↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
潜入警部と忘れない少女  作者: 青山春彦
4章 “ノクティス”戦争編
27/33

27話 闇の会議

 夜の街は、昼間とは別の顔を見せる。

 ネオンの光・遠くから聞こえる車の音・人々の笑い声。

 だが、その喧騒から少し離れた場所にある古びたビルは、まるで時間が止まったように静まり返っていた。

 都内の外れにある、廃業した事務所ビル。

 電気のついている部屋は1つだけだった。

 3階にある古い会議室。

 窓には、厚いカーテンがかけられ、外から中は、完全に見えない。

 部屋の中央にある長机。そこに、4人の男が座っていた。

 誰も口を開かない。

 重たい沈黙。やがて1人の男がゆっくり言った。


「……村上は終わった」


 低い声だった。別の男が舌打ちする。


「公安にでも捕まったのか?」

「ああ、そうだ」


 短い返事。机の上には、写真が数枚置かれていた。

 文化祭の会場・校舎・警察の車両。そしてもう1枚、高校の制服を着た少女。鈴木春菜の写真だ。

 最初に話した男がその写真を指で押さえる。


「問題はここだ」


 別の男が言う。


「ただの女子高生だろ?」

「いいや、違う」


 声が鋭くなる。


「村上の最後の通信記録を確認した」


 部屋の空気が少し張りつめる。


「爆弾の場所を見つけたのは、この少女だ」


 1人が眉をひそめる。


「偶然じゃないのか?」


 男は首を横に振った。


「3つ」


 机を指で叩く。


「3つの爆弾の位置を、ほぼ正確に言い当てた」


 沈黙の後、もう1人の男が低く呟く。


「あり得ない」


 最初の男は言った。


「まぁ、普通ならな」


 写真を持ち上げる。

 春菜の笑顔。学校の正門で撮られたものだった。


「だが、この少女は普通とは違う」


 別の男が腕を組む。


「情報源がいるんじゃないか?」

「いや」


 最初の男は静かに答えた。


「それなら村上が気付く」


 写真を机に戻す。


「だが、奴はこう言った」


 男は、手元にある、村上があらかじめ残していたメモを見た。

 そして読み上げる。


「このメモによると、その少女は、日本支部の研究実験の影響によって、完全記憶を獲得して、全部覚えてやがるそうだ」


 その言葉で、空気が凍った。

 すると、1人の男が笑う。


「おいおい、何かの冗談だろ?」


 しかし誰も続いて笑わない。最初の男は静かに言った。


「私は、冗談が嫌いだ」


 そして立ち上がった。

 黒いスーツに整った髪。この場の中心人物だった。


「君たち」


 3人を見渡す。


「我々は失敗した」


 誰も反論しない。


「だが、計画はまだ、終わってはいない」


 男はゆっくり歩き、窓の前に立つ。カーテンの隙間から夜の街を見た。


「“ノクティス”はまだ生きている」


 その言葉に、3人の男の背筋が伸びた。


 国際テロ組織“ノクティス”


 文化祭事件などの裏で動いていた組織。

 男は振り向いた。


「そして、もう1つ問題がある」


 机の上の写真を指で弾く。

 春菜の写真の隣にもう一枚の写真があった。制服姿の男子生徒。大黒龍二だ。

 1人の男が言う。


「こいつは?」


 リーダーは答える。


「日本の公安警察だ」


 短い言葉だった。そして、空気が一気に変わる。


「公安だと?」


 男の1人が顔をしかめた。


「どう見てもただの高校生だろ?」


 リーダーの男は、椅子に腰を下ろす。


「表向きはな」


 写真を指でなぞる。


「大黒龍二」


 机の上には資料が置かれていた。


 警察関係者の顔写真。そして監視映像。


「警察庁」


 男は続ける。


「警備局」


 さらに言う。


「警備企画課係長」


 3人の男が顔を見合わせた。

 そして1人が低く言う。


「……公安の中枢じゃないか」

「そうだ」


 リーダーは淡々と答えた。


「村上を止めたのも、この男だ」


 拳銃による銃撃戦。それから爆弾処理。それらすべての報告がそこにあった。

 別の男が言う。


「つまり」


 机を叩く。


「公安の幹部と女子高生が一緒に動いてるってことか?」


 リーダーは頷いた。


「その通りだ」


 沈黙が落ちる。やがて1人が笑った。


「面白い」


 だが、その笑いは長く続かなかった。リーダーが言ったからだ。


「問題は、そこではない」


 男は、春菜の写真を指で押さえる。


「この少女の方が問題なんだ」


 ゆっくり言う。


「過去に、日本支部の人体実験の被験体だったこと以外に、それ以外の部分でも、普通の人間ではない可能性がある」


 1人が眉をひそめる。


「それは、どういう意味だ?」


 リーダーは答えない。ただ写真を見る。

 そして言った。


「調べろ」


 短い命令だった。


「家族・学校・友人・過去」


 1つずつ言葉を並べる。


「すべてだ」


 3人が頷く。

 リーダーは続けて言った。


「そして……」


 少し間を置く。


「もし、仮説が正しければ」


 声が低くなる。


「彼女は、我々にとって」


 写真を軽く叩く。


「非常に価値のある存在だ」


 部屋の空気が変わった。そして1人の男が聞く。


「捕まえるのか?」


 リーダーは、少し考える。そして言った。


「状況次第だ。だが……」


 視線が鋭くなる。


「この、公安の男の方は、邪魔だ」


 龍二の写真を見る。


「排除も視野に入れる」


 その言葉は静かだった。だが、はっきりとした殺意があった。

 男は、椅子から立ち上がる。会議は、終わりだという合図だった。


「我々も日本支部に行き、動き出す」


 誰も反論しない。


「“ノクティス”は止まらない」


 最後に男は言った。


「そして、次こそは失敗しない」


 机の上に残された春菜と龍二の写真。

 2人の顔が、薄暗い照明の下で並んでいた。そしてその上に、影が落ちる。

 それは、新しい戦いの影だった。

『良かった』『続きが気になる』などと思っていただけたなら、評価やブックマークをしてくださると、とても嬉しいです。これからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。