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雷光の大魔法使い編 4


「なんとぉっ!」


 真下からぎゅんって突き出された槍を、魔王ラークは紙一重で回避する。


 まじかよ。

 あれかわせるのか。

 そりゃあスキルや魔法じゃないから、理論上は回避できるんだけどさ。


 かといって、スキルで戦うのは無理。

 トドメの一撃ならともかく、発動中の硬直ははっきりいって致命的だ。

 こんなバケモノの前で一瞬でも動きを止めるなんて、自殺以外のなにものでもない。


「のびろ! マリーゴールド!」


 クシュリナーダの声に応じて槍が伸び、天井と床に突き刺さった。

 つっぱり棒みたいに。


 如意棒かよ。

 魔王も、それどころか僕たち仲間も、一瞬何が起きたのか判らなかった。


 だって、外れた攻撃だよ?

 槍を引くんじゃなくて、障害物みたいに使ってなにをするんだって話さ。


 砂時計から落ちる砂粒が数えられるほどの停滞。

 しかしクシュリナーダには、それで充分だった。

 ひょいと槍に飛びつき、あっという間に魔王ラークの顔の高さまでのぼる。


 三メートルはあるんだぞ。

 まるで重力を無視したような身体能力だ。


 一瞬も遅滞せずに繰り出される蹴り。

 掴んだ槍を支柱がわりに高速回転しながら、何十発も。


 ありえない高さで、ありえない連続攻撃に、魔王が蹈鞴(たたら)を踏む。


 黒髪の槍師の攻撃はまだ終わらない。

 回転で得られた遠心力を利用してラークの頭に飛びつき、両足でそれを挟む。

 そしてそのまま大きくのけぞった。

 バク転の要領で。


 僕、これ知ってる。

 プロレス技の、フランケンシュタイナーだ。


「ふっ!」


 クシュリナーダの気合いの声。


「ぬぐぅぅぅっ!!!」


 足を踏ん張る魔王ラーク。遠心力を使ったとはいえ、このウェイト差はさすがに厳しいか。

 と、思った瞬間、がくりと魔王の膝が崩れた。


「俺もいることを、忘れてもらっては困るぞ」


 まるで胴薙ぎのように魔王の左足に一撃を与えたヤイバがにやりと笑う。

 クシュリナーダの連続攻撃の間に最接近したのだ。


「なん……だと……?」


 驚愕の声を残し、魔王の肉体が宙を舞う。

 美しいまでの放物線を描いて。


 ずぅんと腹に響く重い音をたて、頭から床に突き刺さる。

 普通だったら間違いなく死んでるような大ダメージだが、さすが魔王というべきか耐久ゲージは三割も削れてない。


「ワイヤートラップ!」


 どこぞの蜘蛛男みたいなポーズを決めたカルラの両手から伸びた極細のワイヤー。

 魔王を床に釘付けにする。


 レンジャーのトラップスキルだ。

 ナイスタイミング。


「急いで攻撃して! 長くはもたないよ!」


 繋ぎ止めたはずの獲物に、じりじりと引っ張られるカルラ。

 この機を逃がさじと接近したヤイバとクシュリナーダが、縦横に刀と槍を振るう。

 じわじわと魔王の耐久ゲージが削れてゆく。


 くっそ。

 この状態でも致命的な攻撃(クリティカルヒット)は出ないか。


「舐めるな!」


 怒声とともに、むんずとワイヤーを握った魔王が力任せ引きちぎり、振り回す。


「きゃああああっ!?」


 これにはカルラもたまらない。

 ワイヤーを握った腕ごと吹き飛ばさる。


「まずい! プロテクション! ダブル!!」


 咄嗟に僕は防御魔法を飛ばした。自分と杖の分の重ね掛けで。

 壁に叩きつられる寸前、カルラの身体を光の繭が包む。


 べこっとへこみ、崩れる玉座の間の壁。

 カルラの耐久ゲージは、残り一割以下になっていた。


「Q~~……」


 金髪のレンジャーがへたり込む。

 一気に耐久が減ってしまったため、一時的に行動不能になってしまっているのだ

 まじかよ。


 防御魔法の重ね掛けでもこのダメージとか。

 まともに喰らったらワンキルじゃねーか。


 のっしのっしとカルラに迫る魔王。

 散発的に繰り返されるヤイバとクシュリナーダの攻撃を無視して。


 ダメージを受けてないわけじゃないよね。耐久ゲージは減り続けてるし。

 損害は無視して、一人ずつ潰す腹づもりか。


 どうする?

 僕が魔王の前に立ちはだかったって、ぺちっと踏みつぶされて終わりだ。非力な魔法使いだもの。

 なにか足止めできるような魔法はないか。

 焦りつつ魔法一覧を探る。


 と、そのときシュトルムが動いた。


「うおおおっ!」


 最短距離でカルラへと走り、細い身体を抱えて横っ飛びする。

 一瞬前までふたりがいた場所に大太刀が叩きつけられ、瓦礫が飛び散った。


「シュトルム!?」

「私はもう! だれひとり見捨てないぞっ!!」


 自らの背を盾として使用して瓦礫の雨に打たれながら、横抱きにしたカルラをかばい、宣言する。

 漢だねえ!


「公子……」


 こらこらカルラさん。ぽうっと頬を染めない。

 そいつNPCだから。


 けど、僕もテンション上がった。

 NPCがここまで頑張ってるんだ。びびってたら男じゃないでしょ。


「振りかざすは巨神の槌(トールハンマー)。雷の雄叫びとともに打ち下ろせ! 万丈の雷火(サウザンドサンダー)!!」


 降り注ぐ雷光が魔王ラークを打ちのめす。

 強力な単体攻撃魔法って詠唱必須なのがちょっと恥ずかしいよね!


 ちなみに竜牙(ドラグファング)のほうが、ちょっとだけ威力が上だ。

 にもかかわらず僕がこっちの魔法を使ったのには理由がある。


「ダブルっ!!」


 もういちど雷が降り注ぎ、びくんと魔王の身体が跳ねた。


 重ね掛けができるのだ。

 僕の持っている魔法使いの杖によって。


 これ、直前に使った魔法をもう一回使えるっていう超強力な武器なんだぜ。もちろんすべての魔法ってわけじゃないけどね。

 ついでに、使うのはあくまでも僕の魔力だから、消耗が激しいのなんのって。


 魔力ゲージが、音がしそうな勢いで減っていく。

 ひぃぃ。

 もうほぼスッカラカン。

 でかい魔法なんて、あと一発すら撃てないじゃん。


麻痺(スタン)は三秒!」


 僕は叫ぶ。


「まかせろ」

「了解よ!」


 ヤイバとクシュリナーダに向かって。


 雷撃攻撃には付随効果としてスタンがある。サウザンドサンダーの一発だけたと一.五秒しかないけど、二発(ダブル)なら三秒だ。

 これがこっちを選んだ理由。

 重ね掛けによって、麻痺時間を伸ばすため。


 すなわち、


「槍技! 煉獄乱舞!!」

「刀技! 百花繚乱!!」


 二人が反撃の心配なくスキルを使うことができる時間を捻出するためだ。

 僕の魔法だけで倒しきれる、なんて自惚れてないよ。


 槍と刀の最強技が襲いかかる。

 これで決めるという強い意志をこめて。


「ぐおお……ニンゲンどもめ……」


 苦悶する魔王。

 ごりごりと削れてゆく耐久ゲージ。


 が、残り五パーセントくらいのところで止まってしまった。


「く……とどかないのか」


 どうしても、届かないのか。

 無念の(ほぞ)を噛む。


 もう打てる手を、僕は持ってない。

 魔力は残りわずかで、強力な攻撃魔法も使えないのだ。


「諦めちゃダメよ。スザク」


 強い瞳で言ったクシュリナーダが、ふたたび突撃を敢行する。

 次々と繰り出される槍が、わずかに、本当にわずかに魔王の耐久ゲージを削る。


「きかぬな。小娘。雨粒が当たる程度だぞ」


 凄絶な笑いを浮かべながらラークも反撃する。

 なんとか受け、かわすクシュリナーダだが、ノーダメージというわけにはいかない。


 すごい勢いで耐久ゲージは減り続けている。

 一撃の重さ(攻撃力)が違いすぎるのだ。


「雨だれだって、いつしか軒石(のきいし)を割るのよ! 魔王!」


 だがクシュリナーダは怯まない。

 飽くことなく、諦めることなく攻撃を続ける。


「その通りだ。クシュリナーダ」


 ヤイバも戦闘に加わる。

 彼だけでなくカルラも、シュトルムも。


「たしかに、あたしたちは雨粒みたいなもんだけどね」

「続けて見せよう。(いわお)に穴を穿つまで!!」


 (マチェット)と長剣が、相次いで巨体に叩きつけられた。


「ニンゲンども!」


 魔王が狂ったように暴れる。

 ここからは競走だ。

 みんなの耐久ゲージが消し飛ぶのが先か、魔王が滅びるのが先か。


「諸君! あの世で会おう!!」


 (ほとばし)るシュトルム公子の(げき)


『応!!』


 仲間たちが唱和した。


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