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僕を人殺しと呼ぶ魔女  作者: 蓼科 黎


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10/18

10話 接触

『僕を人殺しと呼ぶ魔女』1st PV

2026年10月2日(金)21:00 よりYouTubeにて公開中。

▼YouTube

https://youtu.be/OgxDnCscaYc

開いた口が塞がらない、とはまさにこのことだろう。

セリナさんが見たこともないほど驚いた表情で、ミアが突入する様子を見つめている。

いや、驚いたというより引いているという表現の方が正しいかもしれないが……。


「はぁ。これで空振りなら大問題になりかねんぞ……。テオ君も監督者としてもう少し自覚を持ってもらわんとな……。」


眉間に手を当てながら頭を抱えるリサさんを横目に、俺は右手を腰へと回し魔工銃を握る。


「リサさん、そろそろ俺たちも——」

「こうなった以上、未登録魔女たちの根城であってもらわんと困るな。よし——行くぞ。」


号令と共に路地から目標家屋の通りへと躍り出る。

少し走ったところで振り返ると、通信端末で警察隊へ指示を出しながらリサさんが後を追いかけている。

……少し先行した二人が心配だな。


「先に行きます。セリナさんは、リサさんと一緒に。」


セリナさんへそれだけ伝え、速度を上げる。

ミアが扉を壊してから、何の報告もないことに一抹の不安を覚える。


 PM 6:24


遠くから見ていた家屋の入り口へと到着すると、壊れた扉が壁に立て掛けられていた。

すぐさま魔工銃を引き抜き、壁に背中を預ける。

そっと顔だけ覗き込み、室内をライトで照らす。誰かが住んでいるとは思えないほど、生活感の感じられない玄関が照らし出される。

……当たり、か?


「テオ、ミア!無事か!?」


中には入らず、玄関から呼びかける。

しばらくしても返事がないため、もう一度同じように呼びかける。


……床を擦る靴の音が、やたらと大きく響く。


小さく息を吐き、魔工銃を構えながら滑り込むように中へと侵入する。

正面右側には上へ続く階段、左側に奥へ伸びる廊下には扉が三枚あることを確認する。

……面倒だな。


軽く階段へと目を走らせ見える範囲で脅威がないことを確認し、一番手前の扉を少しずつ開ける。

扉の隙間から銃身越しに覗き込み、半分ほど開いたタイミングで一気に中へと入り込む。

家具すら見当たらない異様な雰囲気に飲まれることなく、部屋をなぞるように一周見渡す。

……クリア。


部屋の入り口へと戻り、廊下の奥を顔だけ出して一瞬覗く。

誰もいないことを確認し、そのまま部屋を後にする。

二つ目の扉へと手を掛けたタイミングで——左ポケットの端末が震える。


「あ!アノン!もう到着した?」

「ミア、無事か!?いまどこだ!?」

「いまね、一階の奥の部屋にいるよ!テオがなんか見つけたって作業してる!」

……奥か。


手に掛けていた扉を一瞥し、そのまま三つ目の扉へと静かに移動する。


ゆっくりと扉を開ける。部屋の奥から青白い光が漏れ出すのを確認する。

少し姿勢を落とし、扉の隙間から室内を確認する。

脅威がないことを確かめ、そのまま流れるように突入する。


「二人とも、無事か!?」


見るとテオが床に座り、持ち込んだ装置の上に簡易端末を載せ作業をしている。

ミアは部屋の角に座り込み、退屈そうにテオの様子を眺めていた。


「あ、アノン!やっと来た!リサとセリナは?」

「そろそろ到着するはずだ。それよりもう、家屋内の安全は確認したのか?」

「うん!一階も二階もババーって入ったよ!なーんにもなかったけど。」

……そんな無茶な。大丈夫なのか?


「俺も検知器で魔力反応見たっすけど、家屋内はとりあえず大丈夫そうっすよ。」


作業をしながらテオがぶっきらぼうに補足を入れる。

その言葉でひとまず安心し、急いでリサさんへと連絡する。


「リサさん。現時点で、家屋内の安全は確保できました。現在一階区画でテオ対魔官が調査中です。」

「分かった。私たちも間もなく到着する。そのまま待機していろ。」



———————————————————



 PM 6:32


「テオ君、何か見つかりそうか?」


リサさんとセリナさんも到着し、五人で一階の奥の部屋へと集まる。


「いや、特に何もないんすけど、なんかこの部屋だけ変なんすよね。」

「変?テオ、それはどういう意味だ?」

「この部屋からも魔力反応自体は出なかったんすけど、この部屋だけ異様なくらい魔力反応が出ないっていうか。」


そう言いながら手を休めることなくテオが作業を続ける。


「どういうことだ、テオ?魔力反応が出ないなら、特に気にすることはないんじゃ……。」

「普通はそうなんすけど、魔力反応って数値に結構ばらつきが出るんすよ。それを装置で解析して一つの波形に整形して出力するっていうのが基本的な原理なんすけど。あぁでも最近ではそういう出力方法と併用して熱画像も出力できるようにして魔女か魔女じゃないかの判定精度を高めるって方法も出てきてこういう検知技術っていうのも注目を集め始めてはいるんすけど正直俺的にはそういう——」

「分かった、分かったから、テオ君。いま必要な要点だけ伝えてくれ。」


急に始まったテオの解説に、リサさんもセリナさんもげんなりとしていた。

そういえばと辺りを見渡すと、ミアは壁に寄りかかったまま静かに寝息を立てていた。


「まぁ、あれっす。この部屋だけ数値が綺麗すぎるんす。人為的なくらい。」


弛緩しきった空気を叩き切るかのように、一斉にテオへと注目が集まる。


「それを先に言え!!!ということはつまり、魔力反応を改竄する技術を持った魔女が存在するということか!?」

「いえ、非魔術師による仕業の可能性もあります。」


背後からセリナさんが答える。

……なぜ、セリナさんがそんなことを。


聞きたいことがまとまらないまま、それでも何かを言おうとセリナさんの方へ振り返る。

目の端に映ったリサさんからも、驚愕の色がありありと浮かんでいた。


「非魔術師と未登録魔女が手を組んでいる……?セリナ君、本当にそんなことがあり得るのか……?」

「正直、その可能性が高いと思うっすよ。魔女が隠蔽しようとしたって、改竄した瞬間から自分の魔力痕を残すことになるっすから。」


……装置から出る低い排気音と、小さく聞こえる寝息。


湧き上がる疑問とセリナさんへの疑念をぶつけそうになる気持ちを、拠点の中にいるという自覚で何とか飲み込む。

きっとリサさんも同じ気持ちなのだろう。セリナさんを探るように見つめながら、トントンと指で自分の腕を叩いている。


「これって……もしかして下からの反応を消そうとしてるんじゃ……。」


そう呟きながら、テオが簡易端末へと何かを打ち込み始める。

直後、端末を片手で抱えるように持ち上げ、移動しながら右手でタイピングを続ける。

キッチンとして使用されていたであろうスペースに着くと、しゃがみ込み右手で床を叩く。


「ここっすね!多分この下になんかあるっす!そうかこの部屋の魔力反応を消そうとしてたんじゃなくって地下の存在を隠すのが目的だったってことっすか!確かに周囲との整合なんて無視して改竄するだけならそれほど技術は必要ない——」

「よくやったテオ君!ミア特魔官、起きろ!!!仕事の時間だ!」


眠そうな目を擦りながら、大きく伸びをする。


「ふぁ〜。どうしたのぉ?なんか見つかった〜?」

「その通りだ。隠し通路らしい場所をテオ君が発見した。ひとまず入り口の確保に動け!」


小さく返事をし、欠伸をしながらミアが大剣を担ぐ。

そのまま眠そうに、テオのいる方向へゆっくり歩いていく。


「うぅん……。テオ、ここぉ?」

「そこっすね。間違いないっす。一応近くに魔女っぽい反応は無さそうっすけど、推定値を逆算して出してるだけなんで気をつけて——」


——ドガァァァン!!!


砂埃が一気に舞い上がり、辺り一面を埋め尽くす。

咄嗟に顔を伏せ、目元を覆う。砂埃の向こうにいるミアを確認しようと必死に視線を向ける。

しかし全員近くにいたせいか、あちこちから咳き込む音が聞こえる。


「ミア君!こういう時は必ず合図を待てと何度も言っているだろう!」


砂埃が落ち着くと、真っ先にリサさんが口を開く。

咳き込みながら周りを見渡すと、さっきまで小綺麗だった部屋は砂まみれの小汚い部屋へと様変わりしていた。

砂埃の真っ只中にいたミアは頭から真っ白になるほど砂埃を被り呆けていた。

……やりすぎだ。


ミアが破壊した床下を覗き込むと、そこには地下へと続く階段が伸びている。

壁面には一定間隔で角材の支柱が対で立てられ、それを繋ぐように頭上にも太い梁が渡されている。

しかし支柱の一部は黒ずみ、崩落の危険性は誰の目から見ても明らかだった。


「ここから先は、私とアノン対魔官、そしてセリナ特魔官で調査する。ミア特魔官にこんなところで暴れられたらひとたまりもないからな……テオ対魔官の補佐と護衛を頼む。では、行くぞ!」


全員、制服のジャケットに付着した砂埃を手で払いながら、咳混じりの返事をする。

あらかた払い終えたところで、地下道へとライトを照らしながら一歩目を踏み入れる。



————————————————————



 PM 6:57


地下へと降り、崩落の可能性を考え迅速に脅威の確認を行いながら進む。

以前訓練の際に見た塹壕の地図を思い出す。

……主通路自体は、曲がりくねった一本道だったはず。


不必要にこちらの位置を露出させないよう必要な瞬間だけライトを点け、前方の状況を素早く確認しながら着実に前進する。

軽く後ろを振り返ると、リサさんが同じように魔工銃を片手に、後方の脅威を確認している。


セリナさんは地下へ降りてからいきなりライトを常時点灯させて進もうとしていたため、慌ててライトの使用を一時的に禁じた。

そのため本人なりに頑張ろうとしているが、俺の後ろから少し顔を覗かせる程度にとどまっていた。


……土溜まりを踏みつける三人の足音が、微かに響く。


しばらく進むと、横道に繋がる右折路を発見する。

直進と右折……記憶している限りでは、塹壕は主通路から枝分かれするように部屋へと続く横道を掘ることが多かったはず。


「リサさん、この先に横道があります。おそらく右折した先に何かある可能性が高いです。」

「よし、右折だ。しんがりは任せるぞ。行け。」


小声で最低限のやり取りを挟み、再度前進する。


右折路に脅威が無いことを確認し、二人を先に右折路へと通す。

最後に入ったリサさんが俺の肩を二回叩く。

合図を受けて俺も右折し、リサさんと隊列を入れ替え後方警戒に回る。


二十メートルも進まないうちに、大きな扉が現れる。

リサさんの突入に合わせ、間髪入れずに反対側の確認に移る。


「クリア。」

「クリアです。」


部屋の中に脅威が無いことを確認し、一度魔工銃を下ろし改めて周囲をライトで照らす。

……なんだ、ここは?


何十年も前に設置されたであろう机が一つ。その上には古い配線が二本転がっている。

隣には机と同じだけの年月を感じさせる本棚が並ぶ。

壁面にはいくつかの資料や絵画が掛かっているが、かなり色褪せて状態も悪い。


隣ではリサさんとセリナさんが同じようにライトで部屋の中を照らしている。

本棚に残っていた一冊の本へとライトを照らしながら口を開く。


「ここは……魔女統治時代に使われてた個室、という感じでしょうか?」

「おそらくな。ところどころ埃を被っていない様子から、最近まで使用されていた形跡はあるが……先を越されたか。」


照らした本は何と書いてあるか判別できないほど酷い汚損状態で、少し腹を立てる。

他の手掛かりを探そうと周囲を照らすと、額縁に収められた一枚の絵画が目に入った。


……これだけなぜ、額縁に?

引き寄せられるように絵画へと近づく。

右手の手袋でそっと埃を払うと——女性が男性と手を繋ぎ、身体を預けている絵が浮かび上がる。


「昔もこういった絵は人気だったんだな。」


後ろからリサさんに声を掛けられる。

きっとあらかた調べ終えたのだろう、こちらに来て俺と同じ絵画を見つめる。


「まぁ立派な絵画ではあるが、私たちは美術品を探しに来たわけじゃないからな。……アノン対魔官、そろそろ撤退するぞ。目標に先を越された以上、これ以上ここに長居する理由はない。」

「はい。では先導し——」

「——どういうこと、なの……?」


セリナさんの絞り出したような声に、再び魔工銃を構える。

しかし続く言葉が聞こえず、魔工銃を降ろしながら彼女の方へと振り返る。


「セリナさん、どうかされましたか?」


ライトを胸元まで持ち上げる。照らされた顔には、見たことがないほどの恐怖と嫌悪の色が滲み出ていた。

セリナさんが左手をゆっくり持ち上げ、絵画を指差す。ライトの光が左腕の表面で白く跳ねる。


……この表情、どこかで見覚えがある。あれは——


「その女性——左腕がありません。」


左腕が、ない。

——つまり、魔女。


勢いよく振り返り、もう一度絵画へ視線を落とす。


そこに描かれた女性の白い右手は——幸せそうに男性の手を握っている。


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