◆クラーケン
出航してから、既に5日が過ぎていた。
今、船の周りは360度水平線で、湖岸は全く見えない。
しかし、何故この階層だけが、こんなに広いのだろう。
アレフは、このモヤモヤした気持ちに、どうしようもなく落ち着きを無くしている。
それに魔物の姿も全く見当たらない。
やることもなく、景色も一切変わらず、退屈過ぎて死にそうである。
「おい、ティナ。 お前この階層は初めてなのか?」
アレフは、いつの間にか水着姿になっている、ティナに話しかけた。
「初めてではありませんけど、見ての通り何もなかったので、すぐに引き返しました。 なので初めてといっても良いレベルですね」
「そうか・・・ しかし本当に何にもねぇな!」
「アレフ。 暇ならば、釣りでもしてはいかがです?」
「いや、甲板から水面まで何メートルあると思ってるんだよ」
「あら、アレフ。 もう忘れたのですか? 出航前にご自分で長い釣り竿とか用意していたじゃないですか」
「ん? おお、忘れてたわ。 そういえば、念のため食料調達用にと思って積み込んだな」
アレフは、船底の倉庫から釣り竿を持って来て、釣りの準備を始めた。
「しかし、餌になるようなものがないな・・・ このワニの干し肉でも付けておくか」
ワニの干し肉は、たくさん作って積み込んだので、それを付けて船尾のデッキから糸を垂らした。
しかし、船は止まっているわけではないので、トローリングのようになる。
「これじゃ、期待はできないな」
アレフは、ビーチベッドのような蔦でできた長椅子に寝そべり、日光浴をしながら魚がかかるのをゆったりと待つことにした。
***
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*
1時間ほどしたころ、いきなり強い当たりがあり、釣り竿が湖に引き込まれそうになる。
「よっしゃっ! キタ、キタ、キターーァ!」
見れば3mくらいはあろう、大きな魚が湖面を跳ねる。
「今日は、ワニ肉以外のものが食えるぜ」
しばらく、魚とのバトルが続き、双方が疲労し始めたころ、それは突然現れた。
吸盤のついた長い触手が、アレフの釣り竿にかかった魚にぐるりと巻き付くと、そのまま湖に引きずり込んで行くではないか。
「このやろう! 横取りするつもりか!」
ものすごい力に引かれ、アレフも湖に落ちそうになるが、横からティナが加勢に入る。
見た目とは裏腹に、暗黒竜のティナは怪力で、触手はズルズルと引っ張られ、やがて本体が湖面に現れる。
「おい、おい、おい。 クラーケンって淡水にも生息するんか?」
見れば30mはあろうかと思われるクラーケンが、今にも墨を吐こうとアレフを睨んでくる。
まともにくらったら、クラーケンの強力な墨は1か月は落ちないだろう。
しかし、アレフは釣り竿を持っているため、逃げることが出来ない。
もし竿から手を離せば、ヒットした巨大魚やクラーケンにも逃げられてしまう。
「せっかく美味い物が食べられるチャンスを逃すかよ!」
アレフは子どものころから、肉より海鮮が好きだった。
それは、アレフの故郷が港町の近くだったこともある。
朝早くに、たくさんの漁船が港に帰って来て、獲れたての魚を水揚げする。
新鮮な魚を小さいころから食べていたアレフは、鮮度には厳しいのだ。
「待ってろよ! これからお前らを刺身で食ってやるからな!」
そうアレフが叫んだと同時に、クラーケンは大量の墨を吐き出した。
「うぉっ!」
墨は真黒な塊となって、物凄い勢いで飛んで来る。
バシャッ ビチャビチャッ
アレフもろとも、辺りは一面墨で真黒になる。
しかし、アレフの横で一緒に釣り竿を握っていたティナは、まったく墨をかぶっていない。
アレフが横目でティナを見るとティナは「えへっ」と笑った。
「くそっ、自分だけずるいぞティナ!」
このあと、更に1時間ほどの奮闘の末、アレフは獲物をゲットしたのだった。




