表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
潜入警部と忘れない少女  作者: 青山春彦
第3章 記憶少女の警護編
19/23

19話 守るべき日常

 ───警察庁・警備局フロア。


 午前の慌ただしさが一段落した頃、課内には少しだけ落ち着いた空気が流れていた。

 会議室から出た春菜は、周囲をきょろきょろと見回している。

 デスクに向かう公安警察の刑事たち。

 電話のやり取り・資料の束。どれも、今まで見たことのない世界だった。

 春菜は小さく言った。


「なんか……本当に警察なんだね」


 龍二は隣を歩きながら答える。


「当たり前だろ」


 春菜は苦笑する。


「龍二くん、普段はここで働いてるんだよね」

「ああ」

「なんか不思議……」


 龍二は少しだけ考える。


「何が言いたいんだ?」


 春菜は言った。


「学校では、普通のクラスメイトなのに」


 龍二を見る。


「ここでは、すごい偉い人みたい」


 龍二は淡々と言う。


「偉くはない。ただの係長だ」


 春菜は呆れたように言った。


「いやいや。警察庁の係長って十分すごいと思うけど……」


 その時だった。背後から声がした。


「確かに、そうかもな」


 振り向くと、そこに立っていたのは、須藤だった。

 スーツ姿のまま、腕を組んでいる。春菜は少し驚く。


「須藤さん」


 須藤は軽く頷いた。


「よう、鈴木さん」


 そして龍二を見る。


「それに大黒」


 龍二は、敬語になる。


「お疲れ様です」


 須藤は苦笑した。


「そんな堅い挨拶いらん」


 そして春菜を見る。


「ところで鈴木さん。こいつ、ちゃんと鈴木さんのこと、守ってるか?」


 春菜は笑った。


「はい」


 龍二は淡々と言う。


「もちろん。任務ですから」


 須藤は鼻で笑った。


「お前は相変わらずだな」


 そして、春菜に小声で言う。


「こいつ昔からこうなんだ」

「仕事人間ってことですか?」


 春菜は少し笑う。須藤は続けた。


「そうだ。でもな」


 龍二をちらっと見る。


「今回の件は、よくやった」


 龍二は短く答える。


「ありがとうございます」


 須藤は肩をすくめる。


「ただし」


 春菜を指す。


「次は、あのような危険な現場に警護対象者を連れてくるな」


 龍二はすぐに言った。


「承知しています」


 須藤はため息をついた。


「本当に分かってるのか?」


 だが次の瞬間、少し笑う。


「まぁいい」


 そして歩きながら言った。


「ところで、これからどうするんだ?」


 龍二は答える。


「セーフハウスへ移動しようかと思います」


 須藤が眉を上げる。


「どこのだ?」

「霞ヶ関……すぐそこのです」


 須藤が吹き出した。


「お前って、本当にセーフハウス多いよな」


 龍二は平然と言う。


「職業柄ですよ」


 須藤は春菜を見る。


「これから大黒と一緒にいる鈴木さんに言っておこう。まず、こいつと一緒にいると何かと大変だぞ。なんせ、こいつといると普通の生活は間違いなく無理だからな」


 春菜は少し考えてから言った。


「確かに……でも」


 龍二を見る。


「退屈は、しなさそうです」


 須藤は笑った。


「確かにそうだな」


 そして須藤は、背を向ける。


「じゃあな。2人とも」


 軽く手を振る。


「何かあったら連絡しろ」


 龍二は頭を下げた。


「はい」


 須藤は去っていった。そして、春菜は小さく言った。


「優しい人だね」


 龍二は答える。


「俺の昔の上司だからな」


 そして言う。


「あの人には昔、よく怒られたもんだよ」


 春菜は笑った。


「なんだか想像できる」



 ───警察庁地下駐車場。


 巨大なコンクリートの空間に、多くの公用車が並んでいる。

 龍二は、その中の黒いセダンの前で止まった。鍵を開け、2人は、車へ乗り込む。

 エンジンが静かにかかった。そして車は、地下駐車場を出て、霞が関の街へ出る。


 ───数分後、静かな住宅街へ入った。


 そして、一軒の家の前で車が止まる。春菜が聞く。


「ここが?」


 龍二は頷いた。


「そうだ。俺のセーフハウスの一つだ」


 春菜は驚く。


「なんだかぱっと見は、普通の家なんだね」


 龍二は言った。


「だからいいんだよ」


 2人は、(セーフハウス)中へ入る。

 家具は最小限だが、生活するには十分だった。そして春菜はソファに座る。


「なんかスパイみたいだね」


 龍二は冷蔵庫を開ける。


「実際、公安警察っていうのは、日本のスパイ組織みたいなもんだからな」


 俺がそんな風に言うと、春菜は少し笑った。

 2人はその日、ここで静かに過ごした。久しぶりに平穏な時間だった。


 ───夕方。


 龍二は、時計を見る。


「そろそろ移動する」


 春菜が立ち上がる。


「次はどこに行くの?」

「学校近くのセーフハウスだ」


 車で移動すること20分。住宅街のアパートの一室に到着した。

 そこには2人分の荷物が用意されていた。

 春菜は学校の制服を手に取る。


「明日から学校かぁ」


 龍二は言った。


「普通の生活を保つのも任務のひとつだ」


 春菜は笑う。


「はいはい、わかってわよ龍二くん」


 次の日、2人は制服姿になっていた。

 鏡を見る春菜。


「なんか不思議……」


 龍二が聞く。


「何がだ?」


 春菜は言った。


「昨日まで、あんなに命狙われてたのに、今日は普通に登校だなんて……」


 龍二は答える。


「それが一番安全であり、いいんだよ」


 玄関を出る。朝の空気が少し冷たい。春菜は、龍二の横を歩く。


「ねえ龍二くん」

「なんだ?」

「学校では、普通の恋人だよね?」


 龍二は言った。


「設定上はな」


 春菜は少し笑う。


「設定じゃなくてもいいけど」


 龍二が見る。春菜は前を向いたまま言った。


「実際、設定であり本物だし」


 龍二は小さく笑った。2人は並んで歩く。その先には、湊高校の校門が見えていた。

 だが、2人はまだ知らない。

 この日常が、再び大きく揺らぐ日が来ることを……。

『良かった』『続きが気になる』などと思っていただけたなら、評価やブックマークをしてくださると、とても嬉しいです。これからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ