◆竜紋の秘密
ここはダンジョンの65階層。
アレフはひとり悩んでいた。
最初はティナたちと別れて、いったん故郷に帰ろうと思っていた。
しかし、今は右手の甲に竜紋が輝いている。
これは、自分が不覚にもティナの胸を揉んでしまい、何でもそれは暗黒竜の求愛行動だというのである。
そして紋章は番いの証なのだと言う。
暗黒竜の番いは一生添い遂げるとティナは言っている。
つまり自分は、もうティナから離れられないと言うことになるのだ。
もし故郷に帰れば、当然ティナもついてくるだろう。
おまけのサキュバスたちもである。
「ぐぁーーーっ! 俺はいったい、どうしたらいいんだぁーー!」
もう、せっかくの朝飯も、ほとんど喉を通らない。
店から出て、しばらく歩いていると冒険者たちが屯っていた。
何事かと聞いてみれば、96階層の紅神龍戦まで辿りついた強者たちのパーティが、瀕死状態でギルドに担ぎ込まれたらしい。
強者7人のメンバーでも勝てなかった紅神龍の強さは、まさに神レベルである。
ダンジョン攻略を進めるのも、故郷に帰るのもどちらも地獄である。
「アレフ、こんな所で何をしているんですか?」
アレフが広場のベンチに腰掛け、呆けているところにティナがやって来た。
「ああ、お前か・・・ なぁ、この紋章消せないのか?」
何となく夫婦関係が解消できないものかとダメもとで訊いてみる。
「消せますよ」
「なんだって、本当か?」
「はい。 左手の甲を重ねて消えろと念じて見てください」
思わぬ展開にアレフは驚くが、すぐにやってみる。
『紋章よ消えろ!』
すると、なるほど紋章はスゥーーっと消えてしまった。
「ティナ、すごい本当に消えたぞ」
番いの印が消えたことにアレフは嬉しそうにティナを見た。
「ええ、それ目立ちますものね。 でも能力を使うときには、また浮かび上がりますよ」
「なんだ、そうなのか・・ って能力ってなんだ?」
ティナは、「あっ!」説明していなかったという顔をしてから、話し始める。
「その紋章は、わたしとアレフの絆なのです。 その紋章を通じて、わたしの能力をアレフも使うことができるのですよ」
「つまり、俺も暗黒竜であるティナの力が使えるという事か?」
「ええ、全てではありませんが」
「ちなみに、ティナのレベルは、どのくらいなんだ?」
「レベルなんて気にした事がないので・・・ でも例えば紅神龍が百体同時にかかってきたとしても、私の敵ではありません」
ほげぇ?
「いや、変な声が出ちまったじゃねぇか。 マジかよ!」
「一緒に魔物と戦ってきたのに、アレフは気が付かなかったのですか?」
「見た目で騙されたんだよ。 せいぜい俺とタメくらいかと思ってたぜ」
ティナの紋章の説明で、さっきまでのアレフの迷いは消えた。
そう、ダンジョンの攻略を進めることにしたのだ。
何しろ暗黒竜の力が使えるのだから、これほど心強いことはない。
ほぼ、無敵に等しいのである。
「よしっ! 明日は96階層へ戻って、紅神龍をぶっ倒す!」
こうして、アレフはやる気を取り戻したのであった。




