15話 選択
『僕を人殺しと呼ぶ魔女』1st PV
2026年10月2日(金)21:00 よりYouTubeにて公開中。
▼YouTube
https://youtu.be/OgxDnCscaYc
一瞬の静寂を打ち破るかのように、魔工銃を茶髪の対象へと再度撃ち込む。
対象が手で払いのける動作をすると、魔力弾の軌道が僅かに逸れる。
……風魔法か。
魔工銃の撃ち終わり際にセリナさんの後ろへと一歩引き、彼女の邪魔にならないよう身を引く。
刹那——セリナさんの背後に浮かんでいた四枚の氷板が、対象へと一斉に射出される。
今度は青髪の対象が床へ手を触れる。すると二人の目の前に土の壁がせり上がり、セリナさんの射出した氷板を防ぐ。
互いの視界が遮られた瞬間——俺とセリナさんは真後ろへと駆け出す。
……背後から土の壁が崩れる音が低く響く。
「はぁ〜!?やり合う雰囲気だけ醸し出しといて逃げんの?きもっ!」
走りながら横目で後ろを見ると、攻撃を仕掛けに飛び出してきていたであろう茶髪の対象が、さっきまで俺たちがいた場所にいる。
苛立ちを吐き出すように雄叫びを上げながら、茶髪の対象がそのままこちらへと走り出す。
廊下の突き当たりまで来たところで対象と向き合い、茶髪の対象へ魔工銃を三発撃ち込む。
虫でも払うような手振りで魔工銃を逸らすと、急に壁際へと方向を変え何かを避けるように身を屈める。
……くそっ!
奥に残った青髪の対象から木の杭に似た攻撃が三つ、こちらへ真っ直ぐ飛んでくる。
急ぎ身を屈めて避けようとすると——途中で氷の盾がそれらを阻む。
——ガシャン!!!
甲高い音が廊下中に響く。
木の杭は半分ほど氷の盾を貫いているものの、完全には通り抜けられずそのまま突き刺さる。
横を通過するはずだった仲間の追撃が来ないことを訝しみ、茶髪の対象が背後を振り返る。
刹那——俺は茶髪の対象へと距離を詰める。
距離を詰められた対象が一瞬目を見開く。しかしすぐに落ち着きを取り戻し、勢いよく左腕を薙ぎ払う。
突如起こった突風に押し戻され、左手で目の上を覆いながら右手の魔工銃を手放す。
近くの窓ガラスもガタガタと強風に耐えていたが、やがて大きな音を立てながらガラスが割れる。
窓ガラスが割れる音に紛れるよう、茶髪の対象が俺へ一気に飛びかかる。
……風は止み、飛び散るガラス片の中——猟奇的に歪んだ顔の左目で、義眼が鈍く光る。
振り下ろす右手には、いつの間にかナイフが握られていた。
見つめ返す俺の右手には——自動火薬拳銃。
……バァァァン!!!
——一発。
乾いた銃声と同時に茶髪の対象の右腕が大きく弾かれ、肘から先が床を転がる。
俺を突き刺した気になっていたのだろう。振り下ろした右手が空を切り、酷く歪んだ笑みが戸惑いの表情へと一瞬で変わる。
何が起きたか理解できないまま、茶髪の対象は左手で右腕があった場所をまさぐる。
間髪入れず、俺は自動火薬拳銃を右手に握りながら対象を投げ倒す。
直後、自動火薬拳銃をホルスターへ収めながら、廊下の突き当たりへと駆け出す。
俺が動いたことで我に返り、対象が左手をかざし何か魔法を発現させようとする直前——手放した魔工銃を拾い対象へと撃ち込む。
……魔法は発現、しなかった。
「はぁ……はぁ……。」
ひとまず目の前の脅威を抑えたことで、一時の安堵を覚える。
しかし奥へと視線を向けると、セリナさんが青髪の対象を相手に未だ魔法戦を繰り広げていた。
すぐに立ち上がり、魔工銃を片手に応援へと向かう。
近づくにつれ、既に戦況がセリナさんへと大きく傾いていることが窺える。
撤退しようと必死に青髪の対象が土の壁をせり上げる。しかしセリナさんは氷板で土の壁ごと撃ち抜き、対象へと攻撃を続ける。
対象も反撃しようと木の杭を二つ空中へ浮かび上がらせるも、同時にセリナさんは四枚の氷板を浮かべそのまま対象へと射出する。
もはや力の差は歴然となり、撤退しようとする対象をいかにセリナさんが排除するかの戦いになっていた。
「セリナ特魔官!!!」
俺の呼び声に反応し、青髪の対象が逃走を試みようと窓ガラスへ駆け出す。
直後、対象の足元から喉元に向かって氷柱が突き上がる。
青髪の対象は飛び退き紙一重で氷柱を躱すも、その表情には一切の余裕を感じられない。
セリナ特魔官が追撃を加える直前——魔工銃の引き金を引く。
——パシュッ
瞬間、対象が空中で身体を仰け反らせ、そのまま不自然にうつ伏せで倒れ込む。
そのまま全速力で対象の元へと滑り込み、対象の両腕を背後に回し、手錠を掛ける。
片膝を立てて上体を起こし、セリナ特魔官へと白い銃口を向ける。
青髪の対象へ左腕を真っ直ぐ伸ばしたまま、セリナ特魔官が驚いたようにこちらを見つめる。
セリナさんからの視線を真正面から受け止めながら、俺は声を張り上げる。
「セリナ特魔官!対象は既に無力化しています!これ以上交戦の意思を見せるようであれば、対魔機関規程に従い——あなたへ発砲します!!!」
……割れた窓から風が吹き抜ける音が、遠くから聞こえる。
やがてセリナさんは諦めたように俯き、ゆっくりと左腕を下ろす。
その様子を見てホッとし、俺も銃口を少し下ろす。
……終わっ——
——セリナさん越しに、奥から静かに駆け寄る茶髪の対象がぼやけて映る。
失った右腕のことなどまるで気にする素振りも見せず、覚束ない足取りで真っ直ぐこちらへ向かってくる様子に、どこか違和感を覚える。
……薬物か!
頭で認識するよりも早く、咄嗟に身体を右側へ傾けて手に持つ魔工銃の引き金を引く。
しかし着弾したはずの対象は……怯まない。
……くそっ!
遅れながらセリナさんも気づき、急いで身を引こうとする。
しかし対象も追随し、セリナさんが身を引いた方向へ左手の刃先を追わせる。
跳ね上がるように立ち、魔工銃を手放し対象へと飛び掛かる。
……ドスッ
滴る鮮血が、一滴二滴と床へ零れ落ちる。
その勢いは徐々に増していき、やがて小さな血溜まりを作る。
……滴り落ちる音だけが、静かに広がる。
「アノンさん!!!」
呼び声と共に茶髪の対象を突き飛ばし、俺へと駆け寄る。
断魔布越しであっても対魔官への接触は原則禁止されているが、そんなことは気にせず俺の胸元に右手で触れる。
しかし徐々に違和感を感じ始め、ゆっくりと俺の顔を覗くように視線を上げる。
「はぁ……はぁ……はぁ……。」
真っ直ぐと茶髪の対象を見つめる。満足げな表情を浮かべ仰向けに倒れる対象の胸元からは、滲むように鮮血が広がっていく。
対象の左胸には——俺のナイフが突き刺さっている。
対象のナイフを受け流した際に少し切れてしまった右腕は、少し風が当たってひんやりとしている。
しかしそんなことには気にも留めず、自分の右手を見つめながら——何度も聞いたあの言葉が、頭の中で反響する。
——人殺し。




