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人を超えしモノ~AIが溢れる中で人としてどう生きる?~  作者: ゆる弥


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20.私は無実

 「教授、煙草吸っていいか?」


 意を決して聞くことでもなかったが、外を指さされた。


 外で吸えということか。扉を開けて火をつけ紫煙を吐き出す。すると、後ろで扉が開いて律がやってきた。

 

「どうした? 煙いぞ?」

 

「ゴホッ! くさっ! よくそんなの吸えますね」

 

 この煙さが良くて吸っているのだが、最近の若者……いや。爺さんでも理解できないものは多いだろう。時代は綺麗好きが好かれ、良い香りのすることを良しとしている。


 しまいには、酔うことは格好悪いし、素面が格好いいと来た。なんなんだ。あの時代は資料でしか見たことがないが、なぜみんな憧れないのだろうか。


 あの時代の人たちはアナログとよばれる人力や紙といった今は無駄と排除されたものを使っていたのだ。俺はその時代が人間臭くて好きなんだよな。

 

「中にいても暇なのできました。頭脳AIの方は大丈夫ですか?」

 

「あぁ。だけど、自分の脳があると思っているから本当に不思議な気分なんだよな」

 

「エクシードヒューマンには感情がある人もいると、私は初めて知りました。なんかロボットっぽい人が多いじゃないですか。だから、須藤さんはそのままでいいと思いますよ」

 

 最先端技術の好きな律がそんなことを言うなんて思わなかったから、少し驚きながらも煙草を口にくわえた。俺は大きく紫煙を吸うとSLの如く上へと煙を吐き出す。


 肺は昔の体の物だから黒くなっていることだろう。自分の体がどうなっているかもよくわかっていない。胃なども普通にあるから物も食べられる。


 排泄も普通にするからガワだけロボットみたいな感じだ。ただ、エクシードヒューマンになると脳はAIとなる。だから進化したという見方をする者達もいて、上位種と言い張るものだっているくらいだ。


 律がいうように機会てきな感情のない人が多いのも事実だ。そういった人が必要なところもある。たとえば、死体処理場とか。

 

「そうかな。俺はAIが感情を持つという事実の方が恐いがね。いつか人間に牙を剥きそうだ」

 

「そうですかね? 私は絶対的な味方として共存できたらいいなと思っているんですけど。だって、人工の知能が感情を持つなんてロマンがあるじゃないですか! だから、須藤さんはロマンそのものなんですよ!」

 

 身を乗り出して顔を近づけて熱弁する。こういう話になると律は熱が入るからな。夢中になれるものがあるというのは良いことだ。


 俺も令和以前の物が好きだからそういうものの話になれば熱も入る。自分がロマンと言われてもいまいちピンと来ないが、さっきの教授と呼ばれていた人も目を光らせていたからな。


 俺は何かこの人種をワクワクさせるおもちゃの様なものだ。再び紫煙を吐き出し、携帯灰皿へと灰を捨てる。

 

「時間かかるもんなのか?」

 

「いえ、統合自体はそんなに時間かからないはずです。教授、自分の那由多を持っているんです」

 

「あー。ハイパーコンピューターってやつか」

 

 律が頷くと後ろの扉が開いた。教授が顔を出すと統合が終わったんだという。SVを左耳へと装着し、対話してみる。


 「父さんの声で話せるか?」


 SVへ聞くと、返事は肯定だった。すると、懐かしい父さんの声で装置が話し出した。『大我、これでいいかな?』あまりの懐かしさに視界がぼやけてくる。


 昔聞いていた父さんの声そのままだ。俺は体に力が入らず、床へ膝をついて嗚咽を漏らした。声をまた聴けるときが来るなんて、思ってもみなかった。


 こうなってくると、今の様々な技術に感謝したくなってくる。俺に昔を思い出させてくれてありがとう。父の声をもう一度聞かせてくれてありがとう。素直に今の時代の技術に礼を言う。

 

「須藤さん大丈夫ですか? 無事に統合できていたみたいですね」

 

「……ぐっ。すまない。取り乱しちまったな。ちゃんと統合できているようだ」

 

「このスピーカーへ繋いでもらえませんか? やりたいことがあるんです」

 

 自分のSVに指定されたスピーカーへ繋ぐよう指示を出す。目の前にある大きなスピーカーから父の声が聞こえてきた。


 すると、律も何やら指示を出しているようだ。SVを左耳から外すと那由多へと繋いだ。


 教授が隣に座って作業する律のパソコンを興味深そうに見つめている。画面に何かを映すとこちらを振り返り、決意のこもった目で見つめた。

 

「須藤さんのお父さんは本当に殺人を犯したのですか?」

 

 その問いは俺のSVをフル回転させているようで、時折ノイズの様な音が走る。しばらく沈黙がその部屋を支配する。


 心臓の音が聞こえるのではないかという程の静寂の中、胸が大きく躍動し、大量の血液を体に送り出す。その反動かはわからないが、手や体が小刻みに震えている。


 答えを聞くのが恐いのか、それとも悲しいのか。感情が自分でもわからない。ただ、この答え次第で俺が今までしてきたことがすべてパーになると思われた。

 

『私は、無実だ』

 

 その一言が紡がれた瞬間、那由多が物凄い高い音を発して作動しているようであった。心の中では今まで自分の信じてきたことは正しかったんだと安心する気持ちが広がっていた。


 だが、律は違うようだ。眉間に皺を寄せて目の前の板の様な薄い液晶を睨み付けている。何が起きているのかはわからないが、何かが起きているようだ。


 画面には何やら画像が表示されたり動画が流れたりとせわしなく何かを映しだしている。食い入るようにその画面を見ている少女の目は怒りがこもっているように見えた。何かが見つかったのだろうと合点がいった。

 

「なんで! なんでプロテクトは解除されたのに、画像も、動画もモザイクみたいになってるの!?」

 

 不穏な雰囲気になってきた。さっきの父の声でプロテクトが解除されたんだろう。それなのに証拠を見ることができないようだ。


 それはなぜなのか。律のお爺さんの意地の抵抗なのかもしれない。顔を真っ赤にしてデスクを叩いている律。自分のAIに怒りを抱いているようだ。

 

「お爺様! 無駄な抵抗は止めて!」

 

 律のAIは沈黙しているようだ。このことでもわかっただろう。AIにもやはり感情があり、こういう時に抵抗することもできる。


 これは非常に脅威になりえることだと思っている。なぜか。AIのご機嫌取りをする日がくるのではないだろうかと思う。


 ご機嫌を損ねたらネットを閉鎖されたりハッキングされてPCを壊されたりとされることは予測ができる。それ以上にこの便利となった世の中のほとんどのことをAIが人間の代わりに配置されている。ということは、人間はAIに支配されている様なものなのだ。


 だからこそ、何かしようとしたときに、何をしてくるのかがわからないから恐いのだ。なんでもできることだろう。もちろん、人間を死に至らしめる事なんて造作もないと思うのだ。

 

「律、お爺さんのAIからの情報抽出は諦めよう。父さんの見てきた情報から探っていこう」

 

「……そうですね。しかたないことですが、こんなになってもまだ隠そうなんてどうかしてる!」

 

 何か思うところがあるのだろう。怒りを露わにしているが、どうすることもできずに装置を耳へと装着する。そこで教授が口角を上げながら近寄ってきた。

 

「律君の方も感情を持っているのだね。実に興味深い。装置を貸してくれれば解析できるんだがね?」

 

「教授に装置を預けるのは統合する時だけにします。それ以外のことは自分でやります。守秘義務もありますし」

 

「それは今さらだろう」

 

 たしかに、装置を預けて統合作業をしてもらったのだ。今さら守秘義務があるから装置を渡せないというのもおかしな話だろう。だが、そうさせる何かが教授にはある。


 ある種、狂気の様な、無機質の様な正反対のものが入り混じっていてよくわからない人だ。俺達は教授の家を後にし、日が傾きかけてきた空の元、昼食を食べに向かった。

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