雷光の大魔法使い編 5
ぎりぎりの攻防が続く。
「伸びろ! マリーゴールド!」
クシュリナーダの声に従いぎゅんっと伸びた槍。
つっぱり棒みたい天井と床を繋ぐ。
一挙動で上部に取り付いた槍師が強烈な蹴りを放つ。
デカブツの魔王との戦いである。上段への攻撃に活路を見出そうとしたのは理解できる。
このまま削り合っていても、先に力尽きるのは自分たちだと判断したのだろう。
しかし、
「小娘、その技は一度みたぞ」
両腕をクロスさせて魔王ラークがガードする。
読まれていた。
そのままクシュリナーダの足首を掴む。
その瞬間、クシュリナーダが笑った。
「私の動きを追いかけると思ったわよ。魔王さん」
「な!?」
驚く暇もあればこそ。
狙いすましたヤイバの刀とシュトルムの長剣が、魔王ラークの胴体を切り裂いた。
「ぐはぁっ!?」
読まれたのではない。
読ませたのだ。
がくんと減る魔王の耐久ゲージ。あと一ミリ!
怒り狂ったラークがクシュリナーダの身体を空中に投げ出す。
まずい!
「プロテクション! ダブル!!」
僕の魔法が光の繭となって彼女の身体を包む。
二度三度と床にバウンドするクシュリナーダ。耐久ゲージは一気に危険領域まで落ち込んだが、すぐ起きあがりこっちに親指を立ててみせる。
まったく。無茶をする女性だ。
ほっと息を吐く僕。
ていうか、いまので魔法打ち止めだから。
もう小指の先ほどの火の玉も撃てないよ。
ラークが太刀を振り上げる。
「このようなかすり傷で……っ!」
満身創痍のくせに、なお強がりを言って戦おうとするのは魔王の矜持だろうか。
いい加減にしてほしいね。
「そう。でもね」
カルラの両手が閃く。
響き渡る魔王ラークの絶叫。
「目に、かすり傷はないのよ」
両目からナイフの柄を生やして。
視界に浮かぶ、EXCELLENT! の文字。
クシュリナーダが隙を作ったところから始まる連携プレイに対する賞賛だ。
魔王ががくりと膝をつく。
これがボーナスか。
活かさない手はない。
同時に踏み切ったヤイバとシュトルム。
刀と長剣が首筋に決まる。
致命的な攻撃の表示が浮かんだ。
「ニンゲンどもめ……っ!!」
断末魔の叫びとともに、魔王ラークの身体が光の粒子に変わってゆく。
勝利だ。
本当に勝った!
「しゃおらっ!」
握りしめた拳を勢いよく振って喜びをあらわすヤイバ。いやいや、あんたいままでそういうキャラじゃなかったじゃん。
なんでいきなりヤンキーみたいな態度になってるのさ。
どっかりと床に尻をつき、僕は苦笑する。
軽快なファンファーレが鳴り響き、レベルがあがった。
二十五から二十六へ。
おお!
おおお!
レベルアップ初体験である。
これは嬉しい。
ていうかレベルアップって、こんなに嬉しいものだったんだね。
魔法少女のときも、剣士のときも、こういう経験はしなかったからなあ。
しかも、こんな強敵を倒してのレベルアップだ。
「しゃおらっ!」
思わず叫んじゃう。
失礼。感染ちゃった。
「ありがとう。本当にありがとう」
シュトルムが一人ずつに礼を述べている。
シナリオクリアのイベントかな。
やがて僕の前にも歩み寄り、右手を差し出した。
それを握り、よっと立ちあがる。
まさか領主の息子を立たせておいて、僕が座ってるってわけにはいかないでしょ。
「シュトルム……いや、微風公子だね。本当におめでとう」
「シュトルムで良い。スザク。私はこれからそう名乗ろう」
くすりと笑う。
そよかぜではなく嵐。
この混迷の時代を生き抜くには、その力強さが必要かもね。
「そっか。良い街にしてくれよ。シュトルム」
ナゴヤから魔王の脅威は去った。
これからは発展の時代になるし、また、していかなくてはならない。
「トウキョウに負けぬ街にしてみせるさ」
「や。それは頼もしい」
「あなたの助力はけっして忘れない。雷光の大魔法使いスザク」
「え?」
待って。
ちょっと待って。
なにそのこっ恥ずかしいふたつ名は。
おそるおそるステータスを確認してみる。
のぉぉぉぉっ!
なんか項目増えてる!?
役割、職業、の他に、称号ってっ!
雷光の大魔法使いってっ!
しかも説明書きまであるじゃん。
魔王ラークを倒した五英雄のひとり。万丈の雷を操り勝利に貢献した。魔王すら舌を巻くその叡智を称え、ナゴヤ領主シュトルムは、彼を雷光の大魔法使いと呼んだ。
やぁぁぁめぇぇぇてぇぇぇぇ!
そんな恥ずかしい名前で呼ばないで!!
思わず頭を抱えて転げ回ってしまう。
「まあまあ、良いじゃない」
クシュリナーダが慰めてくれた。
半笑いで。
なんか疲れたような顔である。
見れば、彼女にも称号がついてる。一の槍クシュリナーダって。
なかなか香ばしい称号だね。
魔王ラークを倒した五英雄のひとり。槍の名手にして体術の達人。仲間たちの心が折れそうな苦境でも最前線に立ち続け、鼓舞した。ナゴヤ領主シュトルムは、その勇気に感銘を受け、彼女を一の槍と呼んだ。
むちゃくちゃ格好いい。
槍士槍士は多けれど、クシュリナーダは一の槍って感じだ。
あ、名古屋山三郎の武勇をうたう小唄ね。
戦国時代の人で、歌舞伎の祖ともいわれてるんだ。
「お互い、身の丈に合わない称号を獲ちゃったわね」
「僕はともかく、クシュリナーダはだいたいあってるような気もするけどね」
勇気も強さも、むしろ控えめな表現だろうと思う。
彼女がいなかったら、途中で諦めちゃったかもしれない。
いやたぶん、諦めただろうね。
で、あとから叶恵にバランスの調整をお願いするか、自分のレベルを十くらい上げてもらって再挑戦しただろう。
テストプレイなんだから。
本気で挑む必要なんかない。
なにがなんでも、石にかじりついてでも勝つ、なんてことはしなくて良いのだ。
不具合なく戦えるって確認できればそれで充分。
なのに、必死に戦ってしまった。
シュトルムに肩入れしたから? 負けるのが我慢できなかったから?
違う。
クシュリナーダの勇気に引っ張られたんだ。
雨だれだっていつしか軒石を割る、ってセリフに。
しびれた。
それはきっと、たとえば教師とかなら誰がいっても良さそうな言葉なんだよね。
努力を続けることを謳っただけだから。でもさ、彼女が言うと違ったんだ。
それはきっと、クシュリナーダ自身の経験が言わせたものだから。
勝てると思った。
きっと道は拓けると思った。
だから諦めなかった。最後の最後まで戦い抜こうって思えたんだ。
一の槍って称号は、けっして過大なものじゃない。
「うん。格好良かったよ。クシュリナーダ」
にっこりと笑うと、なぜか彼女は頬を染めた。
「スザクだって、最後の魔法は魔王を倒すためじゃなく私を守るために使ったじゃない。優しい優しい」
「ぐっは……」
たしかにそうだ。
プロテクションを重ね掛けする魔力があれば、スリーウェイアイスアローなら四発は撃てた。
魔王の残り耐久度を思えば、全弾撃ちこめばそれで倒せたかもしれない。
そしたら、ヤイバやシュトルムが特攻を仕掛ける必要もなかった。
まあ結果としては全員で生き残れたんだけど、それはまさに結果論だからね。
「なんでかな。自然に使っちゃったよ。きみを死なせたくなかったんだ」
クシュリナーダの犠牲による勝利を望まなかったってことかもしれない。
良く判らないけど。
自分の気持ちなのにね。
「んふーふ。さては私に惚れたな?」
「ば、ばかっ! なんてこというんだよ!」
どぎまぎしちゃう。
おちつけ僕。『LIO』はゲームだ。
クシュリナーダはたぶん同僚で、しかも本当の性別はわからないんだぞ。
「ログアウトしたら自慢しちゃおうかな。心優しき雷光の大魔法使いさまに惚れられたって」
悪戯っぽく笑う。
酸欠の金魚みたいに、僕は口をぱくぱくさせていた。
殺せ!
いっそ僕を殺してくれぇぇっ!!




