24.犯行現場へ
目を覚ますと微笑んでいる父さんの顔が見えた気がした。「おはよう」という父さんの声が聞こえた。SVを付けたまま寝てしまったようだ。
今日は事件当日に父さんと会ったビルに行ってみよう。まだ賞金稼ぎのゴロツキがそのへんを出歩いているとは思うが、待っているほどの時間の余裕もないだろう。
玄関のドアをゆっくりと開け、隙間から外の様子を探る。人の気配はない。そのまま外へと体を出し、静かにドアを閉める。バイクで現場へ行けば目立つ。この家から現場はそう離れてはいない。歩いていくか。
「監視カメラに映らないルートを出せるか?」
『それはお安い御用だ』
脳裏に表示されるルートを歩いているとは言い難い速さで歩いて向かう。こういう時が、唯一煙草を吸っていることを後悔する瞬間だ。息の上りが早い。
最近はしっかりとした鍛錬を怠っていたように思う。日々の事件が忙しすぎて、自主鍛錬などやる気にならなかったのだ。
少し離れた所に赤いラインの入った雑居ビルが見えてきた。八階建てのビル。ここの従業員専用の入口に俺はあの時、父さんへ弁当を届けに来たんだ。
「父さんが容疑者にされた事件のあった日、記録の中にこのビルの清掃していた記録は残っているのか?」
『あの日は事件のあったビルの清掃に行っていたみたいだな』
「俺が弁当を届けたことは記録にあるか?」
『その時は弁当を食べていないさ』
統合した父さんのSVの記録の中には弁当を食べた記録はない。そして、俺に会ったという記録も無くなっている。
その矛盾を指摘しようとしたのだが、当時の俺はSVを年齢的にまだ身につけていなかった。それがずっと悔やんでいることだ。
装着していれば、動かぬ証拠になっていたかもしれないのに。いや、父さんと同じように消されていたかもしれない。明らかに当時の事件資料は揺るがない証拠のようなものができあがっていた。
犯人はこの人で間違いがないと言わんばかりに。そして、誰も否定することのできない様に色々なところに根回しがされていたように思う。
父さんの記録に残っていた事情聴取の映像。あれは、AIの記録による映像なのか、父さんの記憶が転写された映像なのか。
ずっとAIを身につけていると記憶が転写されることがあるのだという。ただ、それが証拠になるかは疑問だが。
従業員専用の入口には鍵がかかっている。AIを認証させないと入れない様になっているんだ。これをどうにかしたいが。
俺の装置では無理が……『ハッキングしたぞ。入れる』その声と同時にピロンという認証を終えたような音が響き渡った。父さんのを統合したら随分優秀になったな。
こんなことができるなら最初から活用すればよかった。そんなことを想いながら扉を静かに開ける。薄暗い通路が続いている。
この中へ入れば、中のサーバーにもハッキングできるはずだ。身を隠せるところを探し、倉庫のような所へと身を滑り込ませる。
「ビルの中へ入った。サーバーへハッキングして当時の映像を探るんだ」
『あぁ。わかった。大我の頼みだ。やってみるさ』
装置が熱を持ち始めた。高速処理を行っている証拠だろう。どういう手順でハッキングしているかは全く俺にはわからない。だが、父さんが頑張ってくれているであろうことはわかる。
自分の無実を証明する為だ。頑張ってくれよ。物音がしたので身をすくませて息をひそめる。最近の警備は赤外線を用いたりしていて高度な警備をしているからな。
赤外線を通さない様に立てかけてある鉄製のテーブルを盾にする。少し立ち止まったが、そのまま通り過ぎて行った。
こんなところで俺が捕まれば、父さんの無実も明るみにできなくなる。『解析が終わった。データをダウンロードする。あと五分はこの中にいてくれ』その音が静寂なこの空間でわずかに音漏れし、反響してしまった。
「誰かいるのか!?」
倉庫の中へ警備員が入ってきて見つかってしまった。口を押えて腕を捻り、壁へと押し付ける。腰に下げていた警棒で電気ショックを発動させて失神させる。
その体を床に転がして引き摺る。倉庫へと再び体を入れようとした時だった。「そこでなにしてる!?」再び、警備員に見つかってしまった。
このまま外に逃げるわけにはいかない。迫りくる警備員は電気ショック用の警棒を振り下ろしてくる。腕で受け止めると、電気の通らないことに唖然としていた。
そういう素材なものですまんね。顎へ掌底を当てて脳を揺さぶり倒す。次のやつはガタイがいい。体を活かして上から両手で押さえつけに来た。
それを両手で下から受け止める。そのまま開いて前蹴りを腹目掛けて放った。苦しそうなうめき声をあげて倒れ込む警備員。最後に顎を蹴り飛ばして失神させる。
「あと何分だ!?」
『あと二分くらいかな?』
「なげえ!」
階段の上から次々と下りてくる警備員。一体何人常駐しているんだか。それとも、緊急で招集されたのか。さっき倒した警備員から電気ショック警棒を取り上げて迫ってくる警備員の首へと当てる。
次も、その次も。階段が警備員で埋め尽くされた頃に、ダウンロード終了のお告げが来た。『終わった』その言葉を聞くや否や、外へと出る扉へ一直線に走り、扉を開ける。と同時だった。目の前が真っ暗に。




