中村は振り向いた。その顔には、焦りが浮かんでいる。


「なんで気づいた……」


 龍二は、冷たい声で言う。


「単にお前のミスだ」

「ミス?」

「写真だよ」


 中村の目が揺れる。


「お前は、学校の写真を撮りすぎたんだ。普通の高校生は、学校の写真なんて撮らないもんだ。だからこそわかったんだよ」


 その瞬間、中村が拳を振った。だが、龍二はそれを簡単に避ける。

 そして腕を掴み、床へ押さえつけた。


「もうやめろ」


 低い声。


「俺は、公安の者だ。これ以上無駄な抵抗をするんじゃない」


 一方その頃。

 春菜は、体育館倉庫へ走っていた。そして、体育館の扉を開ける。

 広い空間。そして、倉庫の奥から電子音が聞こえる。


 ピッ……ピッ……ピッ……


 春菜は迷わず中へ入った。箱の上にバッグ。

 さっきと同じ爆弾だった。タイマーの残り時間は、30秒と表示されていた。

 春菜は、配線を見た。

 赤、青、黄色。そして思い出す。

 スマホの写真。指が触れていた線。さっきの爆弾とまったく同じ物だ。

 春菜は深く息を吸った。


「黄色」


 ナイフで切る。

 一瞬の沈黙。そして、さっきまで鳴っていた電子音が止まった。

 春菜は、その場に座り込んだ。


「はぁ……」


 数分後、体育館に龍二が入ってきた。

 中村は、すでに別の公安警察へ密かに引き渡されている。

 龍二は春菜を見る。


「無事か?」


 春菜は笑った。


「大黒くんの相棒だから」


龍二は小さく笑う。


「完璧な回答だ」


 外では、パトカーのサイレンが鳴り始めていた。こうして、テロは未然に防がれた。

 そして、龍二は静かに言った。


「鈴木」

「うん?」

「お前、本当にすごいな」


 春菜は少し照れながら言った。


「相棒として?」


 龍二は頷く。


「それと」


 少し間を置く。


「恋人候補としてもな」


 春菜の顔が赤くなる。

 湊高校の危機は去った。だが2人の関係は、ここからさらに深くなっていくのだった。

『良かった』『続きが気になる』などと思っていただけたなら、評価やブックマークをしてくださると、とても嬉しいです。どうぞ、これからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ