25.容疑者
「うっ……ん?」
「目を覚ましましたか? 須藤容疑者さん?」
目を開けた際には、格子があり、その先に律が立っていた。一体何がどうなっているのか理解できなかった。頭を振り、自分の意識を呼び覚ます。
左耳に付けていたSVがない。誰かに奪われたか。油断した。まさかあそこを出た所で待ち伏せしているとはな。あっちも本気だということだろう。まだ、殺されなかっただけよかったかもしれない。
「律か……」
「近藤警部補です。口を慎みなさい」
律が冷たい言葉を発しながら、ウインクをしている。なんとなくやりたいことはわかった。捕まっている容疑者の事情聴取をするテイで俺の置かれている状況を把握しようということだろう。
律なら話が早い。頭の回転が他の奴とは違うからな。
「ちっ! 俺が捕まったからっていい気になんなよ! 小娘が!」
俺は挑発に乗ったように格子にしがみついてかみついた演技をする。そして、カメラに背を向け小声で律へメッセージを告げる。
「俺のSVに事件当時、父さんがいたはずのビルのサーバーデータが入ってる。あとは頼む」
律が目で頷いたのを俺は感じた。お前にはもしかしたら、辛い結果になるかもしれない。それでも、律の刑事魂を信じる。
「本当に野蛮ね! 大人しくしなさい! あんまりうるさいと静かにさせるわよ?」
「クソガキがぁ! やってみろよ! おらぁ!」
それも演技だったが、律は俺のために電気ショックの警棒を首筋へと当てて、また俺の目の前は暗くなった。何度目かの暗転を繰り返し。俺は闇の中で父さんと会話していた。
『父さんはやってないんだろ?』
『そうだ。私は誰も殺していない』
『なんで自白したんだ?』
『あれは、自白すれば、息子たちは助けてやるって言われたんだ』
『俺達は、ずっと辛かった! 助けてもらってない!』
『騙されたんだろうなぁ』
『犯人は誰なんだ!?』
『私は知らない。でも、自白したときニヤリとしていた』
その言葉を境に視界は明るくなっていった。
目を覚ますと知らない天上だった。牢屋の中で寝かされていたようだ。次の日の朝になっている。律はどうだっただろうか。
うまく装置を手に入れられただろうか。朝食が運ばれてきた。パンを食べると何か硬い物が入っている。口から出すと細長いカプセルに入った紙だった。丸まっている紙を広げてみる。
『SVは手に入れました。後は、任せて下さい』
そう書かれていた。律がやってくれたんだ。俺はあと待つばかりだろう。何日がたっただろうか。一か月経ったような錯覚にも陥っていた。
日々飯を食べ、ただただ暇な日々を送る。そんな日に変化が訪れた。
「面会だ」
俺に面会だと。律だったら直接くるはずだ。一体誰なのかと疑問に思いながら守衛について行く。面会室に入ると、目の前には優が立っていた。頭がクラクラとした。
俺にかかわるなと言ったはずなのに。訳の分からないままパイプ椅子に座る。
「たいちゃん。最後かもしれないから会いに来たんだ。ごめんね」
その一言で察した。優は自分の命が危険かもしれないというのを承知の上でここに来たのだと。そして、俺に会えるのが最後かもしれないということで合いに来たのだ。
不覚にも、こみ上げてくるものがあった。今の俺にはどうすることもできない。
「関わるなって言っただろうに」
「だって、あんなこと言われたら忘れられるわけないじゃん。私はね……たいちゃんがどんな人か知ってる。捕まるようなことをする人じゃないって知ってるから! だから、信じて待ってる。私は大丈夫。理玖って人が守ってくれるって」
「そうか。それなら安心だ」
その後は、当たり障りのない雑談をして、面会を終えた。なぜ、理玖が優を知っているんだ。アイツに優のこと話したことがあっただろうか。
少しモヤモヤとしたものを抱えながら日々を過ごすことになった。優は大丈夫だろうか。そう漠然と考えていた時だった。律が現れたのは。
「この人を事情聴取室へ」
そう言い残し去っていく。鍵が開けられて案内される。一つの窓一つない無機質な部屋へと通される。一人の守衛が記録を取ろうとする。すると、律が「二人にしてください」というと渋々出て行った。
「なんとか解析が終わりました。すみませんでした。貰ったサーバーのデータには別のサーバーへのバックアップ機能が備わっていました」
「ということは……」
「はい。ちゃんとバックアップされた映像を入手しました。その映像には、事件現場とは違うビルを清掃する須藤さんのお父様の映像を手に入れました」
「やったな。それなら無実の証明になる」
「事件があったビルのサーバーのバックアップデータも手に入れました。そこには犯人が映っていました。これからその犯人に証拠を突出しに行きます」
そういうといきなり立ち上がった。意を決した目をしている。抱え込みすぎだ。独りでは無理だと俺の勘が言っている。
「待て!」
「止めても無駄です。私が裁かなければいけません」
扉を開けて出ると「終わりました」といって去って行った。必死に止めたが、力及ばず去ってしまった。どうなるかわからないぞ。




