6.熱狂
噂は広がった。
SNSでは語れない。
リアルの繋がりでのみで静かに。
バーの片隅。
仕事帰りのホームの端。
深夜のコンビニの前。
都会の喧騒に紛れるような囁き。
「地下には"本物"が、あるんだって。」
「それだって、実はホログラムらしいじゃん」
「その公演によってセリフが違うって、もうそういう台本なだけじゃないの?」
「親戚の友人が運良く観れたらしいんだけど、マジでその後昇進したらしい!」
「チケットって観た人3人の紹介が必要なんだろ?本当に実在するんのかよ」
「ある日、家のポストにチケットが届けられるそうよ」
「さすがにそこまでいくと都市伝説だろ」
噂が噂を呼んだ。
だが誰もが、出処を知らない伝聞。
全てが真実なのか、それとも。
わざとケムに巻くように、
真実と嘘が混じり合うように。
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ある会社員は、深夜に帰宅してポストを開けた。
不要なチラシに埋もれて
見慣れない白い封筒が混ざっていた。
差出人はない。
配達されたのなら付くはずの、僅かなシワも汚れもない真っ新な白だった。
中には、
一枚のチケット。
たったそれだけ。
裏面には、わずかな情報がある。
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紹介者名
①xx谷xx人
②松xx大xx
③xx山航xx
公演日時場所:
※紹介者様3名にそれぞれお聞きください
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彼は眉をひそめた。
記載された紹介者は確かに実在する知人だ。
だが知人同士に交流はない、はずだ。
「……イタズラか?」
正直、不気味だった。
それでも本物ならと、公演を観たい気持ちが上回った。
そんな、幸運にもチケットを手に入れることが出来た人たちには何の共通点もなかった。
会社員。
学生。
看護師。
配達員。
金持ちでもなければ、
有名人でもない。名もなき善良な人々。
そんな彼らがある日突然、招待されるのだ。
だか、中には意外な人間もいた。
AIドラマの脚本家。
AIタレントのモーションデザイナー。
本来なら相反する立場の人間だ。
彼らは言う、
「完璧すぎるものはやがて、飽きる。」
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終演後、
誰もが暫く我を忘れた。
客席には、
奇妙な沈黙があった。
帰りを急ぐものはいない。
何人かは顔をハンカチで押さえている。
だが、やがて口々に語る感想は微妙に違った。
「母親の話だった」
「違う、革命の話だった」
「いや……あれは、俺の人生だった」
同じ舞台のはずなのに、
語られる物語は一致しない。
ーー人々は、気づき始める。
「偶然のない感動」
今まで当たり前だったそれは、とても安心な感動だった。
だが、名無しを体験した後の違和感。
もし、己の感じ方さえも、
ひとところに意図的に、
"誘導"されていた。と、したら?
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脚本家は問う。
「ログ、取れたか?」
デザイナーは首を振る。
「無理。おてあげ。」
「舞台の映像解析は?」
「フレームごとに構造が変わる。普通のホログラムじゃない」
微妙な空気が流れる。
彼はスマホを取り出し、
誰かにメッセージを送る。
『地下劇団の再調査を』
既読はすぐについた。
返事は、一行。
『既に進めている』




