17話 供述
『僕を人殺しと呼ぶ魔女』1st PV
2026年10月2日(金)21:00 よりYouTubeにて公開中。
▼YouTube
https://youtu.be/OgxDnCscaYc
PM 6:58
「それで、目的は何?」
「いやだから、非魔術師を殺すことだって言ってんじゃん。」
「ん。それで、目的は?」
「いや、だから……。」
……何だこれは。
取調観察室へと到着すると、取調室ではハンナさんと青髪の対象が向き合って座っていた。
しかしあまりに淡白な会話の応酬に、思わず愕然としてしまう。
「……取り調べというのは、これほど静かに進められるものなのですか?」
「いや……これは普通ではない、ですね。」
一緒についてきたセリナさんからの質問に、俺もどう返したものかと頭を悩ませる。
別に怒号を飛ばすことや理詰めで追い込むことが正しい取り調べというわけではないのだが、これでは話す気があっても口を開きづらいだろう。
「中へ入りましょう。さすがにもう少し情報は掴んでおきたいので。」
そう伝え、取調室へと向かう。
対魔証をかざし、認証を知らせる機械音と同時に扉を開ける。
こちらに気づいた青髪の対象は、俺の後ろから続くセリナさんを見て明らかに動揺していた。
「ハンナさん、お疲れ様です。後はこちらで引き継ぎますので。」
「ん。裏で見てるよ。」
そう言い残し、机に広げた書類を無造作にまとめ、そそくさと部屋を後にする。
ハンナさんが座っていた簡易椅子へ入れ替わるように腰を下ろす。
「先ほどぶりですね。大きな怪我は無いようでよかったです。」
少し怯えたようにこちらを見つめる対象。
その顔には地面に倒れた時に出来たものだろうか、右眉の上には医療用の冷却シートが貼られている。
しかし冷却シートでは広がった痣を隠しきれず、青々と腫れ上がっている様子が傍からも見て取れる。
「いや……めちゃくちゃ怪我してんですけど。」
「いまこうしてここにいられることが、何よりの証拠ですよ。」
対象の顔がみるみるうちに青くなり、目が泳ぎ始める。
それは命を落とした仲間を思い出してなのか、はたまた隣にいるセリナさんを見てのことなのかは分からなかった。
……左隣から、カチャっと小さく金属音がなる。
「……さて、そろそろ本題へと移りましょう。襲撃の目的はなんです?」
「……。」
「素直に自供していただけると、この後の裁判でも少しは有利に働くようになります——」
「——本当に、裁判なんてやってると思ってるの?」
……まさか、知らないのか?
「確かに魔女の裁判は非公開で行われますが、別に犯罪を犯した魔女全員に魔力抽出刑が言い渡されるわけではありませんよ。収容所に収監され刑期を満了すれば、帰順制度を利用して国に登録することもできますし。」
「……どういう、こと?」
「犯罪を犯した未登録魔女とはいえ、非人道的な扱いを受けるわけではない、ということです。……とはいえ、あなたたちは六名の民間人を殺害しています。ですので、厳しい判決となる可能性は高いですが。」
あまり甘い期待をされても困るので、現実を叩きつける。人質として捕えられた民間人六名が命を落とすこととなったことの重大さを、軽く思われないためにも。
対象はさっきより一段と青白くなり、顔の痣がより一層際立つ。
「俺から聞きたいことは二つ。一つは今回の襲撃の目的について。もう一つは、未登録魔女が徒党を組んでいるのか。徒党を組んでいるのなら——その反抗組織の目的について教えてください。」
……壁に掛けられた時計の音が、すぐ近くに聞こえる。
「……ま。どうせ死ぬんだったらゲロっちゃってもいっか。私たちに勝った奴らだしね。」
急に吹っ切れたように、声のトーンを上げて話し始める。
不思議と顔色も元に戻ったように見える。
「えーっと。まず何だっけ?質問多すぎ……。」
「まずは襲撃事件の目的に——」
「——あぁ、それは後にしよ。まずは徒党を組んでるのかって話だけど……それはイエスだね。」
……ちっ。面倒だな。
「まぁ昔からあったんだけど、最近までは割と大人しくしてたからね。いわゆる穏健派ってやつ?」
「派閥が存在するほどの規模だというのか?」
「そりゃあね。考えてみなよ?正規店に出入りすることすらリスクなのに、未登録魔女が一人で生きる理由なんてどこにもないっしょ。」
……確かに。
「だから私たちは実質みんな仲間ってわけ。んで、集団で生活するにはある程度の統率は必要じゃん?だから何人かを仕切るリーダーがいて、それをさらに取りまとめるリーダーがいてって感じで……気づけば組織立ってきたって感じかな。」
「……それで?」
「それから……あぁ最近はいわゆる過激派っぽいところから『魔女の時代を取り戻すぞ〜!』っていう派閥も出てきてぇ……まぁ、なんかよくわかんないけど、私もその付き添いで君たちとバトったって感じ。」
あまりに軽いトーンで次々と出てくる情報に、逆にこちらの顔が青ざめていく。
穏健派、過激派、魔女統治時代の復帰を目論む——魔女至上主義のような派閥。
その情報量に圧倒されながらも、なんとか口を開く。
「……それで、君はどこの派閥にいたんだ?」
「私?私は穏健派だったり過激派だったり……適当に行き来してたよ。上の方はガチガチに派閥って感じだったけど、下は結構ラフな感じ?特に私みたいな戦える人間はどこでも重宝されるから、全然お咎めなし。いえい。」
……こいつらで下っ端だと?
膝の上に置いた右手が無意識に握り込まれる。
「まぁ、上には上がいるってことなんだけどねぇ。さすがにあんな一方的に負けるとは思ってもみなかったし……魔力もない欠損者に負けるのは、想定外すぎ。」
そう言うと、急に対象が立ち上がる。
そのまま両手をつき、青い髪を揺らしながら前のめりに俺へ顔を近づける。
その眼差しは、まるで子供が面白そうな玩具を見つけたようだった。
「ねぇ。私も君と一緒に働けるのかな?魔女と張り合える欠損者となら、私何でもするよ。」
「それは俺の決める話じゃないので、席に座ってください。」
左隣から、悍ましいほどの殺気を感じる。
横目で見ると、セリナさんが左手を対象へと突き出し、いまにも魔法を放とうとしている様子が映る。
……対象がいきなり動いたからって、そんな殺気を放たないでくれ。俺が怖い。
対象もその視線に気付き、震え上がるように席へ急いで戻る。
「……近いうち、誰か権力者を襲うって言ってたよ。今日のは先走った子たちがそこらで暴れ回ったって感じみたいだけど。」
——なんだと!?
「いつ?どこで?誰を狙って?どのくらいの人数で襲撃を?」
「あぁ、一度にたくさん聞いてこないで。私だってそんな詳しく知らないんだから。死んだあの子の方が、よっぽど詳しかったよ。」
……くそっ!
拠点位置、規模、戦力、日時……聞きたいことが多すぎて、頭が整理しきれない。
「——アノン君。そろそろ時間だって、リサさんから。」
不意に流れたハンナさんの声で我に返る。
……まだ30分ほどしか経っていな——。
PM 8:32
……机に何かが当たる音が大きく響く。
あまりに唐突だったからだろう。対象とセリナさんが同時に身体を跳ねさせる様子を見て、我に返る。
気づけば俺の右手は机の上で拳を握り込んでいた。
……まだ聞きたいことが山のように残ってるっていうのに。
小さく息を吸う。また明日も話は聞けるということとリサさん側でも何か情報を聞き出せたかもしれないと思うようにして、湧き上がる自分自身への怒りを抑え込む。
「……分かりました。では、これで俺たちは失礼します。情報提供、ありがとうございました。」
そう言いながら、静かに椅子を引いて席を立つ。
すると後を追うように対象が勢いよく席を立ち、机に右手を突いて自分の身体を支えながら少しだけこちらに近づく。
視線を落とすと、左足側には靴がなく、ズボンの裾だけが閉じた状態で前後に揺れている。
……左足が義足だったのか。
距離を置きながら対象はこちらを真っ直ぐと見つめ、ゆっくりと口を開く。
「もし私が釈放されたらさ……ほんとに君と仕事できるかな?」
「……対策部へ配属されれば、もしかしたらできるかもしれませんね。」
「そっか……そっか。」
少し嬉しそうな顔を浮かべながら何度も反芻する対象を横目に、俺たちは部屋を後にする。
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「初めまして。対魔機関の長官を務める、クロード・アンベールと申します。早速ですが、あなたの刑罰が確定しましたのでお伝えに参りました。」
「……何?結構喋ったから、もしかして減刑とか期待して——」
「——魔力抽出刑となります。」




