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本音と願い

 この際、全て隠すこと無く、彼らは全てを伝えたところで、パラナは噛み締めるように、深く、息を吐いた。


「そう、か」


「…………」


 彼らは何も言わず、パラナの反応を待ち、それを感じ取った彼は話しだした。


「今は、私情を優先するわけにはいかない。如何なる理由であろうと―このままでは、我々の命に関わる。

 少なくとも、数少ない味方は貴重だ。"総司令"の奪還については、私から止める理由はない」


 パラナは感情を押し殺したように言い、今後の計画を続行に否定はない。


「ならば、予定通りで構わんな。お前たち三人は、総司令の奪還、私は神成の方に首を突っ込んでくる」


 マクスウェルもそれに従って動こうとするが、シナロアは動き出す前に一つ聞いた。


「パラナ。君はこのままでいいの?」


「……何の話だ」


「言わなくても分かってるでしょ。君たちは、はっきり言って不器用だ。だから、お互いの距離感が分からなくて、本心を伝えられてない。

 それが長年の仲違いの原因になってしまっているし、この機会は、ちゃんと向き合う良い機会じゃないの?」


「……」


 シナロアの問いに、パラナは答えを拒むように顔を背ける。まどろっこしく感じたシナロアは、苛立たしげに指を突き立てる。


「あぁもう! こんな時でもヘタれ無くていいからさ!

 じゃあ約束! あなたの父親を連れてきたら、二人きりで話すこと!

 それが、私が君に従う条件!」


「シナロア!」


 こんな時に、そんな事を言うな、とクルドが遮ろうとするが、その前にマクスウェルが止める。


「そうだな。絶好の機会じゃないか。思いの丈を、全部ぶちまけてみろ」


「マクス…!」


 クルドとヴェルディの二人は恨めしそうに彼らを見るが、態度を改めるつもりはない。

 睨み合う姿を見ながら、パラナは息を吸ってから答えた。


「――そう、だな」


「パラナ様、」


 クルドが何か言おうとしたが、彼はそれを止めた。


「クルド、もう決めたことだ」


「良い子だ」


 覚悟を決めた彼の顔を見て、マクスウェルは小さく笑う。そして、話は終わったと言いたそうに背中を向けたところで、呼び止められた。


「その代わり、だ。マクス、お前の戦いに私を連れて行け」


「…………、正気か?」


 パラナの条件について、彼は目を点滅させて聞き返したが、答えは変わらない。


「お願いだ、連れて行ってくれ」


 断ろうとしたが、パラナの目を見て数秒悩むように呻き、仕方ないと言いたそうに頷いた。


「―それがお前の望みなら。だが、それなら私の指示には従ってもらおう」


「ありがとう」


 すんなりと了承するとは思わなかったが、彼は明るい表情で頷いたが、残りの三人は渋い顔をしている。


「……パラナの意志なのは分かるけど、本当に任せて良いのかな」


「私も不本意だが、巻き込んで殺すようなミスは絶対に犯さん。"この命に代えても守ってやる"」


 マクスウェルも覚悟を決めて断言すると、彼らも信じ、先に出口を向いた。


「これで、話は一段落だな。

 我々は先に行くぞ。―マクスウェル、主人を、頼んだぞ」


「任せろ」


 背中を向ける彼らに力強く言い切り、部屋から出ていった。



 ―そして、二人きりになった状態で、マクスウェルは改めて向き直った。


「で、そんな無謀な頼みをしたのは、何故だ」


「……ただ、私の目で見届けたいだけだ」


「はっきり言え」


 この際、隠し事は無しにしたいと言いたげに、彼は端的に告げる。すると、しばらく言葉を選ぶように考えてから、彼は話しだした。


「私の、出生については聞いているな?」


「そうだな」


 クルドの記憶を引き抜いた際、ついでに必要な情報も貰っていたため、パラナの特殊な出生―本来、奴隷であるスキル持ち、神成と同じ母体から産まれた子供であることは把握している。


「私は、ずっと不安だった。

 この生まれを知った時から、いつかこの血がバレることで、他の奴隷たちと同じように扱われ、道具のように捨てられることだ」


「人と関わらろうとしないのも、それが一番の原因か。

 己を知られることが怖かった、と」


「…きっと、そうなのだろう。心の何処かで、裏切られることが怖かった。私というモノを知られ、利用されるのが怖かった。

 だからこそ、人の繋がりは最低限にしていた」


「それだけじゃないだろう?」


 パラナの告白に向け、淡々と突っ込み、マクスウェルは続けた。


「お前は、過去に神成と共に過ごしていた。まさしく、姉弟としてな。

 しかし、神成は何も告げずに―いや、お前の父親から何も告げられずに姿を消した。そして、"神成"として、計画を遂行する役として訓練を始めることになった」


 クルドから引き出した情報は多く、マクスウェルは真実を話し始める。


「そしてお前に着けられたのは、軍部の人間による監視。人間を信じられなくて当然だろう。

 今は、クルドやヴェルディのような、まともな大人に変わっているようだが、それでもお前の"歪み"は矯正できなかった。

 いや、総司令の言う"後継者"としては、お前は正しい成長をしたのかも知れんがな」


「…やめてくれ」


 無情に現実を突きつけるマクスウェルを止めようと呟くが、彼を止める呪いはとうになくなっている。


「お前にあるのは、己を一切顧みない父親と、自身を置いて、勝手に消えた、それどころか唯一の拠り所であったはずの父親の寵愛を受ける神成への復讐心といったところか?」


「…………」


 パラナはもう、何も答えない。それを理解した上で、マクスウェルは話を続ける。


「そして、お前は私を召喚した。―本来は親友を呼び出すつもりだったようが―親友を"マーキング"して召喚するところまでは成功していたようだが、残念ながら、その場に居た転移可能な"生命体"は私だけだったからな。

 結果的にはこの結果に至っているが―間違いないか?」


 ――そう。マクスウェルの親友、"グラン"は、とうの昔に死んでいる。彼らの世界にいるのは、女神の力で回収された"勇者の魂"の一つを、機械で作った器に注ぎ込んだ存在。肉体は既に失ったとは言え、マクスウェルという魔王の親友であることには関わらず、マクスウェルもそれを親友として受け入れ、世界に深く干渉しない、彼らのための世界で静かに暮らしていたのである。

 そして、"すべての言葉を理解する"というスキル(神の力)を宿していた彼は召喚対象となるものの、生きている存在ではないため、召喚は不発に終わり、その代わり近場に居た生命体であるマクスウェルが呼び出された―と言うのが、この事件の原因であった。


 マクスウェルの召喚に至るまでの事情を全て告げると、彼はやけくそ気味に笑いだして話しだした。


「そうだな。発端は、私の子供じみた復讐心だ。

 そして、まったく無関係だったお前を呼び出し、こんな戦いにまで参加させている。それは、本当に申し訳ないと思ってる」


「別に謝罪が欲しくて、この話をしたわけじゃないぞ?」


 マクスウェルはいつも通り話の腰を折りながら言うと、パラナは笑う。


「そうだな、お前はそう言う奴だった」


 力なく笑い、パラナは顔を覆ってうなだれる。


「それで全てを聞いて―私の復讐心は無駄と分からされて、どうしていいか分からないんだ」


「そうか」


 彼は無感情に告げ、パラナの前に立ち、普段から考えられないほど、仰々しく聞いた。


「さて、迷える子供よ。

 お前は一体どうしたい?」


「……それが、分からない」


「それは嘘だろう。もっと分かりやすく聞いてやろう。

 ―お前の願いはなんだ?」


「私の、願い」


 マクスウェルの言葉を繰り返し、何も考えず、ただ、今の衝動を伝えた。


「――姉を、父を、助けてくれ」


「承知した」


 初めて見る、か細い声をしっかりと聞き取り、マクスウェルは手を差し伸べた。


「行こうか。この、下らない"計画"を終わらせに」

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