9話 突入
『僕を人殺しと呼ぶ魔女』1st PV
2026年10月2日(金)21:00 よりYouTubeにて公開中。
▼YouTube
https://youtu.be/OgxDnCscaYc
「レジスタンスだと!?ハンナ君、それは本当か!?」
「ん。作戦メモに、拠点っぽいところが、書かれてた。」
……タイピング音だけが、この場を包む。
「まさか、本当に実在していたんですか……?」
「まだ、不明。少なくとも、この事件に限っては組織立って動いてる可能性、大。だからこそ、君の戦闘スタイルが持ち帰られてる可能性も、大。」
「それであれば、いますぐ調査に……いや、二人目が実在した場合、作戦メモがこちらに渡ったことは知られているはずですね。失礼しました。」
……ここにきて二人目の存在が、これほど厄介になるとは。
「構わん。私も気持ちは同じだからな。とはいえ、これほどの情報を逃すのは惜しいのも事実……。セリナ特魔官、君はどう考える。」
「はい。テオ対魔官を連れて行く前提であれば——私は拠点への突入を考えます。」
「お、俺すか!?」
いつの間にか後ろに来ていたテオを名指しし、そちらを振り向く。
「あなたのことは詳しく知りませんが、敵は私と同じ魔女です。魔工技術の知識は乏しいことが予想できます。」
「つまりテオ君の知識で罠を事前に検知ないし処理できるのではないか、ということだな……。テオ対魔官、君の意見を聞こう。」
「いや、まぁ……。素人レベルの罠なら手持ちの検知器とかで分かるかもっすけど……。」
…………お前、なんで対策部にいるんだよ……。
俺の中でテオの評価が二段階くらい上がる。
しかし同時に、テオがここに来た経緯を今度改めて聞いてみようと思った。
「より原始的な罠の場合は?例えば、火薬爆弾とか?」
「ゼロとは言い切れませんが、使用される可能性は低いかと。そのような原始的兵器を毛嫌いしている部分もありますが、それ以前に扱える者がほとんどいません。魔法で代用できるものを、わざわざ習得する理由がありませんから。」
「なるほど。確かに理にかなっているな。問題は向こうの勢力がどれほどかだが……ハンナ君、拠点の位置情報は出せるか?」
「ん。いま出す。」
全員でハンナさんの業務用端末を覗き込む。
……普通の、家?
「ここが拠点だと言うのか?私には、ただの一軒家にしか見えんが……。」
「50年前の地図を重ねると、こうなる。」
そう言いながら、ハンナさんが画面上の地図を半透明にし、古い地図を重ねる。
……これは。
「多分、魔女統治時代の、塹壕跡だと思う。」
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PM 5:31
「——以上で、作戦概要の説明を終了する。各自、出動準備に取り掛かれ!」
リサさんの掛け声と共に、全員が慌ただしく動き出す。
……対策部総出に近い出動なんて、いつぶりだろうか。
今回はハンナさんのみ調査の続きと緊急時の対応要員として残ることとなった。
もし別で出動命令が出た場合には、リサさんがそちらへ駆けつける算段だ。
部屋中に緊張感が走る。
テオを見ると、不安そうに装置の動作確認を行っていた。
「あははっ!テオ緊張しすぎだって!」
自分の背丈をゆうに超える巨大な大剣を机に立てかけたまま、まるで食堂に行くかのような軽さでミアだけが笑っている。
その大剣を初めて見たセリナさんがギョッとした表情で、大剣とミアへと交互に視線を移す。
……気持ちは分かる。
「テオ君。もう出動車両を要請しているが、あとどれくらいかかりそうだ?」
「もうちょいっすね。最近は検知器なんてめっきり使ってなかったすから。」
出動準備が整ったのであろう、リサさんが声をかけながら魔工銃の具合を確かめる。
作業を進めながら答えるテオの腰からも白い銃身が覗き、これから出動であることを強く意識させられる。
「そういえば、セリナ君は自前の武器など持ち合わせはないのか?許可さえ下りれば現場へ持って行けるぞ?」
「いえ、私は特に必要ありません。必要であればその場で作れますし。」
……この人、地雷を踏み抜いたな。
あの時の光景が一瞬脳裏をよぎり、知らないフリをしながらナイフの具合を確かめる。
「——っし!とりあえずできたっす!」
気まずい空気になる前に、テオが切り込む。
ここぞとばかりに俺も追撃を入れる。
「では早速、出動車両へと向かいましょう。テオ、特レは使えそうか?」
「ギリ行けると思うっす。工具類が飛び出さないように気を付けなきゃっすけど……。」
「安心しろ。工具箱は私が踏みつけといてやる。……おや、二人ともこれは仕事だ。あまり喜ぶんじゃない。」
……まじでこの人は。
引き攣る顔を隠すように逸らしながら、黙って部屋を出る。
途中で少し後ろを振り向く。背丈に合わない大剣を肩に担ぎながら笑顔で走るミアを、セリナさんが若干引き気味に見つめている。
二人の表情から伝わる温度差に、少しだけ緊張が解れた気がした。
他の二人もついてきていることを横目で確認しながら、首にかかる対魔証を取り出す。
「よしっ!全員乗れたな?では行く——ぞ!」
言い終わらないうちに下降ボタンを押すリサさんを見て、今度やっぱりクロード長官へと報告しようと心で誓う。
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PM 6:18
「ここからは徒歩で現場へと向かう。予定通り、ミア特魔官とテオ対魔官の二名で先行し、安全を確保できれば私、セリナ特魔官、アノン対魔官と続くこととする。以上、各自展開!」
まるで鼻歌でも歌い出しそうな足取りで、ミアが先導する。その後ろを張り付くように、不安げな表情でテオが周囲を気にしながら進む。
あれが検知器なのだろう。台車に乗った小型発電機にも見える装置を手で押している。
「二人が家屋への侵入に成功したら、私たちも動くぞ。」
……たまに通る車両の音。
「すみませーん!誰かいますかー?ちょっと中入れてもらえますかー?」
家の扉を力強く叩きながら、大きな声でミアが呼びかける。
既に警察隊との連携により、周辺には秘密裏に非常線が張られている。
とはいえ、巨大な大剣を抱えた小さな女の子が夜に他人の家の扉を叩く、というあまりにも強烈な絵面に頭を抱える。
……あまりにも怪しすぎるだろ。
「よろしかったのですか?彼女が先頭で。」
不意に後ろから声を掛けられる。振り向くと、セリナさんが不安そうな表情でミアを見つめていた。
「まぁ、ミア君に礼儀作法を教えるというのは野暮かと思っていたが、これを見てしまうと考えを改めさせられるな……。」
「あ、いえ。そういう意味ではなく、戦闘に発展した際に大丈夫なのかと……。」
返事がなかったのだろう、ミアがドアノブをガチャガチャと回している。
「あぁ、それなら心配いらない。セリナ君は知らないだろうがミア君は——」
——バァン!
瞬間、大きな音が目標付近から鳴り響く。
しかしその出所は、ミア本人からだった。
「あ、ドア取れちゃった。」
「——対策部随一の切り込み隊長だからな。」




