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二対の神

 二対の神が戦闘を開始したと同時に、時空が歪んで見える。事実、その干渉によって風景が歪み、急激に加速させた世界の中、彼らは原始的な、徒手空拳による殺し合いを始める。

 戦闘の影響でかろうじて立っていた城の廊下はその衝撃の余波で遂に崩壊を始めた。

 その動きを一足早く察知し、国王の体を隙を見て蹴り飛ばし、正常な時間に戻ってきた邪神はパラナの体を抱え、外へ逃げた。

 空中に足場を作り、当たり前のように空中に避難した彼は、パラナをゆっくり地面に降ろし、残骸の山に彼を置いていく。


「じゃあ、行ってくるぞ。そこで大人しくしてろよ?」


「…子供扱いするな」


 邪神の冗談に彼はムッとなって答え、彼は普段通りに笑ってすぐにその場から消えていった。


「待たせたな」


 空中でこちらを探していた国王に直進し、挨拶代わりに掌底を叩きつけ、勢いで仰け反った首筋を狙って爪を振り下ろす。

 しかし、それは歪んだ空間に阻まれ、届かない。返しに同じく空間を抉った一撃が飛んでくるが、その前に距離を取って回避する。


 すぐに距離を詰め、再度急所を狙う。接近を許すもののそれは腕に防がれるが、彼の姿はヒトのそれとは大きく異なる。

 すぐに三本目の腕が伸び、それを捕らえようとするが、距離を離される。しかし、その腕は文字通り伸びて、国王の体を捕らえた。


「人間のできる戦い方だけではないのでな」


 彼は悪そうに答え、がら空きの腹部に渾身の掌底を叩き込み、そこに流し込んだ魔力で肉体を爆散させようとしたが、魔法の起動が阻まれる。


「……(アルマロス)の力か」


 すぐに何を起こしたのか理解し、現実時間では2秒ほど過ぎたところで、再度相対する。

 再度接近するが、今度はその前に逃げられ―上空に浮かんだ巨大な円陣から放たれた光線が、放物線を描きながら迫りくる。


「……はぁ、」


 つまらなそうに彼はため息を吐き、片手を上げると、幾重にも重なった防御壁が出現し、それらを受け止めた。

 当の本人は既にそこにはおらず、国王の放った美しい飛沫が散っていく中、接近する。

 近づいたと思ったその一瞬で、二人は座標を取り替えられ、邪神は虚空に放り出される。

 その一方で、邪神を背にした国王は虚空から数多の羽虫のような生き物を生み出し、向かわせる。


 しかしそれらは邪神に触れることすら叶わず、放たれた灼熱の大槍を前に蒸発した。

 国王は空間を捻じ曲げて軌道を変え、邪神に向けて反射する。大爆発と放たれた熱で空中に居たにも関わらず、地面一帯が焦土と化すほどの衝撃。その中でも傷一つ付かない邪神は全く気にせず向かっていく。


 国王も爆発の余波の影響は一切無く、真正面から向かってくる彼を迎撃し、四方から伸びた腕が捕らえようとする。

 邪神も魔力で作り出した蛇が迫る腕を呑み込み、爆散したところで二人は改めて対峙する。


「お前の力はその程度か?」


 国王の分かりやすい挑発に、彼は鼻で笑う。


「こちらにも事情があってな。

 逆に聞くが、お前も大概じゃないか? 本気で私と戦うつもりなら、その器に宿る神の力で作り替えても良いだろう。

 それでもお前は"神成"の体に執着している。それは不用意な真似をしてスキルの消失と器としての適正を失うことを恐れていると見た」


「……流石だな」


 邪神の指摘に彼女は表情を変えずに答え、彼は牙をむき出して笑う。


「まぁ、私も"契約"の都合でその体を殺すわけにはいかん。返してもらうぞ」


 手を抜いていた、と言うよりも、"神成"という一人の人間を取り戻すために戦う彼は手を抜かざる得ない状況になっている。隠さずにそれを告げると、国王は馬鹿にするように笑った。


「体の主導権はこちらにある。それで、体だけを奪い返すつもりか?」


「その体の中にまだ神成は生きている。お前だけを排除できれば、本人の自我も取り戻せるだろう?」


「……お前、そこまで理解しているか」


 邪神の言葉に、改めて危険度を改める必要を感じ、国王は禍々しい気配を纏う。


「お前は、やはり知りすぎている。

 ここで排除させてもらおう」


「神でも、そんな低俗な悪役のような台詞を吐くのだな」


 邪神は余裕を崩さずに笑い、国王は無言で迫りくる。

 残像を重ねながら放たれた光の奔流に、邪神は退避しようとしたが、突然足場が崩される。


「ん?」


 魔力を使って再度足場を固めようとしたが、うまくいかない。墜落しながら彼は冷静に分析し、結論に至ったところで副腕を伸ばして屋根を掴み、体を引き上げていたところで、光の本体に腕を切り落とされ、その勢いのまま空を舞っていく。


(アルマロスの本来の権能、といったところか。私の体への影響はないことを考えると、放出している魔力の構築を阻まれている、と考えるのが筋か)


 異能封じの堕天使(アルマロス)の名前の由来を思い出し、異界の力である魔法―厳密に言えば、基盤となるマナの構築を妨げられていることをすぐに理解する。しかし、魔法を封じられるということは、時空への干渉を含む、神の力への対抗手段を失うと言う事。

 その分析が終わると同時に―加速した国王が襲いかかってくるが、対抗手段が無いわけではない。


「―さて、」


 体内で完結させれば、神の力も影響しないのであれば、問題はない。

 邪神は自身の周囲、ではなく己の五感を加速させた。その感覚に着いていかせる為に、更に身体能力を強化させる。

 普段と変わらない世界。ただ、空中に投げ出されたままで、世界だけが置いていかれた光景。嬉々として襲いかかる国王に向け、副腕を伸ばし、引き寄せる。

 不意を突かれた形でその表情に焦りが見えた時にはもう遅い。手打ち、とは言え加速した世界に着いていかせる為に極限まで強化した一撃は、その細い体を軽々と吹き飛ばした。筈が、血煙となって消し飛ぶことはなく、肉の形を保ったまま、地面まで吹き飛んでいく。

 五感を戻し、腕を伸ばして屋根に降り立った邪神は鼻を鳴らす。


「しつこいな。まぁ、死んでもらっては困るのだが」


 アルマロスの権能は距離を離せば影響しないのか、加速の影響に耐えきれず千切れていった副腕は、瞬く間に再生する。

 千里眼を使って、国王の位置を確認し、彼は追撃のために力を込めた所で、周囲の空間を閉鎖させられる。面倒に光り輝く剣を生み出し、"力そのもの"を消し去り、無意識でこの力を見せてしまったことを思い出した。


「…………、まぁ、いいか」


 相手が面倒な真似をしてくるならば、その対抗策は必要と考えを改め、彼は国王に向かっていった。

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