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人を超えしモノ~AIが溢れる中で人としてどう生きる?~  作者: ゆる弥


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23.クソジジイ

 ビル群は過ぎ去っていき。閑静な住宅街へとバイクは向かっていた。二階建ての住宅が並ぶまだ古い家の多く残るこの辺では歩いている人がちらほらいる。


 このバイクの様な骨董品に乗っている物好きもたまにいる。重低音を響かせながら昔いた住宅の庭にバイクを滑り込ませる。


 この家は殺人犯の家だと言われていて誰もよりつくことはない。それを逆手にとってここへと隠れようというわけだ。


 落ちていたブルーシートをバイクにかけて玄関へと歩を進める。玄関は施錠などされているわけもなく、扉が開く。

 

「やはりきたか」

 

「っ!」

 

 いきなりの声に、思わず後退りしてしまった。何者かが先回りしていたようだ。ならば始末するしかないと拳を構える。


 立っている者をよく見ると白髪を生やした飲み屋で絡んでくる爺だった。頭に血が昇る感覚に襲われた。AIなのだからそんなわけないのだが。目の前が赤く染まり、気が付くと爺の胸ぐらを掴んでいた。

 

「お前! 俺の父さんの事件に関わっていたな! 一体どうなってる!」

 

 その爺は、力がなくされるがままになっている。

 手をタップして俺が力を抜くと、首を振り中へと入るように促しているようだ。

 男の後ろをついていき、リビングへと入っていった。


 俺がソファーへと腰掛けると立ったまま頭を下げてきた。


「申し訳なかった!」


 全く、事態が飲み込めなかった。この爺は一体何を知っていて、何故俺に謝っているのか。まったく何が起きているのかわからなかった。

 

「これがワシのできる精一杯の謝罪だ。これ以上は何もできない。すまん。真実を話せば、ワシの命もないだろう」

 

「言いたいことはそれだけか? あんた、警察官だったんだな。俺の父さんの取り調べに立ち会ったんだろう? 父さんは、殺人犯にされて刑務所に入れられ、その中で病により死んだとされている。それは真実なのか? 刑務所の中でどうなったか知ってるんじゃないのか?」

 

 爺は無言だった。おそらく、それさえも言えないということなんだろう。なぜ、言えないのか。それは監視社会だから。


 もし、爺のAIがハッキングでもされていればリアルタイムでここにいる俺の映像はどこかの誰かが見ていて、会話も聞かれていることだろう。


 そうだったとしても、俺は構わない。人間ではないからだ。俺は死なない。父さんの無実を証明するまではこの体の活動を止めることはない。


 ジッと見つめているが、こちらがいくら睨んだところで命はおしいだろうから話すことはないだろう。

 

「話せないなら、なぜここにきた?」

 

「ワシの精一杯の謝罪をするためだ。真実を知っただろう?」

 

「父さんが冤罪だったことは分かったが、真犯人が誰かはわかっていない」

 

 眉を動かしながらも話せないようで口をつぐんでいる。悪いとは思っていても命を賭けるほどではないということか。


 そんな形だけの謝罪などいらない。俺は父さんの無実を証明したいんだ。真犯人を探しだし、警察関係者に突きつけてやりたい。


 その一心で今まで頑張ってきたんだ。警察の不祥事を皆に知らしめようとしているのだ。こんなことがわかれば日本中の人達へ、瞬く間に広がっていき、警察関係者の信頼は地に落ちることだろう。


 治安が悪化するかもしれない。でも、そんなこと知ったことではない。

 

「そうか。犯人が誰かは言えないが、一から洗い直せば何か出てくるかもしれん。もう時が経ってボロが出始める頃合いだろう」

 

 それだけ告げると、爺は腰を上げ、小さな背中を縮こまらせてリビングから出て行った。少しして玄関の閉まる音がしたので、家から出て行ったのだろう。


 いったいなんだったんだ。俺に一から洗い直せというのか。たしかに現場のビルにはちゃんと捜査で行ったことがなかった。


 証拠品がねつ造されたことを証明しようとそればかり探っていたのだ。普通の捜査と同じように事件現場へ行き、詳しく捜査をしようという考えが浮かばなかった。


 自分の考えの甘さを今さらながらに呪った。これまで何をやっていたのか。現場に行けば何かわかるかもしれないとなぜ思わなかった。


 完全に消されていると分かっていたからだが。だとしても、何かあるのかもしれない。少しほとぼりが冷めたら現場へ行ってみよう。


 この場所は監視カメラの映像を追ったとしてもたどり着けないだろう。強盗犯などが逃げる時になぜ来た方向へ逃げるのか。それは監視カメラの死角が多く存在するからなのだ。


 北区などはいまだに古い住宅が残っているところもあり、監視社会に反感を持っている人たちが多い。だから、カメラを壊されているところも多数存在する。何回直しても破壊されるから政府も半ばあきらめているようなところがある。

 

 埃をかぶっているテーブルの上には吸殻が残ったままの灰皿が真ん中に陣取っていた。その姿に懐かしさを覚えた。胸ポケットから古めかしい緑のパッケージの箱を取り出し、中から一本取りだす。


 口へとくわえると先端へオイルライターで火をつける。息を大きく吸いこみ、肺へと行き渡るニコチンを感じながら紫煙を吐き出す。


 少し証拠品の整理をしようと思い立った。AIへと父さんの事件資料を見せてもらうように頼んでみた。最初に脳裏へ映し出されたのはどこかのビルの一室。


 そこには女性と父さんらしき人が映っていた。遠目からだから本人か定かではない。言い争いをしている様子でもみ合いになった後、父さんが刃物をだしその女性を刺した。その後、慌てた様子で立ち去ったのだ。


 AIへ音声データがあるかと聞くとないという。これは本当に父さんなのだろうか。音声データがないのもおかしい。音声と共に録画されているはずだ。不穏な会話をすればすぐに警察が急行してくる。そういう社会なのだから。

 

「この元データにハッキングできるか?」

 

『それがな、父さんは遠隔ではできないんだ。ビルの中へと行き、館内のネットワークに入れば元を辿れるかもしれない』

 

「ふー。そうか。じゃあ明日にでも行ってみよう」

 

 紫煙を吐き出しながら考えをまとめていく。まずは、犯行の行われた現場へと行く。その後、俺が最後に父さんと合ったビルにも行ってみよう。


 情報を少しずつ集めていくんだ。そうだ。そうやって俺は捜査して来たじゃないか。令和以前みたいに、足で捜査できるんだ。


 AIだけでは辿り着けない答えに、辿り着くために足で調べる。そこでわかった情報を元にその後の捜査方針を決めて行こう。


 煙草を灰皿へと押し付け立ち上がると、玄関を施錠してソファーに寝ることとした。ベッドなんぞどんな虫がいるかわからんからな。虫は嫌だ。


 アイツ等は理解できない生き物だ。目を瞑ると『おやすみ』と父さんが声をかけてきた。「おやすみ」と返事をし、意識を手放した。

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